『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』:2022、アメリカ
ジュラシック・パークの悲劇から30年が経過したが、未だに人類は恐竜との完全な共生の道を見出せていなかった。この問題について取り上げたテレビ番組では、リポーターのジェマ・チャオがビック・ロック国立公園を訪れた。そこは多くの恐竜が逃げ込んだ場所だが、一部は文明と衝突して問題を引き起こしていた。恐竜が全世界に広がるにつれて、闇市場での価値は高騰していた。増大する密猟の脅威に対抗するため、政府は捕獲の独占権を遺伝子企業のバイオシン社に与えた。CEOのルイス・ドジスンはイタリアに恐竜の聖域を作り、古生代の免疫システムを研究して医療に役立てようとしていた。一方、クローン人間との噂が広まって失踪したメイジー・ロックウッドの行方を追う者たちもいた。
深夜、クレア・ディアリングとジア・ロドリゲスはネバダ州のソーリッジ牧畜産業に潜入し、動画を撮影しながら非合法の恐竜繁殖施設であることを告発した。弱っているナーストケラトプスの幼体を見つけたクレアは、ジアの「通報すれば済む」という言葉を無視してケージごと外へ運び出した。フランクリン・ウェブが待機していたバンにケージをクレアたちが積むと、施設の職員たちが気付いた。クレアたちが逃亡すると、一味は車で追い掛けて発砲した。クレアは成体の群れに車を突っ込ませ、一味を撃退するように仕向けた。クレアは他の恐竜も救助に向かおうとするが、フランクリンは「恐竜じゃなく自分を救いたいんだろ。罪の意識から逃れるために」と協力を拒んだ。ジアもクレアの考えには賛同しつつ、「こんなやり方は限界よ」と苦言を呈した。
オーウェン・グレイディーはシエラネヴァダ山脈で恐竜の保護活動に当たり、クレアとメイジーの3人で暮らしていた。オーウェンたちはメイジーに橋を越えないよう釘を刺し、一目に付かないように警戒していた。しかし14歳になったメイジー4年にも渡って外の世界と隔離された生活が続くことに嫌気が差し、何度も街に出掛けていた。山小屋がある森で暮らすヴェロキラプトルのブルーには、ベータという子供が誕生していた。
密猟者のレイン・デラコートはオーウェンを尾行し、山小屋を発見した。彼は恐竜の闇市場を牛耳るソヨナ・サントスに電話してブルーに二世が生まれていること、メイジーを発見したことを報告した。ウエストテキサスでは巨大イナゴが大量発生し、多くの農場が襲われた。エリー・サトラーは農婦のペレスから要請を受け、生徒2人を連れて調査に入った。彼女はバイシオン社の種を使ったコーン畑だけが被害に遭っていないことを知り、「そうだと思った」と口にした。
エリーはユタ州で発掘作業を監督しているアラン・グラントを訪ね、生きたまま捕獲された巨大イナゴを見てもらう。イナゴは白亜紀以降に消えたはずの遺伝子操作を受けており、エリーは世界の食料供給を支配しようと企むバイオシン社の仕業だと確信していた。彼女はバイオシン社のサンクチュアリから遺伝子を入手しようと考えており、アランに証人になるよう頼んだ。エリーはバイオシン社のお抱え博士になっているイアン・マルコムから招待を受けており、アランに同行を持ち掛けた。
メイジーはベータと遭遇し、ブルーに威嚇された。オーウェンが駆け付けてメイジーを守り、ブルーをなだめようとする。ブルーがベータを連れて立ち去ると、オーウェンは後を追うことにした。メイジーは同行を希望するがオーウェンから帰るよう指示され、反発して家を飛び出した。レインと仲間たちはベータを拉致し、自転車で橋を渡ろうとしたメイジーの前には一味のキャロリン・オハラが立ちはだかる。一味はメイジーも拉致し、車で逃亡した。
オーウェンとクレアはメイジーとベータを奪還するため、森を出た。クレアはCIA危険生物管理部に就職したフランクリンに電話を掛け、レインの情報を得た。フランクリンは「一味に捜査官を潜入させてる。明日にはマルタで闇市場が立つ予定だ。ジュラシック・パークの閉鎖後にリクルートされた顔見知りも現地にいる」と語り、バリー・センベーヌがフランス情報部にいることを教えた。オーウェンが「彼と話したい」と言うと、フランクリンは「潜入中だから無理だ」と返した。彼が「マルタでの一斉手入れで我々が事件を解決する。マルタに行って邪魔をするなよ」と釘を刺すと、オーウェンは「もちろんだ」と返答した。
エリーとアランはイタリアのドロミーティー山脈へ赴き、バイオシン社の広報担当であるラムジー・コールと会った。2人は飛行機に搭乗し、ラムジーからサンクチュアリについて「20種類の恐竜がいて、T−レックスも来たばかりだ」と聞く。さらにラムジーは、恐竜の観察スポットが地下道で繋がっていること、必要な時は電気信号で特定の場所に恐竜を集めることを説明した。エリーたちはサンクチュアリに到着し、ルイスの挨拶を受けた。ルイスは2人に、古代生物の遺伝子データを人間の医療に使いたいのだと語った。
エリーとアランは特別講演を終えたイアンに会い、巨大イナゴのことを伝えて協力を要請した。興味が無いフリをしたアランは職員の目を盗み、建物の地下6階にイナゴがいることを教えた。地下6階のラボで働くヘンリー・ウーは、「巨大イナゴは予想以上に強かった。世界が飢餓に包まれる」と後悔の念を抱いていた。彼が「イナゴの群れを絶滅させなくては」と口にすると、ルイスは「制御すればいい」と軽く告げた。彼はヘンリーに、「娘とラブトルの子供を見つけて移送中だ。その価値は良く分かってるはずだ。当局がイナゴと我々を結び付ければ、恐竜という未開発の資産が失われる」と述べた。
一味はマルタ島に到着し、ベータを貨物機で運んだパイロットのケイラ・ワッツはレインからギャラを受け取った。オーウェンとクレアはバリーと合流し、闇市場へ赴いた。ケイラと遭遇したクレアはアメリカ人だと知って協力を依頼するが、冷たく断られた。ソヨナはレインと会い、殺しを覚えさせたアトロキラプトルをトラックで宿まで移送する仕事を依頼した。バリーと仲間たちが包囲して身柄を拘束しようとすると、ソヨナはアトロキラプトルを解放して攻撃させた。
ソナナはルイスに連絡し、オーウェンとクレアが来たことを報告した。ルイスは彼女に、金は弾むので2人を始末してくれと依頼した。クレアはソヨナを追い詰め、メイジーがサンクチュアリに送られたことを聞き出した。彼女はケイラの協力でアトロキラプトルから逃亡し、貨物機でサンクチュアリまで運んでもらえることになった。クレアから連絡を受けたオーウェンはバイクで飛行場へ向かい、離陸する貨物機に飛び込んだ。
エリーとアランはラムジーから、ポッドに乗るまで自由に見学するよう勧められた。2人はイアンから貰った特別パスを使い、職員の目を盗んで施設の地下へ向かう。メイジーはヘンリーから、ベータとブルーは遺伝子的に同じ存在だと言われる。さらにヘンリーは、メイジーが祖父ではなくシャーロットによって作られた存在だと話す。彼はシャーロットの映像を見せ、「彼女は君の全細胞から病気を引き起こす原因を消し去った。君のDNAを調べれば、自分の愚かなミスを修正できる」と述べた。
エリーとアランは地下6階のラボに侵入し、体液のサンプルを回収するために巨大イナゴを捕獲した。メイジーは隙を見てベータのケージを解放し、部屋から抜け出した。警報が鳴り響き、エリーとアランは巨大イナゴの群れに襲われる。何とか脱出した2人はメイジーと遭遇し、一緒に脱出を図る。ケイラはサンクチュアリのタワーに着陸許可を求めるが、担当者のデニース・ロバーツに拒否された。デニースは撃ち落とすと警告し、ルイスはADS(飛行抑制システム)を切るよう指示した。
貨物機はケツァルコアトルスに襲われて墜落し、オーウェンはクレアを脱出させた。エリーたちはイアンにプロジェクトの情報を内部告発していたラムジーの協力を得て、飛行場へ直行するポッドに乗り込んだ。オーウェンとケイラは、墜落した貨物機から抜け出した。凍った湖でピロラプトルに襲われた2人は、何とか逃げ切った。ルイスはエリーとアランの動きを知り、恐竜がいる坑道でポッドを停止させた。ルイスからクビを宣告されたイアンはラムジーに協力してもらい、エリーたちの救出に向かった…。監督はコリン・トレヴォロウ、キャラクター創作はマイケル・クライトン、原案はデレク・コノリー&コリン・トレヴォロウ、脚本はエミリー・カーマイケル&コリン・トレヴォロウ、製作はフランク・マーシャル&パトリック・クローリー、製作総指揮はスティーヴン・スピルバーグ&アレクサンドラ・ダービーシャイア&コリン・トレヴォロウ、撮影はジョン・シュワルツマン、美術はケヴィン・ジェンキンズ、編集はマーク・サンガー、衣装はジョアンナ・ジョンストン、視覚効果監修はデヴィッド・ヴィッケリー、ライヴ・アクション・ダイナソーズはジョン・ノーラン、音楽はマイケル・ジアッチーノ、テーマ曲はジョン・ウィリアムズ。
出演はクリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、B・D・ウォン、オマール・シー、ジャスティス・スミス、ダニエラ・ピネダ、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、サム・ニール、ディワンダ・ワイズ、ママドゥー・アティエ、イザベラ・サーモン、キャンベル・スコット、スコット・ヘイズ、ディーチェン・ラックマン、クリストファー・ポラハ、カレブ・ヒーロン、フレイア・パーカー、アレクサンダー・オーウェン、アヒル・シャー、エルヴァ・トリル、テレサ・センドン・ガルシア、マヌエラ・モラ、バスティアン・アントニオ・フエンテス、ジャスミン・チウ、ヴァラダ・セトゥー他。
「ジュラシック・ワールド」三部作の完結編。
前作には共同脚本と製作総指揮で参加していたコリン・トレヴォロウが、1作目に続いて監督を務めている。
脚本はコリン・トレヴォロウ監督と『パシフィック・リム アップライジング』のエミリー・カーマイケルによる共同。
オーウェン役のクリス・プラットとクレア役のブライス・ダラス・ハワードは、三部作全てに出演。バリー役のオマール・シーは、『ジュラシック・ワールド』からの復帰。フランクリン役のジャスティス・スミス、ジア役のダニエラ・ピネダ、メイジー役のイザベラ・サーモンは、前作からの続投。ヘンリー役のB・D・ウォンは、「ジュラシック・パーク」シリーズ第1作と「ジュラシック・ワールド」三部作に出演。
イアン役のジェフ・ゴールドブラムは、「ジュラシック・パーク」シリーズ第1作&第2作と「ジュラシック・ワールド」三部作の第2作に出演。
エリー役のローラ・ダーンとアラン役のサム・ニールは、「ジュラシック・パーク」シリーズ第1作&第3作からの復帰。
他に、ケイラをディワンダ・ワイズ、ラムジーをママドゥー・アティエが演じている。ルイス役は「ジュラシック・パーク」シリーズ第1作でキャメロン・ソアが演じていたが、今回はキャンベル・スコットに交代している。前作の出来事によって、全世界に恐竜が広がって様々な問題を引き起こしている設定だ。
だが、それは冒頭で「テレビ番組の内容」として軽く触れるだけに留まっている。
映画全体として、「世界規模に恐竜が広がったことによって起きている問題」を大きく取り扱う意識は全く感じられない。
また、このシリーズには「人類は恐竜との共生」というテーマがあったはずだが、そこに真正面から向き合おうともしていない。
完全な正解は無いにしても、ある程度の方向性や主張を発信することも無い。そして映画は前半の内に主な舞台を「バイオシン社のサンクチュアリ」に絞り込み、シリーズ第1作や第4作と似たようなことを繰り返す。これはハッキリ言って、楽をするための舞台設定だ。
これが「前作までの監督や脚本家が降板し、放り出された問題の後始末を新たな監督が押し付けられた」ってことなら、同情の余地はある。
だけど、第4作からずっと参加しているコリン・トレヴォロウが監督なので、何の言い訳も出来ない。
「自分の尻は自分で拭けよ、自分で広げた風呂敷は自分で畳めよ」と言いたくなる。クレアがケイラと会った途端に「娘が拉致されたから救い出すのを手伝って」と頼むのは、「どういう神経なのか」と呆れてしまう。
相手がアメリカ人だからというだけで、そんなことを初対面の相手に言うかね。
そりゃあ「必死のパッチなのだ」ってことなんだろうけどさ、相手は闇市場に来ている人間なのよ。
「娘が拉致されて云々」とか喋ってメイジーの写真まで見せて、そこから一味に情報が伝わる危険性とかは全く考えないのか。「ジュラシック・パーク」シリーズは三部作で完結し、2015年の『ジュラシック・ワールド』は4作目でありながら、同時にリブート的な位置付けでもあった。
ここで旧シリーズのファンだった人々を取り込むために「お馴染みの顔触れ」を登場させようってのは、アイデアとして簡単に思い浮かぶことだろう。
前述のように、これまでも『ジュラシック・ワールド』でB・D・ウォン、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』でジェフ・ゴールドブラムを登場させた。
そして今回は、ついに『ジュラシック・パーク』『ジュラシック・パークIII』のメインキャストだったローラ・ダーンとサム・ニールが復帰している。お馴染みの顔触れが再登場するのは、きっと多くのファンが喜ぶ趣向だし、基本的には歓迎できる。
ただし、エリー・サトラーとアラン・グラントを復帰させるために「巨大イナゴ」という存在を装置として利用したのは、大いなる悪手だった。
わざわざ言うまでも無いだろうが、タイトルに「ジュラシック」と付いているぐらいだし、このシリーズは恐竜映画なのだ。
観客は誰も、巨大な虫に襲われるパニック映画を期待しているわけではない。もちろん、予想を裏切られても、それが「嬉しい驚き」に繋がっている映画もある。だけど、この映画の巨大イナゴは違うでしょ。この映画で「巨大イナゴの襲来」を手放しで喜べるのは、よっぼど奇特な人間だけだと思うぞ。
それでも、途中で飛び立った巨大イナゴの大群が燃えて一斉に墜落する展開があるから、そこで区切りを付けるのかと思ったのよ。せめてクライマックスぐらいは、人間と恐竜だけで話を作るのかと思ったのよ。
ところがどっこい、クライマックスに突入しても、まだ巨大イナゴと戦うシーンが残っているのよね。
いやいや、最低限、それだけは無いだろ。これまでのシリーズ5作品で、「恐竜からの逃亡」「恐竜との戦い」「恐竜との共存」を描いて来た。広大な草原を恐竜が失踪する姿も、森の中で恐竜が動き回る姿も、施設内で暴れる姿も描いて来た。肉食の恐竜も、草食の恐竜も、翼竜も登場させてきた。
ひょっとすると、やれるべきことは全てやり尽くしたんじゃないか。
いや、もちろん他にも色々とアイデアは思い付くのよ。だけど製作サイド的には「ネタが尽きた」ってことなんじゃないかと邪推したくなるぐらい、「お馴染みの光景」に収束してしまうのだ。
それは「原点回帰」という綺麗な表現で納得できるモノではない。
そもそも、「原点回帰」は『ジュラシック・ワールド』で既にやっているし。大まかなプロットから考えると、この映画を面白くする見せ場として最も分かりやすいのは「都市部でのスタンピード」じゃないかと思う。
それは「質より量」になっちゃう恐れも含有する見せ場ではある。
だけど、オツム空っぽでも多くの人が楽しめるってのは、ある意味では第1作『ジュラクッシ・パーク』が持っていた一番の魅力に通ずるモノがあるんじゃないかと。
そういうエンタメとしての理念なら、原点回帰としては悪くないんじゃないか。この映画は「今までと違う面白さ」「新たな展開」など色々なことを考えて手を打ったんだろうけど、結局は『ジュラクッシ・パーク』と同じような展開に迷い込んでいる。
そんな状態に陥っていることを考えても、とにかく「主な舞台を市街地を設定する」ってのは絶対的に必要だったんじゃないか。
仮に予算や技術的な問題で「世界各地での様子」とか「スタンピード」が難しかったとしても(たぶん本作品の規模を考えると難しくないとは思うけど)、それぐらいは出来るだろう。
本作品の後半で描かれる坑道での展開にしても、場所が市街地であれば、それだけでも印象は大きく違うと思うんだよね。まあ根本的な解決とまでは言えないけどさ。(観賞日:2025年1月28日)
第43回ゴールデン・ラズベリー賞(2022年)
ノミネート:最低主演女優賞[ブライス・ダラス・ハワード]
ノミネート:最低序章&リメイク&盗作&続編賞
ノミネート:最低脚本賞