『アナベル 死霊館の人形』:2014、アメリカ

カリフォルニア州サンタモニカ。妊娠中のミア・フォームは、夫のジョンと幸せに暮らしている。隣人のシャロン・ヒギンズと夫のピートは、2年前に娘のアナベルが家出している。玄関のドアを施錠しないジョンに、ミアは「物騒の世の中になったから鍵を掛けて」と頼む。テレビのニュースではチャールズ・マンソン・ファミリーの事件が報じられ、ミアは不安を抱く。大学の医学部に通うジョンは、研修医になれるかどうか心配している。
ジョンは不用意な発言でミアを怒らせてしまい、すぐに謝罪した。彼は罪滅ぼしとして、ずっとミアが探していた少女の人形をプレゼントした。人形を収集しているミアは喜び、それを子供部屋の棚に飾った。その夜遅く、ミアは隣家の寝室から聞こえたシャロンの叫び声で目を覚ました。ミアは窓から隣家を見るが、明かりが消えていて何も分からなかった。彼女はジョンを起こして事情を話し、警察に通報するよう促した。しかしジョンは「まずは様子を見て来る」と言い、隣家へ向かった。
気になったミアが外へ出ると、ジョンが隣家から飛び出して来た。彼の手には血が付着しており、救急車を呼ぶようミアに指示した。家に戻ったミアが救急車を呼んだ直後、侵入していた女が人形を抱いて子供部屋から現れた。別の方向から男が現れ、ミアに襲い掛かった。ミアはナイフで腹を刺され、戻って来たジョンも襲われる。駆け付けた警官が男を射殺し、女は子供部屋で喉を切って自殺した。犯人の女はアナベルで、男は恋人だった。2人はカルト教団の信者で、ヒギンズ夫妻を惨殺してからファーム家へ忍び込んでいた。
ミアは病院へ運ばれるが、胎児も含めて身体に問題は無かった。ただし精神的ショックが大きいことから、医師は出産までベッドで安静にするよう指示した。ミアが退院した夜、ジョンは物音を耳にした。彼が様子を見に行くと、ミシンが勝手に動いていた。ジョンはミシンを止めて子供部屋を覗くと、人形が棚から離れた場所に落ちていた。ジョンは人形を拾い、ロッキング・チェアに乗せた。翌日、ミアが寝室にいると、テレビが故障して写らなくなった。彼女が子供部屋を見に行くと、ロッキング・チェアが揺れていた。
帰宅したジョンは、サクラメントで関係者の会議があることをミアに話した。彼は「参加すると有利になる。向こうで一泊する」と言い、ミアは承知した。ジョンはミアから人形を捨てるよう頼まれ、外のゴミ箱に入れた。次の日、クラーキン刑事がファーム家を訪れ、犯人が悪魔への忠誠を証明するため殺人を犯したことを語った。「もし気になるようなら、さらに詳しく調べて報告します」と彼が告げると、ミアは「もう結構です」と遠慮した。
その夜、ジョンはテレビを直し、ミアのためにポップコーンを作り始めた。しかしミアが眠りに就いたので、ガスレンジの火を止めた。翌日、ジョンが出掛けた後、ミアは寝室でミシンを使う。ガスレンジの火が勝手に付き、台所で火事が発生した。慌てて逃げ出そうとしたミアは、見えない力で引っ張られた。近所の人々が駆け付け、彼女を助け出した。知らせを受けたジョンが病院へ到着すると、ミアは女児のリアを出産していた。
ミアはジョンに、「あの家は呪われている。この子を連れて戻りたくない」と言う。ジョンはカリフォルニア州パサディナの病院で研修医として働くことになり、ミアとリアを連れて引っ越した。ジョンは2人を連れて教会の礼拝へ出向き、ペレズの説教を拝聴した。引っ越しの荷物がアパートへ届くと、捨てたはずの人形が箱に入っていた。ジョンは改めて捨てようとするが、ミアはペレズの言葉を思い出して「捨てないわ。恐怖に勝たないと」と述べた。
ある日、ミアが転寝していると、謎の女がリアに歩み寄った。しかしリアの声でミアが目を覚ますと、女の姿は消えていた。ミアがリアを連れて出掛けようとすると、階段ではロバートという少年と妹のナンシーが絵を描いていた。ミアが話し掛けると、ナンシーは笑顔で言葉を返す。するとロバートは、「知らない人と話しちゃダメだ」と彼女を注意した。ナンシーはミアに、上の階に住んでいることを教えた。ロバートは警戒心を崩さなかったが、ミアは穏やかな態度で去った。
町へ出掛けたミアは、書店経営者のエヴリンから声を掛けられた。エヴリンは彼女に本をプレゼントし、「いつでも立ち寄って」と告げた。ミアがアパートへ戻ると、階段にはロバートたちが描いた数枚の絵が落ちていた。そこに自分とリアの姿が描かれていたため、ミアは喜ぶ。しかし一枚ずつ拾い上げると、リアがトラックにひかれて死ぬ展開になっていた。ミアは帰宅したジョンに相談し、注意してほしいと頼んだ。ジョンは承諾し、「部屋を探し出して挨拶に行こう」と告げた。
翌日、ジョンは早く帰れると言っていたが、夕食時になっても戻らなかった。ミアは止めたはずのレコードプレーヤーが動いたり、開いた窓から突風が吹き込んだりする現象に見舞われた。少女が走り去るのを目撃した彼女が追い掛けると、ミシンが動いていた。彼女がミシンを止めると、子供部屋に少女がいた。しかし少女はミアの方へ走って来ると、腹部が血まみれになっているアナベルの姿に変身した。ミアが悲鳴を上げると、アナベルの姿は消えた。
ミアから事情を説明されたジョンは、「不安が作り出した幻覚かもしれない」と告げる。しかしミアが「医者なら何でも分かると思っているの?」と苛立ちを示すと、ジョンはペレズの元へ相談に出向く。ペレズは夫妻に、「事件を嫌な記憶として葬り去るのではなく、夫婦の絆が深まったと捉えるように」と説いた。ジョンが仕事で出掛けた夜、ミアは地下の洗濯室で赤ん坊の泣き声を耳にした。振り返るとベビーカーが放置してあったため、彼女は歩み寄った。ベビーカーには血まみれの布が入っており、それを剥がしても赤ん坊はいなかった。ミアは何者かに腕を掴まれ、慌ててエレベーターへ飛び込んだ。
エレベーターが動かないため、ミアは階段を駆け上がった。階下に視線をやったミアは悪魔の姿を目撃し、慌てて部屋へ駆け込んだ。彼女が掴まれた左腕を見ると、血で謎の印が刻まれていた。翌日になって湿布を外すと、印は消えていた。ミアはクラーキンを呼び、事件の資料を見せてもらう。ミアが幼少期のアナベルの写真を見ると、自宅に現れた少女と同一人物だった。カルト教団の目的を彼女が尋ねると、クラーキンは何かを呼び出すためだと答えた。アナベルが自殺した現場写真を見たミアは、壁に付いている血の印に気付いた。
ミアが書店を訪れると、エヴリンは「何を探してるの?手伝うわ」と告げる。ミアが「家族が女の幽霊に取り憑かれてるの」と明かすと、エヴリンは関連書籍を探して彼女に渡す。しかし彼女は、「幽霊の仕業とは思えない。カルトは悪魔を呼び出す。目的は人間の魂。手に入れるまで何度も攻撃する」と言う。エヴリンは娘のルビーを亡くしていることを話し、「生きる気力を失ったけど、娘の声に救われた。まだ母さんには務めがあると。自分を信じなさい。家族を守る務めを果たしなさい」とミアに告げた。
アパートへ戻ったミアは、落とした鍵を拾おうとする。その直後、ベビーカーが勝手に路上へ動き、走って来たトラックに激突した。だが、ミアがリアを抱き上げていたため、絵に描かれた出来事は起きずに済んだ。ミアは書店で購入した本を読み、悪魔がリアを狙っていると確信した。物音を聞いた彼女が子供部屋に入ると、ドアが閉まって閉じ込められた。ドアの下にある隙間から除くと、リアに向かって棚の本が次々に落下した。ミアは椅子でドアを殴り付けて脱出し、リアを抱き上げた。すると目の前で人形が立ち上がり、人間サイズに大きくなった…。

監督はジョン・R・レオネッティー、脚本はゲイリー・ドーベルマン、製作はピーター・サフラン&ジェームズ・ワン、製作総指揮はリチャード・ブレナー&ウォルター・ハマダ&デイヴ・ノイスタッター&ハンス・リッター&スティーヴン・ムニューチン、共同製作はジェニー・ヒンキー&ケアリー・W・ヘイズ&チャド・ヘイズ、撮影はジェームズ・クニースト、美術はボブ・ジームビッキー、編集はトム・エルキンズ、衣装はジャネット・イングラム、視覚効果監修はアート・コドロン、音楽はジョセフ・ビシャラ。
出演はアナベル・ウォーリス、ウォード・ホートン、アルフレ・ウッダード、トニー・アメンドーラ、エリック・ラディン、ケリー・オマリー、ブライアン・ハウ、イヴァル・ブロガー、ジェフ・ウェーナー、ガブリエル・ベイトマン、シロー・ネルソン、サーシャ・シェルドン、カムデン・シンガー、ロビン・ピアソン・ローズ、ケイラ・ダニエルズ他。


2013年の映画『死霊館』に登場したアナベル人形の誕生について描く前日譚。
脚本は『デビル・リベンジャー 復讐の殺人者』のゲイリー・ドーベルマン。
撮影監督を本職とするジョン・R・レオネッティーが、1997年の『モータルコンバット2』以来となる2度目の映画監督を務めている。
ミアをアナベル・ウォーリス、ジョンをウォード・ホートン、エヴリンをアルフレ・ウッダード、ペレズをトニー・アメンドーラ、クラーキンをエリック・ラディンが演じている。
アンクレジットだが、『死霊館』のジェームズ・ワンがエレベーターのシーンだけは演出しているらしい。
ちなみに、この映画で主演女優のファースト・ネームが「アナベル」ってのは偶然だろうけど、なんか狙った感じがしないでもない。

冒頭、2人の女性が友人男性に付き添われ、人形の呪いについて誰かに相談している様子が写し出される。これは『死霊館』の冒頭部分を 再現したシーンだ(ただし内容は少し異なっている)。
その短いシーンが描かれると、「その1年前」ということで今回の物語が始まる。
だが、1年前の出来事が描かれた後、現在のシーンに戻っても、特に何があるわけではない。最後に「冒頭で相談していた女の母親が人形を娘へのプレゼントとして購入する」という様子が描かれるが、だから何なのかと。
っていうか、その最後のシーンだけなら「人形の恐怖は続く」ってことで成立するけど、冒頭シーンは全く意味が無いでしょ。そこは『死霊館』と関連性があることを示すためだけのシーンであり、だから本作品だけを見た人からすると何の意味も無い。

ジョンがミアにプレゼントする人形は、初めて写し出された時に「不気味」という印象を抱かせる。
ちっとも可愛いとは思えないのだが、なぜかミアは喜んでいる。
そこは個人の趣味嗜好として、受け入れるしかない。
「見た目は可愛い人形なのに恐ろしい存在になる」というケースと、「見た目からして不気味な人形が恐ろしい存在になる」というケースと、どっちが効果的なのかと考えてみると、それぞれにメリットはあるのかな。

ミアが隣家の叫び声を聞いて目覚めるシーンは、なかなか都合のいい状況が作られている。
隣家の寝室は窓にカーテンが無く、ファーム家は窓とカーテンが開いている。叫び声が上がった時は明かりが付いていて、ミアが目覚めた時は消えている。
だから観客には「ナイフを持った人物が女性に近付く影」は見えるが、ミアは何も見えないという状況が出来上がるのだ。
ただ、その段階だと「ピートがシャロンに襲い掛かった」という風にも見えるのだが、そう思わせるメリットは無いよね。

ミアが救急車を呼んだ直後、子供部屋に人形を抱いた白い服の女がいる様子が写し出される。まだミアは気付いておらず、観客からしても「人間じゃなくて悪霊かも」と思えるような見せ方だ。
しかし直後に男も出現し、人間の侵入者であることが判明する。
この悪魔崇拝者カップルが襲い掛かって来るシーンは、それなりに恐怖を感じさせるモノになっている。
ただし困ったことに、そこがピークだと言ってもいいぐらいなのだ。

ショッカー描写を幾つも盛り込んで、観客を脅かすような方向性は感じられない。
では雰囲気を作り上げて心理的にジワジワと怖がらせるタイプの作品なのかというと、そっちに振り切っている様子も見えない。たまにショッカー描写を盛り込んで、分かりやすく脅かすという内容になっている。
なので、ただ単に恐怖演出が弱いだけのホラー映画になっている。
「どこかで見たような」と他のホラー映画を連想させるシーンや要素を組み合わせて、それを劣化させた仕上がりという印象になっている。

「自殺したアナベルの血が抱いている人形の目に落ちる」という様子を意味ありげに描いているのだし、そこからは「人形が怪奇現象を幾つも起こす」という展開になるのかと思ったら、そういうわけでもない。
「棚から離れた場所に落ちている」とか「ロッキング・チェアを揺らす」とか「捨てたはずなのに戻って来る」といった現象はあるが、それとは別の怪奇現象の方が多い。
それに人形よりも、悪霊の方が恐怖の対象としては圧倒的に強い。
まあタイトルが「Annabelle」だから、それも間違っちゃいないんだけど。

ミアは書店を訪れた時、エヴリンに「家族が女の幽霊に取り憑かれてるの」と話している。しかし、その直前のシーンでは、洗濯室で怪奇現象に見舞われたミアが自室へ向かう途中で悪魔の姿を目撃する様子が描かれいる。
もう悪魔の姿を目にしたのなら、「女の幽霊に取り憑かれている」と解釈しているのは不可解だ。
つまり、そこは順番が逆になっているのだ。
「家族が女の幽霊に取り憑かれている」とミアが相談するシーンを先に配置して、その後で悪魔を目撃するという順番にしないと筋が通らない。

ただし、そこを逆にしても、問題が完全に解決されるわけではない。
なぜなら、ミアから相談を受けたエヴリンが「幽霊の仕業ではなく悪魔の仕業だ」と教えているからだ。
だから順番を逆にした場合、観客は「全ては悪魔の仕業だ」と分かった状態で、階段の下から悪魔が覗いているシーンを見ることになる。そうなると、急に悪魔が現れても全く驚きは生じない。先にネタバレしているので、「まあ、そうだろうね」という感想になってしまうのだ。
それを考えると、もっと根本的に改変する必要がある。

そもそも、「アナベルの幽霊による仕業だと思わせておいて、実は悪魔の仕業でした」という展開自体、何だかなあと言いたくなるわ。
ホント、アメリカ人って悪魔が好きよねえ。まあキリスト教国家だから、悪魔が恐怖の対象としてリアルってことはあるんだろうけどさ。
それはともかく、実は本家『死霊館』のオープニングで、「アナベルの幽霊は最初から存在しない」「人形を操っているのは悪魔」と説明する台詞があるのんだよね。
なので『死霊館』を見ていれば、もう最初から「幽霊の仕業じなくて悪魔の仕業」ってのは分かっているという問題があるのよね。

それと、エヴリンが「幽霊じゃなくて悪魔の仕業」と説明し、ミアが「悪魔がリアを狙っている」と確信した時に、「だったらアナベルの幽霊を何度か出現させて、こいつの仕業だと思わせていた意味は何なのか」と言いたくなる。洗濯室で悪魔が出現するけど、そうやって姿を見せることが出来るのなら、最初からテメエが出てくればいいじゃねえかと言いたくなるのだ。
さらに問題があって、それは「幽霊の仕業であれ、悪魔の仕業であれ、人形って全く要らないよね」ってことだ。
「アナベルと恋人が殺人によって悪魔を呼び出した」という設定なので、じゃあ人形って全く関係ないでしょ。
「悪魔の憑依した人形がリアを狙う」という、『チャイルド・プレイ』的な話になっているわけでもないんだし。

人形が人間サイズに大きくなるシーンはあるが、ミアが悲鳴を上げるとカットが切り替わり、「帰宅したジョンにミアが相談している」という様子が写し出される。
つまり人形は人間サイズになっただけで、特に何も行動を起こさなかったようだ。
で、連絡を受けたペレズが「悪魔は人形を媒介にしてリアの魂を奪おうとしている」と説明するんだが、だったら人形が関係しない怪奇現象の数々は何だったのかと。
もっと「人形による恐怖」に集中すべきじゃないのかと。

人形を預かったペレズが教会へ入ろうとすると、見えない力に吹き飛ばされて死亡する。そこでようやく、「悪魔が人形を使って人間を攻撃する」というシーンが訪れる。
しかし、その後でミアの前に出現するのは、死んだはずのペレズであって人形ではない。つまり全体を通して、人形は恐怖を発信する核の存在になっておらず、怪奇現象を起こす様々な存在の内の1つに過ぎないのだ。
ちなみに最後は、ミアの身代わりでエヴリンが人形を抱いて自殺することで悪魔が去ってくれる。
『死霊館』のウォーレン夫婦が関与しないのは仕方が無いけど、それにしても都合が良すぎるというか、軽い決着方法だなあと。

(観賞日:2017年12月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会