『イーオン・フラックス』:2005、アメリカ

2011年、ウイルスによって全人類の99%が死滅した。科学者のトレヴァー・グッドチャイルドが治療法を開発し、生き残った500万人は 地球最後の都市ブレーニャで暮らしている。グッドチャイルド家による治世が400年間に渡って続いていたが、反旗を翻す組織が台頭して いた。2415年、巨大な壁に包囲されたブレーニャでは、人々が突如として疾走する事件が続発していた。しかし政府は、そのような事件は 起きていないと否定している。
反政府組織モニカンの一員であるイーオン・フラックスは、指導者であるハンドラーから政府の中央管理施設を破壊せよという命令を 受ける。ハンドラーは「監視システムは我々の最大の障害だ。目を付けられている限り、モニカンは常にターゲットとなる」と告げた。 イーオンは妹のウナと会い、彼女と夫クローディアスに招かれていた夕食には行けないかもしれないと述べた。ウナは「ビックリさせる ことがある。今晩言うわ。だから無事に戻って来て」と告げた。
任務を遂行したイーオンは、ウナがモニカンの嫌疑で殺されたことを知った。実際には、ウナはモニカンの一員ではなかった。イーオンは ハンドラーに、グッドチャイルド家の末裔であるブレーニャの君主、トレヴァー・グッドチャイルド八世の暗殺を命じられた。ハンドラー は「グッドチャイルドは明日、議会用演説の準備段階に入る。政府ゾーンに入るには防御庭園を越えなければならない。庭園を突破したら 即座に要塞へと向かうこと。地下の進路は複雑だ。進路を腕にインプラントしておいた。それに従え」と説明した。
イーオンは両脚に手を移植したモニカンのシサンドラを伴い、庭園を突破した。彼女はシサンドラと別れ、要塞へ向かう。同じ頃、政府は 閣僚を集めて会議を開いていた。閣僚の一人ジローは、モニカンを暴力で抑え付けようとする強硬な考えに異論を唱える。彼が「我々は 協議すべきだ」と主張すると、トレヴァーの弟オーレンは怒鳴り声で反対した。トレヴァーが静かに去ると、オーレンは後を追った。 トレヴァーは「感情を抑えて協力してもらいたい」とオーレンを諭した。
トレヴァーが「それでテストの結果は?」と尋ねると、オーレンは「全て陰性だ」と答える。「新しい被験者を」というトレヴァーの要求 に、オーレンは「もうテストは諦めたらどうだ」と持ち掛ける。しかしトレヴァーは「人々は、もう救いようの無い状態だ」と告げ 「コントロールできる」と言うオーレンと意見が食い違った。トレヴァーは会議場に入り、一人で演説の準備をする。そこへイーオンが 現れ、近付いて銃口を向ける。トレヴァーは彼女を見ると、驚いた表情で「キャサリン」と口にした。その途端、キャサリンの脳裏に、 経験していないはずの記憶がよぎった。
キャサリンは背後から殴られて昏倒し、牢に収容された。意識を取り戻したイーオンの前に現れたトレヴァーは、「僕のことを知ってる だろう。自分が誰かも。会えて嬉しいよ」と告げた。トレヴァーが去った後、イーオンは簡単に破牢した。オーレンは側近のイナーリに、 「どうなってるんだ」と尋ねる。「イーオンはモニカン最強の戦士でした」というイナーリの説明に、彼は「でも失敗した」と声を荒げる 。オーレンはトレヴァーのスケジュールをモニカン側に流し、殺させようとしていたのだ。
オーレンは「なぜ彼女は殺さなかった?」と疑問を口にするが、イナーリにも答えは分からない。イーオンの画像を見たオーレンは、 「まさか」と顔を引きつらせる。イーオンはトレヴァーの植物園で働くクローディアスの元を訪れ、怒りを示した。するとクローディアス は「トレヴァーのせいじゃないような気がする。彼は僕たちを救おうとしている。イーオンも夢を見るだろ、自分には経験の無い過去の ことを。ウナや僕もだ」と述べた。
クローディアスはイーオンに、「僕はトレヴァーの下で、壁の外側で何がはびこっているのかを調べてる。あの病気を根絶した時、何かが 発生したんだ。僕らは病気だ。それをトレヴーが治そうとしてる」と語った。イーオンは彼に、牢でトレヴァーが密かに飲ませようとした 薬物のことを尋ねる。クローディアスは「メッセージだ。でも内容は飲まないと分からない」と言う。イーオンが薬物を飲むと、そこには トレヴァーからの再訪を促すメッセージが込められていた。
イーオンがトレヴァーの待つ部屋へ行くと、彼は「僕と君は互いを知っている」と言う。イーオンが彼に近付くと、また前回のような映像 が脳裏をよぎり、妙な気持ちになった。トレヴァーが唇を重ねると、イーオンはそれを受け入れ、彼とベッドで肉体関係を持った。 イーオンは地下の隠し階段を発見し、図書室へ足を踏み入れた。そこにあったベルトに触れると、それは体に巻き付いた。ボタンを押すと 、周囲の風景が変化した。たくさんの薬品がある部屋の中で、イーオンは自分そっくりの女が写っている写真を発見した。
またボタンを押すと、イーオンは図書室に戻った。トレヴァーの側近であるフレヤが攻撃して来たので、イーオンは逃走した。閣僚は会議 を開き、トレヴァーを解任すべきだという意見で一致した。オーレンは後継者になることを承諾し、「トレヴァーを、我々を欺いた犯罪者 として扱え」と命じた。イーオンはシサンドラに見つかり、「トレヴァーの暗殺を遂行しろ」と銃を向けられた。イーオンは「出来ない」 と拒絶し、シサンドラを倒して拘束した。
イーオンが飛行船に乗り込むと、そこにいた管理人は「お帰りなさい」と告げて姿を消す。飛行船には、トレヴァーの被験者のデータが 収集されていた。ウナのデータを調べたイーオンは、妹がサーシャ・プリルとしてクローン再生されていることを知った。イーオンは サーシャの住所を調べ、飛行船を後にした。一方、ハンドラーはシサンドラから報告を受け、裏切り者であるイーオンの始末を部下たちに 命じた。イーオンが調べた家へ行くと夫婦が住んでおり、生まれたばかりの赤ん坊がいた。赤ん坊の顔を見たイーオンは、それがウナの 再生した姿だと気付いた。
飛行船を訪れたトレヴァーは管理人と会い、イーオンがウナの情報を調べたことを知らされる。トレヴァーはイーオンの前に現れ、今まで ブレーニャの人々に隠されていた真実を語った。ウイルス撃退のために開発されたワクチンには、生殖不能という副作用があった。そこで トレヴァーはクローン再生技術を生み出し、今では誰かが死ねばDNAを再循環させる。彼とオーレンは、DNAを保管し、クローン技術 を隠蔽するために飛行船を作ったのだ。
管理人は理想的なカップルを見つけ、食品添加物を使って科学的に妊娠を引き起こす。女性が検査にやって来ると、クローンの胎児を移植 する。そうやって、ブレーニャの人々は気付かない内に、クローン再生を繰り返していたのだ。トレヴァーとオーレンは7世代に渡って 自分たちをクローン化し、治療法の研究を引き継いできた。その一方、トレヴァーは今でも不妊治療を研究しており、被験者を集めていた 。ウナも被験者の一人であり、彼女は自然妊娠していた。この400年で初めての自然妊娠だ。しかしオーレンはトレヴァーに嘘をつき、 被験者を全て始末していたのだ…。

監督はカリン・クサマ、キャラクター創作はピーター・チョン、脚本はフィル・ヘイ&マット・マンフレディー、製作はゲイル・アン・ ハード&デヴィッド・ゲイル&ゲイリー・ルチェッシ&グレゴリー・グッドマン&マーサ・グリフィン、製作総指揮はトム・ ローゼンバーグ&ヴァン・トフラー、撮影はスチュアート・ドライバーグ、編集はピーター・ホーネス&プラミー・タッカー&ジェフ・ グーロ、美術はアンドリュー・マッカルパイン、衣装はベアトリス・アルナ・パスツォール、音楽はグレーム・レヴェル。
主演はシャーリーズ・セロン、共演はマートン・ソーカス、ジョニー・リー・ミラー、ソフィー・オコネドー、フランシス・ マクドーマンド、ピート・ポスルスウェイト、アメリア・ワーナー、キャロライン・チケジー、パターソン・ジョセフ、 ニコライ・キンスキー、ヤンツォム・ブラウエン、エイヴィン・オハラ、トーマス・フーバー、ウェイジャン・リウ、マーヴェリック・ クエック、ラルフ・ハーフォース、メーガン・ゲイ、レイナー・ウィル、チャーリー・ビール他。


ピーター・チョンが1995年に製作した同名のTVアニメを基にした作品。
監督は2000年の『ガール・ファイト』に次いで2作目となるカリン・クサマ。
イーオンをシャーリーズ・セロン、トレヴァーをマートン・ソーカス、オーレンをジョニー・リー・ミラー、シサンドラ をソフィー・オコネドー、ハンドラーをフランシス・マクドーマンド、管理人をピート・ポスルスウェイト、ウナをアメリア・ワーナー、 フレヤをキャロライン・チケジー、ジローをパターソン・ジョセフが演じている。
アンクレジットだが、当時はシャーリーズ・セロンと交際中だったスチュアート・タウンゼントがモニカンの一人として出演している。

序盤、イーオンによるモノローグによって、ブレーニャの状況説明を軽く済ませてしまう。
そもそもモノローグで全て処理しようということ自体が雑だと感じるし、しかも、そのモノローグでは全く説明が足りていない。
なぜモニカンが反政府活動を始めたのかが良く分からないし、なぜ失踪事件の続発に気付きながら声を上げようとしない国民が大多数なのかも良く分からない。
政府による国民の統制がどのように行われているのか、その辺りも良く分からない。

未来都市を舞台として用意しているんだけど、そのディティールが粗いのよね。
現実社会をそのまま舞台にしていたり、現代と大差の無いような世界観だったりすれば、それほど詳しい説明は要らないだろう。
大まかな説明だけで、こっちは残りの部分を脳内補完することも出来る。
でも、この映画の舞台は、そうではないはずだ。
だったら、世界観や組織図などがボンヤリしている状態では困る。

イーオンが仲間からのキスによる口移しでカプセルを飲み込むと、それが脳内に入ってハンドラーからの指令を受ける映像に 切り替わる。
他にも、注いだら色が変わる液体が出て来たり、口笛を吹いたら集合して爆弾になる鉄球が出て来たり、色々と個性的なアイテムを登場 させているんだけど、この映画って見た目だけなんだよね。
色んな道具で「映像美」を演出しているけど、見た目のことしか考えていない。たぶん厚みのある設定は用意されていない。
その場その場で視覚的に面白そうなら、それでOKってことのようだ。

もう少しアイテムを減らしてスッキリさせ、個々のディティールを丁寧に描くことを重視した方が良かったんじゃないか。
ビデオゲームのオープニング映像とか、プロモーション・フィルムとかじゃないんだから、「何となく雰囲気だけはイケてる感じ」という ことでは成立しないんだからさ。
あと、様々なアイテムには凝っているくせに、武器だけは何の変哲も無い銃ばかり。
そこも凝ったモノにしようよ。別に銃であっても構わないけど、デザインに凝るとか、発射されるのが普通の弾丸じゃないモノにする とかさ。

「中央管理施設を破壊せよ」と命じられたイーオンが貯水槽のような場所に入ると、天井部分から水滴が落ちて来て、そこにウナと話して いた時の様子が写る。
で、それが消えた後、イーオンが球体を光らせると水面に渦が発生する。イーオンは渦に球体を突っ込んで去る。
それで任務遂行ということらしい。
だけど、イーオンが何をやっているのかサッパリ分からない。どういうシステムなのかもサッパリだし。
何をどうやったらシステム破壊、任務成功なのか分からないんだから、全くテンションが上がらない。

イーオンが中央管理施設へ乗り込む時、警備員の数は、かなり少ない。 次の指令でトレヴァーを暗殺に行く時は、まず防御庭園には警備の人間が誰もいないし、監視カメラも見当たらない。木の実みたいな形の 物が幾つかあって、針が発射される。そこを抜けると、芝生の中から無数の針が飛び出す仕掛けがある。
その2つだけ。
しかも芝生に関しては、そこに入らず石壁の部分を歩けば普通に突破できてしまうというマヌケな仕掛けだ。
防御庭園と銘打っているにしては、かなりショボい。
敵とのバトルをやらせないのなら、もっと色んな仕掛けを用意しないと、まるで盛り上がらないよ。
あと、シサンドラを連れて来た意味って何なのか。

要塞にしても、やっぱり警備は少ないし、監視カメラも見当たらない。侵入者がいるのに、その情報は全く上まで行かない。
っていうか、後でイーオンの画像を解析するシーンがあるってことは、やっぱり監視カメラはあるんじゃねえか。
で、イーオンは会議場に悠々と侵入している。トレヴァーの周囲には、警備の人間が誰もいない。
後になって、オーレンが情報を漏らしていたことは分かるけど、それに他の閣僚は関わっていないのだから、「オーレンが警備を手薄に した」ということではないはず。
警備が手薄なのをイーオンが不審に思うようなことも無いから、普段から杜撰な警備体制ってことなんだろう。

イーオンとトレヴァーの恋愛劇があるのだが、ものすごく邪魔だ。
殺しに行ったのに変な気持ちになって関係を持つとか、バカバカしいだけだ。
後になって「実はトレヴァーの妻キャサリンのクローンがイーオンで、その記憶が残っていた」ということが明らかになるけど、って いうか勘のいい人なら前半の内に何となく分かっていただろうけど、そうだとしても、妹の仇討ちに行ったのにセックスするのは、 やり過ぎでしょ。
ヒロインがアホにしか見えない。
混乱して立ち去るとかなら、分からんでもないけどさ。

肝心のクライマックスで、イーオンよりもシサンドラと仲間たちによるサポートの方が、敵との戦いにおいて遥かに大きく貢献していると いうのはマズいでしょ。
オーレンに追い詰められたイーオンが窮地から脱出する時に何をしたかというと、シサンドラにテレパシー的なモノで「協力して」と お願いすることなんだよな。
シサンドラがいなかったら、イーオンは何の抵抗も出来ずに殺されていた。
協力してもらうのはいいけど、本人の力も使って窮地を脱しようよ。
そこで急にシサンドラが説得に応じるのも、ちと無理があるし。

「ヴィジュアルとアクションだけが売りで中身がスカスカの映画では、肝心のアクションシーンも冴えないことが多い」というのが私の 持論なんだけど、この映画も、それに該当する。
アクションシーンは何度も用意されているが、ちっとも盛り上がらない。
見せ場になるようなアクションシーンは皆無。
テンポも悪いし、役者の動きも鈍いし、カメラワークやカット割りも冴えないし、そこへ向けてのテンションの高まりも無い。

(観賞日:2012年4月24日)


第28回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[シャーリーズ・セロン]
ノミネート:【最悪の助演男優】部門[ジョニー・リー・ミラー]
<*『イーオン・フラックス』『マインドハンター』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会