『アビス』:1989、アメリカ

アメリカ原子力潜水艦モンタナ号が156名の乗組員と共に沈没し、連絡は完全に途絶えた。海軍の要請により、深さ2000フィートの海底で生存者を探すという作業に、海底油田採掘基地ディープ・コアで働くバド・ブリックマン達が協力させられることになった。
コフィ大尉が指揮する海軍のメンバー、そしてディープ・コアの設計者でバドの妻でもあるリンジーが海底基地にやって来た。無骨なバドと仕事が命というリンジーはケンカばかりしており、夫婦関係には亀裂が入っていた。
大波によって引き起こされた事故によって、基地は浸水し、機能が低下する。基地の外で修復作業をしていたリンジーは、光を放つ謎の透明生物と遭遇する。全く信じようとしなかったバド達だが、基地内に進入してきた透明生物と出会い、コミュニケーションを取ろうとする。
しかし、コフィ大尉は透明生物を極度に恐れ、核弾頭を使って抹殺しようとする。反対するバドやリンジー達を監禁し、核弾頭を積んだ大型ロボットに乗って出撃しようとするコフィ大尉。脱出したバドは、コフィ大尉を止めようとするのだが…。

監督&脚本はジェームズ・キャメロン、原作はオースン・スコット・カード、製作はゲイル・アン・ハード、撮影はマイケル・サロモン、編集はジョエル・グッドマン、美術はレスリー・デイリー、衣装はデボラ・エヴァートン、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はエド・ハリス、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、マイケル・ビーン、レオ・バーメスター、トッド・グラフ、ジョン・ベッドフォード・ロイド、J・C・クイン、キンバリー・スコット、キャプテン・キッド・ブリューワーJr.、ジョージ・ロバート・クレック、クリストファー・マーフィー、アダム・ネルソン、リチャード・ウォーロック、ジミー・レイ・ウィークス、J・ケネス・キャンベル、ケン・ジェンキンス、クリス・エリオット他。


ジェームズ・キャメロンが監督した深海SF。リアリティにこだわり、妥協を拒否して作り上げた作品。
しかしながら、編集には妥協どころかヤル気を全く感じない。適当にブチブチと切り刻んで繋げたような編集のせいか、この映画は見事にズッコケた。

多くの深海映画とは違い、実際に水中撮影をしているのが大きな売りだろう。
ただし、別に水中撮影をしなくても、同じような映像は作れたと思う。俳優やスタッフに無理をさせてまで、水中撮影にこだわるような必要は感じない。

「未知の生物と遭遇してコミュニケーションを取ろうとする」という映画。そういう映画は数多くあるが、ほとんどが宇宙からの生命体との遭遇だった。で、これは深海バージョン。
ビデオは電池が切れてて使えなかったり、銃には弾丸が込められていなかったり、都合のいい展開が続出する。

命綱のロープがこすれて切れてしまったり、大波のせいで基地が動いたり、海上から落ちてきたクレーンが基地に衝突しそうになったり、クレーンが引っ掛かったケーブルに引きずられて基地が谷底に落ちそうになったり、透明生物と全く無関係の部分でトラブルが続出。

奇妙な生物と出会っても、あんまり怖がったりすることが無いバドやリンジー。自分の顔をモーフィングしたりするんだから、かなり怖いと思うぞ。
とはいえ、コフィ大尉の怖がり方は異常。核弾頭まで使って殺そうとする行動が理解不能。

コフィ大尉、なぜかナイフで自分の腕を傷付けたりする場面がある。つまりコフィ大尉の精神がおかしくなってしまったということなのだが、なぜ精神がヤバくなったのかという理由が分からない。
いきなりキレられても困るよ。

前半はトラブルが続出したり、海軍と労働者の対立関係を描いたりする。後半は狂ったコフィ大尉とバドの対決を描いたり、リンジーが死にかけたり、バドが危険な作業に挑んだりする。
実は透明生物はあんまり関係無かったりする。

結果的に、バドとリンジーはコフィ大尉を死に追いやってしまうわけだけど、謎の生命体を守るために人間を殺すってのはアリなんだろうか。
あと、冒頭で死んだモンタナ号のクルーが完全に「無駄死に」のような気がするのだが。

SFXにはジョン・ブルーノ、デニス・ミューレン、スクリーミング・マッド・ジョージ、ジャン・“メビウス”・ジロー、スティーヴ・ジョンソンなど、数多くの有名どころが関わっている。
そこだけは素晴らしいと言っておこう。

この作品には完全版もあり、そちらでは通常版で抜け落ちた部分が描かれている分、内容や展開に納得がいくものになっているらしい。
しかし、別に完全版を見たいと思わせるほどの作品ではない。先に完全版を見ていれば、印象は違っていたのだろうが。

 

*ポンコツ映画愛護協会