連星系における「ケプラーの法則」

 ところで、「ケプラーの法則」を多少修正すればこの法則を連星系(複数の天体が互いに引力を及ぼしあいながら公転運動している天体の集まり。なお、後述のとおり「ケプラーの法則」が適用できるのは天体の数が2つの場合だけである。)の運動にも適用することができるのである。すなわち、「運動量保存則」から連星系中の2つの天体はその質量にかかわらず運動量の大きさが等しく、方向が互いに正反対であると予想することができる。(実際その通りになっている)

 したがって、連星系中の2つの天体の公転軌道は互いに相似となるはずであり、したがって2つの天体は軌道内のある点に対して常に反対方向にあるはずである。また、2つの天体の公転速度は2天体の質量の逆比となるはずである。したがって、以上のことから連星系中の2天体の公転周期は互いに等しいので、それらの公転軌道の半径は2天体の質量の逆比となり、かつその2天体は連星系の重心(このような複数の天体の集団についての重心を「共通重心」と呼ぶ。)に対して常に反対方向にあると予想でき、実際その通りになっているのである。

 また、「万有重力の法則」、「運動の法則」、「作用・反作用の法則」(これらの法則については後で詳しく述べる)から2天体に働く加速度の比はそれらの軌道半径の比となり、したがってそれら2天体の質量の逆比となるはずである。また、当然のことながら円軌道の場合には2天体間の距離はそれらの軌道半径の和となる。したがって、連星系の天体Aの質量の天体Bの質量に対する比をrとすると「万有重力の法則」から天体Aに生じる加速度は天体Aの軌道半径が等しく、天体Aの質量がゼロであるときの加速度の1/(1+r)^2となり、したがって公転周期は1+r倍になるのである。

 なお、連星系の天体の公転軌道が円以外である場合についてもまったく同様に考えることができる。この場合、連星系の重心が軌道二次曲線の焦点となるのである。したがって、連星系における「公転周期の法則」は「連星系中の2天体の軌道長半径の和の3/2乗に比例し、2天体の質量の和の-1/2乗に比例する」となるのである。

 したがって、連星系における「ケプラーの法則」は「連星系中の2天体の軌道長半径の比はそれらの2天体の質量の逆比となる」および「連星系中の2天体およびそれらの2天体の軌道の近点、遠点はつねに連星系の重心に対して反対側にある」という法則を追加し、惑星系や衛星系における「ケプラーの法則」中の文章の「中心天体」を「連星系の重心」におきかえればよいのである。さらに、「公転周期の法則」は「軌道長半径」、「中心天体の質量」をそれぞれ「2天体の軌道長半径の和」、「2天体の質量の和」におきかえればよい。

 この例として、地球、月両者の引力による地球と月の共通重心のまわりの両者の公転運動があげられる。つまり、ご存知のとおり月は地球による万有重力によって地球のまわりを回っているが、その反作用によって地球もまた小さな楕円を描いて地球と月の共通重心のまわりを回っていることを忘れてはならない。

 そして、地球から月までの平均距離は384.4Mm、地球の質量は月の質量の81.3倍であることが知られている。したがって、地球、月の軌道長半径はそれぞれ4.671Mm、379.7Mmとなり(ここでは両者の軌道長半径の和を両天体間の平均距離と見なしてよい)、地球と月は両者に共通の周期(27.32日、なお、この周期を「恒星月」といいこの値は太陽に対する周期(29.53日、この周期を「朔望月」という)とは異なっている。)でその共通重心のまわりを回っているのである。

「3体問題」になるともうお手上げ

 ところで、連星系の天体の公転運動(系内の天体の数が2つだけの場合)と惑星系(衛星系も同様)の天体の公転運動(質量をもつ天体の数が1つだけの場合)との間にはある共通点が存在している。この共通点とは、連星系、惑星・衛星系いずれの場合においても各天体(中心天体は対象外とする)に力や加速度を及ぼす天体が1つしかないことである。

 このように、1つの天体だけをその源とする加速度による天体系の運動を「2体問題」と呼ぶ。さらに、これを一般化して(n-1)個の天体を源とする加速度による天体系の運動を「n体問題」と呼ぶ。

 なお、実際の天体は質点(その質量が空間上の一点に集中している物体を考えてこう呼ぶ)ではなく、ある大きさを持っている。しかし、その天体の質量分布が方向性を持たず、すなわちその密度が中心からの距離のみの関数で表されるならば万有重力はその天体と同じ質量の質点がその天体の中心と同じ位置に存在している場合とまったく同じ式で表されることがニュートンによって証明されている。したがって、太陽系内の天体は円に近い形をしているので惑星や衛星の運動を考えるときにはその中心天体を質点とみなしても充分間に合う。ついでに言うと、このような質量分布をしている天体の内部における万有重力はその位置よりも中心に近いところにある全質量と同じ質量をもつ質点の場合と同じ式で表されることが同じくニュートンによって証明されている。

 ところで、「3体問題」になるともう「ケプラーの法則」のようなきちんとした法則で万有重力による天体の運動を論じることができないことが証明されている。したがって、「多体問題」(「3体問題」以上を総称してこう呼ぶ)では数値積分によって天体の運動を解いてゆくしか方法がないのである。また、天体の質量分布は方向性をもっているが、このような質量分布をしている中心天体による天体の公転運動(これも広い意味での多体問題である)もやはり厳密には論じれないのである。なぜなら、物理学では大きさを持っている物体は無限個の質点の集合として表されるからである。

 このように、「2体問題」でのみ天体の運動を簡単な数式で厳密に論じることができる理由は、「ケプラーの法則」なるものは中心天体の質量に対して公転天体の質量が無視できる程度に小さいと仮定したときの、いわばニュートン力学の近似解であるためである。

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