チェンバロの 構造
右の写真は、フレミッシュ2段 鍵盤のチェンバロで、リュッカース一族の楽器のレプリカ。私たちが1993年に完成した楽器は、この写真とほとんど同じ(装飾もそっくり)のチェンバ ロです。チェンバロとしては写真のようなピアノに似た形が一般的ですが、プサルテリウムを起源とする、この撥弦鍵盤楽器には様々な形が存在してきまし た。そしてその幾つかは今もなお伝えられています。
「撥弦のしくみ」
ピアノはフェルトで覆ったハンマーが打弦して音が出ますが、チェンバロはプラスティックで出来た数ミリの爪(昔は鳥の羽軸で作られたという)がピア
ノよりもずっと細かい金属弦を撥いて音を出します。右の図は爪が弦を弾く様子を示したものです。
キーを押さえると、キー後部上に置かれた木製のジャックが上がり、ジャック上部のタングについている爪が弦を撥きます。
キーを離すと、ジャックが下がるのですが、この時に再び音が鳴るのを防ぐ為、タングが逃げるよう考案されています。そしてジャックが元の位置の戻る
時にはダンパー・フェルトも弦の位置に戻って振動を止め、音が消えます。この過程には撥弦楽器特有の雑音も発生しますが、それもひっくるめて味わいあ
る“チェンバロの音”と言えるでしょう。
「外装」
ブルジョワの台等と共に発展したピアノと違って、チェンバロは貴族の楽器…高価な家具・調度、あるいは装飾品としての価値も求められていたもので、
金箔を施すなど、非常に贅沢な装飾が施されています。とりわけイタリアン・チェンバロは、比較的薄い楽器を、彫刻など施した豪華なアウターケースに収
める習慣がありました。写真のフレミッシュは比較的シンプルなタイプですが、それでも、蓋裏のラテン語、響版の絵、フレミッシュ・ペーパーやアラベス
ク模様など時代の特徴が見られます。
チェンバロ レッスン
こ のようにチェンバロは贅沢な楽器で、その繊細で優雅な(必ずしも華奢ではない)音色は、頑丈なピアノの音とは異なる響きで、全く別な世界を繰り広げてくれ ます。ただし、ピアノとは撥弦の仕組みが異なるのですから、表現も同じようには行きません。主に弦と響板が鳴るピアノと違い、チェンバロはケース自体が大 きな共鳴体なので、ピアノを弾くときより以上に“響き”を大切にせねばなりません。そして、強弱の差が少ないチェンバロにおける音楽表現は、ピアノと違っ て、強弱よりもアーティキュレーションやアゴーギグに頼ることになります。繊細なタッチと共に、しなやかなリズム感が要求されるのです。古典調律、メ ンテナンスのご案内
チェンバロ等の古楽器には様々な調律法が用いられてきました。それらの古典調律は、近代ピアノに使われる平均率と違って、12の半音は均一でなく、幾つか の澄み切った音程を含み、調のニュアンスが明瞭で透明な古楽器の響きに良く似合います。でも、美しい響きを維持するのは容易ではない!古楽器は近代の楽器 よりもデリケートで、弾く前に必ず調弦する弦楽器のように、ピアノよりはるかに頻繁な調律を必要とするのです。