5/8/2005改訂

出口を絞ったバックロード


前書き

今設計中の新作(余ったドライバの有効利用+場所と費用の無駄遣い)のシミュレーションついでに、以前から気になっていたバックロードの出口を蓋で絞って見たら‥‥というのをシミュレーションだけでやってみました。


シミュレーションツールは、こちらから"TL Sections"を使用。

実際にある程度は出口を塞いでみた経験もありますが、低域の量感が減って使えないということはありませんでしたし、TQWTという方式が、まさに末広がり管の出口を少しだけ開いて低音を取り出してやるような形をしていて、ドライバの取り付け位置や空気室を除けば似たようなもの(乱暴ですが)ですから、ひどい低音不足になることはなかろうとの予想はありました。

あくまでシミュレーションですが、思わぬ効果も見られて楽しめました。
試すのは簡単。出口に蓋をするだけ。
中低音の凸凹感に悩んでいる方、大きく開いて放射効率を上げることこそ優先するという考えを横へ置いといて、お試しあれ。
なにしろ、うまく改善されなくても、元に戻すのは簡単。

1. シミュレーション編
1.1 計算条件
1.2 普通の開口(閉塞無し)
1.3 開口面積=振動版面積
1.4 開口面積=振動版面積 × 0.5

2. 実測編
2.1 スリット(深さ1.5cm)
(2.1.1) 12.5 × 9.0cm = 112.5cm2/375cm2
(2.1.2) 12.5 × 4.0cm = 50.0cm2/375cm2
(2.1.3) 12.5 × 2.0cm = 25.0cm2/375cm2
(2.1.4) 12.5 × 1.0cm = 12.5cm2/375cm2

2.2 スリット形状の効果
(2.2.1) 30.0 × 0.5cm = 15.0cm2/375cm2
(2.2.2) 30.0 × 0.3cm = 9.0cm2/375cm2

2.3 円形出口との比較
(2.3.1) Φ40mm (12.6cm2)
(2.3.2) Φ25mm ( 4.9cm2)

2.4 信号源の比較
(2.4.1) ホワイトノイズとサイン波スイープ


3. 聴感

4. あとがき


1. シミュレーション編

1.1計算条件

詳細な条件は、グラフの下にリンクされたPDFファイル(シミュレーションの全容)を参照ください。
なお、PDFファイルはプリンタードライバとghostscriptで作成したため、テキストデータの取出しはできません。

1.2 設計中のバックロードを普通にシミュレーション

酷いf特に見えますが、小口径バックロードをシミュレーションすれば、こんなもんです。
リスニングポジションではいろんなパスを通った音が重なって均されるので、こんな凸凹にはなりません。


青の破線は無限大バッフル、赤の実線はコーンとホーンの合成。


青の破線はホーン出力、赤の実線はコーン出力。
PDFファイル

1.3 出口を振動板面積だけ残して塞いでみる

上の場合と比べて、出口面積は約1/7です。
大幅にピークディップがならされて、ローエンドもわずかに伸びます。


青の破線は無限大バッフル、赤の実線はコーンとホーンの合成。


青の破線はホーン出力、赤の実線はコーン出力。
PDFファイル

1.4 出口を振動板面積の半分だけ残して塞いでみる

8cmドライバ用バックロードなので、出口はわずか14cm2
スロートよりも小さいですが、再生限界は下がり、レベル低下は起こさず、ピークは下がり、ディップは埋まりと良いこと尽くし。


青の破線は無限大バッフル、赤の実線はコーンとホーンの合成。


青の破線はホーン出力、赤の実線はコーン出力。
PDFファイル

2. 実測編

シミュレーションの次は実測ということで、八角獣を使っていろいろ試してみました。
八角獣は上面開口なので、板を載せるだけで出口面積を制限することができ、この手の試行には好都合です。

2.1 スリット(深さ1.5cm)

特に注釈のない限り、蓋ありの方が低域レベルが上がっています。
これは、決して本当にレベルが上がっているのではないです。マイク設置位置の振幅が大きくなっているだけです。
出口を絞り込んで、そこにマイクを設置したら、そらマイク入力は上がります。^/.^;

山のシフト、低域端の落ち始めの周波数に注目してください。

山のシフトは本来のホーン設計によってどのように作用するかわかりませんが、何らかの変化はあるはずですから、不満がある場合、改善の糸口となるかもしれません。
そもそも、そういう手がかりを求めて試してみた出口制限でもあります。

(2.1.1) 12.5 × 9.0cm = 112.5cm2/375cm2

低域端が若干低域側へシフト。
ローエンド拡大というよりも、中低域のシフトがセッティング上のチューニングに使えるかどうか、というところ。

青は蓋無し赤は蓋あり。

(2.1.2) 12.5 × 4.0cm = 50.0cm2/375cm2

出口はほぼ振動版面積と同等。
低域端はかなり伸びましたが、中低域レベル(漏れ)はさほど変わりません。

青は蓋無し赤は蓋あり。


(2.1.3) 12.5 × 2.0cm = 25.0cm2/375cm2

出口はほぼ振動版面積の約半分。

青は蓋無し赤は蓋あり。


(2.1.4) 12.5 × 1.0cm = 12.5cm2/375cm2

出口はほぼ振動版面積の1/4。
低域端は約30Hzまで伸び、気持ち中低域レベル(漏れ)も減りました。

青は蓋無し赤は蓋あり。


2.2 スリット形状の効果

スリットの深さを無視できる塞ぎ方での測定。
スリットの深さが、バスレフダクトのような影響をもつかどうかの確認。

(2.2.1) 30.0 × 0.5cm = 15.0cm2/375cm2

低域端のシフト量は、若干「スリット深さあり」よりも小さい目に見えます。

青は蓋無し赤は蓋あり。


(2.2.2) 30.0 × 0.3cm = 9.0cm2/375cm2

ここまで絞っても低域端のシフト量は、若干「スリット深さあり」よりも小さい目。
スリットの深さ(ダクトの長さ?)が再生限界を下げるがある、と言う当たり前の結論か。。。

青は蓋無し赤は蓋あり。


2.3 円形出口との比較

(2.3.1) Φ40mm (12.6cm2)

スリット出口も幅1.0cm程度であれば円形の出口と大差ない、みたいです。

青はスリット12.5cm2赤は出口形状=円。


(2.3.2) Φ25mm ( 4.9cm2)

ついでで測りました。
ここまで小さくすると損失が影響するようで、音圧が激減しました。

青はスリット12.5cm2赤は出口形状=円。


2.4 信号源の比較

(2.4.1) ホワイトノイズとサイン波スイープ

FFTは、スイープ速度が速いと高域下がりになりますので、全体を眺めるのにはホワイトノイズが良いです。
一方、ホワイトノイズはS/Nを取りにくいので、低域中心に凹凸の具合を確認したいなら、スイープのほうが見やすいです。

ホワイトノイズではS/Nを確保するためにボリューム位置を上げますので、20Hzの出だしが同じレベルになるようにボリューム位置を調整しています。
比較してみましたが、高低域のバランスを除けば凸凹の具合も一致
凸凹の変化を見る目的なら、スイープ信号で十分実用になることがわかります。
ちなみに、FFTでサイン波スイープを使うと、十分ゆっくりスイープしないと右下がりの結果が出ます。ホワイトノイズはFFTでフラット。
下のグラフのバランスが違うのは、主にその差です。

青はスイープ赤はホワイトノイズ


3. 聴感

最後は耳で聴いてどうかということ。
掲示板にも書きましたが、まず、自分の耳では、
スリット幅を0.5cm(15cm^2)とした状態で、まず低音の量感は全く変化したようには感じませんでした。

量感は変わりませんでしたが、質的変化としてはどうかというと、吸音材を出口に詰めたケースと似た変化。
クリアさが増して、ベースのエッジが立ち、動きもはっきり見える感じです。
スピード感が落ちた感じも受けませんが、若干クリアすぎる感もあります。
適当なスリット幅がどこかにありそうです。

それだけは信じがたいので、家内に聞いてもらったときの感想。
声の直後にまとわりついていたエコーみたいなのが、板を載せるとなくなった。
フワッと広がっていたボーカルが一点に集まった。

くどいですが、簡単なので、好みに合うか合わないか試してみることをお勧めします。
塞ぐことをお勧めするのではないです。試すことを勧めます。

4. あとがき

最初、出口を塞いでもレベル低下を起こさないのが一番の驚きでしたが、考えてみれば、これでもバスレフポートよりは大きいわけですから、ホーンとしての動作が維持されているのなら、低音取出口の面積としては十分とも見れます。

結局、出口を制限することによってホーンとしての動作(あえてホーン動作という尺度で見たとき)が維持されるかどうかが問題なわけですが、結果を見る限り、若干パラメータが変動するだけで、動作上の変化はないようです。
これだけ広い帯域を持ち上げるバスレフはないわけですから、初めからそういう設計として狙うのもありかもしれません。
最後の音道1本を追加する代わりに、大型ダクトを追加するというのも、十分リーズナブルかもしれません。

さて、後は作ってみるんでしょうなぁ、、出口パネル交換式で。

というわけで、

「バックロードの大きく開いた口に、プライドを持つのはやめにしましょう」

と言えると思うのですが、、、実際にうまくいったらフォントサイズを大きくしようっと。^/.^;

余談

さて、以前から漠然と思っていたことですが、今回、TLSモデルでバックロードをシミュレーションしてみて、本来のスピーカーのレスポンスというのは、こうやって丁寧に音の伝播を解くべきものと言うことを実感しました。
つまり、バスレフ動作だ共鳴管動作だと、たった一面からの物差しで考えるのは、電卓レベルで実用的な近似ができるようにするために編み出された概念であって、決してそう言った動作が実在して複合動作しているのではないのです。
正直なところ、もはやホーン動作と呼ぶのもはばかられます。

M.J.Kの作成したこういうツールが公開されているということで、個別の動作モードで議論する時代の終わりを感じます。
むろん、簡便な個別モードでの近似手法をそれに適した形状に当てはめるのは、実用上のテクニックとして否定する気はありません。念のため。

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