8月23日(火)


ユングフラウへ向かう  午前8時40分に起きる。今朝はイヤにゆっくりしてしまったな。
 昨日の疲れが残ってるのかな。
 食堂で朝食を食べるが、日本人は私一人。
 本日の目的地はユングフラウJungfrauだ。
 万年雪の対策として靴下を2枚重ねて履いておいた。
 セーターとウィンド・ブレーカーを持ち、ズボンの下にはなんと海パン。
 完全防備だぜ。

 駅で切符を求めると往復分をくれた。なるほど。
 列車に乗り込むと日本人がやたらと目につく。主にカップルだ。困ったもんだ。
 列車は出発以来、登りっぱなしだ。
 途中の駅、クライネ・シャイデック Kleine Scheideggで列車を乗り換えて、更に登って行く。
Eigergletscherからの眺め  この辺りから上には植物が棲息していない。山肌があらわである。これがアイガーだ。
 向いの席の老婦人が反対の窓を指さして見てごらんという仕草をしている。
 ほぉーっ、白いピラミッドとでも形容すればいいのだろうか、あれがユングフラウ(標高4158m)だろうか。真っ白のハンカチーフをかぶせたようだ。

 列車はトンネルに入った。最大勾配25度の線路をひたすら進む。
 車内放送が観光案内のメッセージを流し続ける。
 話される言葉は、英語、ドイツ語(この辺りはドイツ語圏だから)、そして日本語だ!ジャパニーズは大事なお得意様。
 列車は終点までに2度停車した。各々の場所には5分間停車し、旅客は自由に降りることができる。
 でも駅ではない。山肌を四角にくり抜いたガラス張りの窓があるのだ。
 1度目のアイガーグレッチャー Eigergletscherの窓からは盆地に張り付くグリンデルワルトの街が一望だ。そして2度目のアイガーワント Eigerwandの窓からの景色は値千金。
Eigerwandからの眺め  完全に雪山の中なのだ。
 幾筋ものクレバスが怪獣の爪痕のように美しい雪原を乱している。
 その先に見えるのは氷河だろうか。

 終点のヨーロッパ最高地の駅ユングフラウヨッホJungfraujoch駅に列車は滑り込んだ。標高3454m。
 私はすぐにエレベーターの列に並んだ。
 そして12人乗りのエレベーターで112mを70秒で登り、私は展望台に躍り出た。
 視界0。と強風が辺りのもやを吹き飛ばし始め、眼前眼下に現れたのはこれまた絶景。
 ここも高所恐怖症の人間は絶対立入禁止の場所であると断言する。
 私はバルセロナの聖家族教会で慣れているのでどうということもない、ハズだ。
 100mは下だろうか。スキーをやっている人が見える。後で行ってみるか。

 展望室を降りて、今度は展示室だ。
 日本語で書かれているハイレベルな説明書きを流し読みし、氷河のあるところにも生きる植物、虫(ノミなど)がいることを知った。

 セルフサービスの食堂で昼食。
 そしていよいよスキーだ!っと『貸スキー』と書かれている看板の示す方向へ歩いていくと雪を固めた洞窟?を通り外へ出た。
 雪の上を更にザックザックと歩く。おっとっと、滑ったりもする。
 前方から日本人の若者が2人来た。彼らによればスキー料金10フランだという。
 更に歩いて山小屋に入った。ここでスキー板や靴を借りるのだ。
 しかしながら私はこの年までスキーをやったことがない。
 これが我が人生初滑りである。靴の履き方すら分からない。
 困っているとおじさんが履かせてくれた。
 どうもどうも。スキー板のはめ方も聞く。

ここでスキー  いざ滑ろうとしたが、滑り方のABCも知らない私は滑るだけ滑って転けるというパターンで初スキーを楽しんだ。
 こんなにスピードが出るものなのかスキーって。
 この簡易スキー場は雪原の上をロープで囲んだ狭い場所なのだ。
 リフトは取っ手を持つとベルトコンベアのように上まで滑りながら運んでくれるという代物だ。
 それでもロープの向こうには雪を真っ二つにしている巨大な亀裂が見える。恐ろしいところだ。
 でもこれでまたまた友達に自慢できるぞぉぉぉ。
 生まれて初めて滑ったスキーがユングフラウってね。
 私の横をスイスイ滑る少年がいる。私が滑っているところを、
 “Turn!Turn!”
と声を掛けてくれるが、それができたら苦労はない。
 私が転けると少年はストックで引っ張り起こしてくれたりした。
 私達は閉店まで1時間も滑っていた。初滑りを十分堪能したぜ。

 少年が私に話しかけてきた。
 「日本人なの?」
 「そやで」
と私。
 帰りの列車では少年および彼の両親と同席した。
 乗り換え駅のクライネ・シャイデックで観光客向けにアルペンホルンを吹いている男がいた。
 少年の母親が、
 「写真を撮ってあげるわ。あの人の横にいきなさい」
と記念撮影。
 私達は列車を一本遅らせて歓談した。
 私は飴や飲物をご馳走して頂いた。
 彼ら親子はイギリス中部ウエスト・ミッドランドに住んでいるという。
 毎年、サマーバケーションは大陸に渡って旅行やスキーを楽しむのだという。
 結構、裕福なんだろうな。
 父親の職業はコンピュータ・エンジニアだとのこと。

 グリンデルワルト駅に到着し、彼らと握手で分かれた私はコープで買物をし、更に昨日、俣野さんに見繕ってもらったナプキンやハンカチを土産物として3枚買った。
 私自身の土産としてカウベルを買った。いい音だ。

 宿へ戻った私は少なからず驚かされた。
 二段ベッドで私が陣取っている場所の下には女の子がいた。ここは男女の区別はないそうだ。ウーン進んでいる。
 西ドイツから来たというその女の子としばらく話した後、私は夕暮れに霞む外へ窓からヒョイと出て、私の足にまとわりついてきた猫を撫でながら日記を書いた。
 目の前はアイガーの壁だ。
 いま私は確かにSWITZERLANDにいるんだ。
 ここは日本ではなく、間違いなくヨーロッパのスイスなのだ。
 私は今この瞬間、このスイスに居るのだ。
 何度も私は心の中でそう叫んでいた。

 うまく言えないが、この場所に来て、ようやく旅と私が一体になれたような気がした。




《データ》
8月23日 火曜日
天候晴&曇
訪問地Grinderwald, Jungfraujoch
宿泊先RESTAURANT GRACIER
宿泊料13S.fr
食事宿コーヒー, パン3つ(うす切り, 丸, クロワッサン), チーズ, バター, ジャム
ユングフラウヨッホのセルフレストランスパゲティ, 丸パン一コ, サラダ盛り合わせ
宿のベッドの上でうす切りパンBero, ジャム, ヨーグルトピーチ, チーズと思ったが違う?
出費切符45.50SFr (5,460円)
15.10SFr (1,810円)
スキー10S.fr (1,200円)
土産15.40S.fr (1,850円)
Coopで買物7.10S.fr (850円)
宿泊料13S.fr (1,560円)
合計106.2SFr (12,740円)