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★ 枢木抹消シリーズ 00−16 ★
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月光花ムーンダスト


4月某日。
ブリタニア政庁の一角にある執務室を訪れる者が居た。

コンコン。
オデュッセウスは、処理中の書類から目線を話すことなく、来訪者に入室を許可する。
随分と無用心な対応だが、この執務室まで立ち入ることが出来る人間は極々限られている為、手間をさっさと省いた形だ。
入室を告げる言葉と共に扉が開かれる。

ちなみに、誰が執務室ここまでノーチェックで来れるかと言うと。
上司こうていである異母弟ルルーシュと、同僚である異母妹ギネヴィア +あと少々、と言った処か。

勿論、皇帝が動く場合は、当然の事ながら事前に連絡が来る。
が、今回はそれはない。と言うか、現在、地方視察に行幸みゆき中。よって訪問者候補からは除外。
同僚である異母妹の場合も、執務室ここで応対する以上は職務関連の為、勿論連絡がくる。
急を要する事態の場合――特にギネヴィアの担当は国防関連だ、緊急事態エマージェンシーの場合は連絡無しでの訪問も有り得るが、その場合、悠長にノックなど
せず最短時間スクランブルで飛び込んでくる。
…最近、ちょっと仕事中毒ワーカホリック気味なのが心配なところである。


閑話休題それはともかく

訪問者はルルーシュでも、ギネヴィアでもない。
となると。
残る候補は、極限られる。
まぁ、考えるまでもなく、声からして分かっているが。

「どうかしたのかい?」
何か不都合トラブルでも起きたのだろうか、と考えを廻らせる彼の視線の先には、予想通り、少し困ったような顔をした朱銀シナバーの髪の人物が立っていた。
「申し訳有りません、オデュッセウス殿下。ご公務からは外れるのですが、ご確認頂きたい書類が…」
数ヶ月前、オデュッセウス直下の秘書官補佐として着任した、皇妹カリーヌである。

皇妹が秘書官など、情実人事ではないか、と言う意見が出るかもしれないが、現在の帝国TOP3(ルルーシュ・オデュッセウス・ギネヴィア)
の間を行き来するのに、身分的な問題がない事――まぁ、身分制度自体は廃止されているが、心理的な壁はなかなか取っ払う事が出来ない代物で
ある――から、結構重宝されており、何より先述の3者全員に信頼されている数少ない人物だ。

さらに、体制激変真っ最中のブリタニア政治中枢で鍛え上げられた、叩き上げの人物でもある。
下手な秘書官より状況判断力は高い + くわえて色々な裏事情ぶたいうらも熟知している為、3者間の内密の連絡役としては最適。
本人もかなり必死に努力している為、秘書官補佐と言う立場にある事に対して、好意的な見方が大半を占めている。


が。
まかり間違っても、情実人事、などと言われないように――その懸念は、本人がいやと言うほど理解している――公私の別をキッパリと わきまえ
態度をとる異母妹が、公私どちらとも取りかねる態度で居る事に、疑問を覚えたオデュッセウスが確認を取る、と…。

「何か、不都合でも起きたのかい?」
「いえ、そうではありません。……この書類を、ご覧いただけますか…?」

訝しみながら差し出されたファイルを受け取ったオデュッセウスは、思わず『むぅ…』と唸る。
これは……なるほど、対処に困る訳だ。

「陛下のご裁可を頂く必要がある書類ですが…これを提出しますと…」
「…………却下扱いになる、だろうね……」
「はい……」
「だが、無碍むげにはしたくない、と。気持ちはわかる、ね」

対応に困って上司に相談≫更に困って相談≫更に相談…繰り返しリピート≫確認してきてくれ、で、最終的にオデュッセウスの処まで廻ってきた模様。


「カリーヌ、ちょっと、ギネヴィアの処までお使いに行ってもらえるかい?」
少し考えた後、『休憩時間を削って貰う事になるかもしれないけど』と、上司としての立場ではなく、異母兄あにとしての口調と言葉で問いかけた。
「はい、セウス兄様」
ほっとしたように、『残業大歓迎』と言う感じで、元気に応じ、退出した。


ブリタニア政庁。
仕事中毒者ワーカホリック大量発生注意報、発令。



※※※※※※※※※※



5月9日。帝都某所。

「……これは、流石に……」
「…………凄い、としか、言えませんね」

呆然とする、皇姉&皇兄&皇妹組。


「で、向こうの搬入準備はどうなってんの? リヴァル」
「勿論、準備万端、整ってますよ♪」
任せてください、と笑顔満面でガッツポーズを取る紺青の青年。
「それでこそ、我がアッシュフォード生徒会の名誉メンバーだぞよ♪」
「お褒めにあずかり、光栄の極みであります、ミレイ名誉会長!」
鷹揚に褒め称える金色の女性に、気取った礼をしてみせる。

「ミレイ会長の方の手配は?」
「ふっふ〜ん♪ 私の方に手抜かりがあるとでも?」
心外だわ〜、と片目を瞑って悪戯っぽく問う言葉に。
「まっさかぁ〜」
とんでもない、と、大袈裟なまでに 頭 かぶりを振る。


「…………恐るべし、アッシュフォード生徒会……!」

戦慄の言葉を零したのは、さて、誰?



※※※※※※※※※※



5月、第二日曜日。

朝未あさまだきとも言える早朝。
皇室墓所の一角に佇む、黒髪の青年の姿があった。
墓石に刻まれた名は、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。
丁寧に花束にされたカーネーションが供そなえられている。

母の真実を知り、幻想が砕けた現在いまでも、思慕おもいは消しきれなくて。
自らの手で消し去った母への墓参など、滑稽な事だ、と、自嘲しながら。
それでも、この、今日という日に、訪れてしまう。

――母上。それでも、私は…。

静かな墓所を、風が吹き抜けて行く。
白い花弁が哀し気に、揺れた。


白のカーネーション。
花言葉は、“亡母を偲しのぶ”。
そして。

私の愛情は生きています

――どうしても憎みきれなくて。



※※※※※※※※※※



「おかえりなさい、ルルーシュ様」
霊園から戻った青年を迎えたのは、鮮やかな緑髪の女性。

「ただいま、C.C.」
「先ほどから、ミレイさん達が、お待ちになってらっしゃいますよ」
「しまった、もうそんな時間か」

ほんの少しの私的時間プライベートの間を縫ぬった往復。
物想いに耽ふけっていた時間が思いの外、長かったらしい。
予定時間を超過オーバーしていたようだ。
少し慌てて用意を始める。


『日曜日に仕事?』と思われるかもしれないが。
基本的に皇帝・皇族など、国の顔役に、固定休日などはない。
催事が行われる場合、普通に駆り出される。
さらに今日は、国家主導の催事が行われるのだ、その顔役が休んでなどいられない。

5月第二日曜日――一般的に『母の日』と呼ばれる日である。


『何故に『母の日』が国家主導の催事なのか?』と言うと。
そこには結構複雑な事情がある。

青年帝の即位前後――当時はまだ少年帝と呼ぶべき年齢だった――、帝国では色んな大事件が続発した。
『血染めの特区事件』、それから連鎖発生した『黒の叛乱事件ブラックリベリオン』。
その翌年、属領エリアに住む3500万もの臣民が犠牲となった『第二次東京決戦』が発生。
少年帝の登極後は、その即位や政策に反対する特権階級による叛乱が各地で勃発。
挙句、帝国全土を巻き込むような大規模戦闘――『ダモクレス戦役』まで起きた。


相次ぐ戦役によって生み出されたのは。
大量の戦争廃棄物スクラップ(ダモクレス含む)。
地形の変わった戦闘地区。
そして、大量の戦死者。


戦役終了後に遺されたのは。
家族を失った遺族たち。
そして、大勢の戦災孤児。



戦役の後始末もそこそこに、名実共に皇帝となった少年帝は、次々に社会福祉制度を立ち上げまくった。盛大に。
遺族への弔慰金制度。戦災孤児への支援制度。戦没者への慰霊制度、etc...


正直、それ以前の神聖ブリタニア帝国と言う国は、テロに巻き込まれて死んだ人間を運がないと嘲笑し、人質となってしまった人間を弱者と切捨
て敵諸共殲滅し、囮作戦で囮部隊が全滅しても、その程度の役立たず、と指揮官はお咎めすら受けない。そんな歪んだ国だった。
遺族達への配慮など、思考の片隅にもあろう筈もない。
あったとしても、自分達の損得を計算しての人気取りパフォーマンスでしかなかった。


しかし、少年帝の行った制度改革は、損得抜き、被害者のケアを最優先した、『優しい世界』と呼べるものを目指す改革であった。

少年帝自身、テロ事件の被害者であり遺族である。
敬愛する母を眼前で射殺された 齢 よわい9歳の幼子おさなご。
更に、溺愛する妹は下肢の自由を失い、瞳を鎖とざした。

普通の感性があれば、少年の心のケアを最優先させるだろう。
だが、血も涙もない非情な帝国は、幼い兄妹を、生贄として国から放逐した。


家族を理不尽な暴力で失った、その経験が、痛みが、傷みが、他国に類を見ない社会保障制度を生み出した。
真摯で誠実で、繊細な配慮から成る制度に、臣民達の目から鱗が落ちた。


その制度の一つが、聖夜祭における催事・慰霊式典であり。
『母の日』も、勿論、その制度が適用される。

家族を失った者は、ふとした時に、その喪失を付き付けられる。
家族で祝う『聖夜祭』、母への感謝を示す『母の日』などは、その代表だろう。
街中が、その日を祝う雰囲気ムードになればなるほど、逆に、消せない悲しみが降り積もる事になる。

それを実体験として識る少年帝は、せめて、一時でも憂いを払えるように、と。
母の日の今日も、各地の公共施設では催事が、霊廟では慰霊祭が開かれている。



青年帝の役割は、まぁ、放送を通じての開催挨拶&弔辞だ。後、色々な雑務。
本来なら朝から外出などしていられる時間などない。
ない、のだが…。

催事の基本担当役が、担当役である。
青年帝自身も、登極直前に母を亡くした事を知っている。
その為、少しでも自由になる時間をと、何とか無理を押して時間を捻出してくれた。
代わりに当人達は、今頃、仕事に忙殺されている事だろう。


青年帝の母、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。
皇歴2009年、アリエス宮にて逝去。
それが、公的な記録である。

10年以上前に落命したはずの、青年帝の実母。
だが、その彼女が、精神だけとなり、他者の身に潜んで存在していた事を識るものは、数少ない。
そして、青年帝は登極直前に、その実母の精神を、自身の意志で無へと返した。
自らの手で母を殺めたその心傷は、未だ癒えてはいない。


だが、帝国内には、現在進行形で、喪失の痛みに苦しんでいる多くの臣民がいる。
そんな中、全ての元凶たる種々の事件、その殆どに直接関わった青年帝は、自分に立ち止まる資格などないと。
自身の痛みを無視し、臣民へのケアを優先させる青年帝の、悲痛な心情を理解している側近達は、青年帝の行動を諫めることはせず。
けれど、せめて、ほんの少しでも、痛みを隠さずに済む時間を、と、自分たちの労苦が増える事など気にせず、奮闘してくれている。
心傷きずが大きくても、それを罪ごと包んでくれる人たちがいる。
その想いがあるから、優しさがあるから、青年帝は、歩いていける。


「行こうか、C.C.」
「はい、ルルーシュ様」

そして…。
共に居てくれる人が居る。
だから、心傷きずが痛んでも、立ち止まらずに歩いていける。



※※※※※※※※※※



その日の午後。

一通りの公務が終了した青年帝の元へ、訪問者が訪れた。
星青玉サファイアの瞳の女性に、軟玉ネフライトの瞳の青年。
その二人の表情を見た瞬間、青年帝の背に、ぞぞぞぞぞ…っと悪寒が走った。


「おっつかれ様〜、ルルちゃん♪」
「おつかれー、ルルーシュ」
「ちょぉーっと、今から付き合って貰えるかしら?」

――あ、ヤバイ。
本能が逃亡を命じる。
が、身体能力を考慮すると絶対無理。
というか、この表情のこの女性ひとから逃げられた事、ないし。


本来なら――アリエス宮でならともかく、一応ここは執務室――有り得ない口調に。
アッシュフォード学園で、突発イベントを開催する時の、悪戯っぽさ全開の表情。
逃げ出すことが不可能だと悟り、がっくりと執務机に突っ伏した。


まぁ、本当に彼が拒絶すれば、彼女達は遠慮するだろうが。
彼女達の行動が、好意から成る事を熟知している為、余程でないと全力拒絶しようと思わないが。
彼の為を思う好意が99%、あと1%が色々な意味での 悪戯 サプライズ。
その 悪戯 サプライズが、恐怖の根源なのだが…。


…勘弁してくれ…。
青年帝の祈りは、勿論、誰にも届かなかった。



※※※※※※※※※※



青、青紫、紫、濃紫…。

案内された(引き摺っていかれた)場所で、思わず鳩が豆鉄砲を食らったように、青年帝が硬直した。
かなり広い部屋中が、造花だらけになっている。素材は折り紙や布、フェルトや和紙など、多種多様だ。


「な、なんだ。これは…」
呆然となった青年帝の言葉に。

「決まってるじゃん? 『母の日』の贈り物、だよ、お前さんに」
何年経っても『悪友』の立ち位置スタンスを変えない青年が応える。

「はぁ? どう言う事だ」

何がどうしてこうなった?
高性能スペックを誇る青年帝の頭脳CPU、盛大に空回り中。


「だから、さ。『現在いま』のブリタニアを作った皇帝陛下おかあさんへの、感謝の気持ちだよ」
「…………なぜ…?」

何故、母の日なのか、とか。
何故、男の自分がお母さんなのか、とか。
というか、誰からなのか、とか。


「ちなみに、送り主ぬしは、各地の孤児院とかの子供たちから、だよ」
「!!?」
「ありがとう、って、な」

――これでは、逆だ。
彼らが家族を亡くしたのは、自分が引き起こした諸々の事件が原因だ。
罵倒される事こそあれ、子供たちに、そんな事を言ってもらえる資格はない。


わずかに眉根を寄せた青年帝の表情に気付きながら、気付かぬ振りで悪友が続ける。

「今までのブリタニアじゃ、親を亡くした子は、絶対的な弱者として、国から切り捨てられる存在だった。
それを、その考え方そのものを、お前はぶち壊して、新しい道を作り上げた。
勿論、子供たちは、お前の即位経緯――親父さんを殺して即位した事――や、自分たちの親が死ぬ原因になった戦争の経緯やなんかも、ちゃんと
教育プログラムで学んでるぜ。
それでも、その上で、お前に、『ありがとう』、って、伝えたいんだよ」

『これは、俺から、な?』と言って手渡されたのは、簡素シンプルに 包装 ラッピングされた青 紫 色プリンセスブルーの花束。


困惑する青年帝に、続けて声がかかる。

「そうだよ。最初はルルーシュを恨んでた子もいる、憎んでた子もいる。
今でも、恨んでる子も憎んでる子もいる。
憎しみや恨みは簡単に消えないし、消せないけど、それでも、新しく生まれる感情おもいも、あるんだよ」
『私みたいにね』と続けたのは、眼鏡をかけた緑 青 色ジャスパーグリーンの髪の女性。

彼女が差し出したのは、淡い青色アクアブルーの花の束。


「だが…」
「だが、も、なにもないの! よーく、その眼でみてごらんなさいな。
…ここにある花、全部、子供たちが一つずつ、作ったものよ」
戸惑いに揺れる瞳の青年帝を、金髪ブロンドの女性が優しく叱咤する。

軽い調子で、それでいて真摯な瞳で渡されたのは、淡い赤紫色ライラックブルーの花束で。


促されて造花の花畑に近づいた青年帝は、ふと気付く。
1本1本に、小さなリボンが掛けられている事に。
手近な一本を手に取り、リボンに書かれた文字に、その紫水晶アメジストの瞳を見開いた。


『ありがとうございます』

書かれた、幼い文字。
少し歪で、それでも、丁寧に書かれた、 伝言 メッセージ。
良く見ると、造花自体も、手作りらしい、ちょっと粗い感じの、けれども丁寧に作られた布製の花。
深い深い青色の花。


もう一本を取ると、その造花に巻かれた紙のリボンには、何もかかれていなかった。
だが、気付く。小さな凹凸が、その紙に刻まれている事に。

『ありがとうございます』

点字で書かれた、文字。
丁寧に丁寧に折られた、折り紙の花。
深い深い、紫色の花。


「…これ…全部…」
震える声で問う声に。


「大変だったのよね、形が崩れないように運ぶのって♪」
「そうそう。さすがに生花だと運んでる間に枯れちゃったら駄目だろーって、造花って事にしたんだけどさ」
「逆に、物凄い数になっちゃったのよね」
「最初、数指定してなかったらなぁ、場所によっては、どんだけ作ったんだ、ってぐらいの量を用意しててさ〜」
「一人一本、って制限にしたのよね」
「そっ。それで、代わりにメッセージ付ける形にしたんだよな」

紫水晶アメジストの瞳を揺らめかせる青年に。
緑青の髪の女性が、伝える。

「皆、感謝を伝えたがっていたんだよ?」

この、稀代の暴君と呼ばれながら、誰よりも民を第一に考える覇王に。
血に塗れ、自ら闇に堕ち、それでも世界を変えてくれた、優しい魔王に。
でも。


即位記念日――。
父帝を弑逆して登極した少年。
自分の行為を、親殺しを、賞賛されるような事を好まず、逆に戒めとして祝賀などは一切行わず。


生誕記念日――12月5日。
極近い時期(12月10日)に、元属領で起きた『特区の惨劇』への配慮から、同じく祝賀などは行われず。
逆にその日は、服喪に近い扱いになってしまっている。
――彼を良く識る人間には、紛れもない異母妹への服喪であり、自らの罪を思い出させる日に成っているのは、容易に知れて。


『おめでとう』を言わせてくれない、優しい魔王に。
――誰だろう、『ありがとう』を贈ろうと言い出したのは。

民の間から自発的に生まれた流れ。
その声が民間に広がるのに、そう時間はかからなくて。
それが公的機関に届くまで、また、時間はかからなかった。

この国を新しく生まれ変わらせてくれた、紛れも無い、再生の母たる彼に。
ありがとうを。


その願いが、廻りまわって、最終的に皇兄の元までたどり着いて。
その想いに同調した皇姉&皇妹&騎士など、周囲が挙って賛同し。
結果。溢れんばかりの想いの形が、皇宮の一角に集まった。



呆然として話を聞く青年は、酷く幼い表情で。
泣き出す寸前のような、そんな脆い表情をしていた。
そんな青年に。


「ありがとうございます。ルルーシュ様」
掛けられた声に驚いて振り返った青年の目に、入り口に立つ女性の姿が映る。
緑髪の女性が、柔らかく暖かい表情で、感謝を伝える。

ただ、感謝のみを、濃 青 紫ベルベットブルーの花束と共に。


その傍らには、同じく、花束を持った彼の側近達。

「ありがとうございます。ルルーシュ様」
朱焔の騎士が様々な想いを込め、深々と叩頭して感謝を告げ。

「ありがとうございます。ルルーシュ様」
蒼氷の騎士が、道化師の笑顔で告げる。
瞳だけに、溢れる程の想いを込めて。

「ありがとうございます。陛下」
紺碧の女技師が、瞳を潤ませながら感謝を述べ。

「ありがとう、ルル様」
蓮花の少女騎士が、精一杯の笑顔を浮べる。

「ありがとうございます、ルルーシュ様」
黒珊瑚の護人が、静かな笑顔で感謝を伝える。

溢れる程の優しい想いに、呆然としたままの青年の瞳から、透明な光が零れ落ちた。
それを見なかった振りをして。
優しい魔王の仲間たちは、もう一度告げた。


「ありがとう」

ありとあらゆる、感謝を込めて。



青の花に篭められた想い。

青のカーネーションの花言葉。
それは。

『永遠の幸福』



おめでとう、の言葉を、厭うかの方に。
せめて、『ありがとう』の言葉を。


どうか、かの方に、永遠とわの幸福しあわせが訪れますように。
どうか、かの方が、ずっとわらっていてくださいますように。





おまけ。

その後、政庁でも職員たちから花束を受け取った青年は、思いっきりボロボロ泣き出して。
職員一同が大慌てして右往左往する羽目になり。
皇兄&皇姉&皇妹が、青年を必死に慰めた、と言う。
勿論、全部を把握して秘密にしていた事で、ちょっぴり文句も言われたそうな。

おしまい。




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ムーンダストは青〜紫系のカーネーションの事。
花言葉は、永遠の幸福。

文章中のカーネーションのカラーは、ムーンダストの固有名を使わせて貰いました。


5/10までお持ち帰り自由です。


5/04up


管理人コメント;
とのことでしたので、頂いてきました〜vv母の日小説!素敵無敵の抹消シリーズですよ〜★みずき様、ありがとうございました〜!!


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