第三話









陽が西に傾いている。
街はオレンジ色に染まり、家路に着く人々が多くなる。
家に灯が燈り、街は夜を迎えようとしていた。






街のはずれにある古いアパート。
そこの2階に祐二は住んでいた。
周りは何もない。
10分ぐらい歩かないと店がないところ。
不便な場所である。






部屋は6畳の小さな部屋。
掃除はあまりしておらずかなり散らかっている。
小さな台所には皿の山。
床は脱いだ服や本だらけ。
正方形のこたつ机にジュースやコンビニの袋が散乱していた。






そのこたつ机の隣に小さなベッドがある。
祐二はそこに座り、外の風景を見ながらタバコを吸っていた。
テレビもラジカセも鳴らさない。
電気もつけない。
ただ、ベランダを見つめ一人考えにふけっていた。







タバコの灰を落とそうと、灰皿に手を伸ばす。
指でタバコを軽くたたいて、再び壁にもたれようとしたとき。
ふと、自分の隣にあるダンボールの中を覗いた。







昼間に拾ってきた猫がまだ寝ていた。
ダンボールの中にタオルを敷いて、小さな体をさらにタオルで包んであげた。
小さな体を小刻みに震わせながら寝息を立てていた。
猫は人間と違い呼吸数が異なる。
子猫となればなおさらだ。






「こいつ・・・早く起きないかな・・・・」






祐二はぼそっと呟き、しばらく猫を見つめていた。
いつもまでも飽きることなく猫の寝顔を見つめていた。


















くあああああああ〜〜〜〜〜(あくび)
うにぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜(背伸び)
ごしごしごしごしごし・・・(洗顔中)





ふあーよく寝ました☆
みなさん、おはようございます。
いやぁ、最近寝不足でして・・・
って、あれ??
あたし寝てたのかなぁ?
うーん、なんか違うような・・・






ってあら??
なんですか、この布は??
ちゅーか、ここどこですか??
え〜と、あら??
お空が見えないっす。
っていうか、なんか囲まれてるっす。







ちょっとよじ登ってみましょう。
よいしょっと・・・って・・・
げっ!!
誰かの部屋みたいっす。
むむむっ!!
誰かいるっす。
こいつ、誰ですか??
よーし、近づいて見てやりましょう。
必殺、夜目モォォォォド!!









むっ!!こやつ寝てます。
どうやらあたしは監禁されたようです。
むしろ拉致です。
くそぉ・・・忌々しい人間め・・・






脱出しなければ・・・って
出口ないじゃん!!
あー監禁されました。
あたしの人生終わりました。
虐待されていじめられて挙句の果てに山に捨てる気なのねっ
はぁぁぁ〜どうしましょう・・・
あたしなんて食ってもおいしくないのに。
ちきしょおおおおおおおおおおおおおお
こうなるのならもっと鮭食っておけばよかった。






って、あっ・・・
鮭・・・
魚屋の親父に追いかけられて・・・
鮭くわえて逃走して・・・
んで、人間にぶつかって・・・
・・・
あっ・・・
そっから記憶ないっす。







ってことはここは・・・
やっぱり魚屋の親父の家・・・?
うううぅ〜〜〜〜
やっぱり、あたしの人生終わったみたいです・・・








「・・・んっ・・・う〜ん・・・」







ひいぃっ!!!
こいつが起きます!!!
あー尋問が始まります!!!
あああ・・・しっぽつかまれて振り回されるのかなぁ・・・
それとも髭を全部抜かれてあたしをフラフラにするつもりなのかなぁ・・・
それとも、あたしの自慢の爪を全部切られるのかなぁ・・・
うわぁぁ、嫌だイヤダいやだ!!!
ああああ・・・逃げなきゃ・・・
どっか逃げなきゃ・・・






「にゃーん」
「・・・んっ・・・おっ、お前やっと起きたか」






あああ、起きたさ。
起きたから早くこっから出せっ!!!







「ちょっと待ってろよ。飯作ってやるからな」








にゃっ??
今、なんて言いましたか??
「飯」ですか??
「鮭」ですか??
「ぎうにう」ですか??
それともあたしが料理されるのですか??
<猫のから揚げ、バジル風味>とかってされるのですか??
<猫の湯引き、にんにく醤油でお召し上がりください>とかってされるのですか??







「うにゃー」
「ほれ、飯だぞ」







はああああああああああああああっ!!!
ぎうにうです!!!
鮭です!!!!
猫まんまです!!!
煮干しもあるっす!!!!
あ〜ん、カツオブシまであるっす〜〜〜〜







がつがつ。
むしゃむしゃ。
ぼりぼり。
ぴちゃぴちゃ。
ばぐばぐ。







ぐぇーぷっ
あーもう食えねぇ・・・
あたしゃーもう死んでもいいよ。
ってはあああああああああああああっ!!!
もしかして、これが<最後の晩餐>ですか??
やっぱり、このあとに尋問があるのですか??







「ははは、お前よく食うな。うまかったか?」







え・・・ええ・・・
うまかったっすよ。
最高でした。
一瞬、天国が見えました。
昇天しそうでした。
それぐらいうまかったっす!!!
だから、ここから出してください!!!
ほんと、マジで助けてください(泣)








「うにゃあ」
「そうかそうか。よかったな」








あ・・・笑ってます。
あ〜なんか落ち着くなぁ・・・
素敵です。
惚れちゃいそうです・・・
って、いけません!!!
これは罠です!!!
罠に決まってます!!!
絶対この後に尋問が・・・











「お前の家、ここだからな。
 あと、外出たくなったらにゃ−にゃ−泣けよ。
 あ、腹減ったときもな」











・・・・・・えっ!?
あたしの・・・家!?
あたし、ここにいてもいいんですか???
尋問とかないんですか??
虐待とかないんですか??










カラカラカラ・・・










あ・・・ベランダ開いた。
外出られる。
逃げちゃおうかなぁ・・・
でも、ご飯もらったし・・・
けど、やっぱり人間怖いし・・・











「ここ、いつも開けとくから。
 どっか行きたい時はここから出入りするんだぞ。
 腹減ったらまたおいで」









あ・・・また笑ってる・・・
やっぱり落ち着くなぁ・・・
人間ってこんな優しい人もいるんですねぇ
すごい嬉しいです・・・
あ・・・泣きそうです。
あたしを泣かせるなんて罪な男ねっ
責任取ってもらいます!!








「・・・うにゃあぁ」
「お、遊ぶか??ほれ、ボールあるぞっ」










ころころころころころ・・・
はぁっ!!ボールっ!!!
がしっっ!!!
ボール、ボールぅぅ〜♪
丸いの〜丸いのぉぉ〜♪













「はははっ!!!やっぱ面白いよなぁ〜」











こんなあったかい人間。
初めて会いました。
すごい嬉しいです。
これからは「ゴ主人サマ」と呼ばせてください♪













───
祐二と子猫はいつまでも遊んでいた。
   それはお互いにとってとても幸せな時間であった。










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