『アナライズ・ユー』:2002、アメリカ&オーストラリア

シンシン刑務所の囚人たちは、マフィアを描いたドラマ『リトル・シーザー』をテレビで見ていた。マフィアの親分ポール・ヴィッティー は退屈を感じ、チャンネルを変えるよう要求した。一人の囚人が文句を言ったが、命じたのがポールだと分かると途端に黙った。自分の牢 に戻ったポールは、同房だったアールが急に別の牢へ移されたことを知った。深夜、看守がポールの牢に近付き、サイレンサー付きの銃で ベッドを狙撃すると、何食わぬ顔で去った。だが、襲撃を予測していたポールは、ベッドの下に隠れて無事だった。
精神科医ベン・ソボルは、父アイザックの葬儀に参列していた。ベンは、挨拶で父を「あいつは横暴で自分勝手なクソ野郎だ」と罵る妄想 を膨らませた。ユダヤ教会のラビから挨拶を求められた時、ベンの携帯電話が鳴った。掛けてきたのはポールだ。ベンが「父の葬儀中だ」 と告げて後にしてもらおうとしても、ポールは聞く耳を貸さない。「命を狙われている」と危機を伝えようとするポールだが、ベンは話を 聞かずに電話を切った。
食堂に行ったポールは、看守の目配せを受けた一人の囚人にナイフで襲われた。その男を捻じ伏せたポールはテーブルの上に立ち、急に 映画『ウエスト・サイド物語』の歌を熱唱し始めた。ベンが妻ローラ、息子マイケルと共に帰宅すると、FBI捜査官ミラーとセローンが 現れた。2人はポールから電話があったことを知っており、様子がおかしいので会ってほしいと依頼された。
ベンが面会に出掛けると、ポールは独房で『ウエスト・サイド物語』の曲を歌っていた。ベンが呼び掛けても応答しないが、「トニー」と 言うと、「おお、マリア」と抱き付いてきた。ベンはポールを診察し、司法省へ赴いてFBI長官リチャード・チャピンと面会した。ベン が「ポールは一時的な精神異常で、いつ治るかは分からない」と説明すると、チャピンはポールの釈放を決めた。ただし、ベンが責任を 持って預かるという条件付きだ。慌てて断ろうとするベンだが、チャピンは強引に承諾させた。
ポールはベンの車で刑務所を出た途端、普通の状態に戻って怒鳴り始めた。彼は刑務所を出るため、精神異常を装っていたのだ。だが、 そのことはFBIも察知していた。現在、マフィアはパティー・ロプレスティーの一味とルー・リガッツィーの一味が抗争状態にある。 ポールが出所すれば、連中も必ず動き出す。そこを一網打尽にしようという作戦なのだ。
ベンがポールを連れ帰ったため、ローラは露骨に不快感を示した。ポールは自由に行動したがったが、ベンはチャピンから管理を命令 されているため、それを許さなかった。ポールは与えられた部屋に情婦シーラを呼び、激しい喘ぎ声を上げてセックスにふけった。叔母の エスターたちがホーム・パーティーに来たが、ポールが現れて皆を怖がらせた。
ベンはポールを書斎に呼び、精神科医としての質問をした。「何になりたいか」と尋ねられたポールは、幼少の頃、カウボーイに憧れた 時期があったことを語った。その時、投石によって窓ガラスが割れた。石を投げたのはポールの右腕ジェリーだ。ジェリーの案内で、 ポールは昔の仲間マシエロが開いた出所パーティーに出向いた。マシエロは「リガッツィーと争っているので助けて欲しい」と頼むが、 ポールは「足を洗ったから無理だ」と丁重に断った。
ポールはパティーの元へ行き、生意気な彼女の側近エディーにパンチを食らわせた。ポールが「俺の命を狙っている奴を探している」と 言うと、パティーは自分ではないと否定した。ポールはベンから仕事を紹介してもらい、カタギへの挑戦を始めた。車のセールスでは、 夫婦の客にヤクザ口調で応対し、逃げられてしまった。宝飾店の仕事では、そこで強盗を働く妄想にかられてしまった。ステーキハウスの ウェイターの仕事では、昔馴染みの親分ジョーイ・ブーツにからかわれ、口にパンを突っ込んだ。
ベンは次の仕事として、『リトル・シーザー』のアドバイザーになることをポールに持ち掛けた。監督のラウル・バーマンが、本物による 指導を求めているのだという。ベンとポールは寿司レストランへ行き、ラウルと会って話をした。そこへ一人の刺客が現れて発砲するが、 ポールは無事だった。彼はジェリーと共に刺客を捕まえ、黒幕がリガッツィーだと聞き出した。
ポールはドラマの撮影現場に赴き、主演俳優アンソニー・ベラと面会した。ポールはラウルに、俳優と同じトレーラーを用意するよう要求 した。そして、「今のままでは本物っぽくない。仲間を何人か連れて来てやる」と告げた。そして実際、ジェリーが子分のモーモーたちを 引き連れて撮影現場にやって来た。一方、買い物をしていたベンはマフィアの車に押し込まれ、パティーに元へ連行された。パティーは 「ポールは組織にとって大切な人。変えてはいけない」と告げ、ベンを脅して治療しないよう約束させた。
ポールが昔の子分達を集めたのは、撮影のためではなく、ある計画のための準備に過ぎなかった。彼はジェリーやモーモーたちに、クレーン やバスを用意するよう命じた。そこへ現れたパティーは、ポールが何かやる気だと気付いた。「分け前はやるから口を挟まないでくれ」と ポールが頼むと、パティーはエディーを参加させるよう要求した。パティーと入れ違いに、リガッツィーがやって来た。彼はポールに、 自分と組むよう持ち掛けた。ポールが断ると、リガッツィーは脅し文句を吐いて立ち去った。
撮影現場に出向いたベンはポールに怒りをぶつけるが、「芝居が上手い」とおだてられて調子に乗る。出演するよう勧められたベンは承諾 するが、それはビル屋上から宙吊りにされる役だった。ベンがポールを車に乗せてスタジオを出ると、黒のベンツが尾行してきた。ベンツ から発砲してきたため、ポールは運転を交代して振り切ろうとする。激しいカーチェイスの末、ベンツは埠頭から海に突っ込んだ。ポール は姿を消し、ベンだけが残された。ベンは駆け付けたチャピンから、ポールを探し出すよう命じられた。
ベンが帰宅すると、マイケルは「ポールの運転手として雇われた」と張り切っていた。ローラが脅したことにより、マイケルはポールの 居場所を吐いた。ベンはストリップクラブへ行き、ポールを発見する。ポールは仲間を集め、奥の部屋で密談を始めた。彼は金塊を積んだ 銀行の輸送車を襲撃する計画を立てていたのだ。盗み聞きしていたベンは見つかってしまい、エディーに殺されそうになる。ポールが制止 し、ベンは仲間に加わるという条件で命を助けてもらった…。

監督はハロルド・ライミス、キャラクター創作はケネス・ロナーガン&ピーター・トーラン、 脚本はピーター・スタインフェルド&ハロルド・ライミス&ピーター・トラン、製作はポーラ・ ワインスタイン&ジェーン・ローゼンタール、共同製作はスザンヌ・ハーリントン、製作協力はローレル・ウォード、 製作総指揮はビリー・クリスタル&バリー・ レヴィンソン&クリス・ブリガム&レン・アマト&ブルース・バーマン、撮影はエレン・クラス、編集はアンドリュー・モンドシェイン、 美術はウィン・トーマス、衣装はオード・ブロンソン=ハワード、音楽はデヴィッド・ホームズ。
出演はロバート・デ・ニーロ、ビリー・クリスタル、リサ・クドロー、ジョー・ヴィテレッリ、レグ・ロジャース、キャシー・ モリアーティ=ジェンタイル、ジョン・フィン、カイル・サビー、キャリー・ソーン、パット・クーパー、フランク・ジオ、ドナマリー・ レッコ、 レイモンド・フランサ、ジェームズ・ビベリ、ポール・ハーマン、レベッカ・シュル、ジョーイ・“ココ”・ディアス、ジョセフ・ ドノフリオ、アルフレッド・サウチェリJr.、フランク・ピエトランゴラーレ、フランク・アキリーノ、クリス・タルディオ、 ウィリアム・デメオ、ヴィニー・ヴェラSr.他。


1999年の映画『アナライズ・ミー』の続編。
ポール役のロバート・デ・ニーロ、ベン役のビリー・クリスタル、ローラ役のリサ・クドロー、 ジェリー役のジョー・ヴィテレッリ、マイケル役のカイル・サビー、マシエロ役のパット・クーパー、シーラ役のドナマリー・レッコなど は、前作から引き続いての出演。監督も前作のハロルド・ライミスが続投している。
バーマンをレグ・ロジャース、パティーをキャシー・モリアーティ=ジェンタイル、チャピンをジョン・フィン、セローンをキャリー・ ソーン、リガッツィーをフランク・ジオ、エディーをレイモンド・フランサ、ミラーをジェームズ・ビベリが演じている。
アンクレジットだが、『リトル・シーザー』の主演俳優アンソニー・ベラを演じているのはアンソニー・ラパグリア。
ちなみに『リトル・シーザー』は、HBOのTVドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』のパロディーになっているらしい。

葬儀の直後にFBI捜査官が来るのは迷惑なはずだが、「ベンが煙たがるのに、捜査官はズカズカと上がり込んで勝手に話を進める」とか、 「ベンは嫌がるのに、捜査官が強引にポールとの面会を取り付ける」とか、「ベンが困らされる」という類の笑いを取る意識は薄い。
で、刑務所に行くと、すぐにベンはポールに向かって「トニー」と呼び掛ける対応の上手さを見せる。
「デ・ニーロの知恵遅れみたいな芝居を楽しんでちょうだい」という感じで、それを受けるベンの、呆れたり困ったりというリアクション は無い。

前作は、ただの精神科医であるベンが、マフィアの親分であるポールにビビっていた。そして、ベンがポールに振り回される、翻弄される、 ヤバいことに巻き込まれるというところで、笑いを取りに行っていた。
だが、今回は、もうベンがポールに慣れてしまっている。だから、そんなにビビったりしない。
「カタギの暮らしにマフィアがズカズカと入り込む」という面白さも無い。

今回はポールが精神的に悩んでいるわけじゃないんで、ベンが精神科医である意味、ポールがベンと一緒に要る意味が、あまり無い。
ベンが父を失ったショックを抱えているという設定も、あまり有効に機能しているとは思えない。
自己中心的で身勝手なポールと、それに苛立つベンのやり取りは、クスッとも笑えない。
この2人の関係、あまりスウィングしていない。

ポールが「ガキの頃にカウボーイに憧れていた」と言い出すので、そこから「ポールがカウボーイになろうとしてベンが付き合わされる」 という展開にでもなるのかと思ったら、そんなことは無くて、ポールがカタギの仕事をやる展開に移っていく。
で、車のセールスをする場面だと、「マフィアの意識のままでカタギの仕事をやるからトラブルが起きる」というところで笑いを取ろうと しているようだ。
ただ、強面で凄むとかじゃなくて、はしゃいでる感じなのがマイナス。
っていうか、どうせカタギになる気が無さそうだし、「ポールにその気は無いけど、ベンが無理にでもカタギにしようとして色々な仕事を 押し付ける」という形でも良かったかも。

出所した当初、ポールは「命を狙った犯人を見つけ出す」という目的意識を見せている。
ところがカタギの仕事を始めると、そんなことは完全に忘れ去られる。
やがて黒幕は簡単に判明するが、そこからどうなるってわけでもない。
で、ドラマ指導の仕事に入ると、今度は輸送車襲撃の計画を進める。
なんか話がバラバラになってないか。
なんで終盤だけ輸送車襲撃の話になっちゃうのかと。
例えば撮影現場に命を狙う奴らが来て、ドラマ撮影と本物の抗争が入り混じるという展開にしても、面白かったかも。

ポールがドラマのアドバイザーになった展開が、まるで活用されていないんだよな。
「仲間を集める」「強盗をやる」「命を狙われないようにする」「命を狙った黒幕を叩き潰す」という、どの目的に対しても、ドラマの アドバイザーをやる必要性が全く無い。
そこの部分が全く膨らまない。
最初は単なる隠れ蓑のつもりでも、次第に本気になっていくとか、あるいは巻き込まれる形で作品に深く関わらなきゃいけなくなるとか、 そうなれば面白くなったかもしれんが、ただ、それだとベンの存在価値が無いんだよな。

この映画は、9.11全米同時多発テロが発生し、まだ傷跡が残っている頃のニューヨークで撮影されている。
それはニューヨークを愛するロバート・デニーロが強く主張したことらしい。
悲劇的な出来事があったからこそ、そこで撮影することが街のためになるというのが、彼の考えだったそうだ。
そんなわけで、撮影にはニューヨーク市が全面協力し、ニューヨーカーに馴染みの深い場所がロケ地として選ばれた。「ニューヨークに 活気を取り戻す手伝いをしよう」という意識が強く込められた作品なんだね。
ただ、「ニューヨークを元気付けよう」という意識が強く出すぎちゃって、それで話のバランスが壊れたんじゃないかなあという気も する。

(観賞日:2009年9月29日)


第25回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪の続編】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会