これはある少年が目撃してしまった不幸……?
な出来事である。
見説 |
少年―――キバはその日、珍しく一人で昼食を摂らなければならなかった。
いつも昼食を共にする幼馴染が、用があるといって出かけてしまったためだ。
ナルトと共に騒がしく、けれどなぜか孤独なナルトとは違って、キバは昼食を食べる相手には困らないほどには友人が居た。
もっとも……その『友人』と呼ばれる少年たちは、キバにとってただ話をするだけの存在であったことは……悲しい事ながら事実だった。
彼には自分を装って生きなければならない環境と、秘密があった。
多くの忍犬を育て、輩出することで有名な犬塚一族。その一族は天賦の才能としか言いようがない特殊な能力を持って生まれる。
犬に限らず、全ての動物を従わせることの出来る特殊な能力を。
それは血に宿った秘術と言えたかも知れない。血継限界だとも。
血に宿るそれの答えを知る者は居ない。少なくとも、キバは出会えていない。
出会えるだろうか、と漠然と希望する。
この力のせいで妬まれ、暴力を受けた幼き頃から、ただ漠然と……そんなことを考えていた。
あの日あの満月の夜に出会った二人組みもいつか、いつか会えるだろうかと。
……もっともその二人組みは驚く間もないほど唐突に、アカデミーで出会ったのだが。
「……とりあえず、だ。食べるとこ探さねーと……ナルトでも誘えばよかった」
思わず漏れた名前に苦笑いを浮かべてしまう。
そのナルトが、二人組みの一人だと……確信しているからだ。
自分と同じように悪戯をして、鮮やかに笑う少年。
悪びれもなく、無邪気に。……どこか、何かを偽ったような。
その笑みしか浮かべられないかのような……写真で写したように動かない笑顔。
「ナルトも、シカマルと一緒に居るときは微っ妙に素顔さらしてる気がすんだよな。バリアーがないというか、なんというか。……複雑なヤツ」
もう一度苦笑して、昼食を摂る場所を探す。
出来るなら、一人で居られる場所がいい。
仲間と食べられないなら、一人でいたい。そう、思って。
アカデミー内の一人で居られそうな場所を探すが、見つからない。誰かしらがいて、とても一人ではいられなかった。
「……屋上でも行くか」
生徒はなぜか屋上には行かない。何かがあるらしいのだが、小耳に挟んだ程度の噂話を詳しく聞く暇もなかった。
普通なら人気があるはずの屋上に、誰も行かない理由。ふとした興味だったが、どうせ他にすることもないし……とキバは弁当の入った袋をぶらぶらと揺らし、そこへ足を向けた。
屋上へ行く階段の途中、何回か話したことのあるクラスメートが踊り場で違うクラスの少年と話をしていた。
異常なケイ信奉者であり、メイをこよなく敬愛する少年は二人の先生に関わることでなければ人当たりもよく、明るく自分の意思を持った優しさを示す、頭のいい少年だ。
いわゆるケイ・メイファンクラブを総括し、親衛隊と呼ばれる幹部 (はっきり言って自分の想像の限界を軽く超える話だ) でもある。何でも、ケイ・メイ先生のことを書いたバイブルと呼ばれる本を書いた卒業生から直々に教えを受けたという、ファンクラブの連中にとっては重要な人物……らしい。それ以上詳しく聞くと頭痛と眩暈で気が遠くなりそうだったので聞くのは遠慮した。
まあ、このクラスメートはあの二人の先生さえ絡まなければごくごく普通に、頭がよく明るく優しいので気にしないことにしている。
「クゼじゃん、お前もう飯食ったのか?」
「キバか。俺ら飯なんか食ってる暇ないんだわ……どこで誰が規律破るかわかんねーからさぁ。で、屋上に行くのか?」
「親衛隊も大変だな。……今屋上に行くとやばいのか?」
「いやー……ちょっとな。つーか、このアカデミーであの噂知らないヤツが居るとは思ってなかった」
困ったような顔で頭に手を乗せるクゼに、なんのことかと片眉を上げる。
もうすぐ昼休みも終わってしまう。食べる時間を考えれば、そろそろ限界だ。時間はもちろん、先ほどから空腹を訴える腹も。
「……あのさ、俺腹減ってるし、別に行っちゃダメってことはねーんだろ?」
「それはそうなんだけど……あー参ったな……キバってファンクラブ入ってねーし、規律も何もないしなぁ……スズナせんぱーい、こーゆー時はどうしたらいいんすかー……」
「クゼさん、やっぱり一般でもこういうことはきっちり言わないといけないんでは? これが許されたら誰だってファンクラブ抜けちゃいますよ」
「抜けたら相応の罰と、今までもらってきた色々な特典全部没収されてもか?」
「……それは、嫌ですけど」
「でもキバはそのファンクラブに入ろうともしなかったんだよなぁ……あのさぁ、ずばり聞くけどさ。キバ、メイ先生とケイ先生と個人的に仲良くなりたいと思ってる?」
突拍子もないことを、やや凄みの増した顔で言われて呆然とする。
「は? 何で?」
「……なわけないか……まあいいか。んじゃ通って良いよ」
「クゼさん!?」
「……つーか、通してもらわなきゃいけないような場所だっけ、ここ……」
「ま、気にすんな。行ったらさ、何があったか報告してくれ。俺も見たことないから気になるんだよ」
「だから、何で……」
「まあまあ。また後でなー」
なんだか嬉しそうに背中を押され手を振られたら行くしかなくなる。
本当に何なんだと疑問に思う。
ともあれ、おそらくああして屋上へ行く生徒を立ち止まらせては追い返しているらしい彼らのおかげで、昼食はゆっくり食べられそうだ。
これは喜ぶべきところだろう。
……喜ぶ、ところだよな?
妙な気分である。
しきりに首を傾げてはやっぱり戻ろうかと振り返ると、嬉しげにニコニコと笑っているクゼと顰め面をしながらも興味があるのか、どこか期待するような目をした少年がこちらを見上げていて戻れそうもない。
何があるんだ、本当に。
ちょっとした興味と一人になれる場所を探していただけの自分が、なぜ期待されるのかわからない。
不気味に思いつつも屋上はもうすぐだ。
今更引き返したところで昼食など食べる時間も一人になれそうな場所を探すのも難しい。
「……結局、行くしかねーんだよなぁ……?」
辿り着いてしまった屋上の外へと続く扉に手をかけて、大きく息を吐き出した後ゆっくりと開けていく。
何かが襲ってくるのかもしれない、と身構えて。
「……あれ?」
「ん?」
「誰だー? 屋上は俺らの貸切だぞー?」
身構えていたキバの耳に、扉の外から声が届いた。
この声、は……
「……メイ先生!?」
思わず呼んでしまい、こちらをずっと見ていたらしいクゼたちの歓声が上がった。やっぱり!という声が耳に届くなり、なるほど、と納得してしまう。道理で気になると言ったにも関わらず、自分たちで確かめないわけだ。
昼休みの屋上は、おそらくケイとメイの二人が使っているため、ファンクラブの連中は立ち入り禁止にしたようだ。
あの踊り場に居たクゼたちはその見張り、ということになる。
……なんでそんなことまでするのか、謎で仕方ないが。
「お、キバか。こっち来い!」
「はぁ……」
呼ばれ、仕方なく足を向ける。
どうやら今日は、とことん一人にはなれないらしい。
クゼたちを振り返るのはやめておいた。今振り返ったら睨まれていそうで、非常に恐い。
扉の外に出て、周りを見回す。
「……いねーじゃん」
「誰が居ないって?」
「ぅわっ!」
頭上から降ってきた声に驚いて見上げると、水色の目が楽しそうにこちらを見下ろしていた。日の光で金にも錯覚する茶色の髪が風に揺れ、その隣でだるそうにしている漆黒の瞳と髪のケイの姿に、既視感を覚える。
……そうだ、この、金と黒の二人。
この二人だ、と。
探すなと言われ、けれど探さずにはいられなかった、二人組み。
やっと会えた、と目を眇める。
思わず浮かんだ口元の笑みに、メイとケイが僅かに目を見開いた。
「……驚かせないでくださいよ。何してんです?」
「驚いたのはこっちだっての」
「は?」
「あーなんでもねーよ。で、んなこと聞くお前は今から昼飯?」
自分の持っていた弁当袋を指差され、そういえば、と一瞬の懐かしい邂逅に意識を飛ばしたことで忘れていた空腹が再度文句を言い始める。
腹を押さえ、肩をすくめる。
「そうです。一人になれるとこを探してたんですけど……どーも見つからなくて、ここに来てみたんですけど、先客がいるんで退散しますよ」
「別に良いじゃん? ここで食えば?」
「いや、んなことしたら踊り場で待ってる親衛隊に殺されちまいます」
「親衛……ああ、あいつらね……ケイ、やっぱそーゆーの出来ちまってるらしいぞ」
「めんどくせーことをよくもやるよな……」
呆れた声と顔のケイに、メイが朗らかに笑う。
酷く楽しそうに、あの夜垣間見たように。
金の髪と、漆黒の髪が揺らめき、何もかも支配するように、……何もかも捨ててしまったように、たった二人で自分よりも遥かに高い場所に立っていた二人。
「……つーことで、俺帰るんで」
「昼飯は?」
「大人しく教室に帰って食いますよ」
「けど、教室に戻って食う時間なんて、もうないぞ? お前午後から俺の授業入ってるだろ? そろそろ移動する時間だし」
メイの言葉に、そういえばそうだった、と舌打ちする。
昼を食べないという選択はこれで出来なくなる。メイの授業はチャクラを大量に消費するため、食べないとかなり辛いものがあった。
「ほら、諦めてここで食えよ。俺はもうちょっと寝てから演習場行くからさ」
「……んじゃ、遠慮なく」
弁当袋を開け始めたキバに、メイが何やってんの、と言葉をかける。
「何って、飯食えって言うから食うんですよ」
「じゃなくて、こっちまで来いよ。これくらいの高さなら……お前、簡単に登れんだろ?」
自分の身長より高いメイたちの場所。忍ならばそれくらいは確かに登れてしまうが、アカデミー生にとっては少し難しい高さ。
それを、登れると知っているメイたちの観察眼に内心で苦笑した。
「……じゃ、お邪魔します」
軽い音を立てて飛び上がる。
音を立てずともこれくらいならば登れるが、それでも実力は誤魔化しておきたい。……それがバレてしまっているのだとしても。
ニヤニヤと笑うメイと、僅かに苦笑するケイの顔が少し気恥ずかしい。
「何、笑ってるんすか」
「いーや、別に。……ま、その誤魔化しももうすぐで終わるだろうし、いいけどな」
「は?」
「何でもないって。……そんじゃ、ケイ」
「ったく、わかったよ」
「ありがとさん」
にっこりと笑うメイの前に、ケイが足を伸ばす。
その足に遠慮なく頭を乗せるメイに、キバのほうが驚いた。
「何で膝枕!?」
「んー、頭乗せるのないと肩が痛くなっちまうんだよ」
「いや、だからどうして膝枕? 服か何かでも十分枕になるし、そっちのが痛くない気がするんですけど」
「ちっちっち、キバはお子様だな」
「はぁ?」
「ケイは膝枕なんてめんどくせーって、死んでもやらなそうだろ? それをしてもらうってことで愛を勝ち取るのだよ」
「はぁ……」
「お前も今度体験してみろ、めちゃくちゃ気分良いぞ」
「いや、俺はちょっと遠慮しときます」
「何でだよ?」
キバの答えに不満そうなメイが眉根を寄せる。
ケイはといえば、無関心そうにとんでもなく古そうな本を読んでいた。
「メイ先生と一緒に、ケイ先生の膝枕で寝たなんて知られたら確実に闇夜に襲われますからね」
それ聞いた優秀な卒業生も出張ってきそうじゃないですか。
そう言うと、至極面白そうに笑う。
笑い事じゃないのだが、楽しそうなメイの顔に溜息をついた。
「ま、スリルは一度味わうと病み付きになるもんだ。……あーねみ。お休みー……」
「はぁ…お休みなさい……」
「とっとと休め。……お休み」
聞こえるか聞こえないか際どい小さな声で囁いた言葉が、メイの耳に届いたかはわからない。
けれど、確かに目を閉じて口元に笑みを浮かべたメイの寝顔に、キバはなんとなく見惚れてしまう。
見れば、ケイのだるそうな顔にも穏やかな笑みがあるように感じられた。
それは一瞬でなくなってしまったけれど。
「……ケイ先生は、メイ先生のどこが好きなんすか?」
「……お前、突拍子もなく、んなことを聞かれる俺の立場になってみろ?」
「いや、確かにすごく嫌ですけど……でも、ホントに嫌だったら膝枕なんてしませんよ?」
キバの言葉に、ケイが珍しくはっきり見て取れるほど驚いた顔をする。
その顔が、苦笑に変わる。
「そうだな……その通りだ。好きなところか……久しぶりに驚かせてくれた御礼に、ちょっとだけ教えてやる」
ケイの漆黒の瞳が、メイの寝顔に視線を移し、やがて空を向いた。
青い、蒼い空に。
「俺は、空が好きだ。流れていく雲が好きだ。眩しい太陽が、好きだ。……でもな、俺は夜の闇も好きなんだよ。冬の夜、満月を見上げて見た事があるか?」
「……あります、けど……」
それが?と言いたげなキバに、ケイはふっと笑う。
「俺はな、冬の夜、傲慢に孤独に燦然と君臨する満月を愛してる。あの孤独で美しい満月を取り囲む漆黒の闇になりたいと思う。冬の夜、満月の金の光以外に黒しか存在しない夜が、好きだ。ともすれば儚くどこかへ消えてしまいそうな、……あの金の光を、愛してる」
ケイは静かにそう言った後、メイの寝顔を見下ろしながらその茶の髪を梳く。
見てはならないものを見ているような気がして、キバの頬に朱色が混じる。
「……これが答えだ」
「……はぁ、ありがとうございます」
なんとなく、……ケイの世界はその夜の闇で始まってもいて、終わってもいる気がする。
その世界から逃れるすべもなく、……あったとしても自らを閉じ込めていそうな。
まるで檻だ、と思う。
狭い、狭すぎる世界の中に、身動きできないほど小さな檻を作って、自分で自分を閉じ込めているような。
……物悲しい、世界だと思う。
けれどそれで満足をしているのだろう。端正なその横顔は、酷く嬉しそうだった。
「さて、と。お前もう飯はいいのか?」
「え、ああ……もういいです」
「なら、もう行かないと時間、やばいぞ?」
「えっ、…うわやばっ!!」
「……んー? キバ、もう行くのかー……?」
「メイ先生、ケイ先生、昼飯の場所提供してくれてありがとうございました。それじゃ、また」
「おう、じゃなー……」
「……メイ先生はまた後で会いますよ?」
「んー……」
「……こいつはこういうやつなんだよ。じゃーな」
「はい、失礼します」
慌しく広げていた弁当をしまい、その場所から飛び降りて階段に向かうのかと思えば、フェンスへとまっすぐに進んでいく。
その方向は確かにこれから向かう演習場なのだが……まさか、と思うケイの前で何の躊躇もなく高いフェンスを飛び越え、落ちていった。
下のほうから驚いたような声と、キバの元気そうな声が聞こえて、ケイは僅かに苦笑した。
「……ったく、あいつは……」
「何、どうしたんだよ?」
いつの間にかすっきりと目覚めていたらしく、メイが面白そうに笑いながらケイを見上げていた。
「お前に似てるよ、あいつ。めんどくせーなぁ……」
「面白そう、だろ? 仲間に引き込むの、楽しみだよな」
「苦労すんのは俺なんだよ。どうせ」
「まあまあ。……ネジだって苦労してくれるよ、お前と一緒に」
「一人が二人になったところで、愚痴言い合えるだけじゃねーか」
「まあ、苦労させられる人数が同じように倍になるしな」
「わかってんなら控えめにしろってんだよ……」
「やーだ。面白いものはいつだってより面白く!! が信条だから」
「あっそ。しゃーねぇなぁ……」
ケイが溜息をついて、空を見上げる。
蒼い空だ。眩しい太陽の光が突き刺さる。
この空も、好きなのだ。
けれど、やはり夜のあの闇と、月を愛している。
孤高に輝く、美しく儚いあの月を。
空を見上げていた視線を起き上がったメイに移し、胸ポケットに入れていた眼鏡をかける。
漆黒の長い髪が、さらさらと肩を流れて風に揺れた。
「……ケイ、俺は夜の闇を愛してるよ。……お前と同じくらい」
少し照れくさそうにはにかんだ笑みを浮かべたメイは、そんなことを言った後素早く瞬身の術で消えてしまう。
その残像を見つめ、ケイの顔に微笑が浮かんだ。
「……言い逃げかよ」
文句のような言葉は、どこか甘かった。
えと。
……これでいいのかな?
甘い…よね?
ま、まあいっか!!(おい)
つーことで20万Hit小説、
「蒼黒」シリーズ編でしたvv
ありがとうございましたvv
こんなものでよろしければ、
どうぞお納めくださいませvv
「鳩目の家」神原紅獅様より、20万Hitフリー小説を頂きました!
一緒にいるのが当たり前。冷静な目が端から見てたらラブラブだけど、果たして「ラブラブ」なんていう
区切りで括ってしまっていいのか疑問な二人は、ナチュラルに「二人セット」という雰囲気を出してくれて、
凄く幸せになれますvv個人的に、私は副業になったアカデミー教師の姿のメイとケイの二人も大好きで、
やっぱり二人だけの世界ではない「見せつけ」という行為や周りの影響+α迸る魅力があるからでしょうか(笑)
キバ少年はある意味不幸でかなり幸せな(羨ましい)立場ですねッッ!★
ほんのり匂わせる甘さに、画面前でくっらくら気ながら現在悶えておりますvv
神原様、素敵な小説をありがとうございますvvそして、これからも更新・管理、無理の無い程度に、頑張ってください☆
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