「ケプラ−の法則」に追加すべき法則
ところで、通常「ケプラーの法則」は3つの法則(「2次曲線軌道の法則」(通常「楕円軌道の法則」と呼ばれているが後で述べるとおり天体の公転軌道は双曲線になることもあるのでこの呼称は明らかに誤りである)、「面積速度一定の法則」、「公転周期の法則」)から成っていると言われている。しかし、「万有重力の法則」および「運動の法則」(これらの法則については後で詳しく述べる)からその大きさが距離の-2乗に比例する中心力(その方向が常に空間上のある一点(この場合は中心天体)を向いている加速度や力のこと)による運動(このような運動を「ケプラー運動」と呼ぶ)に関する法則を導き出すと、これらの3つの法則以外にもうあと3つの法則が導き出せるのである。
この追加する必要があるもう3つの法則とは「公転天体の公転速度の2乗と中心天体からの距離の逆数との差は常に一定」、「天体が何回公転してもその軌道面は不変」(この法則には「軌道面不変の法則」なる名称が与えられている)および「軌道長半径が等しいならばその天体の公転周期はその公転軌道の離心率の大小に関係なく一定」(これら3つの法則名については後で考える)という法則である。
もちろんこれらの3つの法則は学者が有名であるならばたとえその学者の考えが間違っていても決して修正しようとはせず鵜呑みにする(遺伝の法則(この法則については後で述べる)などがこの典型例である)実に無茶苦茶な体質(本当のことを言うと、「体質」というよりも「癖」といったほうが適切である)の学校教育では一切教えられていないので世間ではこれらの法則はまったくといっていいほど知られていないが(これらの法則を世間に広めることが本書の目的であるが)、すぐ次に述べるとおり実はこれらの法則は大変重要なものである。なお、ケプラー(名が示すとおりこの法則の発見者)ももう少し注意すればこれらのことに気付き、これらの3つの法則を発見し、発表していたに違いない(もしそうならば、もちろん学校教育でも教えられているはずである)のである。
ところで、「ケプラーの法則」のうちの一つ、「面積速度一定の法則」(別名「ケプラーの第二法則」)は「角運動量保存則」を裏付けている法則なのである。ここで、「角運動量」とは「物体の基準点からの変位と運動量(両方ともベクトル)の外積」(したがってベクトルになる)と定義された物理量のことである。ところで、2つのベクトルの外積の大きさはそれらのベクトルがつくる三角形の面積の2倍であるという定理がある。この定理から運動している物体のある基準点に対する角運動量はその物体と基準点が単位時間に描く面積の2倍にその物体の質量をかけたものとなることが導き出せる。したがって、「面積速度一定の法則」と「角運動量保存則」はほとんど同じ内容の法則である。
ここで面積速度をベクトルと考えると(実際、面積速度はベクトルである)面積速度の大きさ、方向それぞれが一定となる法則が考えられるのである。このうち面積速度の大きさが一定となる法則はもちろんケプラーが発表した形式の「面積速度一定の法則」である。一方、面積速度の方向が一定となる法則は先述の「軌道面不変の法則」である。つまり、軌道面とは公転天体の動径ベクトル、速度ベクトルいずれに対しても平行な面のことであり、ここで面積ベクトルを大きさは面積そのもので方向はその面に垂直なベクトルと定義すると面積速度ベクトルの方向はその軌道面に垂直となるのである。したがって、面積速度(さらには角運動量も)の方向が変化しないということはすなわちその軌道面が変化しないということなのである。
したがって、この「軌道面不変の法則」は独立した法則ではなく「面積速度一定の法則」の一部(このように別の法則の一部となっている法則をその法則の「系」と呼ぶ)であると考えるべきである。つまり、「面積速度一定の法則」は「公転天体と中心天体を結ぶ線が単位時間内に描く面積は(軌道上の位置にかかわらず)常に一定である」なる法則であるが、この法則中の「面積」なる語句はスカラーではなくベクトルであると解釈する必要があるのである。
追加する必要があるエネルギー保存則に対応する法則
ところで、物理法則の中でも最も基本的かつ重要なものである「保存則」には「エネルギー」(式E=mc^2から、物質はエネルギーの一形態であることが証明されている)、「運動量」(相対性理論ではエネルギーはこの運動量の一部となる)、「角運動量」の3つ(?)の「保存則」が存在している。したがって、「ケプラー運動」に関する法則にも「運動量」や「エネルギー」の保存則に対応する法則が存在するはずである。このうち「運動量保存則」に対応するものについては、ケプラー運動では連星系の運動を扱う場合以外では公転天体の質量がゼロであると仮定しているのでここでは問題にする必要はない。
しかし、「ケプラー運動」において「エネルギー保存則」に対応する法則なるものはちゃんと存在しているのである。この法則が前にあげた「公転天体の公転速度の2乗と中心天体からの距離の逆数との差は常に一定である」という意味の法則である。しかもこの法則の記述はたいして難しくなく、したがって「ケプラーの法則」の一員として認められて(この法則を認めさせるのが本書の目的の一つだが)当然といえる法則なのである。
しかも、この法則は他のどのケプラーの法則のメンバーとも独立であり(「エネルギー保存則」と「角運動量保存則」が互いに独立した法則である以上当然のことであるが)、したがって実際には「ケプラーの法則」は3つではなく4つの法則から成っているのである。なお、この法則の名称は「ケプラー運動におけるエネルギー保存の法則」あるいは「ポテンシャル一定の法則」にするのが適切であろう。
なお、万有重力による単位質量当たりの位置エネルギーはGM/r(Gは万有重力定数、Mは天体など大きな物体の質量、rはその物体からの距離)なる式で表される。したがって、この法則はGM/r-v^2/2=constなる式で表され、この値は楕円軌道の場合は正、双曲線軌道の場合は負となる。なお、この法則で一定となる値はGM/2a(aは軌道長半径、なおaが等しければ離心率の大小とは無関係))なる式で表される。したがって、この法則を用いるには中心天体からの距離の逆数に重力定数(中心天体の質量に万有重力定数をかけたものをこう呼ぶ)をかけてその次元をそろえ、さらに公転速度の2乗を2で割る必要があるのである。
ここで、万有重力による力や加速度はその源からの距離の-2乗に比例するが、その位置エネルギーは源からの距離の-1乗に比例(「反比例」のこと)することに注意してもらいたい。なぜなら、ご存知のとおり力を距離で積分したものが位置エネルギーであるからだ。また、次元を調べても「エネルギー」=「力」*「長さ(距離)」であり、したがってエネルギーは距離にかかる指数が「力」の場合よりも1つだけ大きくなることが次元解析からもわかる。
ところで、万有重力はつねに引力として働いている。したがってその位置エネルギーは負の値をとるはずである。しかも運動エネルギーには(mv^2)/2なる式で表されるとおり速度の2乗に1/2なる係数がかかっている。したがって、楕円軌道の場合には天体の公転運動のエネルギーよりも万有重力による位置エネルギーのほうがその絶対値が大きくなるのである(双曲線軌道の場合にはその逆となる)。したがって、楕円軌道を描いて運動している天体の全エネルギーは負の値、双曲線軌道の場合には同じく正の値、放物線軌道の場合にはゼロとなるのである。
ケプラーの考えとニュートン力学の考えとの相異
ところで、先述のとおりケプラーは天体が近点付近にいる時間は遠点付近にいる時間と比べて短いと考えたのであったが、この考え方はニュートン力学の考え方とは明らかに異なっている。つまり、ニュートン力学の考え方では天体が近点付近にいるときは遠点付近にいるときよりも速く運動すると考えるのであるが、この考え方は微分を用いた考え方である。それに対してケプラーの考え方は積分を用いた考え方となっている。
このように、ケプラーの考えたことがニュートン力学における考え方と大きく異なっている理由は、不幸なことにケプラーが天体の公転運動に関する法則を発見したときにはまだほとんど物理学(に限らず科学全般)が未完成だったためである。
なお、ケプラーは火星の公転運動の観測結果から火星の公転軌道が楕円であることを発見し、さらには火星がその近日点付近と遠日点付近では公転速度が異なることを発見したのであったが、ケプラーがこのことを発見できたのは火星が地球よりもはるかに著しい楕円軌道(火星の軌道離心率は0.0934、ちなみに地球は0.0167)を描いて公転しているからであることを忘れてはならない。
このように火星の公転軌道がかなり顕著な楕円であることは次のことからも明らかである。つまり、ご存知のとおり外惑星(地球よりも軌道長半径の大きい惑星)は一般に地球から見て太陽と反対の方向にあるとき(「衝」と呼ぶ)に地球に最も近くなるが、火星の場合は「衝」となる位置によって地球からの距離が大きく異なってくるのである。つまり、火星の接近には著しく近づく「大接近」(2003年8月27日の55.76Gm)とあまり近づかない「小接近」(2027年2月20日の101.42Gm)があり、一般に火星が8月下旬に衝となるときには「大接近」となり、逆に2月下旬に衝となるときには「小接近」となるのである。
この理由は、言うまでもなく火星の軌道離心率がかなり大きい(実際、火星の「衝」ごとの地心距離の相異はほとんど火星の日心距離の変化のみで説明できる。)ことと、太陽から見て地球が火星の近日点の方向に来るのが例年8月末ごろであることである。
また、火星は衝から次の衝までの間隔(天体が他の天体と出会う周期を「会合周期」と呼ぶ)が衝のたびごとに大きく異なっているが(火星の平均会合周期は約780日(=2年と約50日)であるが、実際の会合周期は760〜810日の幅で変化している。)、この理由は火星の公転速度や公転角速度が絶えず変化しているからである。つまり、火星は近日点付近ではその公転角速度が大きくなるために地球の公転角速度との差が小さくなり、したがって会合周期が長くなり、遠日点付近ではその逆となるのである。
ところで、「面積速度一定の法則」から近点と遠点での公転速度の比は近点距離と遠点距離の逆比(比B:Aを比A:Bの「逆比」と呼ぶ)となることが直ちにわかる。このことから、近点と遠点での公転角速度の比は近点距離と遠点距離の比の-2乗に比例することが導き出せる。この比は「公転周期の法則」における公転速度や公転角速度の比とは微妙に異なっている。つまり、「公転周期の法則」から軌道が円である場合、公転速度、公転角速度はそれぞれ軌道半径の-1/2乗、-3/2乗に比例することがわかる。つまり、近点と遠点での公転速度の比は「公転周期の法則」から求めた公転速度の比よりも大きくなっているのである。
なお、ケプラーはこの理由の説明までは行っておらず、このことが証明されるのは17世紀末のニュートン力学の誕生まで待たねばならなかったのである。つまり、公転天体が中心天体に近いほど大きな速度で運動している理由は中心天体に近いところほど万有重力が強くなるためではなく、エネルギーおよび角運動量が保存されるためなのである。この事実に関しては、単振動など中心力の大きさが距離の-2乗に比例しないケースについて考えてみるといとも簡単に理解できる。