『アデル/ファラオと復活の秘薬』:2010、フランス&アメリカ
1911年11月4日、深夜1時。フェルディナンド・シュパールは酔っ払った状態で、家に向かって歩いていた。同じ頃、元県知事で外務次官のレイモン・ポワントルノーはショーを見物し、恋人で踊り子のニニに花束を贈った。コンコルド広場で立ち小便しようとしたシュパールは、近くのアパルトマンに住むエスペランデュー教授の部屋から漏れた謎の光を目撃した。エスペランデューは古代エジプトを専門とする物理学者で、ある実験の最中だった。
自然史博物館では翼竜のプテロダクティルスが卵から孵化し、エスペランデューの動きに同調した。プテロダクティルスは博物館から飛び立つが、居眠りしていたパリ市警のアルベール・カポニ警部補は見逃した。プテロダクティルスはパリ上空を飛び、ポワントルノーとニニが乗る車に襲い掛かった。車が制御を失って橋からセーヌ川に転落すると、エスペランデューは焦りを見せた。シュパールは事件を目撃し、激しく驚いた。
植物園で研究助手として働くアンドレイ・ズボロフスキーは、冒険作家のアデル・ブラン=セックに恋をして手紙を書いていた。アデルは編集者から次回作のためにペルーに行くよう命じられたが、それを無視してエジプトを訪れた。彼女は現地ガイドのアジズを伴い、王家の墓に赴いた。そこへ同行させていた現地の男たちが来るとアジズは警戒するが、アデルは全く気にしなかった。彼女は男たちと共に墓へ入り、互いの地図を合わせて隠し扉を発見した。
男たちはアデルに銃を突き付け、自分たちだけで墓の財宝を手に入れようと考える。しかしアデルは全く臆せず、漏れ出した石油に引火する危険を教えた。盗賊はアデルの協力が必要だと気付き、一緒に動くことにした。一行は奥へ進み、莫大な財宝を見つけた盗賊は喜んだ。しかしアデルの目的は財宝ではなく、棺に納められた侍医のミイラだった。財宝に喜んでいた盗賊は仕掛けられていた罠で死亡するが、アデルは平然としていた。
アデルは棺を運び出そうとするが、そこへデュールヴー教授と武装した手下たちがやって来た。「なぜ墓泥棒をする?」と問われたアデルは、「パトモシスはラムセス二世の侍医。古代エジプトで最高の医者よ。彼の知識が必要なの」と話す。「全世界の病人でも治す気か?」とデュールヴーが言うと、彼女は「治すのは妹だけよ」と述べた。「だが彼は死んでいる」とデュールヴーが言うと、アデルは復活させる方法がエスペランデューの著書に書かれていると告げる。デュールヴーはアデルを部屋から連れ出し、部下たちに射殺させようとする。しかしアデルは火を放って逃亡し、棺と共に川へ脱出した。
シュパールは警察署で事情聴取を受け、怪鳥を目撃したと証言する。しかしカポニたちは全く信じず、彼を留置した。翌日、怪鳥の事件が新聞で大々的に報じられるが、アルマン・ファリエール大統領は信じようとしなかった。しかし彼は怪鳥を目撃したため、慌てて内務大臣に電話を掛けて「詳細を報告してくれ」と指示した。内務大臣は警視総監に連絡し、今週中に事件を解決するよう命じた。警視総監はパリ警視庁の本部長に電話を入れ、腕利きの刑事を使って事件に当たるよう指示した。本部長はパリ市警のシュヴァル署長に連絡し、事件の解決を急ぐよう指示した。シュヴァルはカポニに電話を掛け、事件を担当するよう命じた。
翌朝、自然史博物館のメナール教授はプテロダクティルスの卵が割れているのを発見し、アンドレイに「孵化したのだ」と告げる。そこへカポニが来て協力を要請すると、メナールは「白亜紀が専門なので、パリにいるジュラ紀の専門家を紹介する」とエスペランデューの住所を教えた。エスペランデューはプテロダクティルスが部屋に飛来したので、エサの生肉を与えた。カポニと部下たちが訪ねて来たので、彼はプテロダクティルスを隠した。しかしプテロダクティルスが暴れて飛び去ったので、カポニはエスペランデューを逮捕した。
アデルがパトモシスの棺を列車で運んで駅に降り立つと、編集者のフランソワが迎えに来ていた。ペルーの感想を問われたアデルは、適当に誤魔化した。アパルトマンに戻った彼女は家政婦のミランダを帰らせ、寝室にいる妹のアガットを見に行く。アガットは顔色が悪く、声を掛けても全く反応は無かった。アデルは棺の蓋を開け、パトモシスのミイラをアガットに見せた。彼女が玄関のドアを開けると、手紙を置くためアンドレイが来ていた。エスペランデューが死刑になることを新聞で知ったアデルは、すぐに刑務所へ向かった。
アデルは弁護士に化けてエスペランデューと面会し、パトモシスを蘇らせるよう頼む。エスペランデューが「私は翼竜の制御で頭が一杯だ。蘇生法を試したら成功した。ワシが居眠りする度に、あいつは何かを襲う。止めなければ」と話すと、彼女は「まず妹を救ってからね」と言う。アデルは偽物の弁護士だと露呈し、刑務所を追い出された。ハンターのジュスタン・ド・サン=ユベールはフランス政府の依頼を受けてアフリカから戻り、集まったマスコミに「必ずプテロダクティルスを仕留める」と宣言した。
アデルは給仕係に化けて刑務所に潜入し、エスペランデューを脱獄させようとする。しかし偽物だと露呈し、すぐに追い出される。サン=ユベールはエッフェル塔からプテロダクティルスを観察し、落下した糞を分析する。羊の肉が含まれていると気付いた彼は、モンマルトルかヴァンセンヌか植物園で食べたのだと推理する。アデルはシスターに化けて刑務所に潜入するが、偽物だとバレて追い出される。サン=ユベールはモンマルトルへ出向くが、羊は一匹も減っていないと知った。
アデルは看護婦に化けて刑務所に潜入するが、エスペランデューが「疲れてるんだ。出直してくれ」と眠りに入ったので呆れて去る。サン=ユベールはヴァンセンヌへ行き、羊が一匹も減っていないと知る。アデルは看守に化けて刑務所に潜入するが、エスペランデューは処刑のために連行された後だった。アデルは旧知のファリエールを訪ね、エスペランデューの恩赦を頼む。そこへプテロダクティルスが出現したので、アデルはエスペランデューが襲われないよう飛び付いて一緒に倒れ込んだ。すると警備の面々はアデルを大統領の襲撃者だと決め付け、警察署に連行した。
アンドレイは生態を調べて巣を作り、プテロダクティルスをおびき寄せた。釈放されたアデルは帰宅し、アンドレイの手紙を読んだ。彼女はアンドレイと会い、プテロダクティルスの元へ案内してもらう。アデルはプテロダクティルスを手懐け、背中に乗って飛ぶ。彼女は処刑寸前のエスペランデューを連れ去り、アンドレイたちの元へ戻った。彼女は妹を助けるよう要求し、エスペランデューを連れて行こうとする。しかし張り込んでいたサン=ユベールがプテロダクティルスを狙撃し、エスペランデューも出血した。
サン=ユベールは激怒したメナールに詰め寄られ、慌てて逃げ出した。アデルは瀕死のエスペランデューを支え、その場から連れ出そうとする。アンドレイが手伝おうとすると、彼女は「貴方はプテロダクティルスを助けて。翼竜が死ねば博士も死ぬ。一心同体なのよ」と言う。アデルはエスペランデューを車に乗せ、自分の部屋へ連れ帰った。彼女はエスペランデューに聞いて必要な道具を用意し、パトモシスを復活させてもらおうとする。エスペランデューは復活の儀式を執り行うが、翼竜が絶命したので彼も死んでしまう。アデルは落胆するが、既にパトモシスは復活していた…。監督はリュック・ベッソン、原作はジャック・タルディー、脚本はリュック・ベッソン、製作はヴィルジニー・ベッソン=シラ、撮影はティエリー・アルボガスト、美術はユーグ・ティサンディエ、編集はジュリアン・レイ、衣装はオリヴィエ・ベリオー、音楽はエリック・セラ、音楽監修はアレクサンドル・マホー。
出演はルイーズ・ブルゴワン、マチュー・アマルリック、ジル・ルルーシュ、ジャン=ポール・ルーヴ、ジャッキー・ネルセシアン、フィリップ・ナオン、ニコラ・ジロー、ロール・ド・クレルモン、ジェラール・シャイユー、セルジュ・バグダサリアン、クレア・ペロ、フランソワ・シャトット、スタニスラス・デ・ラ・トゥーシェ、ユセフ・ハジディー、モハメッド・アルーシ、ムーサ・マースクリ、モステファ・ゼルグイネ、サイード・モハメッド、グレゴリー・ラゴ、トニオ・デスキャンヴェル、ピエール・コールサン他。
ジャック・タルディーのバンド・デシネを基にした作品。
監督&脚本は『アンジェラ』『アーサーとミニモイの不思議な国』のリュック・ベッソン。
アデルをルイーズ・ブルゴワン、デュールヴーをマチュー・アマルリック、カポニをジル・ルルーシュ、サン=ユベールをジャン=ポール・ルーヴ、エスペランデューをジャッキー・ネルセシアン、メナールをフィリップ・ナオン、アンドレイをニコラ・ジロー、アガットをロール・ド・クレルモン、シュパールをセルジュ・バグダサリアンが演じている。
ジェラール・シャイユーが演じたアルマン・ファリエールは架空のキャラクターではなく、実際にフランス共和国第39代首相と第9代大統領を務めた人物だ。物語はナレーションで進行され、序盤から次々に登場人物が紹介される。
だが、ニニやポワントルノーを詳しく紹介する必要は全く無い。シュパールにしても、ただ「目撃者」ってことだけを示せば充分だ。無駄な情報が作品の魅力になっていればいいけど、ただ余計なだけ。
しかも、ナレーションによる進行は序盤だけで忘れられちゃうし。デュールヴーなんかは、ナレーションによる説明なんて無いし。
あと、デュールヴーに関しては、エジプトくんだりまでアデルを追い掛け、彼女を殺そうとする理由がサッパリ分からない。アデルと同じ財宝を狙っていたわけでもないし、「アデルに棺を運び出されると目的を果たすのに邪魔」というわけでもないし。「エスペランデューの実験でプテロダクティルスが事件を起こす」「シュパールが目撃し、カポニが連絡を受ける」という展開が冒頭で用意されているんだから、そのまま話を進めればいいはずだ。
っていうか、絶対にそうするべきだろう。
ところが、そこから「アンドレイがアデルに惚れて手紙を書いている」ってことでアンドレイを紹介し、アデルがエジプトで棺を運び出そうとするエピソードになっている。
パリの事件から大きく離れて、のっけから話が散らかっている。アデルがミイラを運び出そうとする理由は病気の妹を助けるためだが、「もっと他に方法は幾らでもあるだろ」と言いたくなる。
まずは、世界中で名医と呼ばれるような人にお願いすることを考えるべきじゃないかと。
いきなり「古代エジプトの侍医を運び出して復活させる」という方法を試そうとするってのは、色々と手順を飛ばし過ぎだろと言いたくなる。
「パトモシスしか治せない病気」という強引な設定でもあればともかく、そんなわけでも無さそうだし。アデルは棺をパリに持ち帰っているが、どうやったのか。
エジプトから王家のミイラを持ち出すなんて、少なくとも個人の力じゃ絶対に不可能だろ。船を使うにしろ、飛行機を使うにしろ、どこかで必ず止められるだろ。
あと、物理的に考えても、女性1人の力で列車に運び込んだり、アパルトマンに持ち込んだりするのは難しいだろ。驚異的な怪力の持ち主ってわけでもあるまいに。
何か突拍子も無い方法でもいいから用意しておけばいいものを、そういうトコを無視しちゃうのがリュック・ベッソンなんだよなあ。大統領が内務大臣に電話を掛け、内務大臣が警視総監に電話を掛け、警視総監がパリ警視庁の本部長に電話を掛け、本部長はパリ市警のシュヴァル署長にに電話を掛けるというシーンがある。
同じ行動が連続するのだが、特に意味は無い。
大統領の指示と内務大臣の指示の内容が異なるので、「伝言ゲームで通達内容が大きく変化する」というギャグをやろうとしているのかと思ったら、そうではない。ただ単に「カポニが捜査を命じられる」ってのを示したいだけだ。
でも笑いに結び付ける気が無いのなら、大統領から順番に連絡が行く手順は全く要らないでしょ。「アデルが様々な格好に化けて刑務所に潜入し、すぐにバレて追い出される」というシーンは天丼の笑いを狙っているのだが、まるで笑いに繋がっていない。
まず、アデルは冒険作家のはずなのに、そんなに変装を得意としているってのは何者なのかと言いたくなる。しかも、給仕係の時は特殊メイクで体型まで変えており、「アンタは何者なのか」と。
そんなアデルの天丼と並行してサン=ユベールたちの動きが描かれているが、これはテンポを悪くしているだけ。
アデルの天丼が面白くないってのはひとまず置いておくとして、やるなら彼女の動きに集中して描いた方がいい。しかも、刑務所のエピソードでアデルがエスペランデューを脱獄させるのかと思ったら、「処刑場へ連行されました」ってことで終わる。
なので、ただ外しまくった天丼をやっただけになっている。
その後、アデルがファリエールに恩赦を要請する展開になるので、「だったら最初からそれで良くないか」と言いたくなる。
脱獄を企てた場合、成功しても重罪になるわけで。なので、先に恩赦を要請し、それがダメだったから脱獄を企てるという順番の方がいいんじゃないかと。どれだけ話が進んでも、「プテロダクティルスが孵化して暴れ回る話」と、「アデルがミイラを復活させて妹を救おうとする話」が上手く融合してくれない。
途中でアデルがプテロダクティルスを手懐け、エスペランデューを救出する展開があるが、それで綺麗に結び付いたなんてことは微塵も思わないからね。プテロダクティルスを巡る話か、ミイラを巡る話か、どちらか一方に絞るべきだよ。
この辺りも全て原作通りってことなのか。
だとしても結果として失敗しているんだから、そこは整理すべきだわ。プテロダクティルスがサン=ユベールの銃弾を浴びると、エスペランデューが出血する。銃弾が当たった様子も無いので困惑してしまうが、「一心同体なので、プテロダクティルスが負傷するとエスペランデューも出血する」ってことらしい。
で、アデルはエスペランデューを車に乗せ、その場から連れ出す。病院にでも連れて行くのかと思ったら自宅へ連れ帰り、パトモシスを復活させるよう要求する。
瀕死の状態なのに、エスペランデューを救うことよりもパトモシスを復活させることを優先させるのだ。クズじゃねえか。
幾ら妹を治療したいからって、その身勝手ぶりは酷すぎるだろ。エスペランデューが死ぬとアデルは落胆するが、それは「これで妹を助けられなくなった」ということに対するショックだ。彼の死を悼む気持ちなんて、全く無い。
で、パトモシスが復活するとユーモラスな雰囲気になっちゃうので、「どういうつもりだよ」と言いたくなる。
回想シーンでアガットが植物状態になった原因が描かれるけど、「テニスでアデルが全力のボールを打ち、それを頭部に受けたアガットが転倒し、帽子のピンが脳に突き刺さった」という描写も何となく滑稽なシーンになっちゃってるし。
そしてパトモシスが「自分は医者じゃないけど、侍医はラムセスの近くにいる」と教えるとアデルは浮かれ、すっかりエスペランデューのことなんて忘れてしまう。
キャラの扱いとか話の流れとか、何から何まで計算能力が低すぎるだろ。あとさ、プテロダクティルスを途中で死なせるってのも、どう考えても失敗でしょ。そもそもプテロダクティルスとミイラの両方を上手く捌けていないってのも問題だけど、せめてプテロダクティルスは終盤まで活用すべきでしょ。
活用すべきと言えば、それより気になるのがデュールヴーだわ。こいつは序盤で「アデルの前に立ちはだかるヴィラン」的なポジションで登場したのに、ラストシーンまで登場しないままなのよ。
こいつを使って、クライマックスにアクションシーンでも作りなさいよ。なんでクライマックスらしいクライマックスも無いまま、淡白に終幕へ向かっちゃってんのよ。
デュールブーが何かを企み、アデルがタイタニック号へ乗り込む様子で終わっているので、続編を狙っているのは明らかなのよ。でも、「だから今回のデュールブーは顔見世だけで充分」ってわけではないからね。(観賞日:2021年4月3日)