『エージェント・コーディ』:2003、アメリカ&カナダ

シアトル。15歳のコーディ・バンクスは、両親と弟のアレックスの4人、それに愛犬のマーティンと暮らしている。もうすぐ16歳になるコーディは、ジェファーソン高校に通う高校生だ。小柄でデート経験の少ないコーディは、アレックスから全く尊敬されていない。そんな彼は学校へ向かう途中、母親が離れている間に赤ん坊を乗せた車が走り出したのを目撃する。コーディはスケボーを飛ばして車を停止させ、その場を立ち去った。
香港の組織「エリス」の本部では、協力者のコナーズ博士がボスのブリンクマンや側近のモーレイたちに研究成果を発表していた。彼は座礁したタンカーから原油が漏れ出した際、それを瞬時に集めるナノボットを開発していた。「他の物を食べるようにも出来るのかな」というブリンクマンの質問に、彼は「理論的にはシリコンや炭素系化合物でしたら何でも分解できるはずです」と答えた。まだ組織の目的に気付いていないコナーズに、ブリンクマンは「10日で開発するんだ」と要求した。
CIAは会議を開き、ナノテクノロジーの世界的権威であるコナーズについて話す。彼の発明したナノボットは、通信網や軍事組織を破壊するようプログラムすることが可能だ。CIAはエリスとコナーズの関係を探るため、諜報部員を送り込んでいた。しかし諜報部員は情報が全て漏れていることを知らせた後、敵に襲われて通信を断った。コナーズは2年前に妻を亡くしてから、世間との接触を断っていた。そこでCIA長官は、コナーズの娘である15歳のナタリーに接近しようと考えていた。
CIAは若者向けのサマーキャンプと称して、1987年から秘密厳守で有望な候補者を集めて育成センターに集めていた。家族も知らない中で、集められた若者たちはエージェントとしての訓練を受ける。そうやって育成されたティーン・エージェントが、各地に派遣されている。そこで長官は、ナタリーの近くに住むティーン・エージェントのコーディに任務を与えることにした。かなりの色男だという情報が入っていたため、長官は自信を見せる。しかし実際のコーディは女に奥手で、ちゃんと話すことも出来なかった。
コーディの元に女性エージェントのロニカ・マイルズが現れ、外へ連れ出した。初めての任務が与えられたことを知り、コーディは興奮する。ロニカは相棒呼ばわりされ、「ハッキリさせておくけど、私は相棒じゃなくて調教師」と冷たく告げる。ロニカに連れられてCIA本部を訪れたコーディは、会議に参加した。ナノボットに関する詳しい知識を自慢げに語ったコーディだが、ナタリーと親しくなり、彼女の父親がエリスと何をやっているのか探るのが任務だと聞かされて困惑した。
ナタリーは私立のウィリアム・ドノヴァン校に通っているが、CIAは彼女が出席する全ての授業にコーディの登録を済ませていた。ロニカはコーディに、「もうすぐナタリーの誕生日で、父親がパーティーを計画してる。手始めに、パーティーに呼んでもらえばいい」と告げた。CIA長官から「自信が無いなら今の内に言ってくれ」と告げられたコーディは、「僕に任せて」と口にした。コーディは武器開発担当者のアールから、秘密道具と5千ドルを受け取った。
家に戻ったコーディは、両親に「奨学生になれたから、ずっと憧れていた学校に編入する」と告げる。突然の話に戸惑いを隠せない両親だが、ロニカが学校の責任者を装って訪れ、巧みな弁舌と資料で納得させた。転校初日からコーディはナタリーに話し掛けるが、上手く喋ることが出来ず、不気味に思われてしまう。運転教習の授業では、ナタリーが不合格になった後、コーディが得意の運転技術を披露する。ただ、派手にやり過ぎて危険な運転をしたせいで、やはり不合格になった。しかし後からナタリーの部下2名が教官のイップを脅し、コーディの運転免許証を発行させた。
ロニカから進捗状況を尋ねられたコーディは、「バッチリさ」と嘘をついた。「時間が無い。今夜、デートに誘いなさい」と指示されたコーディは、「平日だよ、宿題がある。雑用当番もある」と誤魔化そうとするが、「そっちは局員がやるから、任務に専念しなさい」と言われる。CIAは大勢の局員を派遣し、バンクス家を徹底的に掃除した。両親がアレックスを連れて買い物から帰宅すると、室内はすっかり綺麗になっていた。
コーディはロニカからナタリーに電話を掛けるよう命じられるが、なかなか勇気が出ない。ようやく電話を掛けても、ナタリーが出ると慌てて切ってしまった。CIAはコーディが女と積極的に話せるようになるため、プログラムを組んで教育しようとする。だが、なかなかコーディを変えることは出来ない。そんな中、コーディは学校の外壁に横断幕を掛けようとして梯子から落ちたナタリーを助けた。軽い捻挫で済んだ彼女はコーディに感謝し、誕生日パーティーに招待した。
ロニカはコーディにコナーズ邸の図面を渡し、スポーツカーを用意した。ロニカと局員たちが監視する中、コーディはスポーツカーで屋敷へ赴いた。すると拳銃を所持した警備員が、厳重に屋敷を守っていた。数名の局員は変装し、邸内にも潜入している。コーディはナタリーにネックレスをプレゼントするが、そこには発信器が取り付けられていた。屋敷にはモーレイがいて、ボートでやって来たブリンクマンをコナーズと共に迎えた。3人が地下のラボへ向かう様子を、コーディは観察していた。
コーディは「様子を見た方がいい」というロニカの助言を聞かず、警備の目をかいくぐってラボの屋根に到達する。彼が通風孔からラボを覗くと、ブリンクマンはコナーズに大量生産させているナノボットの実験を行っていた。そこで初めて、コナーズはエリスが軍事施設にナノボットを仕掛けて戦略兵器を無力化するつもりだと知った。コナーズは反発するが、どうしようもなかった。ブリンクマンたちがラボを去った後、コーディはナノボットのサンプルを盗み出した。
コーディがパーティー会場に戻ると、タチの悪い同級生たちが彼をプールに落とそうとする。コーディがマーシャルアーツで全員を軽く蹴散らすと、客は拍手を送り、ナタリーは興奮した様子を見せる。しかし、それを見ていたブリンクマンとモーレイは、コーディがCIAの諜報部員だと見抜いた。パーティーでの騒ぎが学校新聞の一面を飾り、コーディが目立ちすぎる存在となったため、CIAは彼の正体が露呈したと判断して任務から外すことにした。
ロニカはコーディに、「あと2週間、ドノヴァン校に通いなさい。ただし、ナタリーには絶対に近付かないように」と告げた。コーディは「そんなの無理だよ、信頼を裏切るなんて」と反発するが、「そういう仕事よ」とロニカは静かに告げる。エリスはコナーズを研究所へ連行し、必要な機材を揃える。しかし自分の発明が悪事に使われることをコナーズが拒否しようとするので、ブリンクマンは言うことを聞かせるためにナタリーを利用しようと企んだ。
休日、コーディが自宅にいると、ナタリーが訪ねて来た。外にはCIAの監視がいるので、コーディは急いでナタリーを裏口から連れ出す。コーディはカフェでナタリーとアイスを食べながら、素性を打ち明けようとする。だが、そこへモーレイと手下たちが現れたため、彼はナタリーを連れて逃げ出そうとする。しかしコーディが一味に取り囲まれて格闘している間に、モーレイがナタリーを車に連れ込んで拉致してしまう。コーディは戻って来たモーレイにパンチを浴び、意識を失った。目を覚ました彼に、ロニカは「私たちが彼女を助ける。貴方は学校に行って、友達と遊んで。宿題をやるの。子供なんだから」と告げる…。

監督はハラルド・ズワルト、原案はジェフリー・ジャーゲンセン、脚本はアシュリー・エドワード・ミラー&ザック・ステンツ&スコット・アレクサンダー&ラリー・カラゼウスキー、製作はデヴィッド・C・グラッサー&アンドレアス・クライン&ガイ・オゼアリー&ディラン・セラーズ&デヴィッド・ニックセイ、共同製作はロバート・メイヤー・バーネット、製作協力はヴェスレモイ・ルード・ズワルト&トム・ガルブランドセン、製作総指揮はマドンナ&ジェイソン・アレクサンダー&ジェニファー・バーチフィールド=エイック&ケリー・デヴィッド&ダニー・ゴールド&マイケル・ジャックマン&マーク・モーガン&ボブ・ヤーリ、撮影はデニス・クロッサン、編集はジム・ミラー、美術はラステイー・スミス、衣装はスザンヌ・マッケイブ、音楽はジョン・パウエル、音楽監修はジュリアン・ジョーダン。
出演はフランキー・ムニッズ、ヒラリー・ダフ、アンジー・ハーモン、キース・デヴィッド、シンシア・スティーヴンソン、アーノルド・ヴォスルー、ダニエル・ローバック、イアン・マクシェーン、ダレル・ハモンド、マーティン・ドノヴァン、マーク・シェルトン、ハリー・ヴァン・ゴーカム、コナー・ウィドウズ、エリザ・ノーバリー、ジャスティン・カルヴァリ、ソウル・カルヴァリ、アンディー・トンプソン、アンドリュー・ジョンストン、ベンジャミン・ラトナー、スティーヴン・E・ミラー、ミリアム・スミス、アレクサンドラ・パーヴィス他。


TVシリーズ『マルコム in the Middle』で人気者になったフランキー・ムニッズの主演作。
監督は『ハミルトン』『ジュエルに気をつけろ!』のハラルド・ズワルト。
コーディをフランキー・ムニッズ、ナタリーをヒラリー・ダフ、ロニカをアンジー・ハーモン、CIA長官をキース・デヴィッド、コーディの母をシンシア・スティーヴンソン、モーレイをアーノルド・ヴォスルー、コーディの父をダニエル・ローバック、ブリンクマンをイアン・マクシェーン、アールをダレル・ハモンドが演じている。

どこかで似たような映画を見たことがあるなあと思っていたんだが、『アレックス・ライダー』だった。
実際は内容もテイストも全く違うのだが、どちらも「ティーンズ版の007」を意識しているという共通点がある。全体のプロットは、『アレックス・ライダー』よりも本作品の方が007シリーズに近い。
最初に主人公の活躍を見せて、彼が新しい任務を与えられ、秘密兵器を受け取り、仕事のために美女と親しくなる。でも美女は本気になり、主人公も彼女を守るために行動する。
まんまジェームズ・ボンドだ。
コーディが女に奥手という設定も、あえてジェームズ・ボンドの逆を狙っているんじゃないかな。

冒頭、コーディは目を覚まし、上半身裸のままでマーシャルアーツのポーズを取るが、なんせ壁に『ドラゴンボール』のポスターが貼ってあるぐらいだし、それは「冴えない高校生が強い奴に憧れて型を決めてみました」という風にしか見えない。
デート経験が少ないことでアレックスから馬鹿にされ、母親には出掛ける時のキスを要求される。
朝のモルモット当番を指示され、急いでいるのでアレックスに代わってもらおうとしたら冷たく拒否される。
そうやって、まずは「情けない高校生」の姿をアピールする。

その後、ある母親が赤ん坊を車に残し、手紙を投函するために外へ出る様子が写し出される。
スケボーで学校へ向かうコーディが通り過ぎた後、赤ん坊が勝手に前へ移動してシフトレバーを触ってしまい、車がバックで坂を下って行く。
気付いた母親が必死で追いながら「誰か止めて」と叫び、コーディがスケボーのスピードを上げて車に追い付く。
途中で障害物を避けて車のボンネットに乗り、列車が走って来る線路に突入する寸前で何とか停止させる。

「情けない奴のように見えていた主人公が優れた能力を発揮する」というのは、ものすごくベタな見せ方だが、ここはベタでOKだ。変に捻っても、何の得も無い。
ただし問題は、その活躍内容だ。
人助けをするってのは悪くないんだが、「スケボーで車を追い掛けて停止させる」というアクションは、果たして「実はCIAのエージェントだったのです」という素性へ繋げるのに適切だったのかというと、そこは少し引っ掛かる。
それって、エージェントっぽいアクションではないんだよな。

ひょっとすると、その段階では「スケボーのすげえ上手い奴」程度に見せておこうという狙いがあったのもしれない。実際、その後にはエリスの会議の様子を挟んで、それからコーディの正体が明らかになるという流れだしね。
ただ、その構成自体、どうなのかと思うのよね。
そこは、コーディの活躍を見せたら、すぐに「実はCIAエージェント」というのを明かす形にした方がいいんじゃないかと。
エリスとコナーズの関係を描くのは、その後でも全く問題は無いんだし。

バスケットボール部のロッカーでコーディが同級生からバカにされているところへ、スラッとしていてパリッと決めたロニカが現れ、全員が見とれているとコーディに声を掛けるので「こいつに用?」と同級生が驚いたりする。
コーディが困惑していると、ロニカは暗号で事情を説明する。
それは見せ方としては分かるんだけど、CIAがエージェントのを秘密にしていることから考えると不自然だ。
そんな風に目立ってしまったら、コーディも後から同級生に色々と探りを入れられるだろうし、何かと不都合でしょ。

コーディはナタリーと親しくなるのが任務だと聞かされて困惑するが、改めて任務を受けるかどうか確認されると「僕に任せて」と自信たっぷりに言う。
後で「調子に乗っちゃった」と後悔することもなく、初めての任務にワクワクした様子を見せている。
だけど、任務の内容を知らされた時に困惑したのは、「女に奥手だからナタリーと仲良くなるのは無理っぽい」と考えたからじゃないのか。
だから、そこは「内容を知って断ろうとする」という流れにした方がいいんじゃないのか。

もちろん、コーディが任務を引き受けないと話が終わってしまうので、最終的には引き受ける形に持って行くべきだ。
ただ、自信たっぷり&ノリノリで任務を引き受けるってのは、どうも引っ掛かるんだよなあ。
「断ったけど長官に丸め込まれてしまう」とか、「断ろうとしたけど、美味しい条件を提示されたので引き受けてしまう」とか、そういう形でも良かったんじゃないかと。
ノリノリで引き受けたくせに、「好かれなかったらどうしよう」と転校初日には不安になっているんだし。

緊張しながら登校したコーディは、ナタリーを見て目を奪われる。
ただ、任務の説明を受けた時点で彼女の写真を見ているので、ちょっと違和感があるなあ。なんで写真を見た時には何の反応も無かったのかと。
もちろん「写真と実物は違う」ってこともあるけど、見せ方としては上手くない。
細かいことだけど、例えば「任務を説明された時には、その内容に驚いて写真をちゃんと見ていない」とか(映像としても、観客にはナタリーの写真を見せない)、そういう形にしてもいいだろうし。
で、初めてナタリーを見て一目惚れしてしまう、という流れにでもした方がいいんじゃないかな。

コーディが女に奥手だと知ったCIAは、彼が上手く振る舞えるように教育しようとする。
でも、それは変だ。
だって、別にコーディじゃなくてもいいはずでしょ。
たまたま近くに住んでいたからコーディが選ばれているけど、コーディに女と親しくなるための技術を今から教え込むのと、「離れた場所にいるけど女扱いの上手いティーン・エージェントをナタリーの学校に編入させるのと、どっちの方が楽にやれるのかと考えたら、明らかに後者でしょ。
そこでコーディに固執する必要性は無いぞ。

もちろん主人公はコーディだから、彼が任務を続行する流れにしなきゃいけないのは分かっている。
だから、「どうしてもコーディに任務を続けさせないと仕方のない状況」を作り出すような内容にしておくべきだ。
あるいは、「CIAがコーディを諦めて別のエージェントを使おうと考える」という展開を用意してもいい。
で、「コーディがナタリーを助けて気に入ってもらえたので、やはり彼を使い続けることにする」という流れにすれば問題は無いでしょ。

コーディがCIAの命令に従わず、勝手に本部から道具を盗み出してナタリーの救出に向かうってのは、ストーリーの作り方としては理解できる。コーディがナタリーを助けに行かないと、映画として成立しないからね。
ただ、CIAも「自分たちでナタリーを助ける」と約束しているわけで、コーディが勝手な行動を取ることで、その作戦を妨害することに繋がる可能性だって考えられるので(結果的にはCIAよりコーディの方が先に動いていたけど)、そこは少し引っ掛かる部分がある。
そこを腑に落ちる形にするためには、例えば「CIAはナタリーの救出よりもエリス壊滅作戦を優先しようとする」ということにでもしておけばいい。そうすれば、「コーディがCIAの命令に逆らってナタリーの救出に向かう」ってのも受け入れやすくなる。
で、ロニカだけはCIAの方針に反対していて、だからコーディに協力してやるという形にでもすればいい。それで全てが丸く収まる はずでしょ。

あと、コーディだけがナタリーの居場所をキャッチしているってのは不可解だ。
発信器付きのネックレスを用意したのはCIAなんだから、彼らもナタリーの居場所は突き止めているはずでしょ。
で、居場所は突き止めているはずなので、なぜ行動を起こしていないのかという疑問が生じる。
ナタリーを救うかどうかは別にして、彼女が連行されたのがエリスの施設であることは間違いないんだから。

それと、「最初はロニカがコーディを見下し、自分は調教師だと言っていたが、終盤に入ると彼に協力して行動し、最後は『調教師じゃなくて相棒よ』と告げる」という展開を用意しているのは、そこの筋書きとしては間違っていないんだけど、そもそも2人をパートナーにしていること自体がどうなのかと思っちゃうんだよな。
コーディが劇中で誰よりも絆を深めるのはロニカなので、そこに恋愛劇を作った方がいいんじゃないかと思うのよ。
そうなるとロニカじゃなくて、ここもティーン・エージェントにしちゃった方がいいでしょ。
ぶっちゃけ、ナタリーって明らかにロニカの存在感に負けているし。

(観賞日:2014年6月1日)


第26回スティンカーズ最悪映画賞(2003年)

ノミネート:【ザ・スペンサー・ブレスリン・アワード(子役の最悪な芝居)】部門[フランキー・ムニッズ]

 

*ポンコツ映画愛護協会