『エア・ストライク』:2018、中国

1937年、中国と日本の全面戦争が始まった。上海は日本軍に制圧され、首都の南京も陥落した。激しい空爆によって、ペイシュアンが勤務する小学校も破壊された。中華民国の新しい首都である重慶も空爆を浴び、茶店を営むマングァンとヤゴウの夫婦、元は店の所有者だったギャンブル好きのツイたちは防空壕に避難した。空軍基地も被害を受け、パイロットや戦闘機は残り少なくなった。米軍指揮官のジャック・ジョンソン大佐は第22飛行隊の副隊長を務めるシュエ・ガンタウら4人から、出撃させてほしいと懇願された。
ガンタウたちは出撃するが、ゼロ戦パイロットの秋山ヒロによってレイ・タオとアン・ミンファが次々に撃墜された。ガンタウも戦闘機を攻撃されて左腕に怪我を負い、パラシュートで脱出した。ミンファの弟であるミンシュアンは合同葬儀に参列し、復讐を誓った。日本軍の機関長は暗号解読機を奪うため、特務機関のコガンにA計画を命じた。中国軍諜報本部に呼び出されたガンタウは、港から重慶へ向かうトラックを護衛する任務を命じられた。
港へ赴いたガンタウは日本の兵士たちを見つけ、発砲してトラックに乗り込んだ。運転手が友人のリウだったので、彼は驚いた。日本軍の偵察機の空爆を受けた2人は、トラックをトンネルに向かわせた。ジャックは空軍基地で新兵のミンシュアンたちと会い、訓練に励むよう訓示した。ミンシュアンが復讐心を口にすると、彼は「家族を守るために戦うんだ」と説教した。ミンシュアンは訓練兵のチェン・ティンから、不遜な態度を向けられた。
ガンタウはリウから積み荷の中身が薬だと言われるが、信じずに調べようとする。リウは「軍法会議だぞ」と言って制止し、この仕事を終えたら麻雀大会に出て優勝するつもりだと語った。ガンタウの兄はマングァンなので、茶店で開かれる麻雀大会のことも良く知っていた。2匹の豚を入れた駕籠を持つチャオ・チュンという男がガンタウたちに近付き、トラックに乗せてほしいと頼んだ。家畜研究所まで豚を届ける用事があるのだと言われ、ガンタウは承諾した。
トラックが町を通過する時、日本軍の戦闘機部隊が飛来して空爆した。ジン・シャンという男がトラックの助手席へ乗り込むが、整備士だと言うのでガンタウは連れて行くことにした。保母のメイが幼い4人の子供たちを連れて歩いているのを見たガンタウは、助けずに通過しようとする。しかしメイが「兵士なら子供を守るのが当然よ。この子たちの父親も兵士なの」と言うと、ガンタウは彼女たちをトラックに乗せることにした。空爆を受けてリウが死亡したため、シャンが運転を交代した。
重慶でも日本軍による空爆が実施され、ジャックはミンシュアンたちから出撃を志願されるが「まだへ訓練不足だ」と却下した。秋山が基地を空爆すると、ミンシュアンは勝手に戦闘機で出撃して後を追う。ジャックは「敵機が押し寄せているので戻れ」と命じるが、秋山の攻撃を受けたミンシュアンはパラシュートで脱出する。怪我を負って気絶している彼を、通り掛かった女性記者のスーザンたちが発見した。そこへガンタウがトラックで通り掛かり、ミンシュアンを近くの教会へ運んだ。
教会も空爆を受け、中にいた神父たちが犠牲となった。ガンタウがミンシュアンの弾を摘出してメイが傷口を縫合していると、スーザンが来て消毒した。トラックが故障したため、ガンタウたちは教会で一泊した。翌日、ミンシュアンとスーザンは小舟で出発した。日本軍による空爆が繰り返される中、病院では医師のディーンたちが懸命に患者を手当てしていた。ディーンの友人である女医のジュリアは、次の船が来るまで手伝うことにした。帰国予定だった赤十字職員のスティーヴも患者を放っておけず、病院に留まることを選んだ。
スーザンは茶店へ出向いてツイに会い、ガンタウから託された荷物と手紙を渡した。マングァンに手紙を読んでもらったツイは、リウの死を知ったるスーザンは空軍基地へ行ってミンシュアンと会い、翌朝には出発することを伝えてキスを交わした。ミンシュアンはジャックの用意した米軍機に乗りたいティンから、「乗るのは俺だ」と挑戦的な態度を取られた。殴り掛かられたミンシュアンは、すぐに反撃した。ティンが「頼む。復讐したいんだ」と言うと、彼は「俺も同じだ」と告げた。
ガンタウたちは直した橋を渡り、空爆を逃れて先へ進む。ジャックは訓練兵たちに誕生日を祝ってもらい、「お前たちは俺の誇りだ」と口にした。日本軍の機関長はコガンからの報告を受け、B計画の発動を指示した。それはガンタウと暗号解読機を道連れにして、コガンが死ぬことを意味していた。麻雀大会が開かれている町が激しい空爆を受ける中、ジャックはミンシュアンたちを率いて出撃した。ガンタウはシャンにナイフを突き付け、「何を企んでる?」と詰め寄った。日本軍諜報員の本性を現したシャンは、ナイフを奪ってガンタウを襲う。ガンタウは反撃し、シャンを川へ突き落した。
ミンシュアンたちは日本軍の攻撃を受けて劣勢に陥り、撤退を余儀なくされた。町民の避難した防空壕は空爆を受けて崩れ落ち、大勢が命を落とした。ツイ、ヤゴウ、マングァンたちは、何とか生き残った。ティンはミンシュアンに米軍機を操縦するよう勧め、「お前の方が腕がいい。俺は援護に回る」と告げた。日本軍は戦争を有利に進めていたが、勝利宣言を出すには早いと考えた。彼らは中国側の抵抗が予想を超えていると判断し、重慶への攻撃を強めることを決定した…。

製作&監督はシャオ・フェン、脚本はチェン・ピン&ヤン・シンユー&チャン・ホンイー&ウー・ユーシ&リー・シャオチー&ワー・チャオ、製作はラ・ペイカン&フー・ジジュン&レン・チョンルン&ヤン・ブーティン&チャン・ハイヤン&リン・ホン&リー・ホン、製作総指揮はワン・ヤンユン&チアン・ピン&シャオ・ジーユエ&チャオ・ハイチェン&ユー・シンバオ&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&ジミー・ジャン&キンバリー・ケイツ、コンサルタントはメル・ギブソン、スペシャル・コンサルタントはリー・チャンクアン、撮影コンサルタントはヴィルモス・ジグモンド、撮影はヤン・シュウ、美術はマオ・ファイシン、編集はクォン・チーリョン&ロバート・A・フェレッティー、アクション・ディレクターはブルース・ロー、特殊効果コンサルタントはコンラッド・W・ホール、視覚効果監修はキム・ジョンピル、作曲はワン・リーグァン。
出演はブルース・ウィリス、リウ・イエ、ルーマー・ウィリス、ソン・スンホン、ウィリアム・チャン、ファン・ウェイ、ウー・ガン、マー・スー、チェ・ヨンリ、フェン・ヤンチェン、ゲン・ラー、チャン・ニン、ニコラス・ツェー、ファン・ビンビン、チャン・ファン、エイドリアン・ブロディー、レイ・チア、サイモン・ヤム、レイ・ルイ、渋谷天馬、フービン、ホアン・ハイビン、チェン・ダオミン、リウ・シャオチン、ホアン・シェンイー、ケニー・ビー、ワン・ジロー、カオ・ケーファン、チョウ・リーチー、キース・シリトー、ヤン・シューフェン、ペイ・シンレイ、ヤン・イー、マー・ジエ他。


中国電影集団と上海映画グループが制作した中国映画。
製作&監督のシャオ・フェンは、中国ではそれなりのキャリアがあるようだが、そんなに有名な作品、評価の高い作品は手掛けていない。
実際、日本に彼の監督作が入って来たのは、この映画が初めてだ。
ジャックをブルース・ウィリス、ガンタウをリウ・イエ、ジュリアをルーマー・ウィリス、ミンシュアンをソン・スンホン、ティンをウィリアム・チャン、ツイをファン・ウェイ、チュンをウー・ガン、メイをマー・スー、ヤゴウをチェ・ヨンリ、マングァンをフェン・ヤンチェン、シャンをゲン・ラー、スーザンをチャン・ニンが演じている。

中国映画だが、主演にはハリウッドからブルース・ウィリスを招聘している。
話題作りを狙ったのか、ただのバーターなのかは知らないが、1シーンだけ娘のルーマーも出演。
他にも特別出演として、ニコラス・ツェー(タオ役)、ファン・ビンビン(ペイシュアン役)、チャン・ファン(リウ役)、エイドリアン・ブロディー(スティーヴ役)、サイモン・ヤム(空軍指揮官役)、フービン(ディーン役)、ホアン・ハイビン(ジャックの副官役)らが出演している。
出演者だけでなく、スタッフにもハリウッドから招聘した面々がいる。
撮影コンサルタントには『未知との遭遇』や『ディア・ハンター』のヴィルモス・ジグモンド、特殊効果コンサルタントには『パニック・ルーム』『エンド・オブ・ホワイトハウス』のコンラッド・W・ホール編集に『ロッキー5/最後のドラマ』『ハロウィン レザレクション』のロバート・A・フェレッティーの名前がある。
そして、なぜかコンサルタントという立場で、メル・ギブソンも参加している。

出演者やスタッフの顔触れを見ても、かなり力の入っている映画だということが良く分かる。
ハリウッドから多くのキャストとスタッフを招聘しているのは、中国だけでなく世界市場でのヒットも期待してのことだろう。
しかし、思わぬ出来事で本作品はつまずく羽目になった。
ファン・ビンビンの巨額脱税疑惑というスキャンダルが持ち上がり、その影響で中国での上映が中止されたのだ。
じゃあ海外での扱いはどうなのかというと、ほとんどの国では劇場公開されておらず、日本でも1週間のレイトショー上映に留まった。

第二次世界大戦で連合国が勝利して70周年を迎える記念として、この映画は製作されている。
第二次世界大戦が題材になっている場合、何しろ勝ったのは連合軍なので、日本軍が悪玉として登場するケースも多い。
本作品は中国が舞台なので、そりゃあドイツやイタリアじゃなくて日本が悪玉になるのは当然のことだろう。
「日本が悪役扱いされている」というだけで、不快に思う人もいるだろう。でも本作品の場合、その心配は無い。
なぜなら、そんなことが全く気にならないほどポンコツ度数が高いからだ。

オープニングで描かれる空爆のシーンから、いきなり安っぽさを感じさせる映像になっている。
それなりのスケールで、かなりの製作費を投じて製作しているはずだ。しかし、「まあ『シャークネード』よりはマシだけどさ」というレベルに留まっている。
迫力の戦闘シーンを描いているつもりなんだろうけど、戦闘機が背景と上手く馴染んでいない。
あと、何となくゲーム画面っぽさを感じさせる絵なんだよね。これは茶店のある町を空爆する戦闘機部隊のシーンでも、同じことを感じる。

ガンタウたちが出撃して秋山と戦うシーンでは、画面のこちら側へ向かって来る同じようなアングルで日本軍と中国軍のパイロットを順番に見せるため、敵対関係が分かりにくい。
もちろん戦闘機が写れば違いは明らかだけど、兵士のいるコクピット部分をアップで捉えた画面が続いている段階だと、日本人も中国人も同じアジア系だから顔だけだと判別できないし。
ベタかもしれないけど、中国軍は画面の左から、日本軍は右からのアングルという形でもいいのに。
まあ素人臭い絵の作り方だと言われれば否定は出来ないけどさ、じゃあ本作品がプロとして上手い見せ方を出来ているのかというと、全然だからね。

ガンタウたちは登場してすぐに出撃を志願し、次々に死んでいく。
なのでガンタウが仲間の死にショックを受けても、こっちは何の感情も動かない。そいつらのキャラ紹介なんて、まるで無いからね。
タオは赤ん坊の写真を眺めていたけど、彼が家族と一緒にいるシーンなんて全く用意されていなかったわけで。後から赤ん坊を抱いた妻が出て来るわけでもないし。
ミンシュアンが葬儀で「必ず復讐する」と誓うけど、そこで初めて「死んだ奴には弟がいたのね」と分かるし。

シーンの繋ぎ方はデタラメで、物語をスムーズに進行する意識は微塵も感じられない。最初から最後まで慌ただしく、バタバタしている。キャラもドラマも、まるで掘り下げられていない。
シーンの繋ぎ方がいかにも適当なのかが顕著に表れている具体例として、ミンシュアンがスーザンと小舟で去るシーンを挙げておこう。
そこからカットが切り替わると、ミンシュアンはベッドで休んでいて、ジャックが傍らにいる。この時、ミンシュアンは頭に包帯を巻いている。
しかし、その直前のシーンまで、彼は頭に怪我など負っていなかったのだ。
いつの間にテメエは、包帯を巻かなきゃいけないような傷を頭に負ったのかと。

とにかく派手にドンパチをやりまくっていれば観客は満足するだろうとでも思ったのか、空爆や戦闘のシーンが次から次へと訪れる。
お前はリチャード・ドナーの信奉者なのかと言いたくなるぞ。
最初の30分に限定しても、戦闘シーンが8回もある。そりゃあ、キャラやドラマの描写が薄くなるはずだよ。
しかも、じゃあアクションシーンに引き付ける力があるのかというと、それも皆無。同じような空爆シーンが大半なのよ。
最初の30分で戦闘シーンが8回と書いたけど、その内の7回は日本軍の空爆だからね。

後半、麻雀大会が開かれている町が空爆を受ける中、ジャックがミンシュアンたちを率いて出撃するシーンがある。
初めてジャックが出撃するんだし、その戦いでは日本軍を退散に追い込むのか、秋山を倒すのかと思いきや、あっさりと劣勢に陥って撤退に追い込まれてしまう。
だからと言って、主要キャラの誰かが死ぬような悲劇も無い。
一方、防空壕ではヤゴウが赤ん坊を救うために自らを犠牲にするような動きを見せるが、分かりやすい死のフラグなのに普通に生き残る。

空中戦だけではダメだと思ったのか、ガンタウとシャンの格闘アクションも用意されている。
でも、これはこれで無理して持ち込んだようにしか思えないし、この映画には全く馴染んでいない。
で、最終決戦の後には麻雀大会の決勝とガンタウの結婚式が描かれるのだが、これを完全にコメディーとして演出しているんだよね。
そりゃあ最終決戦は終わったから安堵できる状況ではあるのかもしれないけど、それにしても喜劇として物語を締め括るのは明らかに外しているぞ。

(観賞日:2019年10月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会