8月28日(日)


旧支庁舎の人形達  スイスを出て行くときは大変名残惜しかったのだが、この街、西ドイツのミュンヘンも実にいい雰囲気を持っていることに気がついた。
 スイスにはなかったある種の緊張(それが街に漂うものか、私の先入観から来るものかはわからないが)が感じられるが、それとても心地よい。
 この日の起床は8時半、見知らぬ女性が部屋の扉をノックして、カギを開けて入ってきて、あわてて出ていったことから始まった。不可解な。

 ミュンヘンの一日目だが、まだまだしんどい。
 もしかすると昨夜よりしんどい。
 しかしじっとしていても仕方がない。
 9時すぎに朝食を食べるため3階に昇った。
 女主人にグーテン・モルゲン。
 朝日の中、ちょっと涼しいくらいの温度の部屋で食べる朝食は格別だ。
 テーブルを同席したオジサンはニューヨークからオーストリアへ来てもう2ヶ月になるという。
 なぜかミュンヘンにいるわけだが、オペラ歌手だと称したごっつい人である。
 朝食のあいだずっと私と会話をしてくれた。
 彼もやはり大阪は知っていたが奈良は知らないという。なんでやねん。
 女主人は彼に対して私の事を、エンジニアの野口君よと紹介してくれた。
 ミルクのことを話題にしたとき、彼が、
 「ドイツ語じゃミルヒというが、日本語では何と言うのかね?」
と尋ねてきたので、私は
 「牛乳と言います」
と返事した。
 「ギューニュー?」
 「ギュー is Cow(ここで指で角をつくる)、ニュー is Milk」

と説明したが、解ってくれたかな。彼は私に
 「Have a good trip!」
と言い、私達は食堂を離れた。

 私はいつもの軽装な出で立ちでドイツ博物館をめざして出かけた。
 体調は相変わらずだが、I have no timeなのだ。
 途中、ギリシャのパルテノン神殿風の建物の脇を通過してずーっと歩いて行く。
 車も少なく、いい雰囲気だ!!
 街を歩いていても明らかに地中海に面した国々とは異なる印象をそこはかとなく感じられる。
 日本人の肌に合う国として、よくイギリスと西ドイツが挙げられるが、まったくだと思う。
 ドイツの人々は、やはり噂たがわず、横断歩道で信号が赤なら必ず立ち止まって待っている!!
 郷に入れば何とやら、私もドイツ人達に合わせる。
 どっちかと言うと私は、前方に赤信号の横断歩道が見えたら、ゆっくり歩いて行き、青になる頃に到着するというパターンで歩いていた。
 極力エネルギーを節約する作戦だ。

大道芸人たち  まず第一目的の支庁舎前広場へ11時10分前に着いた。この支庁舎には観光客を集めるタネがあるのだ。
 そろそろ人々も集まり出し11時になると超満員であった。
 その時、支庁舎の鐘がなり、オルゴールのような、やや不協和音っぽい音楽が流れ始めた。
 支庁舎の塔を見上げると、人形の姿が見えた。
 まず左上の人形がその右腕でカネを叩き、広場の人々をどよめかせた。
 次に上の段の人形群が左廻りと右廻りの2方向で回転を始めた。
 2周ほど回ったとき、突如、片方の馬に乗った人形が後方へ倒れた。
 お次は下段のまん中に位置する人形が、あたかも指揮者のように腕を動かし首を振り、そして周囲の人形が各々回転しながら回り始めた。
 そして最後に上段真ん中の鳥が鳴き、人々はドッと爆笑した。
 そして拍手喝采の内にショーは幕を閉じた。

 人形のショーが終わると、旧支庁舎の前で、ピエロの顔をした女一人男2人の大道芸人トリオが寸劇を始めた。
 これがまた飛んだり跳ねたり死んだふりをしたり曲芸をしたり演奏したりで実に面白く、これまで大道芸には金を出したことのない私が1.10DMも出してしまった。

ドルニエ飛行機  再び歩き出し、イザール川を渡って、中州にあるドイツ科学博物館の入口に到着。
 まず中庭にあるドルニエ飛行機のデカいのが目に入った。
 その脇には実に面白い仕組みの噴水を発見した。
 博物館の入場料は、普通では4DMだがIDカードで1.5DMにディスカウントできた。
 まずトイレ。そして昔の船を展示してある部屋から見学を始めた。
 模型が実に素晴らしい。さすがはドイツ人である。
 電話ボックスにインターナショナルと書いてあるのを見つけたので、入場キップを買ったときに手元に残った5DM硬貨と1DM玉を入れて家へかける。
 継がった。父が出てきた。
 「もしもし典正か」
 「今ミュンヘンのドイツ博物館にいてるで」
 「いつ帰るんや」
 「9月の5日か10日かまだわからへん。僕は元気やで」

 父が、母と替わると言った時にもう切れてしまった。スンマセ〜ン。

 それから見た見た。飛行機・電車・車、実際に実験を体験させてくれる所もあり、私は触れる限り触りまくる。
 年代物の電話機を展示してある部屋では隣りの外人青年と継がってしまい、何かを話しかけてきたが、
 “I cannot speak Deutsch!”
と私はあわてて告げ、笑いながらグッバイと言いあって互いに受話器を置いた。
 なぜか“Hey Jude”が流れる受話器もあった。
 期待してた宇宙コーナーは案外小さくガッカリ。
 でも化石やアルタミラの壁画も面白かったし、農業のところでは細かい模型が感激もんだった。ミニチュアの鶏舎の中には、ちゃんと一匹一匹ミニチュアのニワトリが作ってあって、それが何百いや何千匹も並んでいるのだ(皆違うポーズ!)。
 ビール工場の模型もすごかった。ドイツ人の、模型に対する情熱は偏執的だなぁ。
 ダムの模型の水の流れを見ていると午後4時45分になり、展示物の電気が消え出して私は外へ出た。

中庭の噴水  しばらく中庭にある噴水の横で休み、よっこらと歩き出した。
 途中、大道芸人を沢山見ることができた。
 ギターで歌うヤツやら、アコーディオンひくのやら、一人で笛とウクレレを器用に弾きこなすのやら多種多様。
 街の人も、いい年をした紳士も老人達も、これら若者の大道芸を真面目に楽しんでいる姿は、私のミュンヘン観を向上させるのに一役買うことになった。
 チューリヒで出来なかった帰路の航空券の再確認をしようとアエロフロート・オフィスのあるはずの場所へいったが、なぜかそこにはPAN AMのオフィス。どうなってんだ。
 私は訳の分からないまま宿へ戻った。
 宿への途中、ウィンドウにカラフルなスクリーン・トーンを飾ってある店があった。
 さっすがドイツ。それからBeibbierというビールを飲んだ。
 部屋へ戻った私は2.5日分溜っていた日記をつけた。




《データ》
8月28日 日曜日
天候
訪問地Munchen
宿泊先Hotel-Pension Theresia(Luisen str.51)
宿泊料36DM
食事宿パン多数,ジャム2種(ママレード,イチゴジャム),コーヒー
ドイツ博物館のセルフで冷たいハム, 菜っ葉, ニンジン・トマトなどのサラダ, ハンバーグとやわらかポテト+サラダ, パン2コ, コーラ
出費広場の大道芸1.10DM(110円)
ドイツ博物館1.50DM (150円)
家へTel7DM (700円)
昼食12.80DM (1,280円)
宿泊料33DM (3,300円)
Weithbier mit Schuth3.10DM (310円)
合計61.5DM (6,150円)