『あなたにも書ける恋愛小説』:2003、アメリカ
作家のアレックス・シェルドンはアダム・シプリーという男を主人公にした小説を書こうとしているが、執筆作業は全く進んでいない。そこへ借金の取り立てにキューバ人のトニーとボビーがやって来た。アレックスは「今の小説が書けたら金は払う。もうすぐ完成なんだ」と釈明するが、書き上がった原稿を見せろと要求され、スランプで一行も書けていないことを白状した。すると彼らはノートパソコンを燃やし、アレックスを窓から逆さ吊りにする。アレックスが「倍にして返す、10万ドルを支払う」と慌てて言うと、トニーとボビーは30日後に支払うよう約束させて立ち去った。
アレックスは編集者の元へ行き、金の支払いを要請した。前金として受け取った、7万5千ドルはドッグレースで全て使い果たしていた。編集者は「残りの12万5千ドルは原稿を受け取った時に支払う約束だ。あれから1年間、何をしてたんだ」と呆れ果て、早く小説を完成させるよう促した。アレックスは期限内に300ページの小説を完成させるため、速記係を雇って口述筆記してもらおうと考える。彼は法律事務所の弁護士を詐称し、タイピスト会社に電話を掛けてアルバイトを雇った。
タイピストのエマはアレックスのアパートにやって来るが、そこが法律事務所でなかったため、早々に立ち去ろうとする。性的行為が目的で呼んだと勘違いしているエマに、アレックスは必死で事情を説明する。エマが「給料は日払いで貰うことになっている」と言うと、彼は「残念だが、金が無い。納品すれば原稿料が貰えるから、最後にしてほしい」と告げる。呆れて去ろうとするエマだが、アレックスが過去に執筆した小説のラストを読んで、少し興味が芽生えた。
エマが新作の内容について訊くと、アレックスは「恋をして魂が抜き取られ、ボロボロになる男のコメディーだ」と述べた。エマは速記係を承諾した。書き出しの文章から悩みに悩むアレックスに、エマはアイデアを提案する。しかしアレックスは反論し、まるで先に進まない。エマが帰ろうとしたところで、ようやくアレックスは「アダム・シップリーは恋に見切りを付け、執筆に夢中になっていた。1924年の夏のことである」という書き出しの文章を思い付いた。何かと口を挟んで異議を唱えるエマに苛立ちを覚えつつ、アレックスは思い付いた文章をタイプするよう指示した。
大学教授のアダムは長期休暇を取り、ベストセラー小説を執筆しようとしていた。その間の収入源としては、家庭教師をすることが既に決まっていた。雇い主のフランス人がバカンスを過ごしている先は、セント・チャールズ島だ。セント・チャールズ島は金持ちばかりが暮らす場所だ。アダムが島へ赴く汽車で向かい合わせになったのはジョン・ショーという中年男だった。彼の質問を受け、アダムは離婚した女性ポリーナ・デラクロワ、8歳の息子アンドレ、6歳の娘ミッシェルの家で家庭教師をすることを話した。
ショーはポリーナを知っており、彼女が経済的に困窮していること、唯一の希望はパリに住む祖母の遺産がいずれ手に入ることだけであることをアダムに教えた。アダムが貰った手紙からは金に困っているように見受けられなかったが、ショーは「そう思わせているだけさ。でも大丈夫、給料は貰えるから。私が小切手を持って、こうやって島に向かっているから」と告げる。ショーはポリーナに頼まれて金を貸している立場だが、「返済はどうでもいい。夏が終われば結婚を申し込むつもりだ」と話した。
島に到着したアダムは、出迎えに来ていたポリーナに一目惚れした。港にはポリーナとアンドレ、ミッシェルの他に、ポリーナの父と彼の友人であるマダム・ブランシェも来ていた。豪邸に到着したアダムを、スウェーデン人の女中イェルヴァが部屋に案内した。アダムは彼女から、ポリーナがショーを愛していないが結婚するつもりであることを知らされる。祖母が死ぬ気配は無く、お金が必要なので、ショーと結婚するのだという。
アダムはアンドレとミッシェルの家庭教師を務めて日々を過ごし、次第に島での生活に慣れていった。そんなある日、ポリーナはドイツ人の女中エルサに子供たちの世話を任せ、アダムと2人きりになった。ポリーナは家計が火の車であることを打ち明け、「子供たちには辛い思いをさせたくないの」と言う。ポリーナは「私は平凡な人生を過ごしたいだけ。本当の私を愛してくれる人と」と口にした後、ショーを殺してほしいとアダムに持ち掛けた。
アダムが困惑していると、ポリーナは「今のは冗談よ」と笑った。その瞬間、アダムは自分が巨万の富さえ手に入れればポリーナが自分と結婚してくれると確信した。アダムは大金を得るため、エルサからカジノの場所を聞く。200ドルの所持金を持ってカジノを訪れたアダムは、あっさりと負けて退散した。彼は夕食の場で「愛は金では買えない」と熱弁し、ポリーナの気を惹こうと試みるが、まるで効果が無かった。そこへ執事のクロードが来て、ポリーナの祖母が亡くなったことを知らせた。その時を待ち望んでいたはずのポリーナだったが、彼女の心には寂しさという感情が沸き起こった。
その日の仕事を終えてアパートを出たエマは、水たまりで原稿を濡らして台無しにしてしまった。翌朝、彼女は朝食の材料を買い込んで、約束より早くアレックスの部屋を訪れた。朝食を作って機嫌を取ろうとしたエマだが、アレックスは「昨日までの原稿を読み直す」と言い出した。アレックスがエマから奪い取った原稿は、彼女が勝手に執筆したもので、大幅に内容が変更されていた。アレックスが「僕の原稿はどこだ」と怒鳴ると、エマは泣き出し、「バスに乗ろうとしたら、転んで水たまりに落ちて」と弁明した。アレックスは「もういい、君のせいじゃないよ。やり直せばいい」と慰めた。
アダムはエルサが自分に好意を寄せているとは知らず、ポリーナとの過ごすであろう夢のような日々について語った。アダムはポリーナへの思いを募らせ、早く告白すべきだと考えるようになった。迷いを断ち切ったアダムは、ポリーナとベッドに倒れ込み、情熱的な愛を交わした。祖母が死んでポリーナには遺産が転がり込み、アダムはポリーナと肉体関係を持ち、ショーはポリーナの元を去った。
そこまで書き上げたところで、アレックスは次の展開が思い浮かばず、完全に行き詰まってしまった。彼は気分転換のために、エマを連れて外出する。オープンカフェてランチを取ったり、観覧船で川を下ったりして、2人は日が暮れるまで一緒に過ごした。アレックスはエマを自宅まで送り届け、2人は唇を重ねようとする。その時、アレックスは「そうか、お祖母さんを死なせたのがいけなかったんだ。突破口が開けた。ありがとう」と嬉しそうに言い、エマを抱き締めた。
翌日、アレックスは思い付いた物語をエマにタイプしてもらう。「祖母は逝った」という電報は、「祖母は行った」という内容だったことになり、彼女はパリからセント・チャールズ島へやって来た。余命わずかだったはずの祖母は元気一杯だったが、ポリーナたちの眼前で突然死した。ところが、弁護士の説明により、遺産がゼロであることが分かった。祖母は高額の香水コレクションを所有しており、それが彼女の財産だった。しかし長年に渡って所有している間に、全て蒸発してしまったのだ。
アレックスはスペイン人の女中エルドーラを物語に登場させようとするが、エマが呆れて反対する。アレックスはアダムの恋に障害を用意したいと考え、以前にエマが言っていた「もう1つの三角関係」の要素を持ち込むことにした。フィラデルフィア出身のアンナという女中が物語に登場し、アダムが失恋の反動で惹かれるようになるという構想だ。アダムはアンナに安らぎを感じ、日を追うごとに彼女への愛は深まっていく。その展開にエマは満足するが、アレックスは「2人がくっ付くかどうかは分からない。ここから、いよいよ引っ掻き回す」と告げる。アダムはショーがポリーナに求婚すると知り、2人の女性に対する気持ちで揺れ動く…。監督はロブ・ライナー、脚本はジェレミー・レヴェン、製作はロブ・ライナー&ジェレミー・レヴェン&アラン・グライスマン&エリー・サマハ&トッド・ブラック、共同製作はジョセフ・メルヒ&ジェームズ・ホルト&アダム・シェインマン、、製作総指揮はピーター・グーバー&ジェフリー・ストット&スティーヴ・ティッシュ&ジェイソン・ブルメンタル、撮影はギャヴィン・フィネイ、編集はロバート・レイトン&アラン・エドワード・ベル、美術はジョン・ラレナ、衣装はシェイ・カンリフ、音楽はマーク・シェイマン。
出演はケイト・ハドソン、ルーク・ウィルソン、ソフィー・マルソー、デヴィッド・ペイマー、ロブ・ライナー、フランソワ・ジロデイ、ロボ・セバスチャン、チノ・XL、クロリス・リーチマン、リップ・テイラー、アール・キャロル、アレクサンダー・ウォチエ、レイリ・クラマー、ジジ・バーミンガム、マイケル・ラパポート、ロバート・コンスタンツォ、ダニカ・シェリダン、ジョルディー・カバレロ他。
『バガー・ヴァンスの伝説』のジェレミー・レヴェンが脚本を執筆し、『アメリカン・プレジデント』『ストーリー・オブ・ラブ』のロブ・ライナーが監督を務めた作品。
ドストエフスキーが短編小説『賭博者』を執筆したときの実体験をベースにしている(速記係のアンナ・スニートキナは彼の2番目の妻になっている)。
ケイト・ハドソンがエマ&イェルヴァ&エルサ&エルドーラ&アンナ、ルーク・ウィルソンがアレックス&アダムを演じている。
他に、ポリーナをソフィー・マルソー、ショーをデヴィッド・ペイマー、編集者をロブ・ライナーが演じている。実話がベースになっているから、そこに引っ掛かっても「だけど実際にあったことだし」と即座に反論されてしまうことなのかもしれんが、どうしても違和感が否めない。
何のことかっていうと、「アレックスが30日以内に小説を完成させるため、速記係を雇う」という筋書きだ。
これが「文字を書いたりタイプを売ったりするのが遅いから、速記係を雇う」ということなら、それは分かるのよ。だけどアレックスの場合、スランプに陥って1行も書けなくなっているという状況なんでしょ。
だったら、速記係を雇っても意味が無いでしょ。それで物語のアイデアが沸いて来たり、文章を紡ぐスピードが上がったりするわけじゃないんだから。むしろ、多額の借金を抱えて困っているのに、速記係を雇う余裕なんかねえだろ、と思っちゃうのね。
初期設定に、ものすごく大きな無理があるように思えてならない。
詳しいことは知らないけど、たぶんドストフエスキーの場合、ギャンブル狂いで締め切りに追われていても、スランプに陥って書けなくなっていたわけじゃないから、「口述筆記で執筆スピードを上げる」という目的で速記係を雇うってのが成立したんじゃないのかねえ。
この映画にしても、「アレックスがスランプで全く書けなくなっている」という設定さえ無ければ、締め切りに間に合わせるために速記係を雇うという導入部には、何の問題も無かったはずなのに。エマは速記係を引き受けるつもりなど全く無かったのに、過去の小説のラスト部分だけを読んで「ほら、最初から読みたくなった」と言い、新作のアイデアを聞いて仕事を受ける。
でも、そこは展開として、かなり無理があるように感じる。
それに何より、粋じゃないのね。
ぶっちゃけ、「結末はまだ分からないが、登場人物さえ決まっていれば、彼らがこう書けと教えてくれる」という説明だけで速記係を引き受けるぐらいなら、事情説明を受けた段階で引き受けてもいいんじゃないかと思っちゃう。アレックスの説明に対してエマは「うん、面白い」と言うけど、そんな程度の説明で、その小説に対して何の魅力を感じ取ったのかと。
それよりは、例えば「最初は小説に対する興味など全く無かったが、別の打算的な理由で承諾する。しかし一緒に仕事をしている内に、その物語に引き込まれていく」という展開にでもした方が良かったんじゃないかと。
仕事を引き受けた後も、エマは「最後の5時間は何の動きも無し」とか「明日の来る価値がある?」とかクールな態度を取っているんだから、「最初はアレックスの小説に対して全く惹かれていない」という形の方が、合っているんじゃないかと。アレックスが小説の内容を語り、それに応じて劇中劇が展開していくのだが、エマが文句を付けたり疑問を呈したりすることで、何度も中断される。
これにアレックスが苛立つのだが、彼と同様、こっちも苛立って来る。
エマのイチャモンが、ホントに単なる邪魔でしかない。それによって物語の内容が大きく変化するとか、こっちの感じている疑問が解消されてスッキリするとか、そういう効果があるわけでもないし。
正直に言って、どういう効果を狙ってエマのイチャモンを挟み、何度も劇中劇を分断しているのか全く分からない。そこはたぶん、喜劇としての効果を狙っている部分も少なくないんじゃないかとは思うのだが、むしろ笑いとは正反対の方向へ感情が喚起される。
「どうしても今話さなきゃいけないこと?」とアレックスが言うシーンがあるが、その通りだ。
後半に入ると、エマの意見が物語の内容に反映される場面もあるので、そこに向けて序盤から地均しをやっているということではあるんだろう。
だけど、ウザったいものはウザったいんだから仕方が無い。エマが泣いて詫びると、アレックスが全く怒らず、焦ることも無く、優しく慰めて「書き直せばいいんだ」と告げるのは、すげえ違和感がある。
そんなに余裕があるわけじゃないでしょうに。
っていうか、そこではエマが勝手に物語を改変して原稿を用意しているので、そこから「仕方が無いので、それを使ってアレックスが続きを書いていく」という展開にでも持って行くのかと思ったら、その代替原稿は無視して進めていくのね。あと、根本的に、その劇中劇として描かれる物語って、ちっとも魅力的じゃないんだよね。恋愛劇としても、喜劇としても冴えない。
エマが「感動しちゃった」と口にするシーンも(それは祖母の死をポリーナが知らされるシーン)、どこにも感動的な要素なんて見当たらない。
で、そこまで書き上げたところで、アレックスとエマは互いに「見直した」「第一印象と違っていた」ということを語り、どうやら2人が少しずつ好意を寄せ合っていく流れを作ろうとしているんだけど、そこも無理がありすぎる。
どこにも恋愛劇が盛り上がっていく要素なんて見当たらなかったのに、「貴方って第一印象と違ってた。でも色んな要素が色々と合わさると、悪くない」「君も悪くない」と2人が言い合い、笑顔を浮かべるのは、ものすごく強引だ。その後、デートしてキスしそうになるのも、これまた強引。
そんな流れなんて全く無かったのに、その場面だけで急に雰囲気を盛り上げて、キス未遂まで持ち込んでしまう。
いつ、どの辺りで、どんなところに、アレックスとエマは惹かれ合うようになったのか。
2人が互いに好意を抱き合う展開に説得力を持たせるための作業が、著しく不足している。
終盤になると、ついにアレックスとエマは肉体関係まで持っちゃうんだけど、「なんでそうなるの?」と違和感しか生じない。アレックス&エマのドラマと、アダムが主人公の劇中劇も、ちっともリンクしていない。
そこをリンクさせることでアレックスとエマのドラマを飾り付けるのかと思っていたんだけど、まるで別物になっているのね。
アダムがエルサと惹かれ合うようになっていくわけじゃないし、三角関係の相手であるアンナは後半に入らないと登場しない。アダムの物語が進んでいく中で、それに影響を受けてアレックスとエマの関係が変化するわけでもない。
だから、ルーク・ウィルソンがアレックスとアダム、ケイト・ハドソンがエマやイェルヴァやアンナを演じている意味が全く感じられない。終盤になって現実社会にもソフィー・マルソーが登場し、アレックスがポリーナという女性と付き合っていたことが判明するが、それはタイミングがあまりにも遅すぎる。
もっと早い段階からアレックスとエマの前にポリーナを登場させて、そこでの三角関係を劇中劇とリンクさせ、現実社会の恋愛劇を盛り上げるべきだと思うんだよなあ。
そういうことが無いから、アレックスとエマの恋愛劇はペラペラになってしまっている。
終盤にポリーナを登場させて「実はアレックスの想像した人物じゃなくて、モデルが実在した」とやっても、そんなサプライズには何の効果も感じないし、デメリットの方が遥かに大きい。(観賞日:2013年5月23日)
第26回スティンカーズ最悪映画賞(2003年)
ノミネート:【最悪の主演女優】部門[ケイト・ハドソン]
<*『あなたにも書ける恋愛小説』『10日間で男を上手にフル方法』の2作でのノミネート>
ノミネート:【最もインチキな言葉づかい(女性)】部門[ケイト・ハドソン]