住宅に潜む化学物質

熊澤富治雄

 今から6年程前(1996年)にNHKで「新築住宅に住めない!」という番組が放映された。時を同じくして民放各社で、住宅に使用された建材から発せられる化学物質で健康を害してしまったという報告が寄せられ、各社次々とセンセーショナルな番組特集を放映していた。

 その様な番組のおかげなのか、厚生省は建築建材のホルマリンなどの含有量のガイドライン発表した。しかし、このガイドラインは、建材を作る業者も使う業者も、誰もが少しの努力をすればクリアーできる基準に落ち着いてしまった。

始末の悪いことに、ガイドラインの提示によって、住宅に潜む化学物質の問題は深く静かに潜行してしまった。してしまったと言うより、させてしまったと言う方が正しいかもしれない。

以前、NHKの「プロジェクトX〜挑戦者たち」という番組で「世界を驚かせた1台の車」という番組を放映していました。
この番組は、絶対に不可能と言われたマスキー法という排気ガス規制をクリアーしていくホンダの技術者たちの物語なのですが、世界の技術者や経営者たちが「そんなこと出来ない!」としり込みする中で、挑戦して見事クリアーするまでの過程を描いたとてもいい番組でした。
私はこの番組を見て、ホルマリンなどの化学物質もマスキー法のような当時ではとてもクリアー出来ないような数値をなぜ出さなかったのだろうと思っています。

もちろん、急激なシステムの変更は社会混乱を巻き起こすし、それを生産する人たちに大きな影響をもたらしてしまうことは予想されたので、だれもがクリアーできる数値にしてしまったのでしょう。

この誰もがクリアーできるガイドラインも問題なのですが、もっと問題なのはこのガイドラインを守っていれば健康的な建材であるということや、守っているから気分が悪いのは気のせいだなどと他の人に言ってしまうことにあります。

化学物質に対する反応は、体の大きさや、性別、年齢などに全く関係なく反応してしまいますので、気のせいだなどと言わず、他の人のことに親身になってあげることが重要です。特にご夫婦の関係は特に重要です。
子供やお年寄りが具合が悪い言えば何とか対処しても、夫婦ですと「気のせいだ!神経質になりすぎている」などと思ってしまいがちです。

笑い話でなく、化学物質の件で夫婦喧嘩になってしまったときもありますが、最も気をつけなければならないのは、小さな子供たちの反応です。

 先日、こんなことがありました。
見知らぬお客さんから、キッチンリフォームの電話。
「キッチンを取り替えたいんだけれど、見積もりしてくれるかしら?」

そんな電話をいただいてお伺いしたところ、意外に古い外観だが、外装をリフォームをした様子。お宅に入ると、室内もリフォームしてあって、きれいなクロスが貼られていました。しかし、中に入ったとたんに、なんだか変な感じの匂いがする。

キッチンリフォームの打ち合わせもそこそこに、私はリフォームの件と家族の状況を聞いた。(私はかなり頭が痛くなってきている…張り替えたばかりのクロスから発散する化学物質で…)

「張り替えたクロスから化学物質が発散している感じがするんですけれど、お子さんたちの具合はどうですか?」

「そういえば最近二人とも湿疹が出てきて、痒がっています」

私の居たリビングでもかなりの薬剤が発散されている感じがしたし、家族四人が寝ているという寝室もクロスが張り替えられていて、こちらは壁と天井だから薬剤の発散量もかなりのものなのだ。しかし、奥様からかえって来た言葉は、「張り替えるのにのにどのくらいかかるんですの?」の値段ばかり、クロスはまだ張り替えたばかりだし、キッチンのリフォームにもお金がかかるし、そのうち大丈夫になるでしょ。

これでは子供はたまらない。奥様が化学物質に敏感ならばこういう展開にはならないのだが、奥様の関心はキッチンリフォームなので、私のアドバイスはかえって迷惑なのだ。
当然、その後奥様からのキッチンリフォームの話はなくなってしまった。 

最近の住宅は化学物質の発散のガイドラインが出来たおかげからか、以前のように室内に居ても立ってもいられないという状況ではないが、化学物質に過敏な人はそのような基準内の状況でもかなり調子を崩す。
この調子を崩したり、イライラしたり、発疹ができたりすることが化学物質が原因だと思わず、他の要因だと、化学物質に敏感でない他人が判断してしまうことにとても問題があるのである。新築して住み始めて家族の誰かが体調を崩したら、発散する化学物質を疑ってみる必要がある。

また、住宅の内外装仕上に十分気を使って化学物質汚染のない家をつくっても、化学物質を発生させる物を持ち込んでは元も子もないのであるが、実際には知らず知らずのうちに室内に持ち込んでしまうものがかなりある。

 こんな話がある。

 2世帯住宅での話。子世帯のお子さん二人は軽いアトピー症状が出ていて、お母様が気を使って、食品には添加物が入っていない自然食品や無農薬、低農薬の野菜などを食べさせていた。当然、私は言われるまでもなく、化学物質汚染のない住宅建材を使用したし、お客さんが室内に知らず知らずのうちに持ち込む「化学物質を発散する物」にもアドバイスをしたのだ。

 例えば、芳香剤、無臭衣類防虫剤、新しい家具、掃除機のゴミパック、消臭剤、防カビ剤、殺虫剤、防湿剤、新しいカーテン、カーペット、etc

列記するとこれらのものになるのだが、知らず知らずのうちに持ち込んでしまうものなので、若奥さんに十分注意をした。しかしである。

 ある日、若奥さんから電話がかかってきた。

「おばあちゃんがなんだか薬のような匂いがして、頭が痛いと言ってるんです。見てもらえますか!」

そんなはずはないと思いながらもお宅にお伺いし、親世帯の方に行って見た。

行ってみて驚いたことに、親世帯には真新しい食器棚、テーブル、テーブルの敷物などがあり、それらは薬剤の匂いをプンプンさせていたのである。

 私の思い込みで、親世帯は年配だから手持ちの家具を使うと思ったし、「新しいものは買わない」と言っていたので油断していたのである。
さらに悪いことに、ご主人は気のせいだと言っていておばあちゃんの
SOSのサインを見逃していたのである。

その後、おばあちゃんにはこれらのものが置いてある部屋では寝ないように、天気のいい日には寒くとも窓を開けて通風をよくする事、どうしても改善しなければ思い切って家具を捨ててしまうことなどを話した。

現代では新築の匂いが木の匂いから薬剤や化学物質の匂いに変わってきてしまっていて、私のところで造っている家に入ってくる人は「木の匂いがする!」なんて言っていて、喜んでいるが、そのうち「木のような変な匂いがする!」なんて事にならなきゃいいんだが。
有限会社 夢職人    ホームページは     www.yumesyokunin.co.jp

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