insenible dream....02



(stand still)

 

 高校生活も3年目になり、受験に備えたクラス編成になった。
 そのクラス分けのボードを睨み上げるように2度確認して……勿論、IQ400のこの頭は一度見たそのボードの名前を見間違えようもなければ、瞬間的に忘れようもなかったけれど……快斗はきびすを返した。ボードから足早に遠ざかる。
 その姿を見留めた友人達が、同じクラスだ、または隣のクラスだと盛り上がって声を掛けて来るのに軽く受け答えを返しながら、快斗は学生服の左胸をくしゃりと握りしめた。
 奇妙な安堵と喪失感を遣り過ごしているのを、笑顔の下に隠す。笑顔という、ポーカーフェイスの下に。
 クラスメイトの白馬探が、元クラスメイトの白馬探となった瞬間だった。 

 

§ § § § §

 

「快斗、また寝てる!」
 ポコ、と丸めたノートで頭を叩かれて、快斗は渋々埋めていた両腕の間から頭を持ち上げた。……軽い頭痛は、まだ抜けていない。
 見上げなくてもポンポン言葉を放り投げて来る相手が誰かという事は分かっている。
「ッセェーな……オリャー寝不足なんだよ」
「どーせまた夜通しゲームでもしてたんでしょ」
「当たり。ダンジョンでどーしても一個見つかんねー宝箱があんだよなー…っと、反射神経ゼロな誰かさんにゃ分かんない話だよな」
「ゼロじゃないもん、簡単なのなら青子にだって出来るんだから!」
 バカにしないでよね、と幼なじみは腰に手をやってプリプリしている。
「すごーっく簡単なのなら、だろ? じゃあオレさまの深淵な悩みは分かちあえねーな」
「深淵が聞いて呆れるよ。毎日みたいに授業中寝てばっかりで、テスト前に泣きついて来たって知らないからね。青子のノート、貸してあげないんだから」
「いらねーよ、アホ子のノートなんて。オマエとそっくりの横に転がりそーなコロコロの字で、読めねーもん」
「誰がコロコロよ、もお、バ快斗ーッ!」
 モップを振り回して追い掛けまわす青子から、ニヤニヤ笑いのまま軽やかなステップで逃げ回る、あまりにも変わらない日常を『演じてる』。
 楽しんでいた筈の日常と非日常。
 いつからか、そのどちらをも演じるようになり出している。
 それは意識してであったり、無意識にであったり。
 はやし立てる友人達の声と、笑うクラスメイトの声。呆れたように視線を送って来る、自称・魔女の小泉紅子。
 何人かの友人とはクラスが離れた。それきりになる奴もいれば、変わらない奴もいる。
 馴染みのない顔と、言葉を交わした事のなかった顔もこのクラスにそれなりにいたが、それでも依然変わらず話せる友人も多かったし、何より中森青子と小泉紅子のコンビがいる以上、快斗にとってあまり状況に変化はなかった。
 青子とのバカ騒ぎや、それにすかさず突っ込みを入れる紅子との遣り取りなどで、図らずも新しいクラスにもストンと馴染んだ。
 瞬く間にG・Wが過ぎて、中間テストも終わり、いつの間にか梅雨だって明けている。
 なのに、日々が過ぎるに従って徐々に違和感は広がって、快斗の中からじわじわと調子を狂わせてる。

 

 

 白馬探。
 この名前はクラス分けのボードで、自らのボードにはなかった。
 これで毎日うるさくKIDの事で突っかかられるのから解放されると、ほっとしたのは確かだった。殊更軽く受け流していたものの、彼の探偵として腕や勘を見くびっている訳ではない。
 きわどい時もあった。
 いつだってKIDは最終的には切り抜けて来たけれど。快斗は、尻尾を掴ませはしなかったけれど。
 不思議なモノで、同じ教室にいないだけで、笑ってしまう程顔を合わせる機会は減るようで、自分が彼を避けるべく行動を起こしていないにも関わらず、彼と以前のように会話を交わす事はなかった。
 白馬が紅子を訪ねて教室に来た時には快斗は居合わせていなかったし、何だかんだと行動を共にする事の多い幼なじみを振り切って逃亡したような時に限って、彼女は廊下でばったり彼と会ったりしているのだ。
 無論、ニアミスはある。遠目に見かける事はあるし、避けられている訳ではないのだろう。
 ただ、積極的に関わろうとはしない快斗と同様に、彼も何か思う所があるのか、踏み込むのを躊躇うかの如く少し離れた場所からもの問いたげな視線を送ってくる事はあったが、それだけだった。
 それが気にいらないと思っても、白馬に会いたいのかと問われれば快斗は否と答える。
 白馬は、いつだって快斗の中のKIDを探そうとするから。快斗を通してKIDしか見てはいないから。
だから顔を合わせたくないと思う。
 なのに、同時に白馬は快斗を揺り動かす。
 黒羽快斗を知っている探偵は3人だ。そして快斗が認めている、惹かれる、真実を見通す眼を持っている探偵もその3人だった。
 一人目の工藤新一は江戸川コナンだった頃に知り合った。今では快斗をKIDと知っていて、黙認してくれている貴重な人物である。
 誕生日に西方より訪れる相棒より先にオメデトウを言って服部平次を悔しがらせても、苦笑でケーキのお相伴に預からせてくれる程度には、受け入れてくれている。
 二人目の服部平次は、KIDの姿で幾度か遭遇し、後に工藤邸で快斗として出会った。
 新一はあえて何も言わなかったようだし、快斗も口止めはしないまでもわざわざバラすほど酔狂な質でもない。ほのめかした事すらないつもりだが、それでも平次も探偵だ。特に勘も侮れないタイプの探偵だけに、何か感ずる所があったのかもしれない。
 はっきりと問われはしないまでも、漠然と見当は付いているらしく、会話の中に時々含みを感じた。それが警告や警戒なら対応のしようもあったが、言葉にでない気遣いだったから快斗は初め、反応に困った。
 結局今では、快斗を快斗として扱って来るから、快斗も彼を高校生探偵でも大阪府警本部長令息でもなく、ただの工藤邸の居候の平次と認識した。
 三人目は白馬探。
 彼は快斗をKIDだと思っている。
 これは新一の知っているとは意味合いを大きく異として、知られている訳ではない。ただ、彼がそうと信じている……KIDが快斗であると。
 だから余計に手に負えない。
 知られているのなら、隠さなくても良い。まるで知られていないのなら、騙し通すのも容易い。疑われている状態が一番神経を使う。
 一番手のかかる相手を、ただやっかいだと一言で切って捨てていたのは少し前までの事だったのに。今はただ、表す言葉の一つも見つけられずに、快斗は黙するだけだった。

 

 

 ひとしきり青子と追いかけっこに興じた後、快斗はするりと教室を抜け出した。昼休みの間だけでも寝ておこうと思っていたのに、タイミング的にもう教室では眠れなくなってしまった。
 引かない頭痛がこめかみ辺りから広がって、集中力を削って行くのを感じていながらも立ち止まる場所は見つけられない。廊下を歩いて、角に沿って曲がって、目の前には階段。
 下りは1階へ、職員室に保健室、昇降口へと続いている。昇れば3階、各教室と特別教室がいくつか、そしてA校舎へと続く渡り廊下がある。
 更にその上は屋上だが、この階段からの扉には鍵がかけられ立ち入り禁止となっている。が、勿論快斗にはなんの問題もありはしない。
 向かうべきは屋上だった。
 けれど、上へと続く階段を昇る為の足の上げ下ろしすら想像しただけでげんなりとしてしまい、快斗は下りの階段を選択した。一階には保健室がある。
 ベットさえ空いていればいい。小一時間も横になれば、この頭痛もすっきりしないだるさもいくらかはましになるだろうと算段を立て、踏み出した瞬間、自分が息をのんだのが分かった。
「………ッ!」
 感覚の抜けた左足から、ずるっと身が傾ぐ。
 落ちる、と思った矢先、右の脇に衝撃を感じて、その痛みに振り回されるような格好で快斗はその場に踏み止まった。
 正確には、快斗自身が踏み止まった訳ではなかった。快斗に出来たのは、その場から2段先までずり落ちた自らの左足を目で追いかけただけだった。
 嫌な汗が背中を伝う。
「……あ、」
 脇から腕を差し入れ強く捕まれて、落下を免れたのだと、現状を把握するのに長い時間は必要ではなかった。
 そのまま落ちていたなら、きっとただではすまなかっただろう。以前の自分ならともかく、今の自分は受け身さえ取れずにいたかもしれない。
 膝下に力が入らないのをごまかすように体勢を立て直そうとした時、腕が力強く快斗を引き上げその動きを助けた。
「ワリィ、サン……ッ」
 離れて行く手にようやっと顔を持ち上げて言いかけた礼は、中途半端に喉に絡まって、ヒュ、と空気だけが通り過ぎる。
「何をふらふらしているんです、黒羽くん」
 恐らく快斗を捕らえたのであろう右手は、既に腕組みされてその痕跡は伺えなかった。ため息と呆れに彩られた息が、彼の唇から漏れる。
……白馬探だった。
 淡い紅茶色の瞳が探るように快斗へと寄せられているのを覚悟して会わせた視線は、予想を違わずかち合ってそのまま外せなくなる。
 まともに目を合わせたのはどのくらい前だったか。下手をしたらKIDの姿での方が、近くから目を合わせていたのかもしれない。
 鈍い痛みが再びこめかみで燻り出して、快斗は軽く眉を寄せるとそれを機に視線をずらした。
「おまえ、か……、」
「生憎と、僕ですよ。階段は落ちるものでなく降りるものだと知っていましたか」
「っせぇなー。鬼の首取ったみたいに言われなくても、分かってるっての」
 さらりと嫌味を言われて、考えるより早く口を動かしてしまっている。不思議なもので、こういう局面になると自分の中で勝手に言葉は暴走してやり返してしまうらしい。
 こんな所で言い合いや嫌味の応酬をしている場合ではないと、冷静などこかではちゃんと分かっているのに、快斗は動けないでいた。先刻の、伝った嫌な汗がまだ全身を覆っているような気さえする。
「だったら、自分の体調が悪い事くらい自覚してますね?」
「あ……?」
 思いがけず断定形で言われて、快斗は先程せっかく外した視線を戻し、まじまじと白馬を見返す羽目になった。
 誰一人、快斗の体調が優れない等と、言うものはいなかった。多少の変調は隠し仰せると思っていた。
 せいぜいそれを突破するとしたら、東の名探偵・工藤新一だろうと踏んでいたので、あえて米花町へは近づかないように心がけていたというのに。
「顔色も悪い。らしくないですね、こんな……」
 白馬が何を言いかけたのか、快斗は最後まで聞けはしなかった。
 まるで快斗の身を案じるかのように向けられた視線に晒されて、ただ近づいて来る指を見ていた。
 恐らく、俯きかけた快斗の、顔色をはっきりと判別させようと伸ばされたであろう、指。
 他に他意等なかったであろうに。
 なのに、快斗は無意識に後ずさっていた。指から距離を取るように、ただ逃げようとするように、自覚なく。
 白馬の目が、見開かれて奇妙にゆっくりと唇が動くのを快斗は見続けた。視界から消える瞬間まで。
 伸ばされた指は今度は届かず、快斗も手は伸ばさなかった。そういう発想すら浮かばなかった。選択肢になかったからだ。
 当然の結果として、傾いだ快斗の身体は何物に支えられる事もなく、そのまま重力に従って十数段を落下した。 

 

§ § § § §

 

 ぽかり、と快斗の意識はいきなり覚醒した。が、そのまま身じろぎもせず目も閉じたまま快斗がした事は、現状把握だった。
 自分は横になっていて、微かに感じる香りは……消毒薬の香りだろうか……?
 奇妙に静かで穏やかな空間なのは確かだった。
 恐らくは保健室。
 打ち所が悪ければ病院直行コースも大いにあり得るが、流石にそこまでは思いたくない。
 会話は特に聞こえない、かと言って人の気配がない訳ではない。それはつまり、保健医かもしくは他の誰かがいるという事。
 気配は近くにもあったが、ただそれは快斗の神経をいらだたせる類のものではなかった。側にいるのは確かなのに、不思議とそれが気にならない。
 そんな穏やかさで。
 時折、指が快斗の前髪を優しくかき上げる。躊躇いがちに、丁寧に。
 その心地良さには抗えなかった。意識だけが覚醒していた快斗は、結局、瞳を開ける事なくそのままもう一度意識を沈めた。

 

 

 ぱち、と音がする程の勢いで、快斗は目を覚ました。白い天井が見えて、一瞬何がどうしたのかよく分からない。
 ベッドを囲っている薄いカーテンが、外界とこの場所を柔らかく遮断している。
 どうしてここには誰もいないのだろうとぼんやりと思って、室内に気配があると気付く。
 その気配がここにこうする前の最後の記憶にある人間の気配ではないとすぐに分かり、快斗は多少記憶が混乱する。
 白馬はどうしただろうか?
 流石に呆れた事だろう。せっかく落ちるのを助けたというのに、結局の所再び自ら落ちてしまった訳だから。

 

 指が。
 白馬の指が自分へと伸ばされるのを見て、後ずさったのは自覚しての事ではなかった。
 ただ、駄目だと思った。
 そんな風に距離を縮めてはいけないと思ったら、身体は勝手に動いてしまっていた。その結果がこれなら、自分をバカだと思うと同時に仕方がないとも思う。
 きっと、何度やっても同様の結果に巡り会うに違いない自分達の関係が変わらない以上は。

 

 白馬は何を思ってあんな瞳で見たのだろうか。
 落ちる直前。まるで友人の身を案じるかのような、視線で。
 友人だった事などなかった。ただ同じクラスに組みされた、クラスメイトと名乗る事は許されても、追う者と追われる者であっても。それ以上でも以下でもなかった。
 白馬探は黒羽快斗ではなくいつでも怪盗KIDを見て、知ろうとしていた。
 快斗を見ているようで見ていない瞳。
 一体、快斗の何を見て何を知って何を思って、あんな風に言ったのか分からなかった。
「オレの何を知って、らしくないだなんて言ったんだよ……?」
 呟きは極めて小さく、誰に聞き咎められもせず消えた。
 持ち上げた腕を目の上で交差させて、快斗は視界を閉ざすと同時に瞼を閉じる。

 

 チャイムの音が扉越しに小さく響いて来て、快斗は目を開いた。一度目覚めてから寝ていた訳ではなかったものの、横になっていたのが良かったのか、頭痛は今は治まっている。
 人の気配が近づいて来たのを感じ快斗は身を起こそうとして……呻いた。
「あだだだだだっ……、」
「お、目が覚めたか。急に起きるなよ、お前さん頭打ってんだからな」
 カーテンを引き寄せ脇で止めながら白衣を翻した校医は、片手で快斗を止めてそう言う。手近にあった丸椅子に腰を下ろすと、快斗がゆっくりと半身を起こすのを助けた。
「一応頭は庇ってたと聞いたが、たんこぶになっとるぞ、ここ。吐き気はしないか? 気分はどうだ?」
 手早く頭から足首までをチェックしていく手荒な指に、快斗は悲鳴を上げ続ける羽目になった。
「センセッセンセー、痛いってばッ、いででで〜ッ」
「うるさい、手元が狂う」
「〜〜ッッッ!!」
「この調子なら平気そうだな、頭の方は。骨も折れてない、階段から転げ落ちたにしちゃあ上々だ。湿布貼るからそのまま動くなよ」
 厳命され、快斗は涙目でぶんぶんと頷く。
 思えば、基本的に快斗は病気でここの世話になる事はなかったし、怪我なら引っ張って来ようとする幼なじみの手をかいくぐって逃げていた質だったから、校医の世話になったのは初めてだった。
 保健室で寝ておこうなどと目論んでいた過去の自分の考えの甘さに乾いた笑いさえ浮かんで来る。さぼりに利用しよう等と企もうものなら、この校医なら間違いなく即刻叩き出す事だろう。
 校医は湿布を手に取って、快斗の肩、そして腕と足にペタペタと貼っていく。
 それらは先程快斗の悲鳴が一際高くなった箇所ばかりで、特に左肩は落ちた時に一番ひどく打ちつけていたのだろう、既に青紫に近く変色している。
 そこに湿布を貼りながら校医は「もっとすごい色になるぞ」と冷たく宣言して快斗の気持ちを更に情けなくさせたのだった。
 既に熱を持ち始めているのか、冷たい湿布が妙に気持ち良い。
 ベットについて上体を支えていた手の、指先に何かが触れて見下ろすと、枕の横に掌大の保冷剤が転がっている。
「これ……、」
 既にかなり解凍して柔らかくなっているそれを手にした快斗に、校医は、ああ、と呟いた。
「それのお陰でお前さんのたんこぶは、その程度ですんでいるんだ。礼を言っておけよ」
「……え……?」
 不思議そうに見返す快斗を、校医も不思議そうに見返した。
「友達だろう? お前さんを連れて来た……白馬、探だったか」
「あいつ……ここに……?」
 ベッドの横まで引っ張って来てあった丸イス。
 落下しながらも離せなかった視線の先で、彼は指を伸ばしていた。
 必死な表情で何か言っていたのに、何と言っていたのか分からなかった。
「5限の終わりまでそこにいたな。自分の方が青い顔しとる癖に動きゃしないから、ついでにお前さんの頭にそれを当てておけと持たせたんだ。立てるか」
 やや呆然とそれを聞いていた快斗は、慌てて頷く。上掛けを退けて立ち上がると、湿布薬の袋が無造作に飛んで来て、狙い澄ましたように快斗の両手の中に落ちて来た。
「行く気があるなら医者には行っておきなさい。風呂は今日は諦めた方がいい。湿布は、寝る前には貼り替えるように」
 それを言えば勤めは果たしたとばかりに校医はデスクに戻り、左手をちょいちょいと振る。
 行け、と身振りだけで示されて、快斗もそれに従った。
「ありがとうございました」
 戸口で呟いた快斗に、校医は苦笑のようなものを口元に浮かべて、机にまた向き直った。

 

 

 廊下には既にざわめきが戻っている。
 戸口を出る直前に目に留まった時計で、先程のチャイムで6限が終わったのを確認し、どうしようかと思わず天を仰いだ。
 どうやら、白馬にさぼりの巻き添えを食わした形になってしまっている。頼んでいないと憎まれ口をきくのは容易いが、これだけ迷惑をかけて、そうは言えない。
 状況が変わってしまったようにしか思えない。心境的にも。
 彼は、快斗を保健室まで運んで来てくれて、側についてくれていたと言う。しかも、ずっと保冷剤を当てて。
 それは勿論目の前で人が階段から落ちれば、少なからず心配をするだろう。
 それがまるっきりの他人でないなら尚の事。ましてや、人の良い人間なら責任を感じて面倒を見る、というのも無理からぬ話だ。
 そして、彼は確かに生真面目が服を着て歩いているような所がある。
 ただ、その行動と彼との過去のつき合いを考えるとどうしても快斗は食い違いを覚える。
 彼が、自分にそこまでする筈がないと刷り込まれている。その認識と、彼の行動、態度、言葉、視線……それらが一致していないように感じるのだ。
 だから分からない。

 夢うつつで感じていた、指。前髪をかきあげる躊躇いがちな動きを覚えている。優しい動きだった。
 あれは現実にあったのか、そして白馬だったというのか……?
 それとも自分は、彼に何かを求めているのか、その現れなのか。

 白馬が何を考えて、どう思っているのかが分からない。同時に、自分が白馬をどう思っているのかも、分からなくなった。
 同じクラスで毎日顔を合わせていた時は、こんな思いはなかった。こんな、あやふやで、掴み所がなくて、不安定な思いは。
 なのに今は、どこに向かって歩いて行けば良いのかも分からず、自分の中すらはっきりしないまま、途方に暮れて立ちつくしている。

 

「……新一……」

 

 ぽつりと思ったのは一つ。
 名探偵に会いに行こう、だった。
 米花町の高校生探偵。あいつと同じ、探偵という人種。
 顔を見てどうなるものでもないし、最近の不調を身抜かれてしまわないかという懸念もある。探偵だけあって、なかなか他人の事は良く見ているから。
 けれど、会いに行きたいと無性に思った。自分を隠さなくて良い相手。そのままに見てくれる、相手。
 彼に何かしてほしいとか、そう言う訳ではなくて。ただ真っ直ぐに見つめる瞳に晒されたら少しは自分の中の混沌としたモノの形も、はっきりするかもしれないと思った。
 あの全てを見通す瞳を見返したら。

 

…………彼に、会いに行こう。

 

 快斗は決心した。


◆白×快(K) 


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