− 第177回(最終回)
終章 7
 雪はやんだ。
 仲間たちは起き出し、旅立ちの準備を始めた。
 と言っても荷物なんかない。裸一貫だ。
 タケルは去っていった。
 ボクの体は再びボクだけのものになった。
 精霊に頼まれて、タケルに貸していたこの体。
 タケルには時々アドバイスを送ったりしたけど、君はボクの存在に気づいてなかったようだね。
 タケルは未来の人間だという。ボクには正確に理解できなかった。それでも君の活躍には目を見張った。君のおかげでボクたち一族は救われたし、敵の一族まで助けてしまったんだから大したものだ。常に君の後ろにいて、いろんなことを学ばせてもらったよ。ありがとう。
 眼の前に置かれた“黄金塊”。
 タケルが住んでいた土地の形に似てるらしいね。でもボクの眼には違って見えたよ。何だと思う?君の記憶の隅に残っていた世界地図、その中で君がアフリカと呼んでいた大地の形さ。ちょっと斜めにすればそっくりなんだよ。
 もう君に会うことはないんだね。さみしいな。
 ボクはいずれリーダーになる。そのとき君から学んだことを元に、みんなを幸せにしたい。
 君が猿人サユリと呼んだ男は、同じ毛色をした仲間たちと、昔いた南の土地に行くと言って去っていった。彼らとはまた会えるだろうか……。
 ボクたちは北に進む。ボクの頭に残る君の記憶によれば、北のほうに木の実のなる樹木がいっぱいあるらしいね。そこに行ってみるつもりだ。
 姉もいる。君が“大男さん”と呼んだ頼れる右腕もいる。家族もいる。傷ついた父を支えてみんなでがんばるよ。
 ああ……。
 少しずつ頭の中から君の言葉が消えていくよ。
 ボクの頭脳は君のものほど働かないんだ。
 やがて君の顔も忘れてしまうだろう。
 でも君の与えてくれた知恵は忘れない。
 二足歩行、もっと練習してうまくなるよ。
 仲間たちにも特訓させてね。
“黄金塊”も忘れず持って行くから。
 ……雲が切れた。
 いい天気になりそうだ。
 さあ。
 新天地に、一歩を踏み出そう。

きっかけの一歩 完
トップ  前回→