命名のしかたが逆である2つの「相対性理論」
ところで、実は名前とは裏腹に「特殊相対性理論」は「一般相対性理論」よりもその利用範囲がはるかに広いのである。つまり、「特殊相対性理論」は相対性理論を専門としない学者や研究者にも必須のものとなっているが、それに対して「一般相対性理論」はごく特殊なケースにしか必要とされないのである。
たとえば、「特殊相対性理論」は荷電粒子の運動を扱うケースなどにおいても必要となってくるが、一方「一般相対性理論」が必要となるのは中性子星やブラックホールなどその重力がきわめて強い天体やあるいは宇宙全体を扱う場合に限られるのである。さらには、先述の「双子のパラドックス」のように厳密には一般相対性理論が必要となるケースでも特殊相対性理論のみで問題のない精度で説明できるのである。
この理由は、「特殊相対性理論」では主として速度を扱い、一方「一般相対性理論」では主に加速度を扱うからである。ここで、相対性理論では「速度」とはすなわち時空の「傾き」であり、それに対して「加速度」とは「曲がり」として扱われる。ところで、この「傾き」を表す量がほかならぬ「角度」であり、またこの「角度」の代わりにそれに対応する三角比によっても表すことができる。一方、「曲がり」を表す量が「曲率」であり、この「曲率」はそれに内接する円の半径の逆数で表される。
ところで、ご存知のとおり「角」を扱うのは物理学ではなく数学(特にその一分野である幾何学)である。つまり、相対性理論(その中でも特に特殊相対性理論)は「時間」と「長さ」の比として定義されていた「速度」なる物理量をミンコフスキー空間における「角」と結びつけて論じ、それらを数学的な方法のみによって説明しようとする学問である。そして、一般相対性理論が対象としている「加速度」なる物理量はこのミンコフスキー空間における「角」を時間で微分したものに他ならないのである。したがって、「一般相対性理論」は「特殊相対性理論」をその基礎理論としており、したがって一般相対性理論が特殊相対性理論よりもはるかに難解かつその利用範囲が狭いのはごく当然のことなのである。
しかも、特殊相対性理論が対象としているのは「時間」と「空間」だけであるが、一般相対性理論ではこれに時空間を曲げる原因としての「物質」と「エネルギー」(この2つは同じく相対性理論によって同一のものであることが証明されている。)が加わり、したがって「一般相対性理論」のほうがはるかに物理色が濃いものとなっているのである。これを逆に言うと、「特殊相対性理論」は「一般相対性理論」よりもはるかに数学との結びつきが強いということである。
ところで、言うまでもなくこの「数学」なる学問はすべての学問の中で最も一般的な学問である。
このように、相対性理論は「時間」と「長さ」を互いに同次元の物理量であると見なし、それらを共通の単位で表そうとする学問である。ここで「速度」