『アメリア 永遠の翼』:2009、アメリカ&カナダ

1937年6月1日、フロリダ州マイアミ。アメリア・イヤハートは世界一周飛行への出発を控え、ナビゲーターのフレッド・ヌーナンや夫のジョージ・パットナムと共に取材を受けた。アメリアとフレッドの乗ったロッキード・エレクトラ号は、空港を離陸した。アメリカは操縦しながら、これまでの出来事を回想する。幼少時代、空を飛ぶ飛行機を目にした彼女は、パイロットに憧れを抱いた。そして成長した彼女は、女性パイロットになった。
1928年4月、ニューヨーク・シティー。リンドバーグの本を手掛けたこともある出版人のジョージ・パットナムが、大西洋横断飛行を夢見ているアメリアを呼び寄せた。これまで3人の女性が大西洋横断に失敗しており、アメリアが成功すれば女性としては初めてとなる。ジョージはアメリアに、ゲスト夫人が海軍少将から購入した飛行機があること、容姿端麗な操縦士を選んだことを語る。ジョージはビジネスとしてのメリットを考えてアメリアを選んだことを話す。フライトの記事はニューヨーク・タイムズに掲載され、成功した後にアメリア名義の本も出版されるが、その収益は全てジョージとゲスト夫人に入ることが決まっている。
アメリアは自ら操縦できるものだと思っていたが、ジョージは「操縦士はビル・ストルツで、副操縦士のスリム・ゴードンがナビゲーターも担当する。女性は乗客に過ぎない」と告げる。それはアメリアの理想と全く違ったが、ジョージは「君の経験で操縦は無理だ。私の言う通りにしていれば、君はスターになれる」と言う。アメリアはマサチューセッツ州ボストンへ出向き、ビルとスリムに会った。6月17日にアメリアたちを乗せたフレンドシップ号は出発しようとするが、フロート部分の燃料が重すぎて離陸できなかった。
翌朝、アメリアはビルとスリムを起こし、「燃料を減らして離陸するわ」と告げる。アイルランドのニューファンドランド島を目指して、飛行機は離陸した。到着したのはウェールズだったが、アメリアたちは大西洋横断を成功させた。アメリカに戻ったアメリアたちは、盛大に迎えられた。アメリアは取材や講演などで、多忙だが充実した日々を過ごす。彼女はジョージと惹かれ合い、交際を始めた。
ある日、ジョージとアメリアの元を、女性パイロットの第一人者になりたいと望むエリノア・スミスが訪ねてきた。彼女は「私も有名にして下さい」とジョージに頼み、アメリアにアドバイスを求めた。そこでアメリアは、「不可能と言われても諦めないことよ」と告げた。あるパーティーに出席したアメリアはは、そこで士官学校の航空教官を務めるジーン・ヴィダルと出会い、楽しく会話を交わした。その様子を、ジョージが見ていた。
パーティーが終わった後、ジョージはアメリアに求婚した。アメリアは「私は結婚するようなタイプじゃないわ。1人で生きていける」と断るが、ジョージは「君の夢を叶えさせてくれ」と粘った。1931年、ニューヨーク州ライ。アメリアはジョージとの結婚に迷った末、「好きな時に好きなだけ飛んでいたい。互いに束縛せず、1年が経過しても幸せを見出せなかったら離婚してほしい」という条件を出した。ジョージが「それでも君と一緒に居たい」と口にするので、アメリアは彼と結婚した。
アメリアは女性だけの航空レースを開催するが、スタート直前になってジョージから「主催者がルートを変更して、距離を半分にすると言っている」と聞かされる。女性が事故を起こし、マスコミに叩かれることを恐れたのだ。アメリアが抗議に行っている間に、ジョージはレースに参加するエリノアと話す。ジョージが「アメリアが優勝すれば女性パイロットには有益だ」と言うと、エリノアは「私が優勝よ」と自信を見せた。するとジョージは「君の飛行機は点検をパスしないだろう」と暗に脅しを掛けた。
レースは当初の予定通りのルートに戻され、エリノアを除く参加者が飛び立った。アメリアは3位に終わったが、取材に対して満足げな様子を見せた。レース終了後、彼女は女性パイロットの地位向上を目指すための組織「ナインティーナインズ」の結成を発表した。やがて彼女はジョージに対し、「単独で大西洋を横断したい」と切り出した。1932年5月20日、アメリアはニュージャージー州テターボロからパリを目指して飛び立った。到着したのはアイルランドの農場だったが、アメリアは女性初の単独大西洋横断飛行に成功した。
帰国したアメリアは、コマーシャル出演や講演などで多忙な日々を過ごす。彼女が「サーカスで曲芸をさせられる馬になった気分」と愚痴をこぼすと、ジョージは「空を飛ぶ資金を稼ぐには、これしかないんだ」と言う。ある講演会の会場には、ジーンが息子のゴアを連れて来ていた。講演終了後、ジーンはアメリアを車で連れ出した。大勢の浮浪者を目にしたアメリアが「私は恵まれすぎてる」と呟くと、ジーンは「君が勝ち取った名声だ。自分に忠実でいたまえ」と告げた。
その後、アメリアはハワイから本国への太平洋横断を成功させたり、女性パイロットの養成に乗り出したりする。最年少の単独飛行記録を作ったエリノアの祝賀パーティーに出席したアメリアは、大統領夫人のエレノア・ルーズヴェルトと話し、航空局のトップにジーンを推薦した。そのジーンと会食したアメリアは、定期便の就航に協力してほしいと頼まれた。バーで飲んだ後、アメリアはエレベーターでジーンとキスを交わした。
アメリアは定期便就航の宣伝に協力し、ゴアからは「父さんと結婚して」とお願いされる。アメリカがジーンとゴアを自宅に招くこともあった。ジョージは妻の不貞に気付いていたが、ジーンとは穏やかに話す。ある時、ジョージはアメリアに「新しい市場のライセンス契約でヨーロッパへ出張する。一緒に来てほしい」と持ち掛けた。アメリアが「定期便の仕事があるの。ジーンの相談役になったし」と難色を示すと、ジョージは「私がいる時に彼が来るのは構わないが、いない時に来るのは耐えられない」と漏らした。
1934年、アメリアはジーンから、「新聞を読んだ方がいい。君が金儲けのために単独飛行に挑戦していると書かれている。君の宣伝している商品と並べて」と忠告される。アメリアは「誰も金儲けに関心が無いっていうの?私は飛ぶためなら何だってやるわ」と反発し、「世界一周に挑戦する。ジョージの元へ戻るわ」と告げた。1935年、ニューヨーク・シティー。ジョージはアメリアに、「世界一周に挑戦するなら飛行機を持つべきだ。エレクトラ号を買うには最低でも36000ドルが必要だ。パーデュー大学に研究奨励基金の設立を頼んだら、80000ドルを出してくれることになった」と言う。飛行機が手に入ると知り、アメリアは大喜びした。
アメリアは世界一周を実現させるため、計画を練った。ホノルルとニューギニアの中間にある小さな無人島のハウランド島で、燃料を補給することにした。アメリアは単独飛行を諦め、フレッドをナビゲーターとして連れて行くことにした。1937年3月20日、ハワイ州ホノルル。アメリアとフレッドは出発しようとするが、着陸装置のトラブルで離陸に失敗する。しかしアメリアは諦めず、ジョージは優秀な技師を集めてエレクトラ号を修理させる。そして1937年6月1日、エレクトラ号はフロリダ州マイアミの空港を飛び立った…。

監督はミーラー・ナーイル、原作はスーザン・バトラー&メアリー・S・ラヴェル、脚本はロン・バス&アンナハミルトン・フェラン、製作はテッド・ウェイト& ケヴィン・ハイマン&リディア・ディーン・ピルチャー、共同製作はドン・カーモディー、製作総指揮はロン・バス&ヒラリー・スワンク、撮影はスチュアート・ドライバーグ、編集はアリソン・C・ジョンソン&リー・パーシー、美術はステファニー・キャロル、衣装はカシア・ワリッカ・メイモン、視覚効果監修はヴォイチェフ・ジーリンスキー、音楽はガブリエル・ヤレド。
出演はヒラリー・スワンク、リチャード・ギア、ユアン・マクレガー、クリストファー・エクルストン、ジョー・アンダーソン、チェリー・ジョーンズ、ミア・ワシコウスカ、アーロン・エイブラムス、ディラン・ロバーツ、スコット・ヤフェ、トム・フェアフット、ライアン・シェーン、ウィリアム・カディー、エリザベス・シェパード、リチャード・ドナット、スコット・アンダーソン、サラ・キッツ、キーリン・ジャック、ジェレミー・アッカーマン他。


女性で初めて大西洋単独無着陸飛行を成功させたアメリア・イヤハートを主人公にした映画。
監督は『カーマ・スートラ/愛の教科書』『モンスーン・ウェディング』のミーラー・ナーイル。
アメリアをヒラリー・スワンク、ジョージをリチャード・ギア、ジーンをユアン・マクレガー、フレッドをクリストファー・エクルストン、ビルをジョー・アンダーソン、エレノアをチェリー・ジョーンズ、エリノアをミア・ワシコウスカが演じている。

伝記映画が陥りやすい失敗は、主人公の人生で起きた様々な出来事を多く盛り込もうとして全てが薄っぺらくなり、表面をなぞっただけの ような、人生をダイジェストで説明しただけのような仕上がりになってしまう、というものだ。
伝記映画だと、どうしても断片的なエピソードの羅列になってしまいがちで、だから本作品の「離陸したアメリアが今までの出来事を振り返る」という回想形式にしているのは、悪くないやり方だ。
ただ、その回想シーンの中身が淡白でメリハリに欠けている。人間ドラマの部分だけでなく、本来ならテンションの高まる時間帯になるべきフライトのシーンでも、やはり退屈を感じてしまう。
最初の大西洋横断&単独での大西洋横断のエピソードは、どちらも成功することが分かっているので、スリルに欠けているのは、ある程度は仕方が無い部分もあるだろう。
でも、成功した時の高揚感も全く感じさせてくれないってのは、どうかと思うぞ。

アメリアをどういう女性として描きたいのか、それがハッキリと見えて来ない。
人間は誰しもが一面的ではなく、様々な面があると思うが、どの面をどんな風に描こうとしているのかが分からない。
色んな部分を見せたいというよりも、ただ焦点を絞り切れていないだけに思える。
これも伝記映画が良く陥りがちな失敗だ。
ヒロインの人物像がボンヤリしているのだから、映画としてもボンヤリする。

アメリアは自分の夢と全く違うことをジョージから持ち掛けられるのだから、反感を抱いてもおかしくなさそうなのに、最初から好意的な態度を取っている。
なぜなのか良く分からない。
また、大西洋横断飛行では操縦させてもらえずに乗客扱いで、理想とは全く違うフライトなのに、場面が切り替わると空港に入って準備をしている。
だったら「理想とは違うけれど、それでもいいと割り切ることにした」という心の移り変わりや、決意するきっかけを見せて欲しい。

アメリアは二日酔いのビルを熱い口調で説教し、操縦するようハッパを掛ける。
ビルが飛行機に乗らずに見送ろうとすると、わざと操縦が分からない芝居をして、彼が操縦するように仕向ける。
でも、そもそもアメリアは自分が操縦して横断したいと思っていたはずだから、ビルが操縦できなくなったのなら、自分が操縦桿を握れる絶好の機会だ。
それなのに、なぜビルが操縦するように促すのか。

大西洋横断は成功したものの、それはアメリアの理想とは全く違うものだったのに、満足そうにしているのも引っ掛かる。
ジョージから煙草の広告にサインするよう求められたアメリアは、「フレンドシップ号に乗っていた煙草」というのが嘘なので渋る。
でも、そんなことをさせるジョージに対しては嫌悪感を抱かず、むしろ最初から好意を寄せている。
アメリアの心情が、どうにも良く分からない。

空を飛ぶこと、飛行機に乗ることに対するアメリアの情熱ってのも、そんなに伝わって来ない。
例えば女性だけの航空レースが開催されるシーンがあって、アメリアは「女性パイロットの地位向上を目指す」とコメントしているが、レース開催や団体結成を考える経緯、決めるきっかけは描かれていない。
大西洋単独飛行をジョージに切り出すシーンはあるが、それを切り出すきっかけ、そこに向けての流れは全く用意されていない。
何もかもが単発的で、それもあって、アメリアの中身が薄くなっている。

とにかくアメリアがちっとも魅力的な女性に見えないってのが痛い。
女性パイロットとしての「空を飛ぶ」ということに対する熱量も不足しているように感じられるし、私生活の方でも、アメリアは好感の持てないキャラクターになっている。
ジーンと関係を持つのは、ただの浮気性、もしくは尻軽にしか見えないよ。ジョージとの関係が悪化していたとか、悩んだり落ち込んだりしている時にジーンが力になってくれたとか、そういうわけでもないんだし。
そりゃあ、結婚する時に「束縛しない」という条件は付けていたけど、不倫を始めたことに対する罪悪感もゼロだし。

アメリアがジョージとの関係を修復するのも、あっさりと描かれている。
そもそも、「疎遠になっている」という描写も薄いし。
しかも、その直前にアメリアは「私は空を飛ぶためなら何だってやる。世界一周に挑戦する」と言った上で「ジョージの元に帰る」と口にするので、それが「世界一周を実現させるために、大金を用意できるジョージの元へ戻る」という打算的な行動に思えてしまうし。

あと、宣伝活動に対して不満を漏らしていたアメリアが、ジーンに対して「誰も金儲けに関心が無いっていうの?」と反発しているんだけど、いつの間に考えが変わったのか。
その経緯も、きっかけも、全く分からないんだけど。
「空を飛ぶことだけを考えていたいけど、その資金を作るためにはCM出演や講演などの活動に時間を割く必要がある」というジレンマに悩んで、その末に割り切るとか、そういうドラマが描かれているわけでもないし。

(観賞日:2013年5月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会