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-198- 第14章 リアル集結 II (8) |
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(クソッ、なんてふざけた世界だ!) トニーは自慢の金髪を風に揺らしながら、小走りでキャンパスを横切ろうとしていた。 (あんな小娘が空を飛んだり、車を足で破壊したり。まるでファンタジー映画じゃないか!) この男は萠黄を見張る任務を怠ったということで、その役を解かれた。彼女はいきなり窓から飛び出したのだと言い訳しても、副長は聞く耳を持たなかった。 「それなら、小娘が窓枠に掛けた足を撃ち抜くべきだったな。……利根崎、幸運だよ、お前。ここに真崎隊長代理がいたら、お前、撃たれていたかもしれんぞ」 利根崎というのが彼の本名である。彼が空を飛んだ萠黄を追って、正門にやってきた時、すでに戦闘は終わっていた。しかし彼は大きなショックを受けた。とても人力でやったとは思えない車の変わり果てた姿に。 (リアルは、もはや俺たちリアルキラーズの予想をはるかに超えた存在になりつつある。巨大な脅威になりつつある。俺たちは転送装置の完成など待たず、早いとこあいつらを始末すべきなんじゃないのか? さもないと今に殺すこともできなくなるぞ。いやもうすでにできないかもしれない) 利根崎の背筋にぞくりと悪寒が走った。 と、その時。 「どけーーーっ!」 大きな声がビリビリと空気を震わせた。 利根崎が地面に落ちる影に気づいた時は、すでに遅かった。 「うわっ!」 人が空から降ってきたのだ。利根崎は地面に転がり避けるだけでせいいっぱいだった。 ドドーンンンッ。 地響きと共に、砂煙が渦を巻いて舞い上がった。 利根崎は自分の身体が宙に浮くのを感じたが、砂埃が激しく、目を開けられなかった。そして、上下が目まぐるしく変わったかと思った時、いきなり水面が顔を打ち、冷たい水が全身を包んだ。 「ペッペッ。たまらんな」 口に入った砂を吐き捨てながら、齋藤は手をついて地面の上にむっくりと起き上がった。彼を背負ってきた小田切ハジメは、すぐそばで仰向けになって倒れている。 「おいハジメ、どうもないか?」 訊ねるとそれに呼応するように、ハジメは顔に渋面を作ってみせ、両手で膝をかかえた。 「イッターッ! やっぱ、無理だったか!」 齋藤は這うようにして近寄ると、その手でハジメの脚をつかんだ。 「バカ、ジジイ、痛いって言ってるだろ!」 齋藤は構わず、脚をコキコキと動かす。そして、 「骨折はしとらんようやな。まったく無茶しおって」 「だって壁が高いんだし、あれぐらい飛ばないと越えられないだろ」 「飛び過ぎや。だいたいハナっから表の門をくぐらせてもろたらええんや。それをカッコつけてからに」 「オイラは脱走犯だぜ。正面からコンニチワなんつったら、誰にも会わないうちに刑務所へ逆送致だ」 「──あのお」 突然、女性の声が割って入った。ふたりはそちらを見た。 「どちら様でしょうか?」 萠黄だった。 齋藤とハジメは互いに顔を見合わせた。 「敵やないみたいやな」 言うと、齋藤は改めて萠黄を見上げ、微笑んだ。 「わしらはご招待を受けて、参った者ですわ」 「ひょっとして……リアルのかた?」 齋藤は「ほう」とつぶやき、膝の砂を払い落としながら、ゆっくりと立ち上がった。 「我々はいきなりメイン会場の受付の前に降り立ったわけですかな、娘さん。──いかにも、我々はリアル向けの招待状を受け取った者です」 萠黄はうれしさを満面にたたえて、ふたりにお辞儀した。 「ようこそいらっしゃいました。私は光嶋萠黄、リアルです」 「なんと、こんなに早くお仲間に会えるとは! ハジメの蛮勇もあながち無駄ではなかったようだ」 齋藤は振り向いたが、ハジメはまだ痛そうに膝をさすっている。 「萠黄さんとやら。わしはビッグジョーク齋藤と申す」 「ビッグジョーク齋藤さん?」 「そしてこ奴は、小田切ハジメ。ハジメは元気の元と書きます」 「お孫さんがリアルなんですか?」 齋藤は「ん?」と言葉を詰まらせたが、やがて、だははははと豪快に笑った。 「こ奴は孫やない。道中たまたまいっしょになっただけですわ。そんでもって──」 齋藤は胸を張った。 「こ奴も、わしも、リアルや」 萠黄は目を丸くして、老人と若者を交互に見比べた。 噴水の水の中から顔を上げた利根崎は、萠黄が見つけると、激しい怒りで顔を真っ赤にした。 (コイツがいる限り、世界は救われない!) 利根崎は腰からピストルを抜くと、照準を合わせるのももどかしく、萠黄に対して引き金を引いた。 |
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