チェンバロ
(独、伊:Cembalo 仏:Clavecin 英:Harpsichord)

 チェンバロは、ピアノの前身とはい えないものの其の先輩格にあたる鍵盤楽器で、14世紀に遡る長い歴史を持ち、17世紀から18世紀にかけて全盛期を迎えます。19世紀には一旦ピアノに 取って代わられますが、世紀末から20世紀にかけて先ずモダン・チェンバロとして復活します。20世紀後半、音楽学の進展に伴ってイタリアやフランドル、 フランス、ドイツ等の様々な時代の楽器が修復・コピーされ、現在はオリジナル楽器に基づくヒストリカル・チェンバロが主流になってきています。

チェンバロ製作ド キュメ ント

チェンバロの 構造

フレミッシュ2段式チェンバロ  右の写真は、フレミッシュ2段 鍵盤のチェンバロで、リュッカース一族の楽器のレプリカ。私たちが1993年に完成した楽器は、この写真とほとんど同じ(装飾もそっくり)のチェンバ ロです。チェンバロとしては写真のようなピアノに似た形が一般的ですが、プサルテリウムを起源とする、この撥弦鍵盤楽器には様々な形が存在してきまし た。そしてその幾つかは今もなお伝えられています。


        「撥弦鍵盤楽器のいろいろ」

撥弦楽器の色々



中央上:ヴァージナル
左 側:チェンバロ
中 央:多角形スピネット
右 側:翼型スピネット


撥弦のしくみ   「撥弦のしくみ」
 ピアノはフェルトで覆ったハンマーが打弦して音が出ますが、チェンバロはプラスティックで出来た数ミリの爪(昔は鳥の羽軸で作られたという)がピア ノよりもずっと細かい金属弦を撥いて音を出します。右の図は爪が弦を弾く様子を示したものです。
 キーを押さえると、キー後部上に置かれた木製のジャックが上がり、ジャック上部のタングについている爪が弦を撥きます。
 キーを離すと、ジャックが下がるのですが、この時に再び音が鳴るのを防ぐ為、タングが逃げるよう考案されています。そしてジャックが元の位置の戻る 時にはダンパー・フェルトも弦の位置に戻って振動を止め、音が消えます。この過程には撥弦楽器特有の雑音も発生しますが、それもひっくるめて味わいあ る“チェンバロの音”と言えるでしょう。

 「外装」
 ブルジョワの台等と共に発展したピアノと違って、チェンバロは貴族の楽器…高価な家具・調度、あるいは装飾品としての価値も求められていたもので、 金箔を施すなど、非常に贅沢な装飾が施されています。とりわけイタリアン・チェンバロは、比較的薄い楽器を、彫刻など施した豪華なアウターケースに収 める習慣がありました。写真のフレミッシュは比較的シンプルなタイプですが、それでも、蓋裏のラテン語、響版の絵、フレミッシュ・ペーパーやアラベス ク模様など時代の特徴が見られます。


チェンバロ レッスン

 こ のようにチェンバロは贅沢な楽器で、その繊細で優雅な(必ずしも華奢ではない)音色は、頑丈なピアノの音とは異なる響きで、全く別な世界を繰り広げてくれ ます。ただし、ピアノとは撥弦の仕組みが異なるのですから、表現も同じようには行きません。主に弦と響板が鳴るピアノと違い、チェンバロはケース自体が大 きな共鳴体なので、ピアノを弾くときより以上に“響き”を大切にせねばなりません。そして、強弱の差が少ないチェンバロにおける音楽表現は、ピアノと違っ て、強弱よりもアーティキュレーションやアゴーギグに頼ることになります。繊細なタッチと共に、しなやかなリズム感が要求されるのです。
 したがって、ピアノで長い経歴をお持ちの方でも、新たなチャレンジとして始める必要があります。気分を一新することさえ出来たなら、きっとチェンバロの ミューズ達も微笑んでくれます。
 それは全く初めての方でも同じ…ほかの鍵盤楽器の癖や先入観が無い分だけ、速く適応して習得出来るかもしれません。思い切ってチャレンジされる方、大歓 迎いたします。
 チェンバロをお持ちでない方でも、キーボード(ピアノ、オルガン、電子楽器、どれでも良い)さえあれば、レッスンを始められます。レッスンではフレンチ 2段鍵盤チェンバロを弾くことになりますが、譜読み(音符の動きを鍵盤上の動きに映して音楽を作ること)の段階までの予習が出来ていれば、レッスンで、 チェンバロ特有のタッチやアーティキュレーションを習得できるでしょう。楽器をお求めになるのは、少し慣れてからでもかまわないと思います。


古典調律、メ ンテナンスのご案内

  チェンバロ等の古楽器には様々な調律法が用いられてきました。それらの古典調律は、近代ピアノに使われる平均率と違って、12の半音は均一でなく、幾つか の澄み切った音程を含み、調のニュアンスが明瞭で透明な古楽器の響きに良く似合います。でも、美しい響きを維持するのは容易ではない!古楽器は近代の楽器 よりもデリケートで、弾く前に必ず調弦する弦楽器のように、ピアノよりはるかに頻繁な調律を必要とするのです。
 また、ヴォイシング(爪を取り替えて整える作業)や弦張りの必要も出てきます。そのノウハウは覚えられたほうが面白いし経済的でしょう。チェンバロを所 有される方には調律とメンテナンスの習得をお手伝いいたします。


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