Jamais Vu
-48-

真相
(18)

「……彼らは警察や自衛隊とは別の組織です。 
 ……自分がヴァーチャルであると知った人間は、たいていは深い絶望に陥ります。下手な怪我を負うと砂になってしまうし、クローンのような存在ですし、生きている意義は、いずれ訪れる大爆発において火薬としての役割を果たすため──。現に政府の中でも、数人の閣僚が即日、辞職願を提出したそうです。
 ……それゆえ、事情を知った上で的確な判断と行動ができる人間が、特殊部隊として選ばれたといいます。過去や前歴、前科を問わずに。
 ……彼らは手始めに、発見第一号のリアル、ハモリ氏を自殺に見せかけて葬りました」
「ええっ!」
 萠黄は思わず大声を上げた。
「……テレビであれだけ大々的に告白すれば、殺してくれと言ってるようなものですからね。
 ……ただ気に入らないのは、首を吊ったハモリ氏が発見される直前、一般人らしい二人組が逃げるのを見たという目撃情報です。まさか兄がハモリ氏を逃がそうとしたとは思えませんが──。
 ……いずれにせよ、一人目のリアルを消した連中は、勢いに乗って、他のリアル探しに全力を注ぎました」
「他のって、リアルは何人いるの?」とむん。
「……十二名です」
「十二名! そんなに?」
「……はい。兄のメールによれば」
「どうしてそんなに必要なの? それにどうやって選び出したの? 萠黄は気づいてなかったのに」
「……兄はどこか秘密の場所に、本格的な転送装置を設けたようです。ブラックホール生成装置ともども、大がかりなものですから、秘密の支援者がいるのでしょう。
 ……そしてリアルの選出にはコンピュータによる無作為の選別が行われたそうです。その時点で最も高い生体エネルギーの持ち主を、遠隔操作で鏡像宇宙に連れ込んだのです。ハモリ氏や萠黄さんが選ばれたのはまったくの偶然なのですよ。
 ……十二名ものリアルが必要な理由ですが、それは爆発させるのに一番効率的な構造だからです。
 ……萠黄さん、正多面体って知ってますか?」
 いきなり指名された萠黄は、ごくんと唾を飲み込む。
「え、ええ、──『すべての面が合同な正多角形からなり、どの頂点に集まる面の数も同じである立体』……」
「よくスラスラと出てくるなあ」
 揣摩が感嘆し、萠黄はまた俯く。
「……それでは揣摩さん、正多面体はいくつあるか判りますか?」
「そんなもの──ええっと、サイコロみたいな箱はすべて正方形でできてるから、そうなんだろう? サッカーボールもそうなんじゃないか」
「……正六面体は正解ですが、サッカーボールは正五角形と正六角形の集まりなので、準正多面体になります」
「クイズなんかどうでもいいよ。その正ナントカがどうしたっていうんだ?」
「……この世に正多面体は五種類しかありません。
 ……正四面体は、正三角形が四枚で頂点が四。
 ……正六面体は、正方形が六枚で頂点が八。
 ……正八面体は、正三角形が八枚で頂点が六。
 ……正十二面体は、正五角形が十二枚で頂点が二十。
 ……正二十面体は、正三角形が二十枚で頂点が十二」
「はあ」
「……複数のリアルを正多面体の頂点の位置に配置すると、互いの相乗効果でエネルギーを最大限に引き出すことができるのだそうです。兄は、正二十面体の構造を採用したと見ていいでしょう
 ……どうして正二十面体を採用したのか? この点は理解に苦しみます。なぜならたったひとりの子供でも北海道を消せたのですから、日本列島程度なら、四人でも十分でしょう。だいいち一カ所に集めるのが大変です」
 恐ろしいことを、淡々と口にする。
「じゃあ、十二人だと、どれくらいの規模になるの? アジア全体が吹っ飛んでしまうんじゃないの?」
「……甘いですよ。種の人数が増えるごとに、効果は等比級数的に増大します。計算したところによると、十二名の場合──」
 萠黄は、背中に幾筋もの汗が落ちるのを感じた。



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