エピソード2
再現屋、呪いの館の謎に挑む

【おまけ】




 綾澤美術館の閉館が正式に決まった日から、一週間後。
 館内に所蔵してある数々の美術作品を他の施設に移送すべく、数台の大型トレーラーが朝早くから駐車場に乗り入れてきた。
「テキパキやれよ。ただし高価な美術品が相手だ。慎重の上にも慎重にな」
 リーダーらしき男性が整列した部下たちを前に言うと、部下の一人が、女を扱うようにってんでしょ、とおどけてみせ、全員がドッと笑った。
 まったくくだらないったらありゃしない。こんな連中になど、美術品に触れる資格なんかない。絶対にない。
 トレーラーからキャスター付き運搬車が降ろされる。リーダーがエントランスを解錠し、中に入れと部下に促す。リーダーは外に出ると、ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
 待て。ここは敷地内全面禁煙だ。ちゃんと書いてあるだろ。
 部下がやってきて指示を仰いだ。リーダーはすべて心得ていて、ああしてこうするんだと説明した。いつの間にかリーダーはA館の中に入っている。
 こら、館内で吸うんじゃない。ほらみろ、灰が床に落ちてるじゃないか。しかもここには灰皿なんか置いてないんだぞ。吸った後はどうするつもりだ。
「さあ始めるか」
「はいっ」
 部下たちが運搬用エレベーターへと進む。
 おい、靴の泥を落としてからにしろ。そんな汚いままで乗るな。
「あれ……扉が開きませんね」
「おかしいな。元電源はオンにしたのか?」
「はい、ちゃんと」
 部下がボタンをしきりに押している。それでも扉はウンともスンとも言わない。
「しょうがない。階段で行こう」
「了解」
 一同は廊下を戻り、階段に足を掛けた。
 うげげっ。泥を落とせというのに、こいつらときたら。
 もう我慢の限界だ。
 思い知るがいい!
「……リーダー、あれは何の音でしょう?」
「ん?」
 ゴロゴロゴロゴロゴロ。
 階段を昇りきった彼らの前に、丸い物が迫ってきた。
「何だ? こっちに来るぞ」
「前に映画でよく似たシーンがありました」
「バ、バカッ、逃げろ!」
 彼らは一斉に逃げ出した。しかしそこは階段の上、全員足を踏みはずして、コロコロと回転しながら落ちていく。
 同時に、転がってきた木製の『木星』も、逃げる作業員たちの後を慕うように追って、階段を転げ落ちていった。
《再現屋、呪いの館の謎に挑む 完》