証明<8>

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 宴会もお開きとなり微酔い気分のオルは自分の岩屋(と言ってもマイラの家が納屋として使っていた所であるが)に戻るとベットに転がり大きく背伸びをした。普段ならばすぐに眠りにつくところだが、今夜は目が冴えるばかりである。
<人間とドワーフは同じ種族>
 それに気になるのはマイラの父親が言った『おまへは別だ』
 ずっと居ても別に構わないという意味かも知れない。だがそれならマイラの事を聞く必要などないはずだ。
 と、その時。
 キィィィ・・・
 部屋の扉がゆっくりと開いた。入り口は暗闇ではあるが、その雰囲気からマイラである事はすぐに分かった。
「どうしたマイラ?もう夜は遅い・・・!?」
 灯油の薄明かりに照らされたマイラを見たオルは、ぎょっとした。マイラの格好が胸元が大きくはだけた下着姿なのだ 。
『もう子供じゃないの』
 普段の服装からは気が付かなかった豊かな胸と腰回りの曲線が、再びそう主張している。
「お、親父さんが心配してるぞ。すぐ部屋に戻れ」
 そう言いながらオルはあわてて横を向いた。
「・・・ううん、いいの」
「良くない」
「お父さんが・・・いいって」
「な?」
 オルは唖然とした。と同時に『おまえは別だ』の意味をようやく理解した。マイラの父親は、村の若者たちに人気のないマイラをオルに貰ってほしいのだ。以前畑で出会った青年も同じことを考えていたのだろう。
「オル・・・」
 マイラが恥じらいながらオルの胸にそっと顔を埋めた。甘いかおりがオルを困惑させる。
(い、いかん!)
 下着の中の胸の谷間と汚れを知らない綺麗なつぼみを目の あたりにしてしまったオルは、自分の理性の糸が切れるのを必死に堪えた。
 が・・・
「オル・・・好き」
 プチンッ!
 オルの理性の糸は、音を立ててあっさり切れた。

(エラい事をしてしまった・・・)
 腕枕の中で幸せそうに寝息をたてるマイラを見つめながら、オルは頭を掻いた。だが今マイラと肌を合わせた事によって<人間とドワーフは同じ種族>という思いに、ますますの 確信を持っていた。そして、出来れば人々にこの思いを伝えたい。
 しかし言葉だけで偏見に満ちた物達を説得するのは、とうてい不可能である。ましてや夜をともにしたという事実を話しても仕方ない。その行為だけなら異種族どころか動物相手にも可能であるわけだし、だいいちそんな事を話したら変態よばわりされるのが関の山だ。目に見えるはっきりした物で証明する必要がある。
(証明か・・・まあ、そのうち何か見つかるだろう)
 今ここで考えてみても埒が明かない。マイラの少し乱れた髪をそっと直したオルは、微笑みながら目を閉じた。が、なぜかマイラの父親の無愛想な目蓋に浮かんでしまい、この夜オルはなかなか寝付くことが出来なかった。

 雪の季節となり、野兎を数匹捕まえたオルは白い息をはきながら岩屋に戻ってきた。
「おかえりなさい。寒かったでしょ?」
 マイラが暖かいスープをオルに差し出した。ホっとした表情でスープを口にするオルを、マイラがいつもにもましてじっと見つめている。
「ん?どうした?」
「あのね・・・」
 頬を赤らめたマイラはオルの手を取ると、微笑みながらオルの手のひらを自分のお腹にそっと宛がった。
「赤ちゃん、出来たの」
「・・・!」

<人間とドワーフは同じ種族>は、今ここに証明された。

終わり


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