『エース・ベンチュラ』:1994、アメリカ
マイアミ・ドルフィンズのマスコット、バンドウイルカのスノーフレイクが何者かに誘拐された。スーパー・ボウル開幕が迫る中、マスコットは絶対に必要だ。オーナーのリドルは、管理責任者のメリッサとロジャーにスノーフレイクの早期奪還を指示した。
メリッサとロジャーは、秘書のマーサから聞いたペット探偵エース・ベンチュラに仕事を依頼した。エースは知り合いの刑事エミリオに会い、探りを入れる。ロイス・アインホーン警部補やアグアド刑事は、動物愛護団体の犯行として捜査を開始していた。
エースはハッカーのウッドストックに協力してもらい、大富豪ケンプがイルカを運ぶ装置を購入していたことを知った。エースはメリッサを伴ない、パーティーが行われているケンプの屋敷に潜入する。エースはプールを見つけるが、スノーフレイクはいなかった。
エースはスノーフレイクのいた水槽を調べた際、オレンジ色の琥珀を発見していた。彼は、それが1984年のAFC優勝リングに付いていた宝石だと突き止めた。そんな中、ロジャーが転落死体で発見され、エースは自殺に見せ掛けた他殺だと見抜く。
エースは当時のメンバーの1人、レイ・フィンクルに疑惑の目を向けた。キッカーとして途中入団したフィンクルは、スーパーボウルでフィールド・ゴールをミスし、それが原因でドルフィンズは敗退していた。その直後、フィンクルは解雇されていた。
フィンクルは精神病院に収容された後、逃亡して行方をくらましていた。フィンクルの生家を訪れたエースは、彼がダン・マリーノを恨んでいると知った。フィンクルは、マリーノのホールドが悪かったせいでキックに失敗したと思い込んでいるのだ。一方、マイアミでCMの撮影をしていたマリーノは、何者かによって誘拐されてしまう…。監督はトム・シャドヤック、原案はジャック・バーンスタイン、脚本はジャック・バーンスタイン&トム・シャドヤック&ジム・キャリー、製作はジェームズ・G・ロビンソン、共同製作はピーター・ボガート&ボブ・イズラエル、製作総指揮はゲイリー・バーバー、撮影はジュリオ・マカット、編集はドン・ジマーマン、美術はウィリアム・エリオット、衣装はボビー・リード、音楽はアイラ・ニューボーン。
出演はジム・キャリー、コートニー・コックス、ショーン・ヤング、トーン・ロック、ダン・マリーノ、ノーブル・ウィリンガム、ジョン・カポダイス、レイナー・シェイン、フランク・アドニス、ティニー・ロン、トロイ・エヴァンス、ウド・キアー、デヴィッド・マーグリーズ、ジュディ・クライトン、ビル・ザッカート、アリス・ドラモンド、レベッカ・フェラッティー、マーク・マーゴリス他。
ジム・キャリーが初出演し、トム・シャドヤックが映画初監督を務めた作品。エースをジム・キャリー、メリッサをコートニー・コックス、アインホーンをショーン・ヤング、エミリオをラッパーのトーン・ロック、ケンプをウド・キアーが演じている。また、QBのマリーノやヘッド・コーチのドン・シュラなど、当時のドルフィンズの面々も出演している。
完全ネタバレになるが、ショーン・ヤングが演じるのは男から性転換した女という役。終盤にはエースに散々な目に遭わされ、下着姿にされて辱めを受ける。まあ体当たりの熱演と言えばそうなのかもしれないが、ショーン・ヤングの場合、トラブルメイカーとして敬遠されるようになったので、そういう役もヤケッパチで受けたのかもしれない。一応のストーリーはあるが、ストーリーを語ることに重点は置かれていない。イルカが誘拐され、ロジャーが殺され、ダン・マリーノが誘拐され、と次々に事件が発生するが、事件解決や犯人探しといったミステリーも、そんなに大きな意味は無い。
この映画は、「まずジム・キャリーありき」の作品である。言葉を使ったギャグや、ショートコントのように「ネタ振りがあってオチがある」という流れを使ったギャグもあるが、それらも「そのギャグ自体」より、そこでのジム・キャリーの顔芸に意味がある。何よりもジム・キャリーの顔面変形芸(&クニャクニャした体の動き)を最大限に生かそうという意識が、とても強く表れている。だから、まず彼の芸があって、そのためにストーリーが用意されるという形だ。物語は、ほとんど後付けのような状態と言ってもいい。
例えば後半、エースがキチガイを装って精神病院に潜入するが、それは明らかにジム・キャリーがキチガイを装うという“芸”を見せるために用意された展開である。ただ、キチガイを装っても、あんまり普段と変わらないんじゃないかと思ったりするが。ジム・キャリーは、何か大きな出来事が起きた際のリアクションとしての百面相だけでなく、普通に喋ってもいいような場面でさえ、自分発信で顔面変形芸を披露する。CG要らずのカートゥーン実写版、ジム・キャリーのショーケースとして作られた映画なのだ。
真面目にストーリーを追っていても、ジム・キャリーが物語をブチ壊すような弾けっぷりを見せるので、最初から「ジム・キャリーの芸を見る」という意識でいた方がいい。まあ、彼の強烈にクドい芸は、たぶん生理的に好きになれない人もいるだろうけど。
第15回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低新人賞[ジム・キャリー]
<*『エース・ベンチュラ』『ジム・キャリーはMr.ダマー』『マスク』の3作でのノミネート>