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-14- 敵と味方 I (3) |
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テレビは、今夜は予定を変更して追悼番組をお送りしますと言い、さまざまな芸能人や著名人から届いたコメントを紹介し始めた。 「あらあら冗談やなかったんやねえ。あんな人でもストレスとか悩みとか抱えてはるんかしら。お金も儲けてはるし、何不自由ない暮らししてると思てたんやけどねえ。そいでも生放送中に暴れたりしたらあかんわ、亡くなったんは気の毒やけど、天狗になってはったんと違う?」 母・景子はしたり顔で論評した。すると萠黄はソファの背をバンと叩くと、 「うっさい!」 と一声叫び、大きな足音をたてながら自分の部屋に駆けていった。バタンと扉が閉まる。 「まぁなに? あの子ったら、びっくりするやない」 景子が廊下の方をにらむと、むんが寄ってきた。 「萠黄、ハモリさんのファンだったんですよ」 「へえそう、知らんかったわ。まあわたしはあの子と違って昼間働いてるから、テレビ観る時間もないしね。あの子もあの子やわ、大学休んでばーっかりして。暇あるんやったらバイトでもすればいいのに。自律神経がどうとか、甘えてるわ、なまけ癖よ。まったく誰に似たんだか」 「萠黄のお母さん──」むんが景子の手許を指さす。 「むんちゃんはいっつも庇ってくれてるみたいやけど、え? なに、アララララ」 興奮していたせいで、注いでいたコーヒーがカップから溢れていることに気づかなかった。 「も〜も〜、わたしとしたことが」 「萠黄の分、お部屋まで持っていってあげてもいいですか?」 「そうね、お願いするわ。まったくあの子ったら自分から動こうともしないんやから……ってあなたに愚痴ってもしょうがないわね」 「いえ──それじゃ」 むんは、盆にカップ2つとプチシュークリームを乗せ、ゆっくりとした足取りで萠黄の部屋に向かった。 それを見送りながら景子はため息をついた。むんちゃんはいい子よ。器量はいいし、すらりとしてるし。モデルさんでもやってけるんやないかな。ご両親と可愛い弟さんが消えてしまっても全然暗くないものねえ。爪の垢でも煎じて萠黄に飲ませてやりたいよ。もっともむんちゃんの爪には垢なんかないだろうけど──。 テレビが別のニュースを報じ始めた。 「今日は救急車が走っているのをよく見かけます。当局の発表によりますと、なぜか今日は朝から救急車の出動回数が多く、どこも足りない状況だそうです。この現象は全国的なもので──」 あらあら物騒ねえ。日が悪いのかしら。あとで新聞の星占いのページ、見なくちゃ。 「萠黄、コーヒーできたよ」 トントンとノックすると、中からうめくような返事が返ってきた。むんは盆をひっくり返さないよう、ゆっくりと扉を開けた。 「ほら、萠黄の好きなプチシュー」 「どうせスーパーの特売よ」 「おいしかったらええやん」言いつつ部屋に入り、勉強机の上に盆を置いた。萠黄はパソコンでニュース検索をしていたらしい。 「ハモさん関係?」 「うん……あ、そうや、頼まれてたん、できてるよ」 「えっ、もう? 早いなあ」 萠黄はパソコン画面に広げていたニュース・ウインドウを脇へやると、別のソフトを起動した。 「おかげでバイトの行き帰りが退屈せえへんわあ」 「お誉めの言葉、ありがとうございます」 萠黄はうれしそうに微笑んだ。機嫌の直りそうな気配に、むんはホッと胸をなでおろす。 「今度はねぇ、リスが二匹よ」 「ええ!」むんは心の底から驚いた。「そんなことできるん?」 「ハイハイお客様、携帯をお出しください」 言われるまま、むんは自分の携帯をバッグから取り出すと萠黄に手渡した。萠黄はそれをパソコンから延びたケーブルに接続し、マウスを動かした。“逆”なので大変そうだ。画面に表示されたいくつかのメニューを選んで、ENTERをクリックすると《転送中》という表示が10秒ほどつづき、ポーンという音と共に《完了》の表示が出た。 ケーブルからはずされた携帯を受け取り、おそるおそる開いてみる。するとホログラフィック液晶画面から浮かび上がったアニメ調のリスの立体映像が……一匹。 「あれ、もう一匹は?」 するとその声を聞きつけたかのように、二匹目が前のリスの陰から、ひょこっと顔をのぞかせた。 「うわーーーっ、カワイイ!」 二匹のリスは耳の形と身体の模様で見分けられるようになっていた。どちらも甲乙つけがたい可愛らしさで、立体映像特有の半透明の姿を空中で震わせていた。 |
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