『アメイジング・スパイダーマン』:2012、アメリカ

4歳の頃、ピーター・パーカーは両親とかくれんぼをしていた。鬼になった彼が目を開けると、父のリチャードの母のメアリーも、どこを捜しても見つからない。ピーターがリチャードの部屋へ行くと、何者かに荒らされた形跡があった。そこへリチャードとメアリーが現れ、ピーターを連れ出した。2人はリチャードの兄であるベンと妻メイの家へ行き、ピーターを預けた。リチャードはピーターに「しばらくはベンおじさんと暮らしなさい」と告げ、メアリーと共に慌ただしく去った。
それから13年後、ミッドタウン高校3年生になったピーターは、今でも伯父夫婦と一緒に暮らしている。写真とスケボーが趣味のピーターは冴えない高校生で、同級生のフラッシュからは嘲笑の対象になっている。フラッシュは弱気な同級生のゴードンを苛めて、ピーターに写真を撮るよう脅す。ピーターはゴードンを解放するよう要求するが、フラッシュに殴られた。授業を受けるために教室へ赴いた彼は、クラスメイトのグウェンから「バカだけど立派だったわ」と声を掛けられた。
帰宅したピーターは、地下室で父のブリーフケースを発見した。中を調べると、新聞に掲載された写真の切り抜きが入っていた。それはリチャードが別の男性と一緒に写っている写真だった。ベンに尋ねると、それはリチャードの同僚だという。自室に戻ったピーターが改めてブリーフケースを探ると、オズコープ社のIDや父の眼鏡などが入っていた。さらにピーターは、隠しポケットにファイルが入っていることを知った。ファイルを見ると、そこには00から始まる方程式らしき物が書かれていた。
ベンはピーターに、写真の同僚がカート・コナーズであること、リチャードとメアリーが失踪した夜から一度も会っていないことを話した。ピーターはネットで調査し、父とカートがオズコープで異種間遺伝子工学を研究していたことを示す記事や、両親が飛行機の墜落事故で死亡したことを報じる記事を見つけた。オズコープの高層ビルを訪れたピーターは、受付係にインターンシップと間違えられた。ピーターは話を合わせてインターンを詐称し、ロドリゴ・ゲヴァラという若者のバッジを拝借した。
見学の案内係としてインターンたちの前に現れたのは、カートのチーフ・インターンを務めているグウェンだった。ピーターは彼女に姿を見られないよう、後ろで身を潜めながら見学ツアーに付いて行く。しかし爬虫類研究の世界的権威であるカートが「弱者のいない方法」について質問した時、ピーターは「異種間交配」と答えて詳しく説明し、みんなの注目を浴びた。グウェンから追及を受けたピーターは、「科学が好きだから忍び込んだ」と適当な嘘をついた。
見学ツアーから離れたピーターは、オズコープのラダ博士が落としたファイルを拾った。すると、そこから覗いた紙には00のマークがあった。ラダ博士を尾行したピーターは、バイオケーブル開発ユニットの入り口にも同じマークがあるのを目にした。部屋に侵入した彼は、バイオケーブルを作っている装置を見つけて勝手に触れた。一方、カートはラダに、「研究はもう少しの所まで来ているが、そこから時間が掛かる」と説明する。ラダは鋭い口調で、「オズコープ創設者であるノーマン・オズボーンは、死に掛けている。彼を救わなければ、我々は終わりだ」と宣告した。
バイオケーブル開発ユニット室を出たピーターはグウェンに見つかり、バッジを没収された。ピーターは首筋をクモに噛まれ、痛みを覚えた。帰りの地下鉄で、彼は女性の服に手が貼り付いたり、喧嘩を吹っ掛けて来た男性を驚異的な身体能力で退治したりした。困惑しながら帰宅したピーターは、首の後ろから出ている糸に気付く。それを引っ張って抜くと、糸の先にはクモの姿があった。ピーターは突如として備わった怪力を制御できず、時計や蛇口を壊してしまった。
ネットや書物でクモについて調べたピーターはカートの家を訪れ、自分がリチャードの息子であることを明かした。異種間交配が可能かどうか尋ねる彼に、カートは「可能だ。リチャードが作り出した蜘蛛が全てを変えた。だが、彼が研究データと共に姿を消したため、研究は続けられなくなった」と話す。ピーターが「異種間交配が成功した場合、被験体に副作用は?」と質問すると、カートは「分からない。まだ生き延びた被験体はいないので」と告げる。ピーターは交配のためのアルゴリズムを書き、カートを驚かせた。
ピーターは学校で、バスケ部の練習をしているフラッシュが同級生のミッシーを苛めている様子を目にした。ピーターはフラッシュが彼女にぶつけようとしたボールをキャッチし、「取ってみろよ」と挑発した。ピーターは特殊能力でフラッシュを軽くかわしたり、ボールを手にくっ付けて取れないようにしたりする。調子に乗ったピーターは驚異的な跳躍でダンクを決めるが、バックボードを壊してしまった。校長室で叱責された彼は、呼び出しを受けたベンに説教された。
ピーターはカートのラボへ行って研究を手伝い、遺伝子注入システムを使ったマウスの実験に成功した。だが、メイを迎えに行く約束を忘れてしまったことで、ベンに叱られた。「お前の父親は、人のための行いが出来るなら、それをすべきだという信念を持っていた」とベンに言われたピーターは、「じやあ父さんは、自分がどこにいるか息子に教えるべきだとは思わなかったの?」と涙を浮かべて反発し、家を飛び出した。
ピーターはコンビニで買い物をしようとするが、小銭が足りず、偉そうな店員に追い払われた。コンビニ強盗がレジの金を奪って逃走した時、店員が「そいつを止めてくれ」と頼んだが、ピーターは冷たい態度で拒絶した。ピーターを捜しに出ていたベンは強盗と遭遇し、逃亡を止めようとして銃殺された。犯人が左手首に星のタトゥーのある男だと知ったピーターは、夜の街を徘徊して捜索する。チンピラたちと格闘になった彼は、特殊能力で逃げ延びた。
「お前の顔は覚えたぞ」というチンピラたちの声を耳にしたピーターは、たまたま目にした絵を参考にしてマスクを作った。彼は犯人を見つけ出すため、犯罪者たちを次々に捕まえた。目撃情報が広がり、自警団という噂が立つ中で、ニューヨーク市警のステイシー警部は不快感を示した。ピーターはオズコープ製のバイオケーブルを利用したスパイダーウェブを開発し、蜘蛛男にふさわしいコスチュームも作った。ピーターは車泥棒を捕まえるが、ベン殺しの犯人ではなかった。警官隊が駆け付けたので、ピーターは車泥棒を引き渡そうとした。しかし警官隊が蜘蛛男も逮捕しようとしたので、ピーターは逃亡した。
ラダはカートに人体実験を要求し、「インフルエンザの予防注射とでも言えばいい。退役軍人病院に行って、誰か見つけろ」と指示する。カートが「死人が出る」と反対すると、ラダは「昔、リチャード・パーカーも同じことを言った」と脅しを掛けた。それでもカートが要求を拒むと、ラダは薬を手に取って「どちらにしろ、これは我々の物だ。ラボは閉鎖する。明日の朝までに出て行くんだ」と告げた。ラダが去った後、カートは自らの体に薬を注射した。
ピーターはグウェンからディナーに誘われ、彼女の家へ行く。グウェンの父親はステイシー警部だったが、もちろんピーターが蜘蛛男であることは知らない。カートは右腕が再生したことを受け、オズコープ社に電話を掛けてラダと連絡を取ろうとする。所員のエマからラダが退役軍人病院へ向かったと知らされ、カートは電話を掛けて止めるよう依頼する。しかし電話が通じない状態だと聞かされ、カートは追い掛けることにした。タクシーに飛び乗った彼は、副作用で苦悶した。
ステイシーは夕食の席で息子のサイモンから蜘蛛男のことを訊かれ、「市民を襲っている危険な男だ」と述べた。ピーターが「彼は警察が出来ないことを人助けとしてやっているだけでは」と反対意見を述べると、ステイシーは「警察を何だと思ってる?我々は法と秩序のために働いている。あいつは、どうせ個人的な復讐か何かだろう。あの男は、市民の平和を守ってるわけじゃないぞ」と憤りを示した。
グウェンはピーターをバルコニーに呼び出し、2人きりになった。ピーターは自分が噂の蜘蛛男であることを明かし、彼女にキスをした。パトカーのサイレンが鳴ってステイシーが出動するのを見たピーターは、蜘蛛男になって現場へ向かう。ラダが渋滞に巻き込まれている橋では、トカゲの怪物に変貌したカートが暴れていた。しかし蜘蛛男が駆け付けると、カートは逃走した。ピーターは橋から落ちそうになっている少年のジャックを救い、父親に引き渡した。ジャックを抱き締めた父親は、蜘蛛男を見て「アンタは誰?」と訊く。ピーターは「スパイダーマン」と答え、その場を去った。帰宅した彼は外したマスクを眺めて、深く考え込んだ…。

監督はマーク・ウェブ、原作はスタン・リー&スティーヴ・ディッコ、映画原案はジェームズ・ヴァンダービルト、脚本はジェームズ・ヴァンダービルト&アルヴィン・サージェント&スティーヴ・クローヴス、製作はローラ・ジスキン&アヴィ・アラッド&マシュー・トルマック、製作総指揮はスタン・リー&ケヴィン・フェイグ&マイケル・グリロ、製作協力はトム・コーエン&カイラ・カラマン&ベアトリス・セケイラ、撮影はジョン・シュワルツマン、編集はアラン・エドワード・ベル&ピエトロ・スカリア、美術はJ・マイケル・リヴァ、衣装はキム・バーレット、視覚効果監修はジェローム・チェン、音楽はジェームズ・ホーナー。
出演はアンドリュー・ガーフィールド、エマ・ストーン、リス・エヴァンス、サリー・フィールド、マーティン・シーン、デニス・リアリー、キャンベル・スコット、イルファン・カーン、エンベス・デイヴィッツ、クリス・ジルカ、マックス・チャールズ、C・トーマス・ハウエル、ジェイク・ライアン・キーファー、カリ・コールマン、マイケル・バラ、リーフ・ガントヴォート、アンディー・ペソア、ハンナ・マークス、ケルシー・チョウ、ケヴィン・マッコークル、アンディー・グラッドバック、リング・ヘンドリクス=テレフセン、バーバラ・イヴ・ハリス、スタン・リー他。


マーヴェル・コミックスの人気キャラクターを基にした作品。
監督は『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ。
原案と脚本は『ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン』『ゾディアック』のジェームズ・ヴァンダービルト。共に脚本としてクレジットされるのは、『スパイダーマン2』『スパイダーマン3』のアルヴィン・サージェントと“ハリー・ポッター”シリーズのスティーヴ・クローヴス。
ピーターをアンドリュー・ガーフィールド、グウェンをエマ・ストーン、カートをリス・エヴァンス、メイをサリー・フィールド、ベンをマーティン・シーン、ステイシーをデニス・リアリー、リチャードをキャンベル・スコット、ラダをイルファン・カーン、メアリーをエンベス・デイヴィッツ、フラッシュをクリス・ジルカが演じている。

サム・ライミが監督を務めた3部作が、2002年に開始されて2007年に完結している。当初は4作目の予定もあったが、サム・ライミの降板によって白紙になった。
その時点で、普通は「別の監督で4作目を作ろう」とか、もっと賢明な映画人なら「もう終わらせておこう」と思うだろう。
ところがソニー・ピクチャーズ上層部は、なぜか「最初からやり直す新シリーズを作ろう」と思っちゃったのである。
前の3部作から5年しか経過していないのに、その続編ではなくリブート版を作るとは、恐れ入谷の鬼子母神である。

まだ5年しか経っていないので、当然のことながら前シリーズを覚えている人、見ている人は少なくない。そして、そういう人々は当然のことながら、前シリーズと比較して本作品を観賞することになる。
それを考えれば、前シリーズとは大きく異なる内容にするのがベターだろう。
ところが本作品は、ほぼ前シリーズの第1作と同じような道筋を辿るのである。
そりゃあ原作があるから、それをなぞっているということなんだろう。
ただ、前シリーズを見ている人からすれば、「ほぼ同じことの繰り返し」でしかないわけで、その時点で大きなハンデを背負っていることになるんじゃないかと。

まずグウェンの第一印象が、あまり良くない。残念ながら、ちっとも魅力的に見えない。
彼女はピーターを殴っているフラッシュに声を掛けているが、助けに入ったとか、イジメを非難しているとか、そういう風には見えないし。むしろ、「フラッシュの女」みたいに見える。メインのヒロインとしては、印象が弱い。
あと、見た目が老けてるんだよなあ。とても高校生には見えんぞ。
エマ・ストーンは1988年生まれだけど、実年齢の問題じゃなくて、髪型やメイクの問題だろう。

ピーターはベンの死を受け、犯人であるコンビニ強盗を見つけるための行動を開始する。
そこには「自分が犯人を放置したせいでベンが死んだ」ということに対する悔恨や罪悪感、犯人に対する怒りや復讐心などがあるんだろうけど、その辺りはボンヤリしている。
しかも、動機が何であれ、そこはシリアスな感情のはずなのに、スパイダーウェブを試す時の浮かれっぷりや、車泥棒をからかうような態度からすると、「ちょっと楽しんでねえか?」と思ってしまう。

本来なら、そこは「ピーターは特殊能力を会得して能天気に喜び、それを軽い気持ちで使っていたが、ベンの死を受けて考え方や行動がガラリと変わる」という重要なターニング・ボイントになるべきだろう。
それなのに、その後も軽いノリで能力を使い、マスクや道具やコスチュームを作って浮かれた態度を示していたら、ベンの死が無駄になってしまうでしょ。
それを考えると、ベンが死んだ後にグウェンからデートに誘われて浮かれているのも、ちょっとマイナスだなあ。
「すさんだり傷付いたりしているピーターの心が、グウェンとの触れ合いで癒される」という形なら問題は無いんだけど。

ピーターは夕食の席でステイシーが蜘蛛男を批判するので、「映像を見ましたが、車泥棒を捕まえて社会に奉仕している」と告げる。
それに対してステイシーは、「特別に教えてやるが、あの車泥棒は、ある組織を潰すために泳がせていた。半年に及ぶ作戦だった」と明かす。
だが、それでピーターがショックを受けたり反省したりすることも無く、「彼(蜘蛛男)は作戦を知らなかった。彼は人助けとして、警察に出来ないことをやっているだけ」と反論する。
自分が間違っているという感覚が無いのだ。

さらにピーターは、ステイシーから「警察を何だと思ってる?我々は法と秩序のために働いている。あいつは、どうせ個人的な復讐か何かだろう。あの男は市民の平和を守ってるわけじゃないぞ」と言われても、図星を突かれてドキッとしたり、自分の考えを顧みたりすることは無い。
「人々から自警団と呼ばれ、人助けをしているつもりで調子に乗っていたが、実は個人的な復讐で動いているだけではないのか」と悩んだり反省したりすることは無い。
ステイシーの言葉が彼に何の影響も与えないのなら、その会話シーンの意味が薄い。

その後、バルコニーに出たピーターは、グウェンに素性を明かそうとする。ただ、どういう心境で打ち明けるつもりになったのか、その辺りは良く分からない。
で、一度は言い淀んだピーターだが、結局は「スパイダーウェブで彼女を引き寄せる」という形で簡単に明かし、その流れでキスをする。
正体を明かすことに対して、すげえ軽薄なのな。
おまけに、それを初めてのキスと一緒に処理しちゃうのも無頓着に感じる。そこは別でやろうよ。そうじゃないと、正体を明かす行為の意味合いが弱くなるでしょ。
っていうか、ジャックを助ける時も、簡単にマスクを外して素顔を見せているけど、正体を隠す気が無いのか、ピーターは。

ピーターはジャックを助け、父親が息子を抱き締めて嬉しそうにしているのを見つめる。名前を問われて「スパイダーマン」と答えた後、帰宅したピーターは脱いだマスクに視線を向けながら何か考え込んでいる。
その辺りの様子からは、「ジャックを救出し、父親が息子を抱き締める様子を見たことで、ピーターの心境に変化が芽生え、人々を救うために力を使おうと考える」ということを描こうとしているようにも思える。
ところが、その後に待ち受けているのは、「カートが怪物になったのは自分が数式を教えてしまったせいだ。だから僕がやらないと」とピーターがグウェンに語る展開だ。
つまり、ピーターは「テメエのケツはテメエで拭かないと」という動機で行動するのであり、「人々を救うのが自分の仕事だ」という使命感に目覚めたわけではないのだ。
だったら、ジャックの救出劇で考え込むような様子を見せていたのは何だったのかと。
そこもまた、出来事の意味が薄くなっている。

学校にリザードが現れた時にも、ピーターは今までスパイダーマンに変身した時と同様、やっぱり軽いジョークを飛ばして余裕を見せる。
そういうのは要らないってば。ベンが死ぬまでは軽薄なノリがあってもいいけど、それ以降は真面目に戦えよ。
こいつ、TPOを全く無視した不真面目さを最後まで貫くんだよな。何しろ、自分を助けてくれたステイシーが死の間際に遺言として「お前には敵が出来る。だから娘を巻き込むな」と頼んで、それを承知してグウェンに涙の別れを告げたはずなのに、すぐに「守れない約束もあるよね」とか言ってしまう奴なのだ。
そんなに簡単に約束を破ったら、「辛い別れ」のシーンも台無しになるだろうに。
グウェンの方にしても、父親が死ぬ際にピーターに「娘を巻き込むな」と約束させたことを分かっているのに、「守れない約束もあるよね」と言われて笑顔になっちゃうし。
青春恋愛劇を重視しようしているのは分かるけど、あまりにも軽すぎるわ。

(観賞日:2014年5月30日)


2012年度 HIHOはくさいアワード:10位

 

*ポンコツ映画愛護協会