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Duhem Problem

デュエム問題

検 証にかかるような予測を導き出すためには、初期条件に加えて、一つの理論や仮説だけでなく、数多くの仮説が必要である。したがって、その観測結果や実験結 果がその予測と一致しなかった場合、「どの仮説に誤りの責を帰するべきか」という問題が生じる。これを、その問題をいち早く指摘したピエール・デュエム (1861-1916)の名前をとってデュエム問題と呼ぶことがある。

この問題は、ポパーの反証主義だけでなく、帰納主義そのほかの方法論の立場でも生じるこ とに注意。また、一般的な仮説や理論に対してだけではなく、初期条件などの個別的前提に対しても生じることを見落としてはならない。加えて、実験や観察自 体が別の前提に依存するかもしれない。天王星の軌道の乱れは、結局軌道計算の際のモデルの適切さを疑わせ、太陽系モデルのいわば初期条件を改訂させて、海 王星の発見に導いたのである。

したがって、デュエム問題は、一般に科学的探求におけるモデル作りの適切さや、モデルの 構成要素の改訂をどのようにすべきかという問題を提起するものである。 一部の哲学者たちは、仮説群や初期条件群の特定の部分に反証あるいは不一致の責を帰することが困難だと見なし、予測を導き出すために使われた体系全体の不 適切さしか結論できないと論じる。これは、デュエムとクワインを代表とするホーリズムの認識論の立場である。もちろん、そのほかにも、デュエム問題に対処 する方策は、主観的確率を使ったベイズ主義の確証理論、ネイマン-ピアーソンの統計的検定をモデルとした、客観的な「誤りの確率」を重視する立場など、い ろいろなものが提唱されている。


Last modified Jan. 26, 2018. (c) Soshichi Uchii