鈍い衝撃を背中に受け、ヘンリーは目覚めた。 途端にひどい頭痛に襲われ、うめき声をあげた。 「つつつ」 顔をしかめながら、瞼を開いてみた。 眼には何も映らない。 周囲には漆黒の闇が広がっている。 絶え間なく左右の耳を打つ、ゴーッという騒音。 ──どこだ、ここは? そう思って身を起こそうとした瞬間、バランスが崩れ、彼を取り巻く流れに危うく飲み込まれそうになった。あわてて伸ばした腕が何かをつかみ、どうにか体勢を立て直すことができた。 ──“流れ”? 暗がりの中に目を透かしてみても、やはり何も見えない。 彼は両足と左手で体を支えると、おそるおそる右手を伸ばしてみた。驚いたことに、 ザザッとさざ波を蹴立てる音と共に、手のひらが弾き飛ばされたではないか。 水流に取り囲まれている! 彼の胸から下は水に浸かっていて、まるで船の舳先のように、背中の方向から流れてくる水の圧力によって、何かに押し付けられていた。 ──何なんだここは。 ──地獄にでも堕ちたのか? ──それともまだ夢を見ているのか? ──どうして何も見えないんだ、眼がイカれちまったのか! 彼が極度のパニックに襲われた、そのとき──。 雲のあいだから月が顔を出した。 舞台は黄色いライトで照らされ、周囲の景色が光の中に燦然と浮かび上がった。 川のど真ん中。 それが彼のいる場所だった。 背後から押し寄せる水流は、彼の背中を洗いながら脇をすり抜け、前方へとうとうと去っていく。 川幅は七、八十メートルほどか。月の光をバックに浮かび上がる左岸には、繁茂する植物が風に揺れているのが見てとれた。 彼が両手で抱きしめていたのは、大振りの樹の幹だった。樹は水の中から垂直にそそり立っている。 彼は右岸を見ようとして、ぎょっと息を飲んだ。彼がつかまっているのと同じような木々が、何本も川の上にグロテスクな格好で突き立っていた。 水の流れに翻弄される木々は、さながら悪魔の使者たちがせせら笑っているようにも見え、彼は思わず身震いした。 「なんだ、ここは……」 うめくように呟きが漏れたが、急流の奏でる轟音にかき消された。 |