―Halloween―

万聖節の前夜祭。古代ケルトが起源で、秋の収穫を祝い悪霊を追い出す祭り。アメリカでは、カボチャをくり抜き、目鼻口をつけた提灯を飾り、夜には怪物などに仮装した子供たちが「 Trick or treat (お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!)」と近所を回り菓子を貰ったりする。









Trick or Treat!



夜の星が瞬いた。煌くものは一体何なのかと考える。それは星の命なのか、それとも星に棲む者の、その星の存在自体の輝きなのだろうか、と。

夜の月が輝く。あれは何からの光なのかと考える。陽光を反射した光。一度反射した光。自分に降り注ぐ冷たい輝き・・・。

ニヤリ、と彼は静かに、しかし確かな威圧感を持って夜の闇を支配する月を見て笑った。今日という夜には、ちょうど相応しい月光に。

今日という日を、きっと自分は楽しめるだろう・・・と、期待に満ちて輝く目でもう一度夜空を仰ぎ、小難しいことを考えていた思考をアッサリと破棄して・・・彼はもう一度笑った。










月が輝いている。今日という日には、KIDは自分の存在がやけにしっくりくるような気がしてならなかった。

10月31日。子供の悪戯が許される日。・・・ハロウィーンと呼ばれるこの日には、正に子供という愛称のついた自分が仕事を決行するには充分相応しいようだ。

当然のように今日を指す日付を記された予告状を、警察と宝石の持ち主に――それは奇しくも鈴木財閥所有の物だった――送って、潜り込んだ警官の中で、KIDは静かに時間を待っていた。

10月最後のこの日で10度を越えたKIDの仕事・・・それに毎回振り回された中森警部も流石に気の毒だと思うが、この仕事はやめられるものではない。

しかし、気の毒といわれている中森警部の方が、KIDのことを「何をあいつは焦ってるんだ・・・?」と心配そうな口調で言っていたのをKIDは知らなかった。

その発言を、「彼」が聞いていたことも。
















鈴木財閥に依頼されてやってきていたメイ探偵に、当然のようにくっついてきている小さな名探偵の存在に、最高にわくわくと期待を膨らませる。

今度は何があるんだろう。今回、彼は一体何をするんだろう。何の理由でここに来て、何故あんなにも楽しそうなんだろう。ショーを見せるのは自分の役目だと言うのに、彼との対峙ばかりを思い描いている。

相変わらず・・・というか、いつもより格段に額の青筋を増やし、気合いの入った様子で警官達に檄を飛ばし指示を飛ばしている中森警部の傍らには、茫洋とした表情の毛利小五郎と、ニコニコと子供らしい笑顔を浮かべて、保護者の立場に立つ毛利蘭と話しているコナンがいる。

彼が言っていることは、遠すぎる上に角度が絶妙で分からなかったが、かなり上機嫌なのは遠目からも明らかだった。

じっとそちらばかり見ていると、中森警部に怒鳴られてしまい、慌てて指定の位置に立つ。ただし、感覚は常に彼を追ったままで。

彼の前では特に、油断などしてはならないのだ。油断大敵、とは彼を前にしてこそ言えるだろう。

初対面ではかなり最悪なことを言ってしまったが、内心では唯一・・・ライバルとして認めているのだ。はっきり言って、自分のこの変装も、いつバレてもおかしくないとも思っているほどだ。

人を外見だけで侮ってはいけない・・・イレギュラーな事態も常に付きまとっているのが人生というものなのだから。

江戸川コナンというあの少年は、そのイレギュラーな事態に巻き込まれた、自分を唯一追いつめたあの工藤新一なのだから。

時計台。後ろから静かに、着実に近寄ってくる足音。自分の身だけでなく、精神にまで見透かしてくるあの慧眼――。

ふ・・・っとKIDは目を細めた。あの妙な邂逅に思考を走らせそうになって、慌てて元に戻した。思い出に浸っている場合ではなかったのだ。・・・予告まで、あと 5分を切った。



















じっと周りの緊張感に自分の気配を巧く紛れ込ませながら、じっと時間を待っていると、不意に本当に子供らしい笑顔を浮かべたコナンがこちらにやってきた。


「警官さん、今日は何の日か知ってる?」


と楽しそうに自分に聞く。正体がばれたのか?とも思ったが、向こうが別段構う様子もなかったので、質問に答えるだけにした。


「知ってるよ、ハロウィーンだろ?それがどうかしたのかい?」


声色だけはしっかりと変えて。


「そうなんだ♪だからKIDも来るんでしょ?」

「へえ、どうしてだい?」

「だって、KIDって子供って意味でしょ?それで、今日はハロウィーンだし、KID(子供)はここに宝石を盗むっていう「イタズラ」をしに来るんじゃないかなって♪」


上機嫌のコナンから、子供の仮面が外されることはなく、対する警官に扮している>KIDもその滅多に見ない可愛らしさについニコニコと笑いかけてしまう。

KIDとして対している時は、余程の事でもないと隙など見せる人ではないから。それが偽者の自分に対してなのだとしても、向けられる笑顔に喜ばずにいられない。


「そうだね〜まぁ子供って名乗ってるんだし、今日予告状出してもおかしくないだろうね」


予告まで後10秒。・・・9・・・8・・・


「うんっ!面白い話もあるしね」

「へ〜そりゃ・・・」


・・・3・・・2・・・1・・・0。


時間だぁっ!!!」


気を引き締めろォ!!と先程の比にもならない位の怒声を中森警部が張り上げた。それと同時に、自分と喋っているコナンを見咎めた蘭がやってきて、「邪魔しちゃ駄目でしょ!」と言って運び去ろうとした。

・・・が。


「!?」


バシュッと突然煙幕が立ち込める。ホールの中央にはKIDのトランプが有り、その場にいた全員は、白い煙に視界を断たれた。


「・・・Trick or treat?」


変装を解こうとしたKIDの耳に、小さく笑いを含んだ声が届く。・・・極楽しそうな、子供の声が。

・・・どうやら、バレていたらしい。

面白い、と変貌したKIDは笑い、勢いよく変装を解いて周囲の煙をわざと払って自分の姿を彼等に現した。


「Trick or treat!!」




















良く通る声がホール全体に響き渡った。カシャン、と照明が合わせられたところには予告通りに白い怪盗がいて、その口元には相変わらず不敵な笑みを刷いている。

一番近くにいたのは、先程まで彼と一緒に話していたコナン。そのコナンを、危ないから、と言って蘭は手を引いて数歩だけ下がらせた。

さぁっとどこからか巻き起こった風に煽られてKIDのマントがはためき、床近くに燻っていた煙が晴れて視界がクリアになると、今度は中森警部が KIDを捕まえようとして、


「現れたなKID!!今日こそ監獄に打ち込んでやるっ!!」


とKIDに詰め掛けるが、気づいた時にはそこにKIDはおらず、ぽっかりと空いたホールのど真ん中に優雅な物腰のまま立っていた。・・・そこは、まさしく警官達のど真ん中でもあった。

そう、宝石が安置されているケースの傍だ。


「こんばんわ、中森警部。ご機嫌麗しゅう・・・」

「ふざけるなっ!大体、警官隊の中央部に降り立つなんていい度胸じゃないか、ええ!?KID!!」

「おや、私は今夜の姫君をお迎えに参っただけですよ」


クスリ、と笑いながら何気ない仕草で挙げた手には赤い小薔薇があった。そして、それを軽く翻すと、瞬く間に小薔薇は美しい透き通るような水晶に姿を変える。

今夜の獲物、フォークス・アイ・クウォーツ・・・別名ファルコンズ・アイ・クウォーツとも鷹目石とも呼ばれるそれは、いつのまにやら楽し気に微笑む怪盗の手に渡っていたのだ。ケースの中に安置されていた筈の物は、当然ながらなくなっている。

「名付けられた私の名はKID・・・私が降り立つに相応しいのは、正しくこの日でしょう。それとも警部、私に「悪戯」されてみたいのですか?」

言いながらも、KIDは無造作に手の中で弄んでいた石を、白い手袋に包まれた手で一度握り込んで広げると、先程まで石であったそれは細かい粉上の物に変わっていて・・・

慌て出す周囲の警官や宝石を所有している関係者達が慌て出す中で、優雅な仕草でもう片方の手を翻し、そこにKIDは石を現し・・・ほっとした様子の彼等に、先に出した粉を吹き・・・小さな風が起こって、粉が舞い上がった。

カシャン、という音がして照明が消える。舞った粉は、暗闇の中で薄く輝く。

――まるで、星屑が降ってくる様だ、とその場にいる誰もがその光景に目を引き付けられた。

その様子に満足したように頷いた白に包んだ怪盗は、もう時間だ、とでも言うように掛け時計をちらりと見て、盗まれたフォークス・アイを手の内に優雅に一礼すると、ポンッというコルクの栓が抜けるような音を立て、その場から獲物を持ち去った。

アッサリとした、しかも素早い退場に、ホールの空気が大きく揺れる。

一瞬の沈黙。目の前の光景に見入っていたいという願望による沈黙。

しかし、そんなものは数秒も保たなかった。


「に、逃げたぞ〜〜!追え〜〜〜!!!」


気を取り戻した中森警部の号令で、窓の外に映っているKIDの影を追っ行く警察諸君。因みに、当然小五郎も後を追い、蘭もそれに従い・・・コナンだけは、蘭の腕から逃れて素早く外へ出、とある廃ビルの屋上へと向かった。














一瞬姿を晦ませれば、後に逃げるのははっきり言って簡単だった。音と少量の煙に警察の人間が気を取られている隙に警官として潜り込み、仕掛けておいたダミーを放つだけ。

後は、適当なところで変装を解き、風に身を乗せて中継地点までハンググライダーで飛んだ。

中継地点は、先程自分が彼と対面した場所の近くにある廃ビル。その屋上へと降り立って、わざと遠くからも見やすい位置の手摺りに寄って佇み、丁度中天に上ろうかという月を見上げる。

祭りをするのにぴったりな明るい月は、ケラケラと今にも可笑し気に笑い出しそうな雰囲気だ。ほんの短いショウの余韻に僅かに身を浸らせながら、さて本番は何をしようかと考える。・・・微かに、ここへ上ってくる軽い足音が聞えてきた。

屋内へと続く扉に背を向けて月を見ていたKIDは、故意に気配を殺さず、立って待っていた理由である、小さな名探偵がいた。


「よお、ボウズ。小学生はもう寝る時間じゃねえのか?」


言う気もないのに、真っ先に口をついたのは揶揄いの言葉。それを、すでに小学生では有り得ない目をしている相手は軽く鼻で笑って返してきた。


「お前も「子供」のクセにいつまでもこんな所にいて良いのかよ?」


一定の距離を置いて、コナンは歩み寄るのを止め、綺麗な蒼い目でこちらを鋭く、そしてやけに楽しそうに見据えた。


「本命疑惑のある物ならともかく、どうでも良い宝石にまで手を出す余裕なんてお前にはあったか?」

「偶には気紛れを起こしてもいいだろう?今日は10月31日なんだ」


今日はハロウィーン。子供の悪戯が許される日。自分の盗みが許されるような気がする日。こんな楽しい日に行動を起こさないでいてはKIDの名が廃るというものだ。


「まぁ、確かにな」

「・・・・・・Trick or treat?」


試しに言ってみる。お菓子かイタズラか。・・・お前は、どちらを選ぶ?


「・・・お前・・・宝石盗って来たんだからそれで我慢しろよなぁ〜・・・しゃあねえな」


はぁ、と嘆息して名探偵は何やらポケットをごそごそやり始めた。ズボンのポケットに片手を突っ込んで、もう片方の指先でこちらを見もせずに何かを弾く。

狙い違わず飛んで来たそれをパシッと受け取ると、手の中には小さな一口サイズのチョコレートがあった。その安い六面体の小さな物体は正しく・・・・・・チロ○チョコである。

正直言って、KIDは心底驚いた。本当に何か貰えると思っていなかったのだ。だから、思わず


「・・・毒入り?」


と聞くと、蹴られたいのか?という冷たい言葉と嫌なら返せ、という催促の手を差し出される。しかし、KIDはニヤっと笑ってみせて、周りのビニルを剥いて、少しだけ表面が溶けかけたチョコを口の中に放り込んだ。何度か咀嚼して、きちんと味を味わってから嚥下する。


「毒なんか入ってないだろ?」

「・・・みたいだな」


体の具合が何ともならないのに一先ず安堵するが、それでも気は抜かない。

この名探偵といる時は一体何が起こるか解らないし、それに何より、彼の今夜の上機嫌の方が気になった・・・というか、怖かった。


「・・・一体何が楽しいんだ?名探偵」


彼の様子が気になって思わず訊ねてみるが、本人は上機嫌に、その幼い仮面を外した笑顔のまま、じっとKIDの背後にある月を眺め見ている。


「・・・お前も鈍いんだな、案外」


くくくっと本当に楽しそうに笑うコナンの手には、先程までは外していて姿を見なかった蝶ネクタイ。そして、どこにあったのか、良くみる代物・・・警察無線があった。


「め、名探偵?」


流石に驚いて、KIDは今度は天使の様な微笑みを浮かべるコナンを見詰めた。いやまさか、でもやっぱり・・・と感じる予感に、冷たい風が吹く中で嫌な汗が出た。

この上なく可愛らしい微笑みを浮かべる彼の手には、銀に煌く手錠が。


「・・・お前の目的なんか知らない。俺はまだ関係ねーからな。それに、どうせ今の警察じゃあお前を捕まえるのなんて到底無理だ。・・・でも、毎回毎回簡単に逃げられるのもかーなーり!癪だし?」


ニコヤカなままに告げられるのは脅迫なのか言い訳なのか・・・できれば、後者であって欲しいところだが。

彼との対峙は一種のゲームだ。捕まえられるか、逃げおおせるか。二つに一つという二者選択の他に選択肢は皆無で、はっきりいって彼との付き合いは友好なんていう二文字からは程遠い。

こちらとしてはそうなって欲しいと思っているし、その為に色々と要らない世話を焼いているのだが、この目の前の本人に至っては「泥棒は所詮犯罪者であって、俺は探偵。お友達になるつもりはねえし、そうなる前に監獄に打ち込んでやる」ときた。容赦なしだ。

彼は無線機の電源を入れ、慣れた手つきで蝶ネクタイの裏についているダイヤルを回し、最凶で最強の笑みを浮かべて声を張り上げる。


「○○ビル屋上でKID発見!直ちに急行して下さい!!繰り返します、○○ビル屋上でKIDを発見しましたぁ!!」


どこかで聞いた声と口調。対峙の時には滅多に警察の人間達を呼ばない彼のこの行動にKIDは思わず息を呑んだが、すぐに蝶ネクタイをポケットに仕舞った彼に少し緊張した声で聞いた。


「・・・警察をわざわざ呼ぶ理由をお聞かせ願えるかな?名探偵」

「だから、お前は鈍いんだよ。KID」


今夜は本当に良く見る笑みを浮かべながら、コナンは言った。


「今日は何の日だ?ハロウィーンだろ?・・・俺も、「コドモ」なんだぜ?」


わざわざ言ってやっただろう?Trick or treatって。お菓子が貰えなかったからイタズラしただけだ。

いかにも楽しそうに笑った彼の目の奥には悪戯の色。つまり、自分もコドモなんだし、ちゃんと予告もしたのにお菓子を渡さなかったKIDが悪い・・・と。

どこまでも子供でどこまでも大人な極彩の色調をもつ彼の行動に、今更ながらKIDはくらくらと目眩を起こしそうになった。

哀しいとか裏切られたとか思っている訳じゃない。只面白くて楽しくて起こった目眩だった。・・・その考えは危ういものがあるのかもしれないが。

遠くから騒がしい音の波が迫ってくる。警官達が押し寄せてくることがはっきりと解った。

変声機だったといっても、彼が掛けた号令に警察の連中がやってくるのだ。

それも、自分を捕まえに。そして、それを呼んだ本人は、悠長に語り掛けてくる。


「なあ、ジャックと悪魔の・・・Jack O’lanternの話、知ってるか?」

「知ってるよ」


足止めをしようなんてせこいことを考えるような、狭量の人間じゃないことは知っているので、KIDはせめて警部達が到着するまでは、と彼の言葉に頷いた。・・・もしかしたら、明かされていない理由が見えてくるかもしれないのだ。

アイルランド人のジャック・・・ハロウィーンのJack O’lanternの由来で出て来る、ジャックという男の話はわりと有名だろう。

確か、けちでしかもよっぱらいのジャックは偶然酒場で悪魔と出会った。そこで、ジャックは酒の飲み過ぎで悪魔に魂を取られそうになったのだが、悪魔を騙して悪魔を6ペンス玉にかえるとそれを財布に入れ、悪魔を脅して10年後まで魂を盗らない様にと約束させた。

そして、10年後。また来た悪魔に、ジャックは今度は一緒にいく代わりに木からりんごを取ってくれと言い、木に飛び乗ったが、その隙にジャックがナイフで木に十字の印を刻んでしまったために怖くて降りられなくなってしまった。そこで、ジャックは自分の魂を取らないことを約束させた。

更にその数年後、漸く死んだジャックは生前の所業のために天国にはいけず、かといって魂を取らないと約束したために地獄にもいけず、結局はもといたところに戻るために、暗くて風が吹く道を、提灯の明り一つで裁きの日まで暗闇の中を彷徨う事になった・・・という話だった筈だ。

遠くからけたたましいパトカーのサイレンの音が迫ってくる。赤い光彩がビルとビルの谷間を抜け、こちらへ一直線にやってくるのが解った。

彼の本心は、どこにある?


「ジャックはどこにも縛られなかったし何にも属さなかった。でも、最後の最後まで孤独を味わくことになった」

「・・・・・・・・・」

「それは、ジャックの場合は自分が犯した所業の所為もあるけど・・・お前は違うだろう?何にも属さないけど、お前はジャックじゃない。だから、強いる必要はないんだ」

「何が言いたい?」


遅れてやってきたヘリコプターが遠くの空にあった。到着するのも時間の問題だろう。それまでにこの場を去っておきたいところだが、目の前の名探偵の話は惹かれるものがあった。

己の、これからの行動についての利点において。


「契約しねえか、KID」


ニヤリ、とこの悪戯を仕掛けた張本人は、相変わらず楽し気に笑ってその蒼い目をキラキラと輝かせた。その愛らしい姿は子供だが、目の奥にちらつくものは、子供のものとは少し違う、企みという大人の色。


「お前は持っている行動力、情報を。俺は情報や表組織のコネを・・・」

「・・・協定、を?」

「そうだ。動くんだろう?そっちも」


煌く目で見据えられて言われた言葉にKIDは驚愕した。そこまで情報が伝えられていると思っていなかったのだ。

KIDが追っている組織。そして、コナンが追っている組織は、そのものは違えど二つの組織が追っているのは同じ物・・・不老不死を齎すといわれる、『パンドラ』だ。

その情報は、つい先日KIDが掴んだばかりの物だったが、どうやらほぼ同時期にコナンの方にも入っていたらしい。


実は、考えなかったことはなかった。コナン達と協定を結ぶこと。共に背を預けあって組織に挑むこと。だが、どうせ無理なことだと諦めていたのだ。所詮自分は犯罪者で、泥棒で、彼とは相反するものだったから。

こんなことは、全くの予想外だった。


「今すぐ答えろとは言わない。時間をやるよ、―――に、返事を――」


不敵に笑ったまま、ヘリコプターの光を正面から受けた彼の言葉は、その轟音にてかき消されたが、彼の唇を読んで・・・KIDも笑い返して、ヘリやパトカーがすぐそこに迫る中、闇に身を躍らせた。


「・・・答えてやるよ、名探偵。2ヶ月後・・・クリスマスの夜に!!」


答えたかどうかは知れない。だが、ちらっと振り返った先の彼の表情が柔かかった様に見えたのは気の所為か・・・。

その時には、ありったけの情報ととっておきのマジックを披露しよう。・・・KIDには今からその日が待ち遠しかった。

もう、答えは決まっているのだから――


Their fighting which crept up from the swamp tends to start now.――




NEXT TO END?



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