(07/7/24) Feb. 2nd からまとめてUPです。
重くてスミマセン、8月発表のCDの録音が終わったら更新します。

一番下へ

□■■ Nov. 29th

同じ言葉を使っていても、伝わらない。
仲間がいない。
どんなに心でつながっていても、そばにいない。
時に、とてつもなく孤独だ。
遠くには存在すると判っているからこそ、尚。
間違ってはいないのだと、知っているからこそ。
そしてそれ故に、誤った価値観に染まることができないことこそが。


□■■ Sep. 22nd

久々に魚達に本物の草をと、
アメリカン・スプライトとアマゾン・チドメグサを買った。
近所にいいのが無かったので、評判の良いネットショップで注文したのだが、
これがまた、見たこともないほどに状態が良い。
しかも、梱包も丁寧で、完璧だ。
草のこと、客のことをちゃんと考えている。
トリートメントもきちんとされているし、モノがいいから、
目で異物を確認して、さっと水で流すだけで水槽に入れられる。
こんなに楽な投入は初めてだ。
他に安い店もあったが
「激安価格を維持するため、イマイチな商品も混ざります」
なんて言い訳がしてある。
混ざります、じゃないだろ。
選別も手入れもしていない、とは。
百均と同じですわな。
「安い」のは一瞬、結果的にはゴミになるだけ。
それは「お買得」とは言わない。
金が無駄になるし、時間は取られるし。
しかし、今の日本人にとって「文化とはそんなもの」。

思うに、知れば興味が湧く。
「興味がない」
というのは、勉強しないからではないのだろうか。
知らないものを見ても、そりゃ面白くないだろう。
「面白くないから勉強しない」
も嘘じゃない?
子供の頃は、何にでも興味を持っていた筈だ。
口に入れたり、破壊したりして、
情報を吸収しようとしていた筈なのに。
「ゲーム」「テレビ」「芸能人」
に対する「興味」は、本当の「興味」とは違うと思う。
何か忘れてないか?

学び始めるのに遅すぎるということは決してない。
人間、死ぬまで勉強だ。
それが判っている人は、ずっと成長して行ける。
「学校を出たら勉強は終わり」
だと思っている人があまりにも多い。
「教える立場になったら、教わるのは終わり」
とか。
そうなったら、本当の意味で終わりだろう。
正確には「停止」だが。
立ち上がって、スイッチを入れるだけでいい。

成長することを拒否する人に限って、
教育のせい、制度のせいにする。
字読めるよね?
本を買う金もないの?
NHKだって、レベルはそれほど高くないものの、
実用性の高い講座を幾つも放送している。
学校出てから、何年経ってるのさ。
いつまで「子育てに忙しい」のん???


□■■ Oct. 11st

「やると決めたら必ずやる」
それには
「やるべきかどうか、慎重に吟味する」
という過程が、大前提として存在せねばならない。


□■■ Sep. 22nd

康夫か太郎か.....
どっちに転んでも大差はないね。
「転ぶ」以外にないのかね。
ま、口には気をつけようね。


□■■ Jul. 24th

John Williams の映画音楽がなかなか無い。めぼしいのが。
「ドラキュラ」が入ってるのってないんかいな〜。
効果音楽まで含んだサントラは、思い入れのある映画以外は怠いし、
できればSACDがいいし..... なんて言うと、20周年記念のE.T.しかないのだ。
これまた音は激烈に良いが、収録内容がかなりイマイチなのである。
ケースにRがついている辺りは私好みなのだが。
まぁ、これ買う人は、昔のサントラ持ってるんだろうが。
私のカセットテープはもうスリキレてるよ。
しかしながら、SACDじゃないと厭だなぁ。

レンタルならCDでもいいかと思って、借りてきた。
やっぱり音はイマイチだった。
一緒に、「決定版」なる「John Williams 集」も借りた。
半分くらい、見ていなかったり、音楽を覚えていなかったりする映画なので、
こちらから聴くことに。
1曲目、ジュラシックパーク。
テレビでしか見ていないし、SF熱は既に冷めていたから、記憶にない。
驚くほどに印象の薄い、しょぼい曲だな。
2曲目、E.T.のテーマ。一応、聴いておくか。
あれっ、演奏が違う。
サントラではないのね。
スコアも若干、違うな。
.....ていうか、音が薄っぺらいな。
何か変だな..... メリハリあらへんで。
〜などと思いながらクレジットを見ると、
「フィルム・スタジオ・オーケストラ」
.....って何やねん!

何が「日本ならではの企画」や。
「全てジョン・ウィリアムズによる作曲」て..... しかも英語でな。
完璧に誤解を狙った表記やないか。
知らん人には判らんぞ。
これを本物と信じて聴いて育ったらどないするねん。
ヘッタクソなスーパーマンやなぁ〜〜〜、びっくりするわ。
あかん、耐えられん、止めよ。耳が悪くなる。
今時、こんな詐欺音源あるか?
…そう言えば、この前借りた「サンダーバード」もこんなんやったわ!
誰が「中国産」を批判できるか。
このCD、Amazonジャパンで売ってるの見たことあるで。
恐ろしいわぁ〜〜〜。

偽物しか見たことのない人には、ものの価値が判らない。
芸術も、ものづくりも同じ。
「天才」「実力派」と騒がれていても、本物はどこにもない。
発掘する側は、諦めて基準を下げているのか、それとも、本当に判らないのか。
この国を潰しているのは、政治家だけだろうか???


□■■ Jul. 23rd

お笑い芸人が面白くあり続けるのは難しい。
新人のうちに売れた場合は、尚更である。
売れた原因が「面白さ」ではない場合、先には地獄しかない。

初心者故、失うものが無い故の「勢い」が受けただけなのに、
丸腰状態のまま、守りに入ってしまう。
流行故に受けている、面白くもないネタにしがみつく。
熱が冷め、我に返った観衆を引き留められる訳がない。

生き残る方法は3つしかない。
本当に面白くなるか。
潮流を敏感に感じ取り、その都度、順応するか。
催眠術を駆使するか。
笑いの指標になるのだ。

大衆は中身など見ちゃいない。
 「あの人が言うから笑わなきゃ」
 「字幕が笑うように出てるし」
アタマ使って生きていないから、脳トレなんかが流行るんだね。


□■■ Jul. 22nd

安倍ちゃん、がんばっているのね。
「ちゃん」としか呼べんし、平仮名でしか労えんわ。
滑舌悪いし、弁が立たんし、オーラないし。
おかしな日本語で語る「美しい日本」は、何を指すのやろう???
自分が判らないから、敬語を分類しなおすんでしょう?
そんなことして、簡単になると思う?
バカじゃね?
単純な筈の英語が何故、使いこなし辛いか判らんの?

「壊れた日本語指摘ブーム」である。
ちょっと下火になって来たかな?
半年ほど前だろうか、本屋にずらりと並んだ、批判本、指摘本。
多くは言語学的ではない。
文学的でもないと思う。
「〜〜の方」を誤りとするなら、「こちら」も誤りである。
同じなんだから。
ここで詰まるような奴は、筆取るな。
比較対象が無いから「方」が間違いだと言うなら、古文を勉強しなさい。

日本語には、話に登場しない要素が多く存在する。
1つしかないものを直接、指すぶっきらぼうさを嫌って、
他の選択肢を仮定として登場させるから「方」。
聞く側も、その見えない心遣いを感じ取る。
それが、日本の「間」。
今時、歌手や役者でないと「間」は見えないのだろうか。
残念ながら、海外でも優秀な表現者は、絶妙の「間」を持っているのである。
パワーだけの人との違いは、その有無と言ってよいかも知れない。
聞き手にその「間」の間隔がなければ、
その明確な差すら判らないのだろうな。

「お申し付け下さい」
なんて変な表現も、昔は話に登場しない人がいたから存在した。
「仰せ付け下さい」
と言えない大人は、もう口開くな、と言いたいが、
言語を取り巻く社会の構成が激変し、
それら美しかった筈の敬語にそぐわなくなってしまった。
国民の言語運用能力や語彙力が下がっているのだから、
「再分類」なんて無意味なこと止めて、変えてしまえばいいじゃん。
廃止にしていいものもあると思うよ。
「再分類」する位ならね。
ね、安倍ちゃん。

読売新聞 朝刊の広告欄
のけぞる。
森林がどうのこうの書いてあったが、余りの衝撃に忘れてしまった。
なんたって
 「日本は古来より.....」
だもん。
なんたって
 「政府公報」
だもん。
美しいね.....
がんばったのね。
でも、一言、ダメ出ししていい?

 「この非国民が!!」


□■■ Jul. 17th

数日ぶりの雨上がりの朝、キョンの主張でお散歩コースを変える。
池一面を覆っている筈の浮き草は風に吹かれて岸に寄り、
真ん中辺りにあったカイツブリの巣は、手前の草むらに流されている。
露出した水面に、しきりに何かが跳ねている。
雨粒ではない。
魚???
雨に巻き込まれて底に溜まった気泡???

カイツブリの親が、我々から遠ざかりながら一声、鳴いた。
スズメほどのおチビが3匹、追いつくと親鳥は羽を緩めた。
子供達がその隙間にいそいそと潜り込むと、安全な場所へと泳いで行った。
3つもよく入るな。
時折、背中から小さな頭がのぞく。

水の中にゆらゆらとした影が見える。
.....魚だ。
ほら、向きを変えた!
真上にジャンプして、頭部を出しているのだ。
酸素不足、、、それはなかろう。
普通の魚は肺呼吸しないから、水より上に出る意味がない。
思い当たる現象はと言えば、水面近くの虫を捕らえる為に飛ぶ熱帯魚くらい。
それにしても、おびただしい数である。
何だか、白いぞ。
半分黒くて、半分、白い.....
裏表があるという感じ。
妙にずんぐりしているな。
あ..... オタマジャクシだ。
丸い頭を空中に出しては潜り、を繰り返しているのだ。
何じゃい、そら。
そんなん、聞いたことないぞ。
蛙になりかけているなら、肺呼吸もするわな。
ジャンプもできるじゃろ。

夕方の散歩の時にも、まだやっていた。
翌日、また浮き草が池面を覆っていた。
あの現象は、あの時だけだったようだ。
何だったのだろう。
台風の直前だった。
中越沖地震.....?


□■■ Jul. 13rd

君が代の伴奏を拒否した職員の処分は問題ないのだと。
「公に奉仕する公務員は思想の自由が制限される」とな。
ほぉ〜〜〜〜〜っ。
影響力の大きいマスメディアは何やっても「表現の自由」なのに?
しかも、その判決を「当然と思った」などと社会面で堂々と書く新聞。
それも「表現の自由」かな。


□■■ Dec. 30th

勉強して何かが判るようになると思ったら、がっかりします。
勉強すればするほど、先はまだまだだということが判るだけ。
果てしない道が見えるだけ。

未熟であることを恐れる必要はない。
同時に、開き直ってもいけない。
人間、死ぬまで勉強なのだから。

歳を取ろうが、高い評価を受けようが、関係ない。
人は死ぬまで成長して行ける。
それは、身近な人達が教えてくれるもの。
そして、自分も教えて行かねばならないもの。

何故、歌は特別なものだと捉えられてしまうのだろう?
声なら誰でも出せるからだろうか。
歌なら誰でも歌えると思うのだろうか。
簡単なのだから、出来なくてはいけないと思うのだろうか?
他の楽器と同じなのに。
遊びで弾くことは出来ても、勉強しなければ判らない。
我流や見よう見まねでは前に進めない。
評価する側が素人耳だから、判断基準がメチャクチャなだけなのだ。
「音楽ができる」中には、歌が含まれている必要はないと思う。
歌が判ることは専門の技術であって、音楽家だからと言って、
その良し悪しを判断できたり、指導できたりしなければならない訳ではない。
「専門じゃないから判らないよ」
でいいのに。
その為に専門家がいるのだ。
自称作曲家だの、編曲家だのが
「歌は指導しますから」
と言って歌手を募集していて、素人歌手に歌わせた曲を発表したりしているが、
まともな歌なんてありゃしない。
虚勢張らなくていいのに。
「歌を教わっている」
と勘違いしている歌手にまで迷惑を掛けていることになるじゃないか。
大事なのは、己を知ること。
しかも、キャラクターでO.K.なタレントとは違う側にいるのだから、
自分に足りないものを自覚していなければならない。
音程が高いとか低いとか言う位なら、耳のいい小学生にでも出来る。
音程しか判らない人が、どうやって歌の指導をするの?
不幸なことに、作曲家は歌のことを何でも知っている筈だと期待されているから、
歌手はインチキ指導者にも盲目的に追従してしまう。
自称だろうが本物だろうが、
「音楽教師」が「歌の教師」とは限らない。
他の職業と同じように質の差もある。
現場のプロだって、判らないものは判らない。
それでいいじゃないか。
判っているフリをする必要も、判らないことに対して引け目を感じる必要もない。
判らないと言ってしまえばいい。
「こうだと思うんだよね」と、想像で言ったことが
相手にとっては「プロの意見」になってしまう。
こと、歌になると、プロだから歌のこと位、判っている筈だ、
故に正しい、ということになる。
更に伝聞になると「思うんだよね」は消えてしまう。

音痴矯正ソフトなんて要らない。
音程を直し、制作者の注文通りに歌えるように導く、そんなのは簡単なことだ。
専門家ならば当たり前の技術である。
声を聴けば、その人がどういう体の使い方をしているかが判る。
どんな姿勢で歌っているかは勿論、その都度、何を考えているかも判る。
だから、糸を引くように操れば、その人の体に乗り移って歌うことが出来る。
私は、あまりそういうことはしたくない。
こんな指導でも、カンのいい人なら多くを学ぶことが出来るだろうが、
、歌い手自身のためには、あまりならない。
すぐにでなくてもいいから、今後の練習の中でじわじわと理解出来ること、
自分で問題を見付けるヒントを与えてあげたい。
現時点での声の良し悪しや声量な、ど全く問題ではない。
その人の中に哲学さえあれば、自力でどこまでも昇って行けるからだ。
勿論、金の出所と時間的制約によってはなかなか叶わないこともあるが、
虎の巻を見せてあげるのではなく、辞書の引き方を教えてあげたい、
九九の暗記ではなく、足し算を教えてあげたいのだ。
それはきっと、近年の学校を含めた教育と相反するものだろう。

人は、己を過大評価していると同時に、過小評価している。
現在の実力の低さにも、逆に高い潜在能力にも気付かず、
今ある姿を「個性」として受け入れている。
潜在能力というのは何も、咲かないかも知れない花の種ばかりではない。
英語の「R」なんて教えればその場で出来てしまうし、
本人すら驚くような高い声が出たり、美しい声が出たりする。
自力でいつでも使いこなせる訳ではないから「能力」とまでは言えない。
言わば、設計図のない状態の部品だ。

フィギュアスケートの安藤美姫は、「帰って来た」のではない。
一山越えたのだ。
去年とは体が全然、違うじゃないか。
迷い云々というのは、結果であって原因ではない。
「表現力」というものが地道な基礎の積み重ねでしかないことの良い証明だ。


□■■ Dec. 29th

あ、11日に胃カメラを飲んだ話で
「空気を入れるのでお腹が張るが、オナラをすれば治る、と書いてあった」
と書いたが、オナラじゃなくてゲップだった。
そんなの出た記憶がないなぁと思っていたら、そりゃそうだ。

「表現力」とは何か。
その内訳は、
「表現する内容」
と
「そのための技術」
である。
どちらにも目もくれずに、「表現力」という魔法に目を輝かせる大人達よ。

魔法に見えるワケを教えてあげよう。
それは、水面下にあるからだ。
氷山の一角を押し上げている、見えない部分だからだ。
盲目な現代人には浮いた氷の一部しか見えないというのなら、
それは四次元の世界にでもあるように映るのだろう。
それを汲み上げるのが、カンであり、ひらめきなのだ。
訓練とは、浮いている部分を少しでも多くすること。
膨大な氷の塊から最もふさわしい一部を探し出し、組み合わせる瞬発力が「天才」。
塊の大きさそのものをそう呼ぶのではない。
小さな塊からは、矮小な「作品」しか生まれない。
「天才」に生まれ落ちても、「天才」として育つことが出来るとは限らない。
「天才」として生まなかった我が子を「天才」に育て上げることは出来ない。
「天才」の意味を知らない人が、他の現象を見違えるのは仕方がない。
だが、子供を不幸にするのはよくない。
「天才」は子供を幸せにしない。
むしろ、不幸にするだろう。
「天才」というパズル完成には「不幸」という1ピースが不可欠なのだ。
「天才」は、親を金持ちにし、親戚を幸福にするかも知れない。
「天才」の偽物も同様に。

「天才メーカー」的な塾や本があるが.....
どんな子をも天才に出来ると謳っていれば、それは詐欺と思っていい。
正確に説明するならば、
「天才の芽があれば発芽率を究極まで上げられますが、芽が無ければ発芽しません」
ということであり、
「天才でなくとも、ぼーっと育てるよりは『ぽく』してあげますよ」
だろう。
実際、子供の天才を見抜ける大人なんていない。
非天才を天才と見紛う大人も多い。
他の可能性を封印してしまう恐れがないのであれば、
より沢山のことを学び、脳を活性化させてやるのは良いことかも知れない。
ただ、それにもやり方があり、幼い脳には非常に危険かも知れない。
いずれにせよ、大人達には何も見抜けない。
取り返しのつかない大きなマイナスを生むよりは、何もしない方がいいんじゃん。
地道でも、自力で前には進めるからね。


□■■ Dec. 28th

「個性」なんて誰にでもある。
大人が騒いで「伸ばす」だの「発見する」だのというものではない。
そんなに眼力のある大人なんて、そういない。
それは正に「天才」に属する部類の人だろう。
そうでもない凡人が子供達の「才能」を決定付けたり、
アドバイスしたりすることの引き起こす惨事は計り知れない。

芸術に必要な「個性」とは、偶然に持って生まれた「個性」とは違う。
スーパーで値切るおばちゃんの個性的なダミ声が音楽的ですか?
そりゃ、そのおばちゃんが死んだ後、親戚が聞けば泣くだろう。
子供が聞けば、勉強しなくちゃと思うだろう。
それは「表現」ではない。
勉強により「個性」が失われると思っている大人がいるが、
それは、何事をも成就したことのない人達である。
学ぶことによって失われるような「個性」は変なクセでしかない。
アーティストの「個性」とは思考であり、哲学であり、世界観である。
物事を奥まで見通す眼である。
無関係に見えるものと結びつけるカンである。
それを表現する為に、技術がある。
技術が気になって表現が疎かになるのなら、圧倒的に訓練が足りないのである。
それしきは自然に使いこなせて初めて「表現」なのである。
幾つもの技術を同時に使い、体の色々な部分をコントロールできなければ、
その時々にひらめいたものを瞬間に表現する事など、夢のまた夢なのである。
「そんなこと、無理だよぉ〜」
そうだね、そう言う人には無理でしょう。
誰もが医者になれないのと同じ。
「個性的な声」や「個性的なキャラクター」の持ち主は、
本人でなく、その人を素材として使う側がアーティストなのだ。


□■■ Dec. 27th

「宇宙開発はロマン」だと。
私は訊きたい。
生命が発見されたとしたら、宇宙「人」なのかどうか、どこで識別する?
相手が本当に知的で賢明なら、
我々が欲深く、利己的な種でないから友好関係を築くべきだと主張できるか?
我々よりも遙かに下等に見える生き物だったらどうする?
我々が「ペット」や「家畜」と見なすものに近かったら、どうする?
「人」かどうか、どう分ける?
言葉を使うかどうか?
現に我々は、地球上の生き物の言葉を理解できないで、
彼等に言葉が無いと思い込んでいる。
ヒトが最も賢いと信じている。
盲人の持つ感性も持たない盲目の我々が、猛り狂って刃物を振り回している。
そして、宇宙へ向けての目隠しダーツ。
無論、世界のトップや研究員達は同じ感覚ではないだろう。

マインドコントロールは恐ろしいと震える君。
そうだね。
人がされているのを見るのはね。
でも、どう?
自分がその中にいると、判らないでしょう。
むしろ、心地いいんじゃない?
庶民は企業と官僚の家畜。
国家は巨大なカルト組織。

欲望を抑えるための「理性」とは、人間だけが持つものとして崇められている。
何故、目を覆うのだろう。
猿にも、犬にもあるよ。
それは、本能の一部だからだ。
欲は、生きる為に必要だが、度を超すと危険を招く。
そう言うと、今度は必死に反抗するのだ。
「人間ほど強い理性を持つ生き物はいない」と。
それはそうだろう。
欲望の大きさが半端ではないのだから。
そして「強い理性」を以ても尚、抑えきれないヒトの欲望とは、
どれほど、深く、おぞましいものか。
考える度に、身の毛がよだつ。

地球をひとかじり、もうひとかじり。
大丈夫、まだ沢山あるから。
私ひとりが我が儘言ったって、きっと大丈夫.....
誰もがそう思って、こうなった。
「私1人ぐらい」
それは、とてつもない巨人。

「罪を憎んで人を憎まず」
「欲」を憎んで人を憎まず。
醜いことは「欲」のせいです。
本当は清い人間なのです。
.....都合のよいものを考えたね。
生き物の営みに必要な本能である食欲、
排泄欲などと同じ字を当て、紛らわせるとは。


□■■ Dec. 25th

5年ぶりの東京は、やはり異常だった。
あんなのは、地球ではない。
それに気付かない人の群れを見ると、やるせないというよりも、恐ろしい。
何故、自分のことしか見えないのだろう。

「集団知」という言葉が流行っている。
そんな「知」は存在しない。
むしろ、「集団無知」であることに気付かなければ、
世界は大変なことになる。


□■■ Dec. 11th

革命。
戦争。
平和ぼけ。
衆愚政治。
歴史は繰り返されている。

いじめ、いじめというが。
大人達は、いじめの意味を知らない。
暴れている奴はほっとけ。
泣いているのも取り敢えずおいとけ。
泣きも暴れもせず、ヘラヘラしているのを見付けろ。
逃げ場のないその子は、どの瞬間に死んでもおかしくない。
生すら始まっていないから、死ぬこともできない。
傷つけられ続けたその子が誰かを突然傷つけたとしたら、
咎めることは出来ないだろうから。

「鯨を食べることは偉大なる歴史であり、文化である」
というアンタは、当然、牛肉なんか食べないのだろうね。
そもそも、漢字なんか使わないのだろうね。
.....食人族にでも食われとけ。

文化、文化と。
人間の「歴史」なんて、地球の歴史の上で、アリンコほどでしかない。
片足で踏み潰してもいいくらいのもんだよ。

女性ニュースキャスターが新聞に寄せた文章のタイトル。
「法改正は文明の否定」
女系天皇を認めることは、文明の否定になるのだと。
「文化」と言いたいの???
もうちょっとマトモな人かと思っていたのだけれど。


□■■ Dec. 10th

キョンがうんこを食べるのだ。
食糞は、特に異常な行動でもなければ、問題でもない。
そりゃそうだ。
鹿の子ちゃんも、子供達も食べていた。
だけどさー.....
その口でチューしてくれるのよ、君は。
ま、君のうんこは食べられる。
道ばたのうんこは食べちゃダメだよ。
みんなの食べている餌は危ないからね。

「いのちにいいものは髪にもよい」
「○○含有成分配合」
とはまた、念入りな遠回しだね。
天然ですらないことをそう言い換えれば、馬鹿な国民は騙せるということかな?
「いのちに悪いものは髪にも悪い」
いいものがいくら入っていても、悪いものが少しでも入っていれば、それは体に悪い。
いいのか悪いのか、それは裏に書いてあるよ。


□■■ Nov. 28th

遂に胃カメラを飲んだ。
「消化器の中は見ないと判らない」と聞いていたので、
いつかは飲まねばと覚悟していた。
否、去年の冬に飲むかと言われていたのだった。
私はカメラを飲むつもりだったが、
胃の方はCTで、大腸にカメラを、と。
腸か、大変そうだな。
アレルギー体質はCTの造影剤の拒否反応が出易いから、造影剤なしで。
考えて来ますと逃げ出すと、前で待っていたおばちゃん2人が、
「腸検査は辛いなぁ.....」
「ほんまや、腸検査はいらんわ.....」
と、実にリアルに語っていた。

検査をするならここではなく、電車で30分のあの病院。
どうせそこまで行くなら、他にも受診したい科が幾つかある。
早く行けば2つ位受けられそうだな。
それには、キョンの散歩を休む雨の日にしよう.....
何だかんだと理由をつけながら1年近く、ずるずると引き延ばしていたのだった。

いざ、行ってみると、エコーとX線検査の結果、
「大丈夫でしょう」って。
それでも疑り深い私は、直接、見ていないものを大丈夫とは信用できない。
それに、検査で「大丈夫でない」言われてからでは、遅いんじゃないか?
「大丈夫でしょう」は「安心」という意味ではなく、
「とても心配という訳ではない」程度でしかないのではないか。
もともと検査の予約のつもりで行っていたので、
「心配ならカメラ飲んどきますか?」
の問いに、
「飴たべる?」
と訊かれた子供のように元気に頷く私であった。

さて、検査前夜は9時から絶飲食で。
これが辛い。
精神的に。
喉がカラカラで苦しくて目覚めることの多い私には、
「絶飲」が実に辛い。
うがいをしたり、喉を湿らせたりする程度は構わないので、
実際には、さ程の拷問ではないのだけれど。
夏の手術の折、キョンにもさせたことなので、今回は気分的に楽であった。

検査当日、予約時刻5分前に到着した。
思いの外、受ける人がいるもので、検査室の前は一杯だった。
壁に貼られた説明を見て、初めて段取りを知る。
だって、細かく調べたって、コワイだけじゃないか。
その場で全てを受け入れる覚悟さえあればそれでいいのだ!
最初に
「注射をします」
えっ、そんなの想像していなかったぞ。
予告無く出されると引くなぁ。
「喉にスプレーをするか、ゼリーを飲むか」
をするらしい。
麻酔と潤滑剤を兼ねているらしい。
ゼリーの場合は、一気に飲まずにゆっくりと、と書いてある。
「この時点で気分が悪くなったり、異変を感じたりした場合は告げるように」
なんか、大層な話だ。
帰ろうかなぁ、という気になって来た。
だって、医者はやらなくていいと言ったんだもんね。
「胃の中に空気を入れますので、お腹が張りますが、オナラを出せば治ります」
おいおい、そんなの聞いてないよ。

ミュージカルの歌の指導をした時、演出の大澤先生が
「痛くて暴れているところを2人がかりで押さえつけられ、飲まされた」
とオーバーに語っていた。
それはそれは痛い、と。
私が飲もうと決心したのは、今年の春頃に見たテレビの企画で、
アナウンサーが楽そうに飲んでいるのを見たからだった。
幸い、私は喉の開きをコントロールすることが出来る。
普通の人よりは幾分、マシに違いない.....
が、中からはゴホゴホと苦しそうな、
おっちゃんの大きな咳が聞こえて来るではないか。
大丈夫、私はきっと大丈夫.....
随分、待ったように感じたが、20分ほどだった。
遂に、私の名が呼ばれた。

まずは、注射。
「ちょっと痛いですよ〜」
これは痛そうだ。
「ちくっとしますよ〜」
なら
「そんなに痛い注射じゃないけど下手でも文句言うなよ」
の意である。
針が刺さるのだから、ちくっと位は当然だ。
だが、「痛い」は違うだろう。
朝から晩まで初対面の人間の腕に針を刺している人が敢えて言うのだから、
こりゃちょっと痛いのかと覚悟をしたのだが、丸っきり痛くない。
刺さった感覚も無い位だ。
上手いな、この人。
針を抜く時にいっちょ上がりとばかりに「ポンッ」と角度を変える奴がいるが、
あれはその場でシバキ倒してやろうかと思う。
.....は、どろりとした妙な液体を飲まされる。
バリウムなどは味がついていると聞くが、これは何味だろう?
いちご? バナナ?
.....にがっ、まずっ。
そのまんまやないかい!
「口を閉じておいて下さいね〜」
と、ニードルクイーンは姿を消してしまった。
口を閉じたまま、ぼ〜っ.....
今飲んだのって「ゼリー」?
暫く大人しく待っているが、不意に思い出した。
「ゆっくり飲み込んで下さい」と書いてあったな。
飲まなくちゃいかんの?
それとも、待っとくん?
クイーンは向こうで忙しく動き回っている様子。
どないしたらええのん?
飲んでから効き始めるまでに時間がかかるなら、
待っていてはいかんだろうし.....
すぐ横で、別の看護師がパソコンに向かっている。
斜め後ろでキョロキョロしている患者には気付きそうもない。
彼女に問い掛けるのも、口を閉じたままだから「ふんふふ〜ん」だよな。
ちょっとオカシイよな。
「ふんふふ〜ん」はオカシイ。
喉に豆を詰まらせたサザエさんじゃあるまいし。
次第にアゴがだるくなって来た。
ヨダレもたまって来たのかも知れない。
クイーンが帰って来るる気配もない。
仕方がない。
勇気を振り絞って
「ふんふふ〜ん!」
実際の音は
「ほんほほ〜ん」
に近かったかも知れない。
いや、
「ホェ〜ホェホェ〜〜〜」
だろうか。
意を決して、この上なく情けない「すみません」を発した私を、
隣にいた彼女は日常茶飯事のように振り返り、
「あ、まだ!」
と席を立った。
ストップウォッチを見に行ったのだろう、
「あと2分!」
と言った。
「喉だから、上を向いて」
と言われ、やっと理解した。
あ、接触した部分を麻酔するのね。
言うてくれんと判りまへんわ。
間もなく帰って来たクイーンが
「ゴクリと飲んで下さい」
ゆっくりと違うんかぃ。
まぁ、ゴクリと飲み下せる代物でもないがの。
言われた通りに一気に飲んだつもりではあったが、
既に麻酔が効き始めていたせいか、
とても鈍いスピードで下っていく感触があった。
決して食品ではないと判っているマズイものを飲み込んだ感想は、
「不愉快」
以外にないもんだ。

「大丈夫ですか」
との問いに声を出さずに頷くと、検査機のある仕切りの向こうに招き入れられた。
喉の感覚は麻痺し、明らかに麻酔が効いた状態だ。
唾を飲み込むのも一苦労、という感じだ。
喋ることもできない..... と思い込んでいたが、言葉は普通に出るのだ。
だが、どうも喋れないような気分なので、
幾つかの質問に対して手振り身振りで答えていた。
時折、「絞り出す」ような感覚で発する自分の声が、
いつもと何ら変わらないことに気付くと、マヌケな気持ちになった。
持参したタオルを枕の上に敷き、左を下にして横になる。
いよいよか。
カメラは、私が想像していた「コードの先にLED球のついたようなもの」ではなかった。
黒いチューブの先でバラけたファイバーの先が赤や青にギラつきながら、
口の中..... いや、消化器官へと進入しようとしている。
何ちゅう恐ろしい.....
エイリアンやないか。
「力抜いて下さ〜い」
力抜くっちゅうかね、取り敢えず喉開いときますわ。
後はあんじょうして。
おえ〜っ、おえ〜〜〜〜〜っ。
ともなりますわ。
クイーンが飛んで来て、背中をさすりながら
「しんどいですね」
といたわってくれる。
やっぱり女性やね。
ここは、いくら美形でも甘い声でも男ではいかん。
こういう時に人がすがるのは「母性」なのだろう。
そんな発見に感心つつも、「おえ〜」は「おえ〜」である。
管は入り切った様子で、動きが穏やかになった。
「力を抜いて下さい、力を抜いた方が楽ですよ」
ん? 力抜いてないか?
意識して抜いてみる。
言われてみれば、喉以外は力を入れていたようだ。
いつも思うのだが、こういうのって、
筋力トレーニングの勉強なんかをしたことがない人に判るのだろうか?
あと、検査する時の「息を吸って、吐いて」は、何式でやればいいの?
大きく呼吸する時は自動的に腹式になってしまうけれど、
普通の人はどうするのか、どうしろと言われているのか、私には判らない。

力を抜くためにキョンを思い出す。
右手の当たっている腿の辺りをキョンの頭と想像し、なでてみる。
夏に手術をしたキョンの不安を思えば、何てことはない。
見ようと思えば、カメラの映像が見えただろう。
だが、敢えて見ない。
妙なもんが映っていたら厭じゃん。
後、どれ位かかるのだろう。
ふんふん言いながら見ているな、問題があるから見ているのか?
問題がなくてもじっくり見るよな。
どっちにしても、すぐには抜いてくれないわ。
時折、少し引き抜かれたり、押し込まれたり、ぐりぐりとねじられたりする。
その都度、痛みを伴う表現し難い不快感に襲われた。
みぞおちを殴られるのと、下痢の腹痛の間のような。
.....あのさ〜、ヒトの体の中に管入ってまんねんで、知ってる?
実験に使われる動物たちの痛みに同調する。
いや、この程度である筈がない。
彼等に対しては麻酔も無ければ、体を傷つけないようにとの配慮も無い。
実験が済めば、ただのゴミなのだから。
考えるのはよそう、今は。
リラックスしなければ。
そう思いかけたが、中断するのを止めた。
目を背けるべきではない。
こんな時にこそ。
キョンと他の犬達、実験動物たちに思いを馳せながら、試練の時は過ぎて行った。

結構時間が経ったと思うが、まだだろうか.....
「つばが溜まったら、飲み込まずにタオルの上にダラダラと流して下さい」
と言っていたな。
ダラダラどころか、何も出て来ない。
まだこれから、ダラダラ出るのだろうな。
検査員が手許で管を操作し、シュウシュウと音がする。
きっと空気を入れているのだろう。
何度か入れられているが、「張る」という程ではない。
きっと、まだまだなのだ。
管を伝い、冷ややかな異物が入れられる感触もある。
それは、麻酔や造影剤と同じ、「異物に侵入される不快感」である。
ヨダレも出なければ、腹も張らない。
「まだまだ」だと判断していた折、突然、終わりの予感が訪れた。
ちょっと出しては入れ、の繰り返しだった管が、長〜く引き抜かれたのだ。
大過な期待を抱かないように観察していると、
目の前に伸びた管には金色の目盛りが刻まれており、「40cm」という文字が見えた。
おおっ、これは浅い。
普通に40cmと聞けば随分、長い気がするが、
とにかく、体の中に入るものと言えば長いのである。
どこまで入れるねんという位、入るのだ。
40cmなら、もうすぐそこに違いない。
「終わりましたよー、抜きますからねー」
声と共に、残りがゆっくりと引き抜かれる。
最後は、本能的に自分で頭を後ろに引いてしまいたいのを、ぐっとこらえた。
生き物の触手のような管の先が、光りながらギャオースと飛び出した。
先生、最後はちょっと手を添えて丁寧に抜くとかして貰えませんかねー.....
きたね〜だろうけどさ、いてぇから。

「だいぶ荒れてますねー」
がっかりと共にナットク。
長年、こんな商売ばっかりやっていて、
胃が綺麗だなんて言われたら藪医者めと罵らなければならないところだ。
「はぁ、ほーれすか」
相変わらず、ろれつが回らないかのような返事をし、うがいに行く。
下を向いたままうがいをしろと言うし、洗面所にもそう書いてある。
うがいって、下向いたままできるか???
喉が気持ち悪いのに。
下を向いたまま、ポンプのように水を吸い上げてみる。
しかし、ガラガラは出来ない。
あがく内に、スプーン一杯分ほどの水を飲み込んだ。
もしかして、水を飲んではいけないの???
麻酔が残っていて、倒れると危険だからということなのだろうが、
「検査後、1時間は飲食しないように」
とあった。
え? え? まー、いっか。
検査の前などにも訊いておきたいことがあったのだが、
気力をそがれ、訊きそびれてしまったことが幾つもあった。

1時間後に食事、午後からは結果を聞くための診察の予約がある。
午前の残り時間を利用して皮膚科を受診し、
前から訊きたかった些細なことを2、3確認した。
食事にサティへ出向くものの、喉も胃の中も気持ちが悪くて食欲が湧かない。
予定なら12時半から食事が出来るのだ。
リビングのコタツ布団を探していたので、布団売り場を回る。
結構、いいのがあるじゃん。
オカンにメールをすると、後から来るという。
40分位になってから、セルフサービスコーナーのラーメンを食べた。
途中で気持ち悪くなりそうな予感がしていたが、
食べ始めると、どうということは無かった。
が、薬のせいか、一時的に下痢に襲われた。
病院に戻り、英語ホームページの下書きをしながら待っていると、
担当医師の診察が1時間、遅れているとの告知があった。
1時間はキツイな。
受付に3時頃に戻ると告げて、サティでオカンと落ち合った。
あれこれと見ながら、
さっきのラーメン屋で貰った隣の店の割引券を使ってコーヒーを飲んだ。
オカンを残して病院に戻ると、10分も待たない内に診察室に入ることが出来た。
「胃炎で胃下垂ですね」
あっ、そう。
「逆に安心、ということですが」
まぁ、そうね。
今後、予防してりゃいいもんね。
「薬、出しときましょうか?」
選択肢のあるもんなの?
市販の胃腸薬のような気休めなら要らないんだけど。
百害あって一利なし、だもんね。
薬を貰うつもりでいたのだが、出ていなかった。
気付いた時の病院を出た後で、再びサティへと向かっていた。
オカンと再会し、品物を決め、食品売り場で少しだけ買い物をした。
この日、待ったのは最初の検査の前だけではないか?
病院って、こんなに待たなくていいものなのだ。
「ちょっと出て来ます〜」
と言って出掛け、帰って来たら受付に言えばいい。
普通に待っていたら、1時間や2時間はザラである。
日本という国は、喋らなくとも生きて行けるけれど、喋った方がオトクだ。
過度の自己主張は必要なくとも、コミュニケーションは出来た方がいいね。


□■■ Nov. 19th

大きくなれば、親の苦労がよく判ると言う。
同時に、親の過ちにも気付くということを見逃してはならない。
親自身が決して気付かない、
かと言って口に出せば終わりというような過ちに。
子供は大人が考えるほどに馬鹿ではない。
大人ほどに忘れっぽくもない。
自称仲良し家族、理想の家庭が崩壊するのは、
子が嘘に疲れた時かも知れない。


□■■ Nov. 2nd

受験に必要ない科目を真面目にやるのが損だと言うなら、
学校なんて辞めればいいと思う。
真剣に物事を学んだことのない大人の
「学校の勉強なんて社会に出たら役に立たない」
という言葉を真に受けるなら。
普通にやってただけで、何が損やねん。
むしろ、他の科目をちゃんと習えなかった生徒の方が気の毒な位や。
気持ちは判るが、しょーもない言い訳に逃れて欲しくない。
高校3年間で間に合わない大学受験なんかないねん。
それで落ちるんなら、どうやっても落ちるのよ。
浪人して合格するのは、時間掛けたからと違うのよ。
受験生なら判る筈だけどね。
まともに受験してない特別な方々には判らんのもムリないか.....

大人がちゃんと説明してやれなくてどうすんねん。
ルールを守って努力することが馬鹿ばかしいことかい?
世の中に出たら、こんなことはざらにあるぞ。
そんな時に自分の誠実さを誇れずに、
ただ損をしたと思うような大人になったらどうするねん。
たとえ目に見えなくとも、努力は無駄になどならん。
才能は、その人の能力の氷山の一角やねん。
水面下の大部分があるからこそ、浮いて来るのや。
現代人は、浮いてる部分だけを磨こうとする。
沈んだ部分がなければ、またその分、浮いた部分も沈むのや。
一生、使わん知識やテクニックが殆どやねん。
そういうのが無いから、何もかもが薄っぺらいんや。


□■■ Nov. 1st

「全国の高校で履修洩れ」て.....
結局、ゆとりなんかないねんやん。
救済措置は当然ながら、
文部科学省のエライ(「賢い」ではないヨネ)お方が
「まじめにやっていた学生に対して不公平になってはいけない」
て..... アホ???
ヒトのハナシ聞いてるんか?
字読めるか?
目開けて寝てるんか?
それとも、瞼に目玉描いて起きたフリしてるんか?
さぼってて履修してないのと違うねん。
生徒はマジメに授業受けとんのや。
言うた奴がアホなのか、新聞記者が聞き間違えたんか、
いずれにしても、そのまま載せるなよ、新聞のくせに。
比較的マシなメディアとしてアテにしている人も多いのに、
日本人の日本語が崩れるやないかい。


□■■ Oct. 31th

     〜〜〜 メタル体験記 〜〜〜

ちさこ嬢に誘われて昨日、Iron Maiden のコンサートに行ってしまった。
私はメタラーではないので、前日まで"Iron Maiden"という曲すら知らなかった。
思い返せば、外国の文化を学ぶ学生でありながら、その意味すら知らなかった。
アホやね。
周りも皆、トンチンカンな解釈をしていた。
国立の外大によう通ったな。
近年はテレビでもよく取り上げられているので、
中世の処刑器具であることを知らない人は少ないかも知れない。
「拷問器具」と書いてあることもあるが、
あれで挟まれたら死ぬから拷問にはならないのではないか?

昔のビデオを見て、
「あんたらがメイデンだったのか!」
言うて下さいよ。
.....さて、前に貰ったメールで日時を確認。
合ってるな。
なぬ? アリーナ7列目とな。
何でそんなん取れてん。
今日はちさこ嬢に電話をしなくては、と言いかけ、名前を口にした瞬間に携帯が鳴った。
まさに、彼女であった。
日を1日勘違いしていたらしく、アルバムを買ったのに忙しくて聴けていないとか。
私も曲を聴き始めたのはその夜中だった。
1週間くらいかけて予習をしておくつもりだったのが、急に忙しくなってしまったのだ。
ツアーのセットリストをチェックし、少し前に出たアルバムから全曲、
ロンゲの頃のヒットチューンを数曲演奏するという情報をちさこ嬢に伝えた。
ちさこ嬢は、昔、好きでコピーもしていたそうだ。
多分、私も高校の視聴覚室で弁当を食べながら見ていたのだろうが、覚えていない。
というか、その頃は「エレキは不良の弾く楽器」だと教えられて真に受けていたから、
ギターを弾いて欲しいと言われても、頑なに拒み続けていたのだった。
だからと言って、フォークは嫌いだったが。
大学を辞める前、ハードロッカーだと思われるのが厭で、髪を切った。
あの時代、あの髪でエレキギターを持って歩けば
「ハードロッカー」のレッテルを貼られる危険があった。
今にして思えば、私は紛れもなくハードロッカーだった。
私はブルースという言葉を好んで口にした。
日本では誤解を受ける言葉のようだが、その頃の仲間は正確に理解くれていた。
「ロック」がジャンルとされるのにも違和感を拭えない。

あの頃、日本ではハードロックとヘヴィメタルが明確に区別されていて、
アマチュアバンドの間では互いを罵るということまであったという。
純粋というか、田舎者というか、無知というか、
そんな人達も、今では髪も染められない管理職なのかもね。
いとおかし。
区別できるほどに隆盛を極めていたということだ。
何たって、流行そのものだったから。
その内、ハードロックとヘビーメタルはひっくるめて扱われるようになり、
しまいには「ロック」に合併吸収されてしまった。
今では、たまに「HR/HM」コーナーなんか設けてあるマニアックな店があると、
意外過ぎて逆に見落とされてしまう。
流行ってそんなもん。

Paul Rodgers 大先生の時は大学生位の客が多くてびっくりしたのだが、
メイデンはどうだろう。
というか、まだちゃんと活動していることにびっくりである。
「お金が要るからナツメロツアー」みたいなのではなさそうだ。
席は、前である上にど真ん中。
さて、歌詞を見ると、意外にもちゃんとしているではないか。
イギリスのバンドだったのねん。
あんた、頭いいだろう。
ドクロとか関係ないじゃん。

さすがは売れるバンドの作る歌はキャッチーである。
どんなに付いて行けない展開の曲でも、
必ず誰をも受け入れてくれる大らかなる非武装地帯が用意されている。
そして、その入り口が非常に判り易い。
同じ歌詞が3回も4回も出て来る。
普通なら、少しずつ発展させたりフェイクを入れたりしたいところをこらえ、
一言一句違わない繰り返しにしてあるのだ。
聴衆をつかむ部分はこの上なく簡単にしておいて、
やりたいことはそれ以外の部分でやり尽くす。
メロディラインに若干、色っぽい癖があり、そこが私のセンスと違っていて覚えにくい。
曲は短い。
すごい。
クール過ぎる。
プロ過ぎる。
そしてありがたい。

一夜漬け開始である。
3時まで反復学習をして寝るが、1時間ほどで目覚めてウンコに行く。
妙な時刻に起きてしまうと、ウンコ自身は今夜出ていいのか、明日の分なのか、
アイデンティティ・クライシスに陥ってしまうようで、
落ち着くまでに30分位かかってしまう。
翌朝に待っている復習が気になり、緊張して眠れなくなってしまったので、
バーブラ・ストライザンドのSACDを聴きながらウトウトする。
このバラバラ感。
己の大人を自覚しつつ、何とか朝に。
予定通りの追い込みを終え、
電車の中でも確認をしながら待ち合わせ場所に向かう。
私って、まだ大学受験できるよね。
全然オッケー。

現れたちさこ嬢は、ドクロこそつけていないが、それっぽい恰好をしていて、
主婦とは思えないサングラスをかけていたので、間近に来るまで気付かなかった。
が、想像していたよりはずっと地味であった。
食事をしながら、いつものように風俗世情について語らう。
ちさこ嬢は、ギャグであろうが、子供相手であろうが、美しい日本語を崩さない。
そして、言葉の表面だけではなく、中身もたっぷり詰まっているのだ。
落語を研究していたからというだけではないだろう。
キレっぷりではとてもかなわないが、最近、色々な人が我々をよく似ていると言う。
ちさこ嬢の娘でさえ言うのだから、何か共通点があるのだろう。
互いに、高校生の頃から全く違うタイプだと自覚していた。
私は絶対に彼女のようにはなれないと思っていた。
彼女は顔立ちのくっきりとした美人で、超理系である。
私は優しそうと勘違いされるソフトな顔で、足し算が苦手。
が、言われてみれば、似ているのかも知れないという気にはなる。
彼女には、私にはない大胆さと、私にはない繊細さがある。
私には、彼女のとは違う大胆さと、彼女のとは違う繊細さがある。
突飛な発想と、それを現実のものとして捉える感覚は共通している。
独自の視点を持っているとか、信念が強いなどと言えば、
我々の友はみんな同じではないかと言いながら、
その中でも、もしかしたら我々2人は特に近いかも知れない、
そんな意見で一致した。
中身は2人とも、昔からは全く変わってしまっている筈なのに、
表面的に出て来るものが変わらないというのは何だろう。
今後、ますます我々は似て来るのかも知れない。

会場に着くと、いるわいるわ、
昔長髪だったけど、今落ち着いちゃったでしょう、
みたいな人達が。
若者率ゼロ。
「スペシャルゲストとして Loren Harris が出演します」
とアナウンスしている。
顔を見合わせて「それって誰?」
その辺の人に訊いてみようか。
そんなん知らんのかと怒られそう。
もしかして娘か?
そう気付いたのは、今日になってからだった。

開演は、予定時刻からそれ程ずれていなかったのではないだろうか。
オリエンタルな目つきの令嬢が、
老人ばかりの客席をいきなり立たせようとするのだ。
我々は勿論、気の毒で座ってはいられない。
その場で覚えてサビ位は歌ってあげるんだけど、
別にどーでもいい曲ばっかりなのだコレが。
ラストのカバー曲がまた微妙で、"Natural Thing"。
私も思い返せば人前で歌ったことがあるから歌詞で判ったようなものの。
これを外人に歌わせようとするアナタは、
親爺の爪の垢を煎じてお尻に詰めなさい。

数曲の演奏が終わって休憩に入ると、
「さ、帰ろうか」
みんなヘトヘトやん。
何してくれるねん。
ようやく本編が始まると、これを待っていたおっちゃん達は、
興奮の渦へと身投げをして行くのであった。
よー知らん私は、ギターの音チェックをしているスキンヘッドの兄ちゃんを指して
「あの人はエンジニアだよね?」
笑いながら頷くちさこ嬢。

絶対にメイデンを知らない世代の場内アナウンス嬢が
「アイアン・メイデン、ア・マターオブライフ、
 アンドデスツアーが何とか.....」
アンドデスて何やねん。

客電が落ちてオープニングBGが流れると、
「予習」済みのファン達が歓声と共に立ち上がる。
メンバーが現れると、いきなり「グー」ですやんか。
だから、さっきは立ちたくなかったんや。
ビデオで見ていた通りのブルース・ディッキンソンが姿を現す。
....て、名前と顔が一致したのは今の今だけど。
昔の彼も嫌いではなかったように記憶している。
その程度だから、今の姿を見ても微笑ましい。
むしろ好感を持てるかも。
しょっぱなからセットを伝って登る姿に、
大阪のアイドル寛平ちゃんを重ねた人も少なくなかったろう。
客とのコミュニケーションも上手く、
人間的に「結構できている」のではと思わせる。
Paul Rodgers ばりに。
いいのか、イメージそれで。
私は壊れていない人は好きだが。
とにかく、跳ねる、しかも斜めや横向きに。
あんた、ちゃんと運動しているだろう。

「グー」を振り上げるのはいいが、キツネの影絵みたいなサインが判らん。
見たことはあるが、真似たことがない。
適当にやってみる。
誰かが近付いて来た時とか、ソロになった時とか、
そんな時に、見せるように挙げるようだ。
はは〜ん、「おひねり」のようなものだな。
使い方が判ると、私も早速「おひねり」を連発した。
みんなのとは微妙に違ったかも知れない。
うっかりすると、チョキになってしまっていた。
まことちゃんのグワシになっていないか、心配になることもあった。
サビは全部歌うぞ..... 熱狂的なファンじゃないから。
好きだったら、歌わないで聴いていると思う。
熱狂的なファンじゃなくても、やはり見ていたいので、頭は振らない。
周りの人も振っていなかったけど。
あ、振るから倒れるのか。
みんな、大人だな。
とにかく、やかましいので気兼ねなく歌える。
私にしては音が低いし。
近くの人には聞こえていた筈だが、みんなうるさいし、
低いから楽器の音のように聞こえていたのではないだろうか。
何で後ろから聞こえるかはおいといて。

2曲位は知らなかったが、歌詞を覚えていたのでその場で歌うことができた。
無論、曲がそのように作ってあるからなのだが。
ただ、サビを集中して反復していたため、
歌詞の無い部分で歌う箇所はノーチェックで、
「な、何ですか、ソレ???」状態であった。
しかし、それも全てギターに合わせればよいらしかった。
まさに、ライブでのし上がる欧米のバンドらしい計算である。
計算なのにいやらしくないのは何故だろう。
誠意だろうか、売れたい以外の志だろうか。
ますます好感度アップなのである..... 時々リズム付いて行けないけど。

ハードロックとヘヴィメタルの明確な境は無いと思っていたが、
この付いて行けないリズムはメタル特有のものかも知れない。
始終、付いて行けない自己満なバンドもあるが、
この人達は、必ず迎えに来てくれるという懐の深さを感じさせる。
全て、私の想像に過ぎないが。
そんなにバスドラ踏んだら、どこが1泊目か判らんやん!
.....だから全部振るのか。
最後に戦車が登場し、「エディ」が降りて来た。
これは知らなかったので、得した気分だ。
「エディ」がいつ去ったのかは知らない。

アンコールの時に手拍子に合わせて「アンコール!」はやめてくれよ、
と願っていたら、何か違うことを言っている。
「メイデン、メイデン!」
えっ、そういうことになってるんですか?!
ダサくない?
ええわ、真似しとこ。
メイデン、メイデン。
でも、英語チックにね。
アンコールの前と後に、スティック始め、
客席に小物をやたら気前よく投げまくる姿はビッキーズだった。
ツボやわぁ〜。
大阪人のハートをわしづかみやん!

結局、10月の後楽園(だったか???)と全く同じ曲目で、
全て用意していて歌えた私は、
マナー本を読んでから結婚式に臨んで「全部食べたった!」と言う、
尊敬するやり手の叔母に近付けた気分であった。

未知の世界での冒険の帰り。
我々の立っている駅には、関西のメタラーが集結しているに違いなかった。
ちさこ嬢は「1日置いて筋肉痛が出るかも」と言っていたが、
私は既に夜、ヘトヘト過ぎて眠りに着けなかった。


□■■ Oct. 29th

そうそう、キョンの抜糸に行く日だった。
散歩から帰った後、
屈託のない顔で表の通りを眺めているキョンの肩に手を回し、説教をしていた。
君の正直で計算のない性格は素晴らしいし、やんちゃっ子でも構わない。
だけどね、急に引っ張ったりしたら、家族もあんたも危ないんだよ。
その時、大きな羽音と共に、不吉なシルエットが目に入る。
裏庭から路地を抜けて来たところらしい、あの色と大きさはスズメバチかホウジャク。
水平だからスズメバチか。
あちらは立った人間の頭の位置くらいにいるから、
しゃがんでじっとしている我々には気付くまい。
と考える間にも、「彼」はまっすぐにこちらに向かって来るではないか。
真正面から見る、あの恐ろしい鉄兜。
この大きさは間違いなく、最も危険であるというオオスズメバチ。
キョンが動かないようにと押さえながら、息を殺す。
2メートルほどの距離を縮めつつ、やはり我々のいる方へと降下している。
なんでやねん!
私の目の前より少し高い位置に来たあたりで、キョンが口を開けて捕まえようとした。
おいおい、コイツは蛙やバッタとは違うんだぞ!
慌てて目を覆うとキョンは激しく逆らったが、
力づくで頭を下げさせて覆い被さり、音を出さないように鈴ごと首輪を掴むと、
非常事態と察したらしく、緊張して大人しくなった。
幸いにも、ハチはキョンの攻撃に反応することなく、
我々の頭上を旋回した。
2度、回って来るのが見えた。
刺されないまでも、至近距離で偵察されたり、
最悪、とまられたりするだろうと覚悟していたが、
羽音は大きくならなかったので、さほど興味をそそらなかったのかも知れない。
それでも、暫くはじっとしていた。
そーーーっと振り返り、行ってしまったのを確認し、
腰を屈めたまま、キョンを玄関に入れる。
怯えているキョンは、なかなか動こうとしなかった。
中には、散歩から帰って脱いだばかりの帽子が置いてある。
何の為にかぶっててん!
「あ〜コワ〜〜〜」を連発しても、恐怖はおさまらない。
何度遭遇しても、慣れることはないだろう。

ここまで書いて気付いた。
既に書いたやん!
だって、頭の中では毎日、日記書いてるから、
どれがほんまに書いたのかワカレヘンねんもん。

抜糸が済んでからも、キョンの縫合部が綺麗になるまでは観察を続けた。
抜いたばかりの日は痕が赤くなっていたが、特に問題はなさそうに思えた。
その翌日の朝には、赤みが取れていた。
うん、大丈夫、端っこに何かキラリと光ってるけど。
.....キラリ?!
ちょっと待て。
何じゃこりゃ。
テグスみたいなものが横向きに付いていて、結び目もあるやないかい!
残っとるんちゃうんか。
電話せんと。
ええーっ?!
そんなアホな。
もう1回見せて。
ヘラヘラしているキョンの足をまた持ち上げて、改めて確認する。
何度見ても、残っているものは残っていた。
どこからどんな風に見ても、それは切開部を縫合している糸だった。
.....
「あの〜、糸が残ってるみたいなんですけど」
「えっ!申し訳ございません、獣医師に確認して、折り返しご連絡します」
忘れられているのではという程、長くかかったが、
昼前にようやく、抜糸をしてくれた先生から電話があった。
3日ほど後でないと連れて行けないことを伝えると、ではそうして下さいと言う。
昨日は予約を入れずに飛び込んでしまったので申し訳ないという気持ちもある。
勿論、そんなことは言い訳にならないが。
まぁ、来て貰っても、場所が場所だし、自分の家では簡単に触らせてくれないだろう。
私は、キョンが歯で引っかけてしまうのではと不安だった。
「何だったら、ハサミで切って抜いて頂いてもいいですよ」
.....ほなら、昨日は何しに行ってん!
やっぱり、私が自分で抜いても良かったんや、と思いつつも、
ハサミをアルコールで消毒する。
1瞬で消毒なんかできるんかと疑いながら。
大体、一般家庭に抜糸に適したハサミなんかあるかいな。
工作用なんか太くて入らないし、先で切ろうとしたって「ぐれっ」となってしまって、
対象がハサミに沿って曲がって終わりよ。
辛うじて使えそうなのが、先の尖った髪用のハサミ。
機嫌よく寝転んでいるキョンに鼻歌混じりで話しかけながら、
小さな輪にハサミを入れる。
これがなかなか、入らない。
皮膚に引っかけてしまいそうなのだ。
ハサミが長いために、突いてしまいそうでもある。
やっと深く入ったが、端の方を切らなくてはならない。
「ぐれっ」とならないよう、できるだけ直角に当てなければならない。
難しい。
できん。
ごちゃごちゃやっている内、ハサミの先に皮膚が薄くかぶっているようにも見えた。
万一のことがあってもいけないので、1度、諦めて抜いた。
「大丈夫だよ〜〜〜たらららら〜♪」
と言いながら、震えているのは私の右手だった。
また最初からやり直し。
どうにかこうにか、ハサミが入った。
端の方で切らないと、引っ張り出せない。
ハサミに厚みがあるため、直角に当てたまま端の方へ移動させることが困難なので、
妥協したところで切ってしまった。
お陰で、簡単には引き抜けなかった。
無理して何かあったらコワイし。
何とか抜糸に成功。
キョンは始終、大人しくしていた。
痛くはないが、何度か
「長々とどこ触ってんのん?」
と言うように、覗き込みに来た。
しかしホンマに、昨日は何しに行ってん?


□■■ Oct. 19th

散歩に行くのが判ると、パラボラをつけた頭で突進して来る。
ぶつかれば自分も痛いのではないかと思うのだが、お構いナシである。
これ以上付けていたら、キョンの体の一部になってしまいそうだ。

春あたりから急によい子になったのは、
暑いからか、或いは玄関で寝るようになったので飼い犬として目覚めたのか、
などと推察していたが、結局はしんどかったのね。
あんたは元通りの落ち着かないわがまま犬。
嬉しいんだけど、何かちょっと、その間に学んだこととかないかい?
やんちゃでもいいんだけどね、危ないのは困るんだよ。
散歩の後、表で外を眺めているキョンの横にしゃがみ込んで言い聞かせていると、
大きな羽音と共に茶色の飛行物体が現れた。
ホウジャクか?スズメバチか?
−−体は真横。
スズメバチだ.....
おそろしい顔が、まっすぐにこっちに向かって来る。
しまった。
さっきまで被っていた帽子は、家の中に置いて来た。
この為にいつも被っているのに!
奴は、我々よりも随分高いところにいるから、大丈夫、見えないだろう。
.....とと、私に向かって来るじゃんか。
こえぇ〜〜〜〜〜っ!
食いつこうとするキョンを止めてその目をふさぎ、
首輪と鈴をつかんで、息を殺す。
スズメバチは、頭上を何度か旋回した後、どうしたのか判らなかった。
羽音は聞こえないが、暫くじっとしていた。
キョンも異変に気付き、頭を伏せて大人しくしていた。
そーーーっと後ろを確認してから家の中へと避難し、
「怖ぇ〜〜〜〜〜っ」
を連発。
何度遭遇しても、やっぱりコワイ。

さて、今日はパラボラを返しに行くよ。
車に乗ると、妙に大人しい。
私に抱っこされたまま、膝に頭を乗せている。
こんな飼い犬みたいな恰好はあり得ない。
不安なのだろう。
またかと凹んでいるのかも知れない。
普段、行きはもっと暴れるのに、素直なままだった。

病院に着くと、なんと「予約診療」の札が.....!
ガーン、すっかり忘れていた。
せっかく、パラボラと糸から解放されると思ったのに。
そう言い聞かせてやって来たのだから、また1日、我慢させる訳には行かない。
受付で抜糸に来たのだと伝えると、
予約が終わってから処置して貰えるとのことだったので、外で待った。
昼前ギリギリに来て良かった。

今日は先生が直接、外に呼びに来て下さった。
キョンが「オレオレ」と、先に立ち上がって歩き出した。
診察台に乗せられ、何をされるのかと振り向いたので、前を向かせ、
「帰ったらミルク飲もうか、かしこいね〜」
などと気をそらしている内に、あっさり終わった。
痛くないとは言え、股の間を触られるのに、全く気に止めていない様子だった。
女の先生だからか?
弱い者に優しいというのはカッコイイな。
ステキチ君のような男っぷりとは違って、天然やんちゃ犬だもんな。

家に着くと、約束のミルク。
もう、あのうっとおしいカラーは必要ないのだ。
お尻を舐めても怒られない。
一週間分、存分に舐めた。
抜糸の跡も、丁寧に舐める。
そうやって自分で治したかったんだろうね。
イライラもなくなり、自由を満喫している様子だ。
昨日までよりもリラックスした表情をしている。


□■■ Oct. 17th

キョンは翌朝、無事に帰って来た。
診察室に現れたキョンは、喜んで興奮するような事はなかった。
どこか不安気で、奥の部屋からなかなかこちらへ来ずに、
辺りを嗅ぎ回ろうとしている。
やっぱり住むつもりで探検しているのかい?
キョンは、これから何が起こるのか判らないという様子だった。
車が走り出すと少し表情が緩んだが、
家の前の道に差し掛かるまでは安心しなかった。
玄関に入って家族に迎えられても、どこかしっくり来ないらしい。
縫合部を舐めさせてはいけないので、
一日中、くっついていなければならなかった。
濡らさないように、とのことだったが、
あいにくの雨の中、お座りだけでもアウトではないか。
なかなか難しいお題である。

さて、お待ちかねのご飯を食べようか。
今日からは普通に食べさせてよいと言っていた。
抗生物質を日に2回、与えるようにとも。
そのあたりの話はキョンとの再会の直後だったので、
かなりいい加減に聞いていた。
薬は今、1回目をあげるのか???
電話を掛けて確認してみると、夜からで構わないという。
あ、そう。
じゃあ、食べようね。
少なめの方がいいのかな?
待てよ、薬が夜からということは食事も夜からなのか?
再び電話。
ハナシ聞いとらんのかと怒られそうだ。
「確認しますのでお待ち下さい〜。
 あ、キョンちゃんは朝ご飯食べてくれてますので、夜からどうぞ。」
えっ、お散歩させてくれるばかりか、ご飯もくれるの?
それにしても、やはり豪傑だね。
ニャンなんか、入院中の3日間は何も食べなかったって言ってたよ。

歯石の除去もあり、麻酔が少し長引くため、点滴をしていた。
テープを剥がした右手は、縦2センチほど毛を剃られていた。
まずはそこを執拗に舐める。
当然ながら、縫合部も舐めたい。
胴の長いキョンのことなので、口が到達するまでに時間がかかる。
うっかり目を離していても、横にいれば阻止できた。
気を逸らせるために、お気に入りのボールを噛ませる。
既に歯形だらけで小さな裂け目も幾つかあり、
両端に付いていた綿ロープも片方しか残っていない。
夢中になって噛んでいるとそれも外れ、
ゴムまでボロボロになって来たので他の小さなボールに交換すると、
途端に興味を失ってしまった。
ネコをじゃらすように気を引くと、いつものコワイ顔で食いついて来た。
が、それにもすぐに飽きて寝転んでしまった。
落ち着かない様子だ。
舐めたい..... が、怒られる。
体を折って舐めようとする度に「ダメよ」と止められる。
すると、長ーく伸びてふてくされたようにアゴを投げ出して寝転がるのだ。
理由はよく判らないが、そこを舐めてはならないらしい.....
それが2日前からの絶食と置き去りに関係があるに違いない、
とも推察しているようだった。
誰かが見ている間は、舐めるそぶりは見せなくなった。
すぐ横の洗面所で手を洗っているときも同じ。
だが、奥の部屋に消えたり、
階段を上って行ったりするのを確認すると、途端に舐める。
気になってすぐに戻っても、既に舐めているのだ。
コラッと怒ると、「だってさ〜」とでも言いたげに長〜く寝転がる。
「口を尖らせる」という感じだ。
家に帰り着いたのが11時、そんなこんなで12時までは非常に長かった。
交代で昼食を摂った後、キョンの傍で色々な作業をしながら夜を迎えた。

幸い、余り寒い夜ではない。
1階の廊下で寝るのは、雷のひどかった嵐の夜以来だ。
布団でトイレの入り口を塞いでしまうから、
みんなが2階の寝室へ上がってからでないと準備ができない。
夜のおしっこから帰って来ると、我が家で寝られるのだと実感したのか、
玄関に「お帰り」を言いに来たおとーちゃんに抱き付き、
腰をカクカクさせてまとわりついた。
毛布と枕を出してやると、喜んで「定位置」について寝そべった。
お尻を舐めようとしたので何度か止めると、
イライラが抑えきれなくなったらしく、
枕カバーをガジガジとかじり、穴を開け始めた。
枕そのものはよけて、カバーだけをかじっている。
人間の腕をよけて、服をかじるのはO.K.という感覚の延長なのだろう。
しかし、それもダメと止められると、ふて寝した。
私の敷き布団代わりにする座布団を並べていると、
普段は絶対に抱き付かない私にも立ち上がって抱き付いた。
よほど嬉しかったのだろう。
カクカクのおまけ付きだ。
私が布団を敷くのを観察しながら、近付く度に抱き付いて来る。
よしよし、今日は叱らないよ。
どうせ、今日だけだもんね。
この動作の表す意味を発情以外に知らない人なら、
去勢した筈なのにと訝るところだろう。

さて、このまま寝る訳には行かない。
機嫌良く寝そべっているところへ、
病院から借りたエリザベスカラーを装着してみる。
小型犬が付けているのはよく見掛けるが、中型以上だとかなり違和感がある。
このまま寝ていてくれればいいのだが.....
果たして、キョンはすぐに立ち上がった。
表情がみるみる強ばって行く。
せっかく帰って来たと思ったのに、また.....
失望は察するに余りあったが、舐めて傷口が開いてしまったらどうするのだ。
大丈夫、寝転びなさい、となだめようとしたが、どうしても不愉快らしい。
というよりも、ショックなのだろう。
その内、壁の前で立ったまま頭を低く垂れ、
カラーごと顔を床に伏せたような姿勢で動かなくなってしまった。
酔ったおやじがゲロを吐いている格好だ。
気にしない性格のキョンがここまでになってしまうとは。
今日は無理だ。
キョンが壊れてしまう。
仕方がない。
外してやると、私の布団の枕元にうずくまった。
やれやれ。
布団から両手を出し、キョンの頭や手に触って寝ることになった。

キョンが舐めようとする度に止めて「ダメ」と言う。
その内、キョンも私も寝てしまった。
キョンが動く度に目を覚まして「ダメよ」。
寝ながらぴくりと動いているだけなのに、
キョンが体を起こしたと思い込んでしまって、
その度にキョンが「はい?」という顔をする。
何度か水を飲みに玄関に降りた。
その度に布団から這い出して一緒に降りる。
何度目かで私の横にいることに飽きたのか、うっとおしくなったのか、
布団から少し離れた自分の毛布の上にうずくまってしまった。
私は、完全に肩を出して寝るハメになったが、
「汗で発熱するババシャツ」を着込んでいたため、寒さは感じなかった。
そうして夜が明けて5時だか6時だかに、おとーちゃんが降りて来た。
いつもならここでご飯が貰えるが、
寝ている私が邪魔だったため、7時頃まで放っておかれた。
キョンの方も疲れていたようで、
昼間にさんざん眠ったにも関わらず、よく寝ていた。

朝の散歩に行く頃にはすっかり落ち着いていて、
よく引っ張り、よく駄々をこねた。
お願いがあるとお座りをしたり寝転んだりする習慣があるため、
座らせないためにお願いをすぐに聞いて、遠回りをしなければならなかった。
相変わらずあちこちにおしっこをし、
相変わらず暴れ、
相変わらず女の子にデレデレした。
さすがに「先生、間違ってつけちゃったりしてません?」と言いたくなる。
性格が大して変わらないのは嬉しい限りだが。

頭が痛い。
気分が悪い。
声がかすれる。
ヤバイ。
今日はカラーをつける練習をしてみよう。
寝ている間だけでも慣れてくれれば、
水を飲んだりする時には起きて手伝ってやれる。
とにかく、何度か付けたり外したりして、慣れさせよう。
そう思っていたが.....

最初はやはり、つけた瞬間に落ち込み、動かなくなってしまった。
カラーがコツンとどこかに当たると、そこで止まってしまう。
視界も殆ど遮られてしまって、動きたくても動けないのだ。
顔を見ると、明らかに怒っている。
フクロウみたいに音がよく聞こえるかも知れないよ、
などと機嫌をとりながら傍で話しかけると、
実際に周りの音が大きく聞こえた。

最低でも歩けるようにならなければ。
首を大きく振るんだよと教えながら歩かせていると、
玄関の上り下りまで一気にマスターしてしまった。
すると、上機嫌になったではないか。
そうか。
出来ないことをやってあげるのではない、
自力で出来るようにしてやればいいのだ。
生まれ付き身体に障害を持つ動物が、自分なりの方法で困難を克服し、
群れの仲間と共に暮らす光景を思い出した。
そうだ。
そういうことか。
目からアジのぜいごのような鱗がバリバリと剥がれ落ちた。
外に行くと言い出したので、そのまま裏庭へ行くことにした。
一箇所、細くてどうしても通れない所がある。
そこだけは補助してやって、
他はぶつかって止まる度に肩を横に押し、対処の仕方を教えた。
裏庭に着くと、窓から嬉しげに中を覗き込んだ。
そこからクッキーをやって貰った。
喜び勇んで玄関に戻ると、
パラボラアンテナ状態の頭を地面に伏せるようにして、器用に水を飲んだ。
ジャンプもできた。
私に対しては、いつもいい加減な「お手」も、
自分の目で見えるところまで丁寧に上げて来る。
さっきまでの不機嫌はどこへやら、誇らしげなニコニコ顔である。
勢い余ってお尻を舐めようとするが、尻尾の先にしか届かない。
それだけはできないんだよ。
できたら、それを付けている意味がないしね。
この分だと、それすらクリアしてしまいそうではあるが。
もう、何でもできるな。
念のためにもう1晩、一緒には寝るけどね。
たった10分程度で、もう手が離れてしまった。
頼もしいな、君は。

カラーを外して表に座っていると、
山から降りてきたらしい2人連れがキョンを見て囁いた。
「いや、綺麗な犬やな」
「ほんまやな」
やっぱり君はいい犬らしい。

カラーを付けた状態では、頭の下が平らな方が寝やすいだろうと、
枕を出していなかった。
私の敷き布団代わりの座布団だけを並べて2階に着替えを取りに行くと、
玄関でゴリゴリと音がする。
戻ってみると、隙間なく並べた筈の座布団が、
端の1枚だけ、少し離れて置かれていて、
その前にキョンが用事ありげに立っている。
枕をよこせということか。
きっと寝にくいから、そのまま毛布だけで寝なさいと言い聞かせたが、
納得できない様子だ。
しまいには座布団の上に体を乗せて、実力行使に出た。
「くれないなら、これで寝る!」てか。
仕方がないので「寝にくいと思うよ」と言いながら枕を出してやると、
すっ飛んで行って頭を乗せて寝転んだ。
気持ちの問題なのだろうか。
その夜はぐっすりと眠ることができ、頭痛もすっかりと治まった。

そして昨夜、ついにその時がやって来た.....!
ふと見ると、パラボラを付けた状態でお尻を舐めているではないか!
偶然ではない。
これまでは舐めようとする部分に対し、
口を平行に持って行ったために届かなかったところを、
上半身を丸め、口を腹に対して直角に当たるように工夫しているのだ。
お見事。
幸い、傷口の周りの赤みも取れ、もう大丈夫なようではあるが、
念のため、カラーを少しきつくした。
あと2晩、抜糸まで持つのだろうか。
彼の知恵の方が上のように思うが。

春あたりから急に落ち着いて、よい子になって来たと思っていたが、
調子が悪かったのかも知れない。
薬で前立腺が小さくなった頃から、やんちゃが戻り始めていた。
暑さのせいか、それとも玄関で寝ているから飼い犬の自覚が出たのか、
などとも考えていたが、
手術の後、以前のいたずらに戻ったキョンを見ると、
どうやらそうではなかったようだ。
外からは判らなくとも、体の中の腫れは結構、動きを妨げるものだ。
気付くのが遅くて悪かったね。
これからは、自分の意志でいい子にしてくれると嬉しいけどね。
本当は明日、抜糸できるんだけど、都合で明後日だ。
カラーを返す時、がっかりしたりして。
どこに売っているか、訊かなくちゃならなかったりして.....


□■■ Oct. 10th

キョンにせんべいを食べさせる夢を見た。
その後は、見よう見まねでピアノをマスターした母が、
豆腐のたっぷり詰まった横長のグランドピアノを弾いていた。

昼までは絶食に付き合った。
というよりも、食欲が湧かなかった。
奥で食べていると、キョンには必ず判る。
出掛けるまでは、体を拭いたりしながら傍にいてやろう。
不満気ながらも大人しいキョンだったが、
私の携帯電話の着信音が鳴ると、スイッチが入ったように怒り出した。

朝になってご飯も水も貰えないと、さすがに大きな異変を感じ始めたらしい。
夜と朝の裏庭でのおしっこは中止。
たとえ蛙やトカゲが捕まえられなくても、
ジャガイモを掘り当てて食べてしまうからだ。
昨夜は舌がカラカラだったので、手を濡らし、舐めさせた。
いつもの器に少しだけ水を入れて差し出しても、
「カラじゃん!」
とばかりに顔をそむけて無言の抗議。
今朝も同様だったので手を使ったが、出掛ける前に2回、
器の水に気付かせて舐めさせることができた。
その都度、そっぽを向かれたが。
「自分で探しに行くから、ヒモをほどいて」
とねだる。
ダメなんだよ、ごめんな。
えらくスネられてしまった。

車にはなかなか乗ろうとしない。
つい先週、ルンルンで行ってきたところなのに。
棄てられた時のことでも思い出しているのだろうか。
目には絶望すら浮かんで見える。
逃げ出したって、捕まえて連れて帰るっちゅうに。
目的地が近付くにつれ、表情が和らいだ。
コイツは病院が好きなのだ。
いつも新しいニオイがあるし、沢山の犬に会える。
優しいお姉さんもいるしね。

休み明けで気候がいいせいか、一杯である。
キョンは外で待つ。
10時でいいのに、30分も早く着いてしまった。
長い。
麻酔が可能かどうか、血液検査をしなければならない。
暫くすると、名前を呼ばれた。
雰囲気を察して、玄関へと向かうキョン。
お姉さんに連れられて中に入るキョンは、やはり少し戸惑っていた。
出て来てから、更に待つ。
立ち上がり、塀の向こうの田んぼを見渡してみる。
路地を探検しようとしたりする。
シュナウザーに吠えられ、吠え返す。
大分待った後、名前が呼ばれた。
私が返事をすると、
「おいらね、おいら!」
と、玄関へと急ぎ、ドアを抜けたら進んで診察室へ。
入りたくないと駄々をこねる子は普通だけど、
君は入りたいと駄々をこねる子だもんね。
だが、やはり何か厭な感じらしい。
すぐに帰りたそうなそぶりを見せる。
今日は帰らないんだよ。
明日、迎えに来るからちゃんと待っているんだよ。
ここの子にな〜ろう、なんて思ってちゃダメだよ。
そう言い聞かせる。
コイツの場合、あり得る話だ。
うちに居着いた時も、
「毎日ご飯くれたりするの。あ、そう。」
くらいなノリだった。
置いて帰られるのは、さすがに不安だったようだが.....

うたた寝をすると、やはりキョンに何かあげていた。
夕方4時過ぎ、キョンの手術が無事に終わったとの連絡が入った。
水は今日、飲めると思っていたが、明日の朝まで飲めないそうだ。
朝には散歩にも連れて行って貰えるそうだ。
「咬みます、でも喜んでもコワイ顔をします」
とは伝えたが
「蛙を食べます」
とは言わなかった。
大丈夫だろうか。
犬のいない玄関も庭も、実につまらない。
住むに値しないとすら感じる。
明日は朝1番に迎えに行く予定である。


□■■ Oct. 9th

明日はキョンの手術。
今夜は8時から絶飲食。
「水は舌を濡らす程度ならいいですか」
「その位ならいいですよ」
「ハチミツなめたり」
「あー、ハチミツはやめて下さい」
何てこった。
夜のおしっこの後のオヤツがないとスネるだろうなぁ。
朝食も抜き。
一晩、お泊まりで帰りは明後日。
手術当日は食べられないだろうなぁ。
私も、食べたのは確か翌日の昼だった。
可哀想に。
代われるものなら代わってやりたい。
子供の頃、夜中に歯が痛くて泣く私を見て父がそう言った。
「それは言葉のアヤであって本気ではないだろう」
と思っていたが、今なら判る。
本心だったと。

8月一杯、ホルモン剤を呑んで、前立腺は小さくなってはいるものの、
薬を続けることが良いとは思えない。
手術をするなら、年齢的にもギリギリだろう。
しかも、ひどくなってしまえば、手術でも治療はできなくなってしまう。
去勢の他に選択肢はなさそうだ。

キョンは芋が大好き。
3年前、茹でたのを毎朝、少し貰っていたらしい。
肉食の彼には繊維が多過ぎて、大腸炎になってしまった。
以来、口にできなくなってしまった。
この間、表で畑で採れたサツマイモを洗っていると、
オカンの長〜いスカートの下から顔を出し、
こそっと大きいのをくわえて、そのままスカートの下に消えたそうだ。
返しなさいと言っても、なかなか離さなかったという。
私が一緒にいた時も、頭の毛を逆立て、耳を立てて芋に熱い視線を注いでいた。
根っこを少しちぎって渡してやると、喜んですぐに食べ、
おかわりとばかりにお座りをする。
ごめんな、あげられないのよ。

今日も、届かないところに積まれた芋を、獲物を見る目で見つめている。
くれる気配のないトーチャンの後ろ姿。
急に、キョンの目が輝いた。
大きな芋が洗われ、相変わらず届きはしないけれど、
今までよりも近いところに並べられて行く。
魅惑の光景に、キョンは恍惚としていた。
トーチャンは、通りかかったクリーニング屋のおっちゃんを手招きする。
そう、おっちゃんが散歩に出掛けるのを見て、帰りに渡そうと用意していたのだった。
「わぁ、こんなにくれるの?」
「まだまだ沢山あるねん。畑にも」
そう、こんなにあるのに.....
キョンが「えっ?!」という顔をした。
芋がなくなっている!!
おっちゃんに気を取られていて、袋に詰められるところを見ていなかったらしい。
おっちゃんが手に下げているものに気付き、しきりに覗き込む。
「あっ、こ、これは.....!」
おっちゃんの去った後、あまりに可哀想なキョンをオカンが慰める。
「お兄ちゃんもエビ大好きやけどアレルギーで食べられへんのやで〜」
甘えて寝転がる。
.....と、アゴを伸ばして芋を嗅ぐ。
みんなが少し離れると、届きそうな位置にあった小さなのをくわえようとした。
こらっ。
すぐに諦めるキョン。
「ミルク作ってあげるから、それで我慢してな」
普通、そっちの方が喜ぶけどな。
君はちょっと変わってる。


□■■ Sep. 27th

「トリビアの泉」について、以前書いたろうか。
「鹿と馬、どちらが馬鹿か?」という「実験」である。
結果は、「人間が一番バカ」。
恐怖におののく動物を餌で釣って、早く辿り着いた方が賢い、だと。
お前ら、ヤクザに後ろから脅されながら、
「美女とかくれんぼ〜!」とか夢中になれるんかい。
一番上へ
ひょうし
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