V.塗料に関する考え方
塗装はしない方が良いという意見があります。
塗料が環境や体にとって悪いというのがその理由ですが、本当にそうなのでしょうか?
冒頭にも述べましたが、別の観点からも一度見直してみては如何でしょうか。
賛否両論について、次に若干の資料を提供させて戴きます。
1)溶剤について
【問題点】
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@VOC関連で、有機溶剤蒸気を大気中に放出する。
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A塗膜中に残存する溶剤が徐々に室内に放出される。
【現状】
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@溶剤系塗料が、最も作業性がよい。
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A溶剤系塗料の方が価格が安い。
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B溶剤系塗料の方が、塗膜物性(見栄え、耐久性等)に優れる。
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C塗装後1日程度で、大部分の溶剤は揮発して無くなってしまうので、問題にならない。
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溶剤臭気は、普通の人では、数日で殆ど感じられなくなりますが、CS(化学物質過敏症)の患者さんは、身体自体が非常に鋭敏なセンサーになっているので、感じてしまう。
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DVOCの問題に関しては、水系塗料や、紫外線硬化型塗料、高不揮発分塗料などが解決策となるでしょう。
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しかしながら、水系塗料の場合、製造するためのエネルギー効率や、製造や使用時の排水処理のコストやエネルギー、製造時の作業性等も考慮すると、エコロジー的に本当に優れているものが何かを再考する必要があります。
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又、紫外線硬化型塗料では、硬化の為の紫外線照射設備コストが高いこと、紫外線が照射出来ない影の部分を如何にして硬化するか等、解決すべき問題点は多い。
2)樹脂について
【問題点】
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@ウレタン樹脂や硝化綿ラッカーでは、含有元素として、炭素、水素、酸素以外に窒素
を含むので、燃焼時、炭酸ガスや水以外に、窒素酸化物等の有毒ガスが発生する。
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Aウレタン樹脂の硬化剤の場合、不純物として含まれる遊離(未反応)のイソシアネートは身体に悪い。
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Bアミノ樹脂塗料の様に、塗膜からホルムアルデヒドが徐々に分解して放出される。
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これは、シックハウスの原因物質とされている。
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Cポリエステル系の場合、原料としてスチレンを含有するので、環境ホルモン成分が極微量だが存在する可能性がある。
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DUV(紫外線硬化)樹脂自体、皮膚刺激性の高いものが多いので、アレルギーになる可能性がある。
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更に、紫外線自体有害で、日焼け(皮膚ガン)を起こしたり、目に傷害を与えるので、保護具などが必要。
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Eポリエステル樹脂塗料やUV(紫外線硬化)樹脂は、未反応の二重結合が残っていると、反応熱が大量に発生するので、塗料かすや、塗料を研磨した研磨粉などは、すぐに水に浸漬しておかないと、発火する危険性がある。
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Fポリエステル樹脂やUV(紫外線硬化)樹脂は、非常に堅い塗膜を形成することが可能であるが、重合(硬化)するときの収縮が大きい(10〜20%)。
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従って、弱い材に塗装する場合には、裏側も同時に塗装しないと、塗膜に引っ張られてそってすまう場合がある。
【現状】
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@火災で発生する有毒ガスに関して、
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乾燥塗膜厚さは、せいぜい数十ミクロン(μm)であり、塗料の樹脂量は数〜数十g/u程度です。
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ウレタン樹脂塗料の場合には、窒素含有量としては、塗膜全体に対して、せいぜい数%程度であり、トータルとしては、1g/uのオーダーですので、他の建材からの発生量の方が遥かに大であり、一概に塗膜が悪いと決めつけるのは差別と思われます。
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一方、ポリエステル系や、油性系塗料では、窒素分を含有しないので、安全性は高いです。
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Aウレタンの硬化剤樹脂の危険性について、
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先にも述べたように、昔は、原料のTDI(トルエンジイソシアネート)が未反応のまま残存しており、これが、揮散し、人体に悪影響を及ぼすと言われてきたが、近年は、製造技術の向上から、有利のイソシアネート成分は少なく、又、残存したオリゴマーも空気中や素材に含まれる水分により分解し、安定な化合物に変化します。
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Bアミノ樹脂塗料では、構成成分としてホルムアルデヒドを含有しており、かつ、反応系自体、可逆反応なので、条件により、樹脂が分解して、ホルムアルデヒドを発生します。
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従って、この塗料は、食器棚など、食品に関する家具や、フローリングの様な室内用建材としては、使用されなくなってきています。
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前者用としては、ウレタン樹脂塗料に、又、後者用としては、紫外線硬化型塗料に変わってきています。
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なお、外部で使用される様なものの場合は、使用されています。
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★ところが、ベニヤ板の接着剤には、いまだに、尿素接着剤(ホルムアルデヒドを原料とする)が使われている場合が多い(特に輸入製品)・・・安いからです。
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従って、安価な家具などには、ホルムアルデヒドの発生量の多い合板が使われます。
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ここで問題なのは、ベビーダンスの様な、使い捨て家具の場合安物を購入される場合が多いのですが、繊細な赤ちゃんの衣類を入れる家具に、もっともホルムアルデヒドの発生量の多い家具を使っていることは大問題と思います。
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アトピーなどのアレルギーの発生が多いのは、これも理由の1つかもしれません。
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3)塗膜について
【問題点】
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@樹脂で覆うことにより、木材のもつ通気性、調湿性などを損なう。
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A合成樹脂ではダメで、自然塗料なら良い。
【現状】
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@自然塗料は木のもつ通気性を妨げないと言われていますが、確かに塗布量が少なけれ
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ば、あまり妨げませんが、たっぷりと塗装すると、やはり樹脂分を有していますので、木の導管を塞いでしまい、合成樹脂系塗料と同様で、通気性は阻害されます。
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又、導管深くしみ込んだ樹脂は、空気との接触が少ないので、硬化するまで、非常に時間がかかります。
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☆表面硬度を上げたり、表面汚染を防ぐために塗装する場合、表面を堅い塗膜で覆う必
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要があります。
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テーブル等では、、食品による汚染を防ぐことを主とするか、毎回、汚れを拭き取り、補修するか、汚れを我慢するか、これも価値判断によります。
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☆桐のタンスは、素材が柔らかいものですが、基本的には塗装されていません。
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外部表面は、との粉の様な粉を付けて磨いています。
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塗膜ではなく、ワックスを塗布する方法もありますが、磨き工程に労力が必要です。
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又、表面が傷等で劣化し易いので、丁寧に扱う必要があります。
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A自然塗料に関しては、塗料自体の安全性、塗装時の安全性、廃棄時の安全性、廃棄時
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の無公害性等が論点になっています。
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一方、価格が高い、塗装時の作業性(が悪いこと・・・乾燥に時間がかかる、塗装に労力を要する)、塗膜自体の弱さ(耐水性、耐候性、耐久性、耐薬品性等)から、メンテする上で、労力がかかる、といった問題点があります。
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自然塗料を使用する場合には、良い素材(従って、価格が高い)の上に塗装することが基本です。
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安い合板の上に塗装しても、その効果は薄いです。
4)薬剤について
【問題点】
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@防虫防腐防蟻防黴剤等は身体に悪いので使わない。
【現状】
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@薬剤により、材の耐久性が向上する。
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人体に影響の無いような使い方をすればよい。
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A安全性の高い薬剤
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天然の防虫、抗菌剤など、安全性の高いものを使用する。
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(例)ピロステロイド:除虫菊の殺虫成分
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ヒノキチオール:檜の防腐、抗菌成分
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樟脳 :防虫成分
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テルペン :森林浴
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等がありますが、天然物でも、過敏な人は、障害を受けます。
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かぶれを起こす漆も天然物です。
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しかし、漆も使いようによっては、丁寧に使えば数百年持つ、非常にすばらしい塗料に変身します。
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結論として、何に重点を置いて選択するかです。
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環境を主に考えるならば、塗装自体しないで、良い木(従って高価)を使う方が良い。
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その分、メンテのコスト及び手間もかかることを覚悟しなければなりません。
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コストパーフォーマンスを考えるならば、適した塗装したものを使えばよい。
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更に、防腐剤の様に、毒性があるようなものでも、使いようによっては、非常に優れた製品になり得ます。
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要は使い方、納得して使いこなす知恵が必要と考えます。
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