第四話









祐二と猫が遊びつづけて2時間が経過した。
さすがにバテたのか、祐二がベッドに倒れこむ。
猫がその後を追っかける。
手に体を摺り寄せてまだ遊んで欲しいとおねだりする。
指で頭をつついたりすると、興奮し指をガジガジと噛み出した。
そんなに痛くはない。
必死に噛み付いている猫を横目に祐二がぼそりと呟いた。











「・・・由香に会いてぇなぁ・・・」














天井を見つめたまま、動きが止まる。
指は相変わらず、猫に噛まれっぱなし。















「あいつ・・・許してくれるかな・・・」

















またポツリと呟く。
指を噛み飽きた猫がTシャツをよじ登ってくる。
爪を立てて必死になっている様が滑稽だった。
手でそっと猫を持ち上げ、胸元へそっと置く。
大きくて丸い瞳が祐二を見つめていた。















「・・・お前、どう思う?」

















目の前にいる猫に聞いてみる。
だが、答えるはずもなかった。
体を丸めて目は空ろになっている。
どうやらおやすみの時間のようだ。
そんな姿を見て自然と笑みがこぼれた。















「・・・おい、まだ寝るなよ」

















指でコンと額をつつく。
猫はびっくりして再び目を大きく見開いた。
顔の前で指をくるくる回すと猫が指の動きに反応して
頭をくるくる回し始める。
顔の中心で指を止めると、猫は前足で指を掴んだ。















「そういえば、あいつも猫好きだったよな・・・」
















猫がまた指をガジガジと噛んでいる。
さっきよりもちょっと痛い。
おやすみの邪魔をするなと怒っているようだ。
しかし次第にその力は弱まり、
顔をなすりつけて指を舐めてくれた。















ふと、テーブルに目をやる。
コンビニの袋やジュースのペットボトルが散乱する中に携帯電話のストラップが見えた。
猫を片手に乗せて上半身を起こす。
猫を抱いた手を左肩に持って行き、猫を放した。
爪を立てて必死にバランスを取る。
落ちまいと踏ん張り、顔の傍に体を預ける。
耳元で猫の小さな呼吸が聞こえた。















携帯電話を手にし、しばらく見つめる。
隣で猫がそわそわしていた。
恐怖のせいか、足が震えているのが肩から伝わってきた。













「にゃーん」














小さく猫が鳴いた。
顔を横に向けると耳をピンと立てて大きな瞳で祐二を見つめていた。
4本の足が必死にTシャツにしがみついている。
肩に食い込む爪が少し痛かった。












「・・・由香の家、お前も行くか?」
















そういった後、ふーっと息を吹きかける。
目を閉じてかなり嫌そうな表情が妙に面白かった。

















「にゃーん」

















再び猫が鳴き声を上げる。
低い鳴き声。
息を止めるとゆっくりと目を開ける。
そして、また祐二を見つめた。













祐二はニヤリと笑うと、右手を左肩に持っていった。
猫はそれを見て掌に移動する。
ベッドに手を近づけると、ゆっくりとベッドに降りて毛繕いを始めた。










猫が下りたのを確認し、祐二は再び携帯に目をやる。
メール作成の画面を呼び出し、慣れた手つきでメッセージを作成する。
キーを押す音が部屋に響き渡る。
そして、送信ボタンを押した。
送信者は由香。
メッセージは「今から家行くわ」
とてもシンプルであった。
















短いメロディが鳴った後、送信完了のメッセージが表示される。
待ち受け画面に戻し、携帯をベッドに無造作に置いて、
ベットから立ち上がる。。
驚いた猫が毛繕いをやめて祐二を見上げる。
祐二は猫を見つめ、呟いた。
















「由香の家、行くぞ」














微笑む祐二とは裏腹に猫は何のことかわからず首をかしげていた。
















     Part5へ        トップページへ戻る