8月26日（金）

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　予定通り７時半に起床した私と栗田氏は、急いで朝食を平らげた。
　食事中、私は周りを飛び回る蝿を２匹叩いた。スイスの蝿は飛ぶスピードがやたらに遅いのだ。
　身支度してマイエンフェルト駅へ。
　もちろん夕方には帰ってくるので、大きな荷物は宿に置いて、私はショルダーバッグ一つの身軽な出で立ちだ。
　列車をクールChurで乗り換えだ。
　ここからのチケットを買おうとすると、私鉄のはずなのにユーレイルパスで行けるとのこと。
　乗り込んだ列車の車掌もパスを見てO.K.と言った。珍しいこともあるものだ。

　青い空。
　白い雲。
　緑の木々が生い茂る山々。
　瑞々しく広がる草原。
　そしてその中を走る列車の色は前半分が深緑、後ろは赤。
　どこを観ても十分に絵はがきになり得る。
　フィルムを大量に消費してしまった。

　所要時間２時間でサン･モリッツSt.Moritz駅、終点に到着。
　小さな都会だ。
　スイスの高級リゾート地として有名なこの地にもハイジの家があるのだ。
　それを目指して丘を登って行くと街を一望にすることができた。
　街は大きな湖に面しており、風のない湖水に映る林や建物が美しい。
　ハイジの家は『地〜』にはずいぶん距離があるとしか書いておらず、私達は勘だけで進んだ。
　青いケーブルカーが横を走る。
　眼下の湖を撮影しようとカメラを向けると、それまで鏡のような湖面を風が通り始め、右から左へと徐々に水が波立っていった。
　うーむ、感動。

　前方にレストランらしき２軒の建物が見えるので、あそこで昼食にしようと相談していると、矢印を見つけ「ハイジヒュッテまで８分」と書いてあった。もちろんドイツ語で。
　山にかかる雲が気になるし、私達は先にハイジヒュッテを観てしまうことにし、更に歩く。
　そこからおよそ４分で発見した。
　この黒い小屋はハイジの映画版で使用されたのだという。
　内部は部屋割りもなく、奥の一部が２階になっているだけの貧相なものだ。
　誰も住んではいない。
　あまり長居するような場所でもないと、とりあえず小屋の前で記念写真を撮り合うことにした。
　ところが横に座っているサングラスの老夫婦が邪魔だったので、私達は、
　「これじゃ写真、撮り難いなぁ」
　「邪魔やな。どけよぉ」
など、遠くから日本語でブツブツぼやいていた。
　すると私達の考えを読んだ？のか、婦人の方が立ち上がった。
　よし、これで撮影できるぞ、と思っていると、彼女が近づいて来る。
　げげっ、何や、と構えていると、
　「写真でしょ。撮ってあげるわ」
　私達は実に後ろめたい気持ちで小屋の前に並び、彼女に撮影して頂いたのだ。
　ゴメンナサーーーーイ。

　小屋を後にして、私達は先ほど目を付けていたレストランの１軒に入った(もう一方は休み)。
　メニューのドイツ語は理解不能なので10.5スイスフランのわけのわからんもの。
　そして紅茶を２つ。私はケーキを追加注文した。
　さてこの10.5フランは、ただの小さな春巻！
　私は栗田氏を前に、見せびらかすようにしてケーキを食した。
　「イイ性格をしてますね」
と言いつつ、彼も我慢ができなくなったのか、ケーキを注文。ははは。
　念のためレストランの女主人に「ハイジの家はあそこの１軒だけか」とたずねると、そうだという。
　じゃあ街へ降りて行くとするか。

　陽が傾くに連れ、肌寒い風が吹いてきた。
　街に降りてみやげ物屋を回る。
　栗田氏はミニ絵本に感激していた。
　そしてハイジのハンカチ(6.9フラン)を買っていた。
　私達は寒いにもかかわらず２色アイスクリーム1.5フランを食べた。
　そしてそのまま駅へ。

　列車は復路を進む。
　一等の１両は私達で借り切ったように人がいなかった。
　私も栗田氏も写真を撮りまくった。
　しかし私は体調が良くないのに気がついた。
　風邪を引いたかも知れない。

　マイエンフェルトの宿について、栗田氏はすぐスケッチをしに出かけたが、私は宿で絵はがきを書いて、体の具合いを確認していた。
　そのうちに栗田氏も戻ってきたので、階下で夕食にした。
　テーブルの上のスタンドには厚紙製のコースターが置いてあった。
　表には鳥の美しい絵が描かれており、全部種類が違うのだ。
　私達は思わず悪い考えを起こし、１枚引き抜きカバンに放り込んだ。
　すると栗田氏もまねて１枚をTシャツの下に。
　それなら私はもう一枚、栗田氏ももう一枚、‥‥‥10枚ほど取ってしまった。
　そして食後、そそくさと２階へ登った。
　店の連中が気づいたら、さぞ日本人の評判を落とすだろうなあ。
　無性にクシャミが出る。こりゃ完璧に風邪だな。
　私はシャワーも浴びずに床に入った。
　その前に蝿を１匹叩き、栗田氏も蚊を１匹退治した。

《データ》

日	８月26日　金曜日
天候	曇一時晴一時雨
訪問地	Maienfeld, St.Moritz
宿泊先	RESTAURANT ALPENROSE
宿泊料	22SFr(朝食, シャワー込)
食事	朝	宿で	パン(うす切り１.５枚, クロワッサン, 丸), ジャム４種, コーヒー, わけのわからんチーズ
	昼	サンモリッツの山のレストラン	春巻の小さいの, フルーツケーキ, Tea
	夕	宿で	前日と同じものでインゲンのかわりにカリフラワーだらけ, 280Fのビール, ミックスサラダ
出費	昼食		16.50SFr (1,980円)
	２色アイスクリーム		1.5SFr (180円)
	買物(パン, ジャム, 石鹸)		6.25SFr (750円)
	夕食		13.80SFr (1,660円)
	宿泊料		22S.fr (2,640円)
	合計		60.05SFr (7,210円)