モンマルトルの画家たち 9月7日(水)


 いい加減にしろ!
 私の怒りは頂点に達した。
 隣りの部屋の奴らだろうか、ドスンバタンとやたらにヤカマシイ。まだ真夜中だぞ。
 しかも私の部屋のドアのノブをガチャガチャと回したりで、さんざんな夜だった。
 午前8時に起床。
 同じ階にある共同トイレを使おうとしたらドアのノブが取れてる。
 昨夜のヤツラの仕業じゃないだろうな。
 あきらめて朝食を取りに行こうとエレベーターに乗ろうとすると、動かない。
 あぁもぉ朝から頭に来る!!!
 素直に階段を降りて朝食ルームへ。
 今日はさほどコーヒーをこぼさずに済んだ。
 というのは、ポットいっぱいに入れて出されるので、こぼさずにカップへ入れるのが難しいのだ。
 砂糖の包みを幾つかもらっていこうと手を出しかけたが、廻りのテーブルに女の子の集団がやってきたのでやめて素直に部屋に戻った。

モンマルトルからの風景  フロントで「もう一泊する」と言って70Fを支払った。
 えぇい、チップ込みじゃあと思っていたのだが、なぜか10Fのお釣りが戻ってきた。宿泊料は66Fだろうに。フランス人はよくわからん。
 私は主人に郵便局(フランス語でビューロー・ド・ポストゥというらしい)の場所をたずね、教えられた場所まで歩いて行き、ポストに絵はがきを放り込んだ。
 その足で通りを昇って行くとモンマルトルの墓地が両側の塀の下に見おろす場所に出た。
 目的の場所に行くのはこの道ではないらしい。もと来た道を下った私はムーラン・ルージュMOULIN ROUGEと真っ赤なネオン(昼だから電気はついていない)のある風車の前を通りすぎた。
 そのムーラン・ルージュの右隣りに『ハンバーガー・レストラン“Quick”』があるのを私は見落とさなかった。チェックしておこう。
 レピック通りRue Lepicを昇って行くと、歩道まで商品を溢れさせた八百屋や果物屋をあちこちに見ることができた。
 パリの下町といった風情だ。
 この辺りはパリの北に当たり、モンマルトルの丘もあるように、市内を見おろせるほど高度の高い場所なのだ。
 そして目的地のテルトル広場Place du Tertreに到着した。
 狭い広場だが世界的にも広く知られた場所だ。
 まだ午前10時だというのに既にこの広場には沢山の画家が集まっていた。
 この絵描きさん達はここでパリを描く様を見せ、完成した絵を即売している。
 ほとんどが若者で、中には日本人もいる。
 彼らの描く絵はパリのいろんな場所を題材にしている。
 でもこの広場からはそれらを眺めることはできないのに、よく描けるものだ。
 30分ほどブラついていると、日本人の団体さんがやってきて狭い広場は人で一杯になった。
 画家の中には観光客の顔を描いて金にしようという考えの者もいる。
 私にもしつこく声を掛けてきたが先を急ぐのでとりあえず断わった。
 そんなに私の顔は創作意欲を沸き立たせるのだろうか?

パリ風景  ホテルに戻ってフロントで勝手に部屋の鍵を取り、トイレへ行っただけで再び出かけた。
 メトロに乗ってシャルル・ドゴール・エトワールCharles de Gaulle Etoile駅へ。
 地上に出ると目の前に凱旋門
 ここへ来るまで知らなかったのだが、凱旋門には登ることができるのだ。
 もちろん見学料を取られるのだが。
 私は11Fを払って凱旋門正面の右側の柱の後方にある入口から中に入った(『地〜』には9Fと書かれてあったが値上げしたんだろうか?)。
 階段は螺旋状に上昇していく。
 段数は269段(ちゃんと数えたのだ)。
 屋上の手前に小さな展示室があり、凱旋門の歴史に関する資料が展示されていた。
 昔の写真、建築前の設計図、ビデオの上映、お土産の販売など、凱旋門に関してその形しか知識のない私のような人間には珍しいものばかりだった。
 ようやくのことで屋上へ出た。
 さすがに高い。
 ブローニュの森、エッフェル塔、サクレクールなどが広がるパリの街並みの中で一際目立っていた。
 この凱旋門から12の方向に道路が伸びている。
 凱旋門の立つ広場がエトワール(星)広場と呼ばれるゆえんである。
 中でも一番広いのはシャンゼリゼ通りだ。
 両方向併せて10車線である。
 歩行者にとって、この広い通りを信号に構わず走り渡るのが一つの楽しみとなっている。
 かくいう私もやったのだった。

 エッフェル塔Tour Eiffelまでは歩いてさほどの距離ではなかった。
 万国博が開催された当時のできたばかりの塔の評判は芳しくなかったそうだ。
 当時は最先端の素材であったろう鉄でできたこの塔は、いま見ても決して美しいとは言い難いように思える。
 まぁ造ったものの勝ちと言ったところだろうか。
 ちなみにエッフェルとは塔の設計者の名前だ。
 塔の下では黒人達が羽ばたく飛行機を土産物として売っていた。
 エレベーターに乗ると2階(2 etage)まではすぐだが20Fも取られるというので階段を歩いて登ることにした。それでも7F取られた。
 階段といっても周囲が丸見えのオープンなもので、こわごわ登り降りしている人がほとんどだった。
 残念ながら今日は3階は閉められていた。上空の風が強かったのだろうか。
 1階のビュッフェで昼食を食べた。
 サンドイッチを頼むと言ったのに丸いパンが出てきた。
 ここではコーラなどの通常のドリンクはなし。
 ビールか水だという。とんでもないなぁ。こんな高所で酔わせてどうしようと言うのだ。
 2階に上がるとパリの街も、セーヌを走る遊覧船もすべてよく見える。
 時計を見ると、ワッ、もう2時だ。
 今日のスケジュールはハードなのだ。私は急いで塔を降りた。
 地上の土産物屋で友人のために灰皿と絵はがき数枚を買い、先を急いだ。

 足の疲れを癒すためしばらくエッフェル塔の前に広がるシャン・ド・マルス公園Parc du Champ de Marsに座って休んでいたが、とにかく時間がないので、すぐにセーヌを左に見ながら歩き始めた。
 しかしここからシテ島までの道のりは長かった。
 メトロを利用するべき距離だったが、この辺りの路線はスリが多発するところで有名なので怖かったというのが正直な話だ。
 それにしてもよく歩いたものだ。
 私の横を車がビュンビュン走るので空気が非常に悪い。
 ようやくシテ島La Citeが見えてきた。
 シテ島というよりノートルダム寺院Cathedrale Notre-Dame(ノートルダムとは“聖母マリア”という意味)のある中州と言った方が分かりやすいだろう。
 川のほとりでは古書販売の露店が軒を並べていて、パリの風情の演出に一役買っていた。
 寺院の前にある広場では楽団が演奏していた。
 私は寺院に入場したくはあったが、その時間がないと分かるとそれを断念した。
 とりあえず寺院のファサードに並ぶ僧達の彫刻の中に、切られた首を手に持つ僧がいると聞いていたので探し、左側の門の側にいることを発見して、満足して寺院の前を通り過ぎて行った。

ポンピドーセンター  今日の最終目的地であるポンピドー文化センターCentre Nation D'art et de Culture G.Pompidouが見えた。
 噂通りの奇抜な建物だ。
 まだ建築中のようにカラフルなパイプがやたらと交錯しているが、これで完成品なのだ。
 よくもこんな変な建物をパリっ子達は許したものだ。
 エッフェル塔どころじゃないぞ。
 センターの前の広場では大道芸人やら物売りやらで賑わっていた。
 ギターを持って数人でビートルズを歌っている者や、寝ころんだ男の上にひっくり返したケンザンを乗せて、そのまた上に2, 3人の人間を乗せるという際どい芸を披露している者やらいろいろ。
 私は入口をくぐった。
 ここは入場無料らしい。
 建物の外側に張り付いたエスカレーターで各階を回った。3階、4階には現代芸術と呼ばれる前衛芸術の作品群が展示・陳列されていた。
 私にはそれらの作品を評価することができなかった。
 ピカソ、ダリ、ミロなどの有名な画家の作品も見ることができた。

 5階にセルフのレストランがあったので、ここで夕食をとることにした。
 一通り取ってしまってからレジに持って行こうとした時、ジュースのグラスを倒して床にこぼしてしまった。
 どうしようとオロオロしていると後ろにいたおばさんが、
 「もう一杯汲みなさいよ」
と言ったが、床をどうしようと困っていると店のおばさんが、しょうないわねといった表情で掃除を始めてくれた。
 私はとにかく平謝りに謝るしかなかった。
 肉がぜんぜん切れん!
 また最前の騒動でナプキンを取り忘れていたので、昨日O'KITCH(ハンバーガー屋)で取っておいたナプキンを出して使った。
 こういう時に私の貧乏性な性格が役に立つ。

センターの噴水  センターを出た私は、そばにある噴水をグルッと回った。
 言葉では表現できないが噴水の中で動く立体作品がおかしい。
 前衛的というよりは狂的、変態的である。
 後ろの古色蒼然とした建物とのコントラストがあまりにアンバランスだ。
 パリってスゴイところだ。
 私にはとても理解し切れない。

 メトロでブランシュ駅まで戻ってきた。
 既にムーラン・ルージュに灯がともっており風車が綺麗だ。
 これほど有名なキャバレーも珍しいのでは?
 ホテルに入った私はまたも勝手に部屋のキーを取った。
 これで今日のスケジュールはおしまい。
 もう一歩も歩けないぞぉ。




《データ》
9月7日 水曜日
天候
訪問地Paris
宿泊先Hotel Moncey ☆(65 Rue Blanche)
宿泊料60F
食事宿フランスパン20cm切り, ママレード, バター, コーヒー3杯分
エッフェル塔のビュッフェサンドイッチ, フロマージュ, ホットドッグ, ビア
ポンピドーのセルフ切り肉とフライドポテト, オレンジジュース, サラダ, パン, 塩
出費凱旋門入門料11F(385円)
エッフェル塔入塔料7F (245円)
昼食16.40F (574円)
灰皿22F (770円)
絵ハガキ10F (350円)
夕食43F (1,505円)
もう一枚絵ハガキ1F (35円)
宿泊料60F (2,100円)
合計170.4F (5,964円)