『アメリカン・スウィートハート』:2001、アメリカ

女優のグウェン・ハリソンと男優のエディー・トーマスは、アメリカの理想のカップルと称されるスター夫婦だった。2人が共演する恋愛映画 は、いずれも大ヒットを記録した。しかし1年半前、グウェンとスペイン人俳優ヘクターの浮気が発覚したことで、2人の関係は破綻した。 そんな2人の新たな共演作は、ハル・ワイドマン監督の『時を越えて』という題名のSF映画だった。しばらくヒット作に恵まれなかった グウェンとエディーにとっては、重要な作品だ。
伝説の宣伝マン、リー・フィリップスは、映画会社からクビを宣告された。そんな彼に、製作者デイヴ・ワイドマンが泣き付いてきた。 ワイドマン監督から、完成したフィルムが届いていないのだ。彼はジャンケット(完成試写会)で初披露するつもりだが、間に合わない 可能性もある。そもそも、事前にフィルムの確認が出来ない時点で、キングマンにとっては困った事態だ。
キングマンとしては、マスコミが映画の内容に注目することを避けたい。そのためには、グウェンとエディーが元サヤに戻るという話題を 提供し、映画の宣伝に使いたいというのが彼の考えだ。実際に2人がヨリを戻すことは考えにくいが、そう思わせることが出来ればいい。 リーはクビの撤回を条件に、その仕事を引き受けた。彼は部下に指示を出し、ジャンケットの開催地を隔離された場所に設定し、土産を 豪華な物に変更させた。今まで宣伝を指揮していたダニー・ワックスは、リーの下に付いた。
ジャンケットを成功させるためには、グウェンとエディーに出席してもらうことが何より必要となる。そのためにリーは、グウェンの妹で 付き人のキキに連絡を入れた。グウェンはエディーと顔を合わせることを嫌がるが、「離婚届も渡せるし」と考え、行くことにした。一方 、エディーは療養施設で伝道師の厄介になっていた。グウェンとヘクターの浮気現場を目撃し、その中華料理店にバイクで突っ込んだのだ。 リーは伝道師に高級車を賄賂として提供し、エディーを退院させた。
グウェンとエディーは、それぞれ別の車でジャンケットの舞台であるネヴァダ州のハイアット・リージェンシー・レイク・ラスベガス・ リゾートに到着した。マスコミが集まる中、2人は笑顔を振り撒いてホテルに入った。リーとしては、ここまでは上手く事が運んでいる。 しかしグウェンとエディーの心の中は、マスコミ向けの対応とは全く違うものだ。グウェンはエディーへの嫌悪感に満ちており、エディー は彼女への屈折した感情をリーにぶつけた。
その夜、まだグウェンに未練のあるエディーは、彼女の宿泊するコテージを覗き込んだ。プールサイドに立つ後ろ姿の女性に見とれた彼は、 サボテンの上に落下する。トゲを抜こうとする姿を監視カメラで目撃した夜警は、自慰行為をしていると思い込んだ。現場に急行したリー は、エディーの前では事件の揉み消しを図ると見せ掛けた。しかし、ダニーに命じて監視カメラの映像を入手し、それをテレビ局に渡した。 エディーが自慰行為にふけっていたというゴシップは、テレビ番組で大々的に取り上げられた。
翌朝、グウェンはキキに、エディーの元へ使いに行くよう頼んだ。キキは嫌がるが、甘えるグウェンには勝てなかった。キキが行くのを 拒もうとしたのは、エディーに密かな恋心を抱いているためだ。エディーがグウェンと破綻した時、キキは彼の部屋を訪れた。その時、 エディーはキキを抱き締めてキスをしていた。その頃のキキは、今より30キロも太っていた。エディーの元を訪れたキキは、その時の 出来事を、酔っ払っていた彼が良く覚えていないことを知った。
キキはエディーを連れ出し、グウェンが待つ車まで案内した。エディーは車に乗り込むが、グウェンとの話は険悪な状態で終わった。その 様子を、リーとダニーは写真に収めた。実際には言い争っていたグウェンとエディーだが、写真だけを見れば仲の良い感じに見える。 その写真は翌日のテレビ番組で取り上げられ、2人が復縁したという話題になっていた。
リーはエディーとグウェンとの食事をセッティングし、さらに復縁のゴシップを盛り上げようとする。エディーは喜んでレストランに姿を 見せるが、グウェンは頭痛を理由に断った。キキが代理でレストランを訪れると、エディーは彼女との会話を始めた。リーはグウェンに 電話を掛け、「エディーとキキは恋人同士に見える」などと告げて彼女の自尊心をくすぐった。リーの予想通り、すぐにグウェンは現れ、 キキを追い払って席に座った。
グウェンとエディーが話していると、そこにヘクターが現れた。ヘクターは2人の席に現れ、なぜエディーと一緒にいるのかとグウェンに 文句を言う。リーの元にはキングマンが現れ、今までの成果を賞賛した。リーがグウェン達の様子を見せると、キングマンはエディーが ヘクターを殴ることを望んだ。希望通り、ヘクターの挑発を受けたエディーは殴り掛かった。しかし我に返った直後、ヘクターにトレイで 殴られて気を失った。
キキはエディーを介抱し、部屋まで連れて行った。そのまま2人は、一夜を共にした。翌朝、キキはエディーと朝食を一緒に食べた。 エディーは優しい口調で、これから出掛けようと誘った。そこへグウェンからの電話が入り、用事があるとエディーに言う。部屋に来ると 彼女が言い出したので、エディーは自分が行くと告げて電話を切った。なぜ会いに行くのかと、キキは不満げな顔で尋ねた。エディーは 着替えながら説明するが、ふと見るとキキは部屋を去っていた。
エディーがグウェンのコテージに行くと、キキが戻っていた。グウェンからスクランブルエッグを作るよう指示されたキキは、キッチンへ 行く。しかし姉とエディーの会話が気になり、聞き耳を立てた。グウェンから「新しい恋人は?」と問われたエディーは、キキのことを気 にしつつ、小声で「厳密にはいない」と答えた。しかしキキに聞かれたグウェンが、大きな声で言い直した。
キキは激しい怒りを示し、スクランブルエッグをグウェンとエディーに叩き付けるように渡しした。キキがコテージを出ると、エディー が追い掛けて来た。キキはエディーに「プールサイドの女性はグウェンじゃなくて私よ」と告げ、その場を去った。キキの元にリーが現れ、 彼女の話を聞く。キキのエディーに対する恋心を知ったリーは、突き進むよう勧めた。
ジャンケットが始まる前に、ホテルの庭ではパーティーが開かれていた。未だにワイドマンからのフィルムは届いておらず、キングマンは 不安を抱えている。その時、ホテルの屋上にエディーが現われた。グウェンは自殺するつもりだと考え、「離婚の話をしたせいだ」と 口にした。リーは慌てて屋上へ行き、エディーを助けようとする。しかし、彼が開けたドアが、エディーに当たってしまう。エディーは 屋根から滑り落ちそうになるが、何とか助かった。
リーとエディーはマスコミ向けに芝居をして、それがパフォーマンスだと装った。エディーはリーに、瞑想のために屋上へ来たことを説明 した。エディーは「おしまいだ。彼女を失った」と落ち込む。リーはグウェンのことを言っているのだと考えるが、エディーはキキのこと を気にしているのだった。その時、ヘリコプターに乗ったワイドマンが、フィルムを手にして現れた…。

監督はジョー・ロス、脚本はビリー・クリスタル&ピーター・トラン、製作はスーザン・アーノルド&ビリー・クリスタル&ドナ・ アーコフ・ロス、共同製作はブルース・A・ブロック&アレグラ・クレッグ、製作協力はサマンサ・スプレッチャー、製作総指揮は チャールズ・ニューワース&ピーター・トラン、撮影はフェドン・パパマイケル、編集はスティーヴン・A・ロッター、美術はギャレス・ ストーヴァー、衣装はエレン・ミロジニック、音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード。
出演はジュリア・ロバーツ、ビリー・クリスタル、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、ジョン・キューザック、ハンク・アザリア、 スタンリー・トゥッチ、クリストファー・ウォーケン、アラン・アーキン、セス・グリーン、スコット・ゼラー、ラリー・キング、 スティーヴ・ピンク、レイン・ウィルソン、エリック・バルフォー、マーティー・ベラフスキー、ケリー・リン・プラット、マリア・ カナルス他。


ジョー・ロスは、1989年7月から1992年11月まで20世紀フォックスの会長を務めた。退任してからは、ロジャー・バーンバウムと共に キャラヴァン・ピクチャーズを設立した。その後、1994年8月からはウォルト・ディズニー・モーション・ピクチャー・グループ会長、 1996年4月にはウォルト・ディズニー・スタジオ会長に就任し、その職を2000年1月まで務めた。
そんな大物プロデューサーのジョー・ロスが、2000年5月にレヴォリューション・スタジオを設立した。そして、スタジオの第一作として 手掛けたのが、この『アメリカン・スウィートハート』だ。ジョー・ロスは11年ぶりに監督も務めている。
当初、この映画はビリー・クリスタルがメガホンを執る予定だった。しかし、ジョー・ロスが気合い満々で「俺が撮る」と言い出したので 、ビリー・クリスタルが監督の座を彼に譲ったという経緯がある。
キキをジュリア・ロバーツ、リーをビリー・クリスタル、グウェンをキャサリン・ゼタ・ジョーンズ、エディーをジョン・キューザック、 ヘクターをハンク・アザリア、キングマンをスタンリー・トゥッチ、ワイドマン(モデルは『夜の大捜査線』のハル・アシュビー監督)を クリストファー・ウォーケン、伝道師をアラン・アーキン、ダニーをセス・グリーンが演じている。

元々、ビリー・クリスタルは自分がエディーを演じるつもりで、この脚本を書いていた。しかし製作が決定した段階で、既に彼がエディー 役には年を取りすぎていると考えたジョー・ロスは、リーを演じるよう説いた。
ただ、年齢が云々という以前に、仮にビリー・クリスタルが『恋人たちの予感』の頃だったとしても、「アメリカの理想のカップル」の 片割れ役は違うと思うぞ。
でも、ビリー・クリスタルに替わってエディーを演じることになったジョン・キューザックも、やはり合っていないと思うんだよな。どう 見たって、アメリカの恋人と呼ばれるスターとしての華やかさや派手さに欠けている。
ちなみに、本当はジョン・キューザックではなくロバート・ダウニーJr.が予定されていたらしいが、彼もまた違和感があるなあ。

ただし、ジョン・キューザックよりも問題を抱えているミスキャストが、他にある。
それは、ジュリア・ロバーツのキキ役だ。
ここが、この映画をダメにした決定的な要因と言ってもいい。
そもそも、ジョー・ロスはジュリア・ロバーツにグウェンを演じてもらいたかった。
ところが脚本を読んだジュリアが「キキ役をやりたい」と言い出し、配役が変更されてしまったのだ。

そして、ジュリア・ロバーツのワガママが映画をブチ壊しにしてしまった。
彼女に「姉の尻拭いばかりさせられている健気な妹」を演じられても、ちゃんちゃら可笑しいだけだ。
っていうか、そもそもキキが「健気な妹」に見えない。計算高く、あざとく、ワガママな女に見える。
グウェンの方が、高慢でワガママでありながらも、キキより魅力的に見えてしまう。

キキはエディーと一夜を共にした翌朝、いきなり「私の男」みたいな態度になっている。
嫉妬するのは分かるけど、グウェンに用事があると言われたエディーが出向くと決めただけで、プイッと部屋を出て行くのは、 どうなのよ。
新しい恋人に問われたエディーが「厳密にはいない」と答えると、怒り心頭ってのも、どうなのよ。
だって、まだキキと付き合っているわけじゃないんだから、その答えは間違いじゃないぞ。
エディーの言動に悲しむならともかく、怒りをぶつけるってのは好感度を下げるなあ。

っていうか、これってホントにジュリア・ロバーツが主役と解釈していいのかな。
そこからして疑問が沸いてくる。
キキ、リー、グウェン、エディーが、ほぼ同じぐらいの比率で扱われているようにも感じられるのよね。
リーが主役として動き回るバックステージ物に侵食されて、キキの恋愛劇を描く時間、彼女の恋愛感情を描く時間が少なくなっている気が するんだが。

皮肉を込めたバックステージ物として考えれば、リーが主役で正解だろう。
しかしキキが主役の恋愛劇として捉えた場合、リーって終盤まではクソみたいな奴で、完全に憎まれ役のポジションにいなきゃいけない キャラなんだよな。
実際はどうなっているかというと、リーは憎まれ役としての造形になっておらず、しかし主役と呼ぶのも違和感があるポジションに位置 している。
恋愛劇としての収束をラストに持って来るのであれば、エディーが屋上に立つシーンで、キキが全く関与しないってのは有り得ない。
それは、リーが主役の物語なら成立する。
ただし、リーが主役の物語として捉えた場合は、キキって邪魔なんだよね。
リーが映画宣伝のためにスター夫婦を操作するというコメディーなら、マトモなロマンスなんて邪魔なだけなのよ。

(観賞日:2008年12月26日)


第24回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も苛立たしいインチキな言葉づかい(男性)】部門[ハンク・アザリア]
ノミネート:【最もでしゃばりな音楽】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会