『アフターマス』:2017、アメリカ&イギリス

オハイオ州コロンバス。建築現場の監督を務めるローマン・メルニックは、同僚のマットから「もう帰れ。家族が来るだろ」と言われる。「到着は今夜遅くだ」とローマンが口にすると、彼は「渋滞に備えて早く帰れ。娘さんと過ごせ。孫が生まれるんだろ」と話す。帰宅したローマンは準備を整え、妻のオレーナと娘のナディヤを迎えに空港へ向かった。すると2人の乗るAX112便は遅延と出ており、カウンターへ行くよう指示されていた。
ローマンはカウンターへ行き、AX112便の到着時刻についてスタッフに尋ねた。するとローマンは奥の部屋に通され、そこへ空港管理会社から派遣されたイヴ・サンダースという女性がやって来た。彼女はローマンにAT112便が事故に遭ったことを伝え、生存者はいないだろうと述べた。激しいショックを受けたローマンに、イヴは近くのホテルに設置したサポートセンターへ行くよう勧めた。彼女は携帯と職場の電話番号を教え、何かあれば連絡するよう告げた。
航空管制官のジェイク・ボナノスは、妻のクリスティーナと息子のサミュエルの3人で幸せに暮らしていた。空港へ赴いたジェイクは、先に勤務していた同僚のトーマスに声を掛けた。トーマスは「何か買って来る」と言い、席を外した。そこへ電気技師が来て、電話回線のメンテナンスで5分ほど繋がりにくくなることをジェイクに説明した。AX112便が着陸に向けて1万フィートまでの降下許可を要望して、ジェイクは「確認する」と返した。
ジェイクの元へ上司のロバートが来て、「EF135便が着陸だ。悪天候でルートを変更した」と知らせた。ジェイクはピッツバーグ国際空港に連絡を入れようとするが、電話は繋がらなかった。彼はEF135便に、「ピッツバーグに連絡が取れない」と通信を入れる。DH616便が降下するよう警告が出ていることを連絡してくるが、ジェイクは気付かなかった。AX112便はジェイコブの指示を受けて降下し、返答が無いためにDH616便も降下を開始する。ジェイクが気付いた時、2つの便は衝突していた。
ジェイクがロバートから両機の衝突事故を知らされ、生存者はいないだろうと言われて泣き出した。彼は事情聴取を受け、すっかり憔悴した。彼が帰宅しようとすると、調査官のサーブは「今回の件は他言無用です。電話は出ず、外出しないでください」と指示した。テレビで事故のニュースを見たローマンは、墜落現場に赴いた。彼はボランティアを装い、遺留品の回収作業に参加した。ナディヤの遺体を発見した彼は、抱き締めて号泣した。
ジェイクは自宅の壁に「殺人者」「人殺し」という文字を殴り書きされ、彼は部屋に閉じ篭もった。ローマンは妻子の墓の前で何度も眠り込み、その度に管理人から注意された。ジェイクは精神的に追い込まれ、クリスティーナと険悪になる。ローマンは記者のテッサが訪ねて来た時、居留守を使う。テッサはローマンがいると確信し、「事故の本を書くため質問させてください。私の記事を読めば真実を追及していると分かるはず」と記事を置いて去った。
ローマンがテッサの書いた記事を読んでいると、マットがやって来た。彼は「何日も電話に出ないから立ち寄った」と言い、妻の作ったミートボールを差し出した。マットが「いつでも現場に戻って来いよ」と言うと、ローマンは「やり残したことがある。終わらせなくてはいけない」と述べた。ジェイクはクリスティーナから、別居を提案された。「これが私たちとサミュエルにとっての最善策よ。今のままでは、お互いに傷付け合うだけ」と言われ、ジェイクは受け入れた。
ジェイクが航空会社へ行くと多くのマスコミが待ち受けていたため、彼は慌てて建物に逃げ込む。ジェイクはロバートとサーブから、住む場所も名前も変えて新しい生活を始めてはどうかと持ち掛けられた。ジェイクが「この町に妻も息子もいる。引っ越しは考えられない」と言うと、サーブは「家族が安全に暮らすためです」と諭す。ローマンは航空会社の役員と会い、代理人のジェームズとジョンを紹介される。ローマンは犠牲者の会や弁護士を通さずに航空会社を訴えている、唯一の遺族だった。ジェームズたちは多額の賠償金を約束し、訴訟の取り下げを求めた。ローマンは「私は謝罪してもらいたい」と言い、その場を去った。ジェイクはカウンセラーの元へ行き、「散歩したり、誰かと会って話したりしても気分は良くならない。薬を処方してほしい」と頼んだ。
1年後。モニュメントを設置する追悼式典に出席したローマンは、自己で妻と親族を亡くしたアンドリューという男性に声を掛けられた。彼に「私は何をすればいいのか分からない」と相談されたローマンは、「簡単じゃないが、その内に起き上がる理由が見つかる。それまで耐えるんだ」と語った。ジェイクはパット・ディールバートという別名を使い、遠くへ転居して旅行会社での仕事を始めていた。ローマンはテッサを呼び出し、ジェイクを見つけ出してほしいと依頼した。
テッサはジェイクに連絡を取り、「本を書き上げた。何か言い残したことは無い?」と問い掛ける。するとジェイクは、「時々、遺族のことを考える。そして妻と息子のことを考える。死ぬほど怖くなる」と話す。彼は「僕に何が言える?僕は、自分の中にある痛みが消えてほしい」と語り、「伝えてほしい。僕は悪い人間じゃない。そうだろ?」と賛同を求めた。テッサはローマンと会い、ジェイクに関する情報を明かす。ローマンが現在の住所を教えてほしいと頼むと、テッサは迷いながらも教えた…。

監督はエリオット・レスター、脚本はハヴィエル・グヨン、製作はスコット・フランクリン&ランドール・エメット&エリック・ワトソン&ジョージ・ファーラ&ピーター・ディールバート&アーノルド・シュワルツェネッガー&ダーレン・アロノフスキー、製作総指揮はマーティン・リチャード・ブレンコウ&マーク・スチュワート&ハヴィエル・グヨン&アリ・ハンデル&ジヨシュ・スターン&ウェイン・マーク・ゴッドフリー&ロバート・ジョーンズ&テッド・フォックス&スティーヴン・サクストン&ヴァンス・オーウェン&アンソニー・ジャブレ&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ、共同製作はティム・サリヴァン&アンソニー・キャリー、共同製作総指揮はライアン・ブラック、製作協力はアルノー・ラニック&クリストフ・ラニック&マイケル・J・ウラン、撮影はピーテル・フェルメール、美術はアキン・マッケンジー、編集はニコラス・ウェイマン=ハリス、衣装はビク・オーウェン、音楽はマーク・トッド。
出演はアーノルド・シュワルツェネッガー、スクート・マクネイリー、マギー・グレイス、マーティン・ドノヴァン、ジュダ・ネルソン、グレン・モーシャワー、ハンナ・ウェア、モー・マクレー、ラリー・サリヴァン、マリアナ・クラヴェノ、ケヴィン・ゼガーズ、ルイス・プルマン、ジェイソン・マッキューン、クリストファー・ダーガ、テリー・クラーク・リンデン、ダニエル・シェリック、ジェフ・パンザレラ、アーロン・クラッチフィールド、キース・フリッペン、フィリップ・ウィンタース、キットソン・オニール、ベッキー・マイスター、カイル・メリーマン、ジョン・ムーン他。


2002年に起きたユーバーリンゲン空中衝突事故と、それに関連して発生した殺人事件をを基にした作品。
監督は『ブリッツ』『ある殺人者の告白』のエリオット・レスター。
脚本は『インベーダー・ミッション』『複製された男』のハヴィエル・グヨン。
ローマンをアーノルド・シュワルツェネッガー、ジェイクをスクート・マクネイリー、クリスティーナをマギー・グレイス、ロバートをマーティン・ドノヴァン、サミュエルをジュダ・ネルソン、マットをグレン・モーシャワー、テッサをハンナ・ウェア、サーブをモー・マクレー、ジェームズをラリー・サリヴァン、イヴをマリアナ・クラヴェノが演じている。

肉体派のアクション俳優は、当たり前のことではあるが、年をとるにつれて若い頃のような動きが出来なくなる。
そうなったら、出演本数が減っていくことは避けられないし、最悪の場合は実質的なリタイア状態になってしまう。
そうならないためには、例えば助演に回るという方法がある。監督やプロデューサーなど、裏方に回るという手もある。
そして、アクション以外のジャンルに挑戦するというのも1つの選択肢として考えられる。

ただし「アクション以外のジャンルに挑戦する」ってのは、それなりの演技力が求められる。
例えばシルヴェスター・スタローンの場合、『コップランド』で演技派俳優への転向を目指した。
しかし、どうやら「自分には無理」と悟ったらしく、以降はアクション路線へ戻っている。
ただ、彼は監督や脚本の分野でもキャリアを重ねているので、もし体が動かなくなっても、そっちだけで映画人としての活動を続行することは充分に可能だろう。

そんなスタローンと比較すると、アーノルド・シュワルツェネッガーは「裏方に回る」ってのは難しい。
とは言え、彼はスタローンと違い、過去に『ツインズ』や『ジュニア』といったコメディー映画でもヒットを飛ばしている。
なので、もしかすると「年を取ってからでも、演技派への転向は可能」と思ったのかもしれない。
そんなシュワルツェネッガーが路線変更に挑んだ第1弾が2015年の『マギー』であり、それに続く第2弾が本作品だ。

ただし残念ながら、コメディー映画ならともかく、こういうシリアス一辺倒な作品になると、シュワルツェネッガーには荷が重すぎる。
それに、こっちとしても、こういう映画だと「シュワルツェネッガーが怒りのマッチョパワーで大暴れ」ってのを、どうしても期待したくなってしまう部分がある。
そろそろシュワルツェネッガーは年齢的に「バリバリのアクション俳優」としての活躍が厳しいだろうから、路線変更を考えるのは仕方がない部分もあるだろう。
でも、こういうのは厳しいかなと。

シュワルツェネッガーの単独主演というよりも、スクート・マクネイリーとダブル主演のような扱いになっている。
ローマンの動きだけを追い掛けるわけではなく、ジェイクと交互に描かれる。
表面的には「被害者サイド」と「加害者サイド」だが、ジェイクもある種の被害者と言っていいだろう。
彼がDH616便からの通信に気付かなかったことは事実だが、航空管制を1人だけで担当するという違反行為が常習化していたことや、電話回線のメンテナンスが行われていたことなど、他の問題が大きく影響していたのだ。

ローマンもジェイクも、衝突事故をきっかけに心は深く傷付き、生活は一変する。そのまま「それぞれが事故と向き合い、何とか心の闇から抜け出そうとする」という様子を描いて行くのかというと、そうではない。
そもそも、「交互に描く」という入り方をした以上、2人をどこかで対面させる展開は誰もが簡単に予想できるだろう。
それでも、例えば「2人が互いの気持ちを理解して心を整理して」みたいな話にまとめることは可能だ。あるいは、「ローマンが航空会社の責任を追及し、ジェイクが協力する」という話にする手もあるだろう。
しかしモチーフになった実話を知っていれば、そんな筋書きにならないことは分かるだろう。

そろそろ完全ネタバレを書くと、ローマンはジェイクを殺害する。それも、妻子の眼前で殺すのだ。
ローマンはテッサから情報を貰って、ジェイクのアパートへ出向いた。その時、たまたまクリスティーナとサミュエルが来ていた。ローマンは執拗に謝罪を要求し、追い返そうとするジェイクを殺害するのだ。
ここで重要なのは、ローマンはナイフを持参しているってことだ。つまり、一見すると衝動的にも思えるが、明らかに「場合によっては相手を殺す」という強い意志を持って訪問しているってことだ。
この殺人が起きた段階で、ローマンへの同情心は完全に消える。

この殺人が起きる経緯には、テッサの愚かしい行動が大きく関わっている。彼女がジェイクの情報をローマンに教えなければ、そんな悲劇は起きなかったのだ。
幾らローマンが「謝罪の言葉が聞きたい」と言おうとも、ジェイクの現在の名前や住所を教えるのはジャーナリストとして完全に失格だ。ジェイクよりもテッサの方が、よっぽど罪悪感に苦しむべきだろう。
しかしジェイクが殺された後、テッサが罪悪感に苦しむ様子など描かれないし、彼女が糾弾されることも無いのだ。
この映画が何を描きたかったにせよ、そこに「殺人に手を貸す無自覚で醜悪なキャラ」を配置するのは絶対に失敗だ。

それにしても、こんな胸糞の悪い映画、嫌な気持ちしか残らない映画を作って、何を伝えようとしたのか。
これが純然たる娯楽映画なら、テーマやメッセージなんて無くても一向に構わない。でも、そうじゃなくて、明らかに社会派のテイストが強い映画なわけで。
ひょっとすると、復讐の虚しさや無意味さでも訴えたかったのか。頑張って頭を働かせても、それぐらいしかボンクラな私には思い浮かばない。
ただ、仮にそうだとしても、ローマンが復讐の相手を完全に間違えているので、前提条件の時点でボタンの掛け違いがあるのよね。
なので、それで復讐の虚しさや無意味さを訴えられても、「御門違いも甚だしいわ」という感想しか湧かないのよね。

(観賞日:2019年6月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会