「法則」に「固定観念」など持ってはならない

 たとえば、「ケプラーの法則」のメンバーの一つである「公転周期の法則」は「軌道長半径」、「中心天体の質量」、「軌道離心率」なる3つの独立変数に対する関数となっているが、これらの変数が互いに独立であるので(「独立変数」なる呼称もここからきている)、この法則を3つの法則とみなしても決して誤りではないのである。特に、この中でも「軌道離心率」に対する法則は「軌道長半径」や「中心天体の質量」に対する法則とは別の法則であると考えるのも「公転周期の法則」の一部と考えるのも同じぐらい適切な考えとなるのである。

 なぜなら、「公転周期の法則」の独立変数として「軌道長半径」および「中心天体の質量」のみを考える場合はその公転運動として円運動のみを考えれば充分であるが(この場合もちろん「軌道長半径」は「軌道半径」のことである)、その独立変数に「軌道離心率」を加える場合にはその公転運動として楕円運動や双曲線運動を考える必要が生じてくるからである。

 したがって、「公転周期の法則」の独立変数に「軌道離心率」をふくめない場合には「次元解析」だけでこの法則を導くことが可能であるが、「軌道離心率」をふくめる場合にはニュートン力学が必要となってくるのである。したがって、「軌道離心率」に対する「公転周期の法則」は「軌道長半径」や「中心天体の質量」に対するものとは異なる分野に属する法則となるのである。したがって、本書でも「軌道長半径」と「中心天体の質量」のみを独立変数とする「公転周期の法則」をまず考え、その後で「軌道離心率」のみを独立変数とする法則を考え、そのさらに後でこの2つの法則を合併して最も一般化された「公転周期の法則」を導いたのであった。

 さらに言うと、「2次曲線軌道の法則」は天体の公転運動においてその絶対周期と近点周期が一致することをも示し、したがって公転運動を考えるときに2種類の公転周期(「絶対周期」と「近点周期」)を考える必要がないことも示しているのである。したがって、考え方によってはこの法則は「公転周期の法則」の一部と考えることも可能である。また、考えてみれば「軌道長半径」や「軌道離心率」は軌道が楕円であるときにおいてのみ定義可能であり、したがってこの法則が存在してはじめて「公転周期の法則」を考えることが可能なのである。

 また、「面積速度一定の法則」と「軌道面不変の法則」はいずれも「角運動量保存則」の一部となっており(角運動量はベクトルであることに注意せよ)、したがってこの2つは決して独立した法則ではないのである。つまり、「面積速度一定の法則」、「軌道面不変の法則」それぞれ角運動量の大きさ、方向に関する法則である。したがって、これらの2つの法則を「ベクトルとしての面積速度一定の法則」に統合することが可能である。

 また、「ケプラーの法則」に追加すべき法則の一つである「ポテンシャル一定の法則」は「エネルギー保存則」に対応する法則であるが、この法則は「面積速度一定の法則」と同じく公転速度が動径の関数であることを示す法則である。したがって両方とも動径から公転速度を求めるとき(あるいはその逆)によく用いられるのである。したがって、実はこれら2つの法則はよく似た法則であり、したがってこれらの法則をまとめて1つの法則群(この名称は「公転速度の法則」が適切である)にすることが可能である。

 さらに言うと、「ケプラーの法則」のうち「公転周期の法則」以外の法則は個々の天体の公転運動に関する法則である。一方、「公転周期の法則」は異なる天体の公転運動を比較する法則である。したがって、この「ケプラーの法則」を大きく2つに分けると「公転周期の法則」以外の法則と「公転周期の法則」に分けれるのである。事実、ケプラーがこの「公転周期の法則」を発見したのは他の法則を発見しただいぶ後になってからであった。なぜなら、言うまでもなく「公転周期の法則」は複数の天体の運動を観測してはじめてその発見が可能となる法則だからである。

「法則」の「数字」に意味など存在しない

 ところで、「公転周期の法則」は他の「ケプラーの法則」のメンバーとは異なり円運動のみを考えても理解できる法則である。したがって、この「公転周期の法則」は「ケプラーの法則」の中でもずば抜けて理解しやすい法則なのである。なお、言うまでもなく「振り子の等時性」はこの法則の単振動版である。事実、「振り子の等時性」はだいぶ昔にガリレイによって発見されたが、一般には振り子の軌跡が楕円になることや単位時間内に振り子のおもりとその軌跡の中心を結ぶ線とが描く面積が一定となることは(それぞれケプラー運動における「2次曲線軌道の法則」、「面積速度一定の法則」に相当する)それよりもかなり後になって発見されたのである。なぜなら、御存知のとおり直線運動や円運動は特別な運動であり、したがってその運動の解析も簡単となるからである。

 それにもかかわらず、ケプラーが「公転周期の法則」なる法則を発見したのは他の法則を発見してから10年ぐらい経ってからであった。この理由は、ケプラーが火星の公転運動に気を取られ、他の天体の公転運動にまで手が回らなかったからである。さらにこの理由は、火星の軌道離心率が比較的大きかったからである。(火星の軌道離心率は0.1弱)したがって、当然のことながら火星は公転速度の変化も比較的大きく、したがって当時の観測技術でも火星の公転速度の変化が観測できたのである。

 したがって、「ケプラーの法則」のメンバーの中で最も簡単なはずの「公転周期の法則」の発見が他の法則の発見よりも遅れたのは決して必然ではなく、偶然である。また、この「公転周期の法則」を「ケプラーの第三法則」とも呼ぶがこの「第三法則」なる呼称は言うまでもなく「第一法則」、「第二法則」よりも後になって発見されたからつけられた呼称である。したがって、ケプラーが「ケプラーの法則」の各メンバーを発見した順序には何の科学的必然性もないのである。ましてこの法則の各メンバーの名称に使われている数字にはまったく科学的な意味がないことが明らかであろう。

 別の例をあげると、実は「熱力学第〇法則」は「熱力学第一法則」や「熱力学第二法則」よりも後になって認められた法則である。(ただし、この法則の発見は他の法則よりも早かった可能性が強い。)それにもかかわらず、この法則が「熱力学第〇法則」と呼ばれている理由は、言うまでもなくこの「熱力学第〇法則」が「熱力学第一法則」や「熱力学第二法則」よりもはるかに簡単な法則であるからである。

 以上のことから、法則の名称に用いられている数字が必ずしもそれが発見、認知された順番(さらに言うと、熱力学の法則のように発見された順番と認知された順番が一致しないケースも少なからずある。)を表しているとは限らないのである。言いかえると、法則群中の各メンバーの名称に使われている数字には科学的な意味どころが歴史的な意味すら存在しないことが多いのである。

法則の分け方には「相対真理」なら存在する

 しかし、それでも「ケプラーの法則」を4つの独立した法則からなる法則群であると考えるやり方は4つ以外の数の法則からなる法則群であると考えるよりもはるかに優れているのもまたまぎれもない事実である。この理由は、天体の公転運動を記述するのに軌道の形、天体の軌道上の位置と公転速度との関係および軌道の大きさや形と公転周期との関係の合計3つの事柄を必要とし、このうち軌道上の位置と公転速度との関係についてはエネルギーに関するものと角運動量に関するものの2つが必要となるためである。

 さらにこの理由は、言うまでもなくエネルギー保存則と角運動量保存則が互いに独立した法則だからである。さらに言うと、エネルギー保存則と角運動量保存則からはいずれも円以外の軌道を描いて公転している天体はその中心天体に近いところを運動しているときほど大きな速度で運動していることが導かれるが、このうちエネルギー保存則に関するものは角運動量保存則に関するものよりも直接的にこのことを表現することができる。

NEXT

HOME