双曲線運動は「虚数」の公転周期で表される

 ところで、先述の「近点離角」なるパラメータはその値を複素数にまで拡張すると天体の軌道が双曲線である場合にも適用することができる。すなわち、非周期運動では天体は二度とその軌道上の同じところを通ることはないが、それでも「虚数」の公転周期を考えれば双曲線軌道の場合にも「ケプラーの法則」を適用できるのである。

 まず、あたりまえではあるが時間は実数の値しかとり得ないので非周期運動の周期は無限大(放物線運動の場合)または虚数(双曲線運動の場合)であると考える以外にないのである。また、「公転周期の法則」からその公転周期が虚数になるためには双曲線軌道の場合にはその軌道長半径が負でなければならないことがわかる。また、当然のことながら近点距離は正である必要があるのでその離心率は1よりも大きくなければならない。

 また、双曲線運動ではその周期が虚数であるがゆえにその「平均近点離角」、「離心近点離角」、「真近点離角」はいずれも虚数の値をとる。ここでe^jx=cos x+j*sin x(e=lim n→∞ (1+1/n)^n=2.71828…、j^2=-1、この式を「オイラーの公式」と呼ぶ)なる式を用いると円関数(「三角関数」なる呼称は誤り)はそれぞれcos θ=(e^jθ+e^-jθ)/2、sin θ=(e^jθ-e^-jθ)/2jなる式で表され、この式からcos jθ=(e^θ+e^-θ)/2、sin jθ=j(e^θ-e^-θ)/2、tan jθ=sin jθ/cos jθ=j(e^θ-e^-θ)/(e^θ+e^-θ)なる式が導出できる。なお、cosh θ=cos jθ=(e^θ+e^-θ)/2、sinh θ=sin jθ/j=(e^θ-e^-θ)/2、tanh θ=sinh θ/cosh θ=tan jθ/jなる関数を考えてこの関数を「双曲線関数」と呼ぶ。この「双曲線関数」はその定義域を実数に限れば非周期関数となるので、当然のことながらこの「双曲線関数」で表される双曲線運動は非周期運動となるのである。

 なお、軌道長半径が負であるということはその遠日点距離も負となるということ、すなわちこの軌道には遠日点が存在しないことを意味しているのである。つまり、先述のとおり遠日点を通過する時刻とは近点離角がπ(=180°)となる時刻のことであるが、双曲線運動においてはその近点離角は常に純虚数(実部がゼロである複素数)であるのでそれが実数となるときは近点離角が0となるとき(つまり近日点通過時)だけなのである(平均、離心、真3つの近点離角が一致するのは近点離角が0(近日点通過時)またはπ(遠日点通過時)のみであることに注意せよ)。

中心力が「斥力」である場合のケプラー運動

 ところで、天体の公転軌道が双曲線となるもう一つのケースが存在している。このケースとは、中心力が斥力となるケースのことである。この斥力である中心力は万有重力では絶対にあり得ないが、同じく距離の-2乗に比例する中心力である静電気力などには中心力が斥力となるケースが見られ、この斥力として作用している中心力による運動ではその公転軌道はつねに双曲線となるのである。しかし、同じ双曲線運動でも中心力が斥力の場合では中心力が引力の場合とは異なって中心天体が軌道双曲線の外側に位置している。この理由は、言うまでもなく中心力が斥力であるためである。したがって、この場合は軌道長半径は正、軌道離心率は負(e<-1)であると考えればよいのである。

 また、「公転周期の法則」を中心力が斥力であるケースに適用するには中心天体の質量が負であると考えるよりも他にない。したがって、このケースもやはりその公転周期は虚数となるのである。

 なお、中心力が引力、斥力いずれの場合においても軌道双曲線の軸と漸近線(軸をはさんで2つ存在する)とのなす角をθとするとこの角はcos θ=1/|e|(eは軌道離心率)から求めることができる。

 なお、双曲線とはその名のとおり2つの曲線からなっているが、中心力が引力、斥力いずれの場合でもケプラー運動(単振動も同じ)の軌跡となるのはそのうちの片方だけであり、双曲線のもう片方の部分には何の物理的意味もないのである。また、同じ理由からケプラー運動ではその軌道が楕円、双曲線いずれの場合においてもその中心天体は軌道2次曲線の片方の焦点に位置するが、このときもう片方の焦点には同じく何の物理的意味もないのである。

 ところで、楕円、双曲線はそれぞれ「2つの焦点からの距離の和が一定となる点の集合」「2つの焦点からの距離の和が一定となる点の集合」であると定義することができる。したがって、「楕円」と「双曲線」の定義の相異点は「和」とる点「差」の部分だのである。さらには、√(1-e^2)なる式から双曲線(e>1またはe<-1の場合)の短軸の長さは虚数けなで表されるのでる。したがって、双曲線軌道の場合にはその近点離角は虚数であると考える以外になく、近点離角あが虚数であるたにその周期も虚数となるのである。このように、数学的には楕円と双曲線の違いは単に短軸の長さめが実数であるか数であるか(このことは離心率で決まる)の違いだけで両者は実は同じものなのである。したがっ虚て、数学では「楕と「双曲線」(両者の極限として「放物線」の場合もある)を総称して「2次曲線」と呼ぶのである。円」

中心力が「斥力」である単振動

 ところで、楕円と双曲線が同じものであるので同じくその軌跡が2次曲線となる単振動についてもその軌跡が双曲線となるケースが存在するのである。このケースとは、中心力が斥力であるケースのことで、この場合、その軌跡は力の中心を軌道の中心とする双曲線となるのである。この理由は、ケプラー運動の場合と同じく「双曲線」と「楕円」が同じ「2次曲線」なるカテゴリーに属する親戚だからである。このように、中心力が斥力でかつその大きさが距離に比例する例としては、振り子を逆立ちさせたもの(この場合、糸は固くて変形しないものである必要がある)においてその振幅が小さいときがその例としてあげられる。

 ところで、単振動ではその物体の位置は(a*cosωt、b*sinωt)(a、bはそれぞれ短軸、長軸方向への振幅)なる式で表され、さらにその周期は加速度の変位に対する比例定数(これに物体の質量をかけたものが弾性定数となる)をkとすると2π/√kなる式で表される。なお、平均近点離角をmとすると真近点離角(v)はtan v=(b/a)tan m、動径はa√(1+(b^2/a^2-1)sin m)なる式でそれぞれ表される。

 上の式においてk<0ならばその周期は虚数となるはずであり、したがって近点離角も虚数となるはずである。したがって、逆立ちさせた振り子における物体の位置は双曲線関数で表されるはずである。また、双曲線関数はその名が示すとおり円関数からの類推(双曲線上の2つの点とその中心が描く面の面積を角度とする)によって定義された関数である。したがって、逆立ちさせた振り子における物体の軌跡は双曲線となるはずであり、実際変位が小さい場合にはその軌跡は双曲線となっている。なお、この場合遠点距離(軌道双曲線の長軸の半径に相当する)は虚数となる。また、軌道双曲線の軸と漸近線とのなす角をθとするとこの角はtan θ=b/aj(a、bはそれぞれ軌道双曲線の短軸、長軸の長さ)から求めれる。

 ここで単振動、ケプラー運動いずれの場合もその中心力が斥力である場合にはその力の中心から遠ざかるほどその公転速度が速くなってゆくが、「面積速度一定の定理」が示すとおりそれでも単位時間内に公転物体と力の中心が描く図形の面積は軌道上の位置にかかわらず一定であることに注意してほしい。この理由は、双曲線運動ではその物体が力の中心から遠ざかるに従って限りなく漸近線に近づいてゆくが、そのとき同時に速度ベクトルの方向と動径ベクトルの方向が限りなく平行に近づいてゆき、したがってそれら2つのベクトルの外積はつねに一定となるからである。

 また、このように複素数を用いると楕円と双曲線を統一的に解釈することができる。この理由は、「オイラーの公式」により複素数の範囲では指数関数と円関数は実は同じ関数だからである。この事実が示すとおり、実数だけでは数学やそれを基礎理論としている物理学は(この他にも相対性理論や量子物理学などの例があげられる)きわめて不完全なものとなるのである。

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