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Maxwell's Demon

マクスウェルのデモンは、厳密な力学的知識と、気体分子や熱現象に関する統計的な知識との間のギャップを明らかにするために導入された思考実験で現れる。次の引用文を読み、下の図を参照されたい。

熱 力学において最もよく確立された事実の一つとして、ある容器の中に閉じこめられた系がその体積を変化させず熱の出入りもなく、またその温度と圧力がすべて の場所において同じであるとき、その系が何らかの仕事を費やさずして温度や圧力の不均等を生み出すということは不可能である。これが熱力学の第二法則であ り、これはわれわれがその系を集団としてしか扱えないかぎり、またその集団を形成している個別的な分子を知覚したり扱ったりする能力を持たないかぎり、疑 いもなく真である。しかし、もしすべての分子の運動を追跡できるほど鋭敏な能力を持った存在者を想像するならば、この存在者は、それのもつ属性がわれわれ のものと同様まだ本質的に有限であっても、われわれにとっては現在のところ不可能であるようなことをなすことができるであろう。というのは、すでに見たよ うに一様な温度の容器の中に含まれた空気の分子は決してすべてが同じ速度で運動しているわけではないからである──たとえ、そのうちの任意に選ばれた多数 の分子の平均速度はほとんど正確に一様であるとしても。そこで、この容器が小さな窓のある仕切でAとBの二つの部分に分けられており、前述の存在者が個別 的分子の運動を見て、速度の速い分子のみをAからBへ、速度の遅い分子のみをBからAへと移動させるように窓を開閉すると仮定してみよう。そうすると、こ の存在者は仕事を費やすことなくBの温度を上げAの温度を下げることになるが、これは熱力学の第二法則と矛盾する事態である。

これは、莫大な数の分子よりなる系に関するわれわれの経験か ら引き出された結論が、われわれが大きな集団としてしか扱えない分子を個別的に知覚し扱える存在者によって行なわれたような鋭敏な観察と実験については当 てはまらないことがわかる事例の一つにすぎない。(Maxwell, Theory of Heat, 3rd ed., 1872, pp.308-309)

 


Last modified Jan. 26, 2018. (c) Soshichi Uchii