中心力が距離の無限大乗に比例するケース

 次に、距離の1乗、-2乗に比例する中心力の場合と同じく計算が簡単な、距離の無限大乗に比例する中心力による運動について考える。このケースは、中心からの距離がある値以下のときはゼロ、そしてある値以上のときは無限大となるケースである。この例としてはある半径の球壁の内部を運動し、また球壁との衝突は完全弾性衝突(衝突の前後でまったく運動エネルギーが変化ない衝突をこう呼ぶ)である質点(直径、体積などがゼロである物体を考えてこう呼ぶ)の運動があげられる。

 この運動では、中心からの距離が球壁の半径よりも大きくなることは不可能である。なぜなら、すべての物体は球壁で跳ね返されてしまうからである。したがって、このケースでは球壁の半径だけが遠点距離の値として許されるのである。したがって、この軌跡が円であるならばその円の半径は球壁の半径だけが唯一許された値となり、したがってその周期とは無関係な値となるのである。このことを言いかえると、「軌道半径は公転周期の0乗に比例する」というふうに表されるが、これをさらに言いかえると、「公転周期は軌道半径の無限大乗に比例する」という表現となる。この法則は、明らかに中心力が距離の無限大乗に比例するケースにおける「公転周期の法則」(中心力が引力でその大きさが距離のn乗に比例するならば、それによる円運動の周期は円軌道の半径の(-(n-1)/2)乗に比例する)とまったく一致しているのである。

 ところで、このケースではその運動の絶対周期と近点周期の比が近点距離と遠点距離の比によって決まってくる。これを具体的に言うと、絶対周期と近点周期の比が1:nならば近点距離と遠点距離の比はcos360n°:1となる。したがって、絶対周期が等しいならば円に近い軌道ほどその近点周期は短くなるのである。この理由は、距離の無限大乗に比例する中心力による運動では、その軌道が折れ線となるため円に近い軌道で運動する場合ほど球壁の中心を1周する間に物体が球壁に衝突する回数が多くなるからである。なお、近点周期は物体が球壁に衝突してから次に衝突するまでの時間と一致している。

どんな場合にでも成り立つ「面積速度一定の定理」

 ところで、「ケプラーの法則」のうちの一つ、「面積速度一定の法則」はその運動の原因が中心力(その方向が常に空間上のある一点を向いている力のことをこう呼ぶ)である限りどんな中心力による運動に対しても成り立つのである。

 すなわち、物体に力が働かないときにはその物体は等速度運動をするがそれでも基準点からの距離は刻々変化している。しかし、意外なことかも知れないが等速直線運動している物体と基準点とを結ぶ直線が単位時間内に描く図形の面積(「面積速度」と呼ぶ)は物体の位置に関係なく一定なのである。この事実は、三角形の面積が「底辺の長さ*高さ/2」で表され、したがって他の辺の長さとは関係ないことから証明できるのである。すなわち、等速直線運動している物体が基準点に最も近づいたときにはその物体と基準点とを結ぶ直線は二等辺三角形を描き、一方物体が基準点から離れているときにはその直線は斜めに細長く延びた三角形を描く。しかし物体は一定の速度で運動しているのでこの2つの三角形の底辺の長さは等しく、しかも軌跡が直線であるのでその高さも等しく、したがってこの2つの三角形の面積は等しくなるのである。

 このもう一つの理由として、速度や加速度などは運動している物体と基準点を結ぶ方向への成分とそれに垂直な成分に分けれることがあげられる。したがって、常に基準点を向いている加速度(中心力のこと)は運動している物体の速度のその物体と基準点を結ぶ方向に対して垂直な方向への成分をまったく変化させない。ところで、面積速度は「基準点から運動している物体への変位とその物体の速度の基準点に対して垂直方向への成分に1/2をかけたもの」として表すことができる。したがって、中心力は面積速度をまったく変化させないことが以上のことから明らかである。これを「面積速度一定の定理」と呼ぶ。なお、このことを「法則」と呼ばず「定理」と呼ぶ理由はこの事実が数学の理論によって裏付けられているからである(数学では物理学などの「法則」に相当するものを「定理」と呼ぶ。しかし、数学でも「定理」と呼ぶべき用語を誤って「法則」と呼んでいるケースが少なからず存在している。)。

 たとえば、先述の距離の無限大乗に比例する中心力による運動の場合、物体が球壁に衝突したときに一瞬だけ他の時刻とその速度が異なるときが存在する。しかし、その場合でもその物体の速度のうち他の時刻と異なるのは球壁の中心に向かう成分だけで、それに垂直な方向への成分はまったく変化しないのでその物体の球壁の中心から見た面積速度は変化しないのである。

 ところで、別の表現をすると面積速度は「変位」と「速度」(両方ともベクトルである)の外積の大きさの1/2倍であるとも言えるのである。ここで「外積」とは3次元空間では2つのベクトルに対して定義され、「大きさが2つのベクトルを2辺とする平行四辺形(三角形の面積はその半分)の面積に等しく、2つのベクトルのいずれに対しても垂直な方向で、2つのベクトルの積と同じ次元をもつベクトル」と定義されている。そして、ご存知のとおり物体の基準点に対する「変位」と「速度」の外積にその物体の質量をかけると「角運動量」たる物理量になるのである。したがって、先述のとおり「面積速度一定の法則」は「角運動量保存則」を裏付ける法則であり、またこの法則の例の一つなのである。

 ところで、言うまでもなくこの「角運動量」はベクトルである。したがって、先述のとおり「角運動量」が保存されるということは中心力による運動においてその面積速度が一定であることのみならず、公転運動を何周してもその運動の軌道面が変化しないことをも表しているのである。この理由は、ベクトルの大きさ、方向がともに等しい場合に限りそのベクトルが等しくなるからである。しかも、この法則は「角運動量保存則」に基づいているので当然のことながらどんな中心力に対しても成り立つはずである。したがって、この法則は「ケプラーの法則」のメンバーとして認められても決しておかしくないのである。なお、この法則名は「公転軌道面不変の法則」が適切であろう。

 ところで、この法則はあたりまえ過ぎてわざわざ「法則」として述べる必要がないのではないかと言われるかもしれないが、本章で次に述べる「運動の法則」(後述のとおりこの法則名は誤り、正しい名称は「力学の法則」である。)、「熱力学の法則」、「遺伝の法則」(「メンデルの法則」と呼ばれることが多いが法則名として学者名を用いるとこの法則が何を表しているのか分からないので出来る限り法則名に学者名は用いないでもらいたい)などの科学法則だって考えてみればあたりまえの事実なのである。なぜなら、この世のほとんどの法則(「物質科学」のみならず「生命科学」、「社会科学」に関する法則もふくめて)は「保存則」(ある対象物がその位置や形態を変化させることはあっても、絶対にその総量は変化しないという法則を「保存則」と呼ぶ。)の一つの例であること(この事実については各科学法則のところで詳しく述べる)が多いのである。そして、この「保存則」こそが数ある法則の中でも最も基本的かつ重要な法則なのである。

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