ベルサイユ宮殿入場門 9月6日(火)


 夜中に何度か目を覚まして枕元の明りをつけた。
 午前5時と7時の2回だろうか。
 でも実際に起床したのは午前8時。
 私の部屋は7階だった。フランス風に言えば6階となる。
 階段を降り始めると下へ行くに連れて肌寒くなってきたので、セーターを取りに部屋へ戻った。
 もう面倒くさいのでエレベーターで急降下、1階に降りた。
 今日は男の主人がいた。
 朝食ルームに入ると、既に何組かの家族が朝食を取っていた。
 アジア人の夫婦が一組いたが、日本人だろうか中国人かなどと迷っているうちに目線が合ってしまった。
 とりあえずお辞儀すると向こうも頭を下げてくれた。
 座席は決まっているのかと、座って朝食が来るのを待っていた女の子にたずねると、
 「どこでもいいのよ。でも私の隣には友達が来るからね」
 そんな積もりでたずねたんじゃない!
 やがてパンやコーヒーなどが運ばれてきた。
 コーヒーの味はさほど旨くなかった。
 パリの水道水をそのまま使っているからか?
 そしてパンは極め付けのフランスパンで、一噛みごとにボロボロと崩れて食べにくいったらありゃしない。

 今日のメインイベントはベルサイユ訪問だ。
 外出の用意をして1階に降り、私は調理場にいた主人にもう一泊したいのだと告げると、彼はいま手が離せないらしく、おばあちゃんが応対に出てきた。
 そして彼女に一泊分の料金66Fを硬貨を組み合わせて70Fで支払うと、
 「Merci beaucoup(メルスィー・ボークー)!」
と言って去って行った。
 おいおい釣りの4Fは‥‥‥あぁ、行ってもうたよ。

 私はブランシュ駅からメトロに乗ってエトワールEtoileまで来た。
 この間、私は扉のすぐ脇にある、立ち上がると跳ね上がって閉じる座席に座っていた。ラッシュ時対応の椅子なのだろうか。
 凱旋門がすぐ近くに見えるシャンゼリゼの大きなインフォメーションへ行くが、無料で頂けるような地図は残念ながらなかった。
 私は歩いてセーヌSeine川を越えてエッフェル塔を横に望みながらさらに歩いた。
 エールフランスビルの横にある広い階段を降りると、立派なフランス国鉄SNCFの駅がある。
 アンバリッドInvalides駅だ。
 ここでヴェルサイユ・リーブ・ゴーシュVersailles Rive Gauche駅行きの往復切符を購入した。
 切符売り場は自動ではなかったので口頭で行き先を告げると「シクスティ」と返事が聞こえたので60Fだと思って100F札を出すとドッと釣りがきた。16Fの聞き間違いだったのだ。
 私は発車2分前の列車に乗り込んだ。
 急いでいたので列車の表示を確かめる暇がなかった。
 私はそばにいたおねえさんに、この列車はヴェルサイユ・リーブ・ゴーシュへ行くかとたずねた。
 おねえさんは車内に貼ってあった路線図を指し示して「行くわ」と教えてくれた。

ベルサイユ宮殿入場券  乗車時間は30分。終点のV.R.G.に到着。
 列車はまだ停車していないのに、乗客の数人はてんで勝手に扉を開けてホームに飛び降りている。
 私も真似をしてみようとガチャッと扉を開けて足を出した。
 バカだねぇ。ただ足を出しただけならどうなるか分かるようなもんじゃないか。
 「うわったったぁーーー」
 危うく転倒するところだった。
 その場面を周囲のパリジャン達にしっかりと見られてしまった。
 私は日本人特有の照れ笑い。

 ヴェルサイユ宮殿は駅から歩いてすぐの場所にあった。
 あまり見栄えのする宮殿にも思えないなぁ。
 入口の門を入ると宮殿の建物との間でテレビの撮影を行っていた。
 どうやら人形が宮殿を訪れたという場面を撮っているらしい。
 その人形の姿はヒゲを生やした老人風の擬人化された動物で、帽子を被ってリュックを背負っている。
 この人形が歩く様を表現するために、人形に手を通した本物の人間が寝転がっている。
 彼はレールの上を滑るようになっており、人形に歩く動作をさせた彼を周囲のスタッフがレール上を滑走させ、その人形の部分だけを、これまたレールに置いたカメラで撮影するという実に仰々しいセットだった。

ベルサイユ宮殿裏手からのぞむ  宮殿に入るコースはいくつかあるらしいが、私の狙っていたAコースにはえんえんと長い行列。
 日本人観光客も多数目につく。
 観念して行列の後部に並んだ。
 そして待つこと1時間。寒い寒い。
 ゾクゾクと寒気がするのでウインドブレーカーを着るが、それでも寒い!
 風邪をひきそうだ。何せ下はTシャツ1枚だ。
 ここまで来て風邪で寝込みたくないよぉぉぉ。
 アレコレ心の中でブツブツ言っている内にやっと宮殿の中に入れる順番になった。
 IDカードで20F。中に入るとき行列はふた手に分かれていた。
 看板に“ENGLISH/FRANCAISE”と書かれている。
 私はもちろんENGLISHの方に進んだので英語のガイドさんが付いた。
 付いたといっても私個人に付くわけではなく、10人ほどを一団体として内部を案内することになっているのだ。
 私の団体は各部屋を案内され、劇場などの施設を回った。
 しかし内部は暗いためか、それとも単に古ぼけているためか、全然パッとしない。
 日本人など過度の期待を持って訪れる人にはちょっと酷な光景かも知れないな。

宮殿内教会  内部見学も終わり、外へ出た途端、私は我慢していたものを出すためトイレに飛び込んだ。
 使用料1.5Fを取られた。
 用を足してホッとした私は裏の庭園の方へ足を向けた。
 向かって左側には鉢植えをした木がうなるほどいっぱい置いてある庭がある。
 池もある。
 そして正面には遥か地平線まで続くかと思われるほど続く湖と森がある。
 これはスゴイ。文字どおり絵に描いたようだ。
 私はその最果てを目指して宮殿から降りていった。
 湖にはボートが浮かび、レイクサイドでは馬車が走っている。
 この庭園は自然をそのまま残しているのだ。
 実に雄大な風景だ。

 宮殿の入口まで戻ってくると、TV撮影はまだ続いており、今度はアイスクリームスタンドとその横でクリームを舐める女性を撮影していた。
 雲が多かったのでスタッフはしきりに天候を気にしていたようだ。

宮殿裏の庭  駅まで戻ってきた。
 この駅の自動改札は三本の棒が付いており、一人が通るたびにこれが回転する仕組みになっている。
 閉りかけた列車の扉に飛びつき、2等車の方へ移動して座った。
 そのまま元のアンバリッドへ戻ってきた私は歩いてホテルへ帰ることにした。
 途中で昨日入ったO'KITCHでハンバーガーを持ち帰りモードで買った。

 宿に着いた私は昨日と同じようにベルを鳴らして入ると、新しい客が来たと思ったのか主人が慌てて出てきたが私と知って何だぁというポーズ。
 「ベルは鳴らさなくてもいいよ」
 主人はそう言った。あ、そう。
 鍵をもらい、部屋でハンバーガーを腹に入れた。
 食べながら『地〜』と『ヨーロッパ1日4000円の旅』とを開いてにらみ、ある結論を得た。
 「これはとても廻りきれん。パリという所は本当にいろんなものがあるんだなぁ」
 さぁど〜しよ〜。




《データ》
9月6日 火曜日
天候
訪問地Paris, Versailles
宿泊先Hotel Moncey ☆(65 Rue Blanche)
宿泊料70F
食事宿フランスパン20cm切り, ママレード, バター, コーヒー3杯分
宿の自室にてO'KITCHのBest-Kitch, コーラ, フライドポテト, レーズンパン
出費ベルサイユ往復16.80F(588円)
宮殿入場券20F (700円)
ハンバーガー23F (805円)
トイレinベルサイユ1.5F (53円)
宿泊料70F (2,450円)
合計131.3F (4,596円)