証明<1>
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傷の痛みは、ますます激しくなっていた。
歩くごとに、頬がひきつりそうになる。
「くそう、こんな所で・・・。」
長槍を杖にしながらよろよろと歩く男の名は、オル。年の頃は二十代終わり位の彼は、今この世で最も勢いがあると言われている、騎馬民族連合国家テグリムの一既兵である。
だが勇猛果敢でその名を轟かす彼らとて、百戦百勝というわけにはいかない。時には地元勢力の巧みなゲリラ戦法に、手痛い返り討ちを浴びることもある。
オルが属していた隊も、その憂き目にあった隊の一つであった。
(もう家には帰れないだろうな・・・)
澄んだ青空を見上げたオルは、はるか遠くの生まれ故郷の草原を思い浮かべていた。
西域遠征の途にあったオルは、自分が今どこにいるのかまったくわからない。ただひとつはっきりしていることは・・・仲間は全滅したという事のみ。
やがて精魂尽き果てたオルは大きな木に体を寄りかけると、そのままずるずると崩れ落ちていった。
(犬死にか・・・)
美しい青空が遠のいてゆき、オルは意識を失った。
「まあ、怪我人だしなぁ」
「夜はまだ冷える。このまま放り出すのは気の毒じゃないか?」
「しかし、あの男は・・・」
灯油の薄明かりにてらされた部屋の中で、数人の男たちが腕を組んで座っていた。
「あいつが余計なことするから・・・」
「好奇心が強すぎるんだ」
「いっそのことあの男を・・・」
「まあまあ、そう言うでない」
ぶつぶつと小言を言う男たちをなだめながら、シワだらけの老人が口を開いた。
「連れてきてしまったのは仕方あるまい。怪我が治るまで、ということでどうじゃ?」
老人の意見に反対はなく男たちは部屋から去っていった。