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-204- 第14章 リアル集結 II (14) |
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五十嵐の左足がスッと後ろに伸び、背後から彼を捕えた迷彩服の足を横に払った。 「うぉっ?」 老人だと見くびっていたのだ。迷彩服はバランスを崩し、背中から地面に倒れた。同時に、狙って振り下ろされた五十嵐の肘攻撃を受け、たまらず腕を離した。 自由になった五十嵐は、地面に落ちたサーベルをつかむと、信太の顔を踏みつけている足を薙ぎ払った。 「ぐぁっ!」 斬られた迷彩服は、足首から血──すぐに砂に変わった──を吹き出しながら倒れていった。 「やはり妖怪であったな!」 五十嵐は異様な光を宿した目で、次の獲物を睨んだ。 「抵抗するか!」 残りの迷彩服は銃を構え直したが、五十嵐は老人とは思えない動きで彼らの間を駆け抜けた。 「ん!?」 「ぐはっ!」 彼らには何が起きたのか判らなかっただろう。ある者は胴を深く、ある者は頸動脈を斬られ、噴水のように砂を撒き散らした。 地面に這いつくばっていた信太が顔を上げた時、彼のまわりには、中身のない迷彩服が脱ぎ散らしたように落ちているだけだった。 「──閣下?」 信太は五十嵐を見た。 大将の目は、透き通るような青い色をしていた。 (また、狐憑きだ!) 信太はブルッと怖気をふるった。彼は幾度かそんなトランス状態の五十嵐を目撃していた。いつも人を斬った時だった。斬ったからそうなるのか、そうなるから斬ったのかは判らない。判っているのは、こうなると五十嵐は手に負えないということぐらいだ。話も通じないし、暴走を抑えることもできない。ただ、憑き物が落ちてくれるのを、ひたすら待つしかないのだ。 「あのおじいちゃんや! わたし知ってる!」 萠黄の声に、窓辺に集まったリアルたちは我に返った。 「誰なんです」 柊が訊ねる。 「大将と呼ばれてる人。刀で十人以上の人を斬った人」 齋藤が顔をしかめた。 「凶悪犯罪者かいな。なんでそんな物騒な人間が?」 「萠黄さん。あなたがおっしゃっていた将軍というのは、もしや?」 萠黄は柊を見上げて頷いた。 「あの人です」 エネ研正面のドアがスライドし、新たな迷彩服たちが出てきた。彼らは迫ってくる五十嵐の服装にぎょっとしたようだが、すぐに銃を抜くと迷わず撃った。 五十嵐のサーベルが一閃する。銃弾は縦に斬られて地面に突き刺さった。 迷彩服たちはあわてふためいた。しかしその中にいたシュウが前に出てくると、別の銃を構えた。 パンッ。 弾はやはりサーベルの餌食になったが、空中に煙が広がった。五十嵐がそれをひと吸いした途端、足をよろめかせて地面に膝をつくと、前のめりに倒れた。 催眠ガスだった。 「どうなった?」 齋藤が問うと、炎は、 『ガスのようなものにやられました。今、エネ研とは別の建物に担ぎ込まれていきます』 炎は目となるカメラのズームを最大にして、事の成り行きを部屋の仲間に伝えていた。 「老人とは思えない俊敏さでしたね」 柊が感嘆の声を漏らす。 「わたし、おじいちゃんの様子を見せてもらえるよう、頼んでみるわ」萠黄は窓を離れた。「おじいちゃんは、招待状を出したわたしらに会いに来てくれたんやから」 「行きましょう。わたしも気になります」柊もドアに向かう。「五人も砂にしたのですから、無事では済みますまい」 「わしも行くよ。年寄りは年寄り同士が一番だ」 ビッグジョーク齋藤がどっこいしょと腰を上げた。 |
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