『リボルバー・リリー』:2023、日本
明治の終わり、台湾にある幣原機関で訓練された諜報員の小曾根百合は世界各国の要人、五十七人を殺害した。「最も排除すべき日本人」として恐れられた百合だが、突如として消息を絶った。それから十年の月日が過ぎようとしていた。百合は滝田洋装店を訪れ、新しい服の仕立てを依頼した。店主の滝田は一週間で出来上がると告げ、「お気を付けて」と述べて彼女を見送った。1924年(大正13年)8月27日。陸軍大尉の津山は部隊を率いて細見家に乗り込み、使用人の堀田や女中たちを捕縛した。彼は主人である欣也の居場所を教えるよう要求し、上海に発ったことを聞き出すと全員を始末した。欣也の息子である慎太は、床下に避難させられていた。彼は必死で声を殺し、津山たちに気付かれずに逃走した。
8月28日。弁護士の岩見良明は百合が営む玉ノ井のカフェー「ランブル」を訪れ、女給の奈加と琴子に会った。奈加が読んでいる新聞では細見家の惨殺事件が報じられており、犯人の筒井国松が自殺したと書かれていた。「ランブル」の2階では、百合が平岡組の5代目組長と会っていた。平岡は百合に「何を信じていいのか分からなくなったら、私のことを思い出して下さい。私は信じられる男です」と語り、高笑いを浮かべた。
平岡が去った後、岩見は百合に頼まれていた書類を渡す。百合が秩父へ行くつもりだと悟った奈加は反対し、引き留めようとする。しかし百合の考えは変わらず、「確かめて来るだけよ。国松がこんなことするはずがない」と述べた。部屋に戻った彼女は、過去に撮影した自分と幼い子供、子供の父親である水野寛蔵、国松で撮った写真を眺めた。かつて台湾で暮らしていた頃、水野は部下から「例の件で動きがありました」と言われ、百合の元を去っていた。
百合は列車で秩父へ向かう途中、謎の老婆が若い女性の首に墨で鳥の絵を描く様子を目撃した。老婆が息を吹き掛けると、絵は燃えて一瞬で消え去った。老婆が「楽になっただろ?」と言うと、それまで生気の無かった女性は元気になった。秩父に着いた百合が森の小屋に行くと国松の姿は無く、何発もの銃弾が撃ち込まれた形跡があった。そこへ陸軍が来たので、百合は見つからないように立ち去った。慎太は列車に乗るが、3人の陸軍兵に見つかった。彼は連行されそうになるが、同じ車両に乗っていた百合が3人を始末した。
隣の車両から新たな兵士たちが来たので、百合は慎太を連れて列車から飛び降りた。2人の兵士が追って来るが、百合は返り討ちにした。慎太が拳銃で兵士を撃とうとすると、百合が阻止した。慎太は左足を引きずっており、百合の質問に生まれ付きだと答えた。「玉ノ井の小曾根百合に会うよう父から言われた」と慎太が話すと、百合は岩見に連絡した。彼女は細見の素性を調べ、細見と国松の関係についても調査するよう岩見に要請した。
百合が電話を終えると、慎太がいなくなっていた。町を歩いていた彼は陸軍に捕まり、連行されて詰問を受けた。そこに百合が駆け付け、陸軍を片付けた。慎太が何者なのかと尋ねると、百合は「アンタが捜してる女」と答えた。東京・丸ノ内ホテル。津山は陸軍大佐の小沢に呼ばれ、細見が持ち出した秘密文書を入手して慎太を連れて来るよう命じられた。百合道が全て検問で塞がれていると察し、車を捨てて森を進むことにした。慎太は百合の要求を受け、父から託された文書を見せた。
百合は慎太に待機を指示し、薬品会社の建物に侵入した。カリウムの瓶を盗んだ彼女が外へ出ると、南始という男が慎太を捕まえて「どこから入ったのか」と尋問していた。百合が銃を突き付けると、南は会社の工員だと説明した。百合は同行を要求し、ボートで川を下った。そこへ津山が指揮する陸軍のボートが現れ、発砲して来た。百合が目を向けると、津山の傍らには平岡の姿があった。津山は手を挙げろと要求し、書類を渡すよう迫った。百合はカリウムの便を川に投げ込んで爆発を起こし、その場から逃亡した。
百合が陸地に辿り着くと、南は慎太に銃を突き付けた。彼は百合を脅して銃を捨てさせ、慎太に書類を渡すよう要求した。慎太が抵抗すると、百合は南に襲い掛かった。南は幣原機関の人間だが陸軍の手先ではないと告げ、文書を奪って走り去った。店に戻った百合は岩見から、陸軍省経理局の記録に細見の名前があったことを知らされた。細見は天才投資家だが、国松との関係は不明だと岩見は告げた。さらに彼は、元陸軍中将で常連客の升永達吉と会って来たことを話した。
岩見が升永邸を訪ねた時、海軍兵学校からの先輩である山本五十六大佐が来ていた。彼は細見の情報を調べていたが、升永は協力を拒んだ。彼は岩見に、細見とは誰も会ったことが無いと告げる。陸軍は予算縮小を受け、資金調達法を必要としていた。細見は陸軍の武器を高値で転売し、それを元手に各地の証券取引場で相場を操った。そこで得た金を彼は個人の口座に移し、持ち逃げした。その金は上海の銀行にあるが、バニシングという特殊な契約を結んでいるため、引き出すことは出来なかった。
バニシング契約は1年ごとに更新が必要で、更新されない場合は預けた金が消滅する。細見の口座には1億6千万円があるが、あと10日で消滅することになっている。バニシング契約で金を引き出すためには、慎太の指紋と暗証番号が必要だった。岩見は百合に、まだ慎太が何か隠しているのではないかと告げた。平岡は慎太を誘拐して百合を呼び出し、交換条件を出した。百合が承諾したので、彼は慎太を解放した。百合は岩見から平岡の要求について問われるが、内容を明かさなかった。
津山が部隊を率いて「ランブル」に現れ、慎太の引き渡しを百合に要求した。奈加が狙撃して兵士の1人を殺すが、それは百合の指示ではなく独断だった。部隊が発砲して来たため、百合も銃を手にして奈加と共に応戦した。赤ん坊が歩いて来たので、岩見が店から飛び出して助けた。百合が2人を連れて店に入ろうとすると、軍服姿の南が銃弾を浴びせた。背中を撃たれた百合は立て続けに発砲するが、南には当たらなかった。南は余裕で立ち去り、大勢の部下を撃たれた津山は撤退した。
百合は岩見法律事務所に担ぎ込まれ、奈加が弾丸を摘出した。岩見は慎太が腹に巻いていた手拭いに暗号が隠されていると気付き、解読に取り掛かった。津山は激高した小沢に殴られ、「次に失敗したら自決だ」と通告された。ソファーで眠りに落ちた慎太は、謎の老婆が百合の背中に鳥の絵を描き、吹き消す夢を見た。岩見は暗号を解き、それが寺の住所だと突き止めた。目を覚ました百合は、その寺へ行こうと告げた。岩見は陸軍と険悪な海軍の山本に掛け合おうとするが、内務省の植村たちに捕まった。
植村は陸軍と海軍の均衡を保つため、事が終わるまで岩見の動きを抑えようと考えていた。彼は百合の元上官だが、指揮官は幣原機関の創設者である水野だった。百合は水野を愛し、彼の子供を産んだ。しかし組織が大きくなって内部で分裂を起こし、水野の不在時を狙って隠れ家が襲撃された。百合は子供を殺され、スパイを辞めて国松と共に日本へ戻った。水野は経済で影から平和的に統治すべきだという考えに変化したが、病死した。植村は病死が表向きだと岩見に言い、水野の秘密を教えた。
岩見は見張りを昏倒させて脱走し、百合に合流した。百合たちは池上光縁寺を訪れ、慎太は応対した女性から身元を証明する物を見せてほしいと要求された。慎太は家族写真を差し出し、それを見た百合は彼の父親が水野だと知った。驚いた彼女が寺を出ると岩見は後を追い、骨壺に暗証番号が隠されていたことを伝えた。岩見は植村から水野の秘密を聞いたことを明かし、死を偽装して細見と名を変えたのだと告げる。さらに彼は、水野が戦争を回避し、経済力で国を成長させようと考えていたことを語った。
慎太は細見家の使用人たちが皆殺しにされて逃亡した後、森にある国松の家へ飛び込んだ。彼が事情を説明していると、水野が現れた。彼は慎太に秘密文書を託し、百合の元へ行くよう指示した。津山が部隊を率いて家に来たので、水野は慎太を裏口から逃がした。国松が応対に出て警察を通すよう求めると、津山は飼い犬を射殺して威圧した。水野が奥から発砲し、銃撃戦が勃発した。国松は殺され、水野は包囲された。水野は「資源も資金も足りないこの国に、他国を侵略する力があると本気で思っているのか。このままだと日本は自滅するぞ」と警告し、拳銃で自害した…。監督は行定勲、原作は長浦京『リボルバー・リリー』(講談社文庫)、脚本は小林達夫&行定勲、脚本協力は山崎太基、製作は吉村文雄&菅井敦&西新&竹澤浩&松本智&今村俊昭&芦田拓真&吉村和文、企画・プロデュースは紀伊宗之、エグゼクティブ・プロデューサーは和田倉和利、プロデューサーは高橋大典&石塚紘太&溝畠三穂子、撮影は今村圭佑、美術は清水剛、照明は中村裕樹、録音は伊藤裕規、編集は今井剛、シニアVFXスーパーバイザーは尾上克郎、アクションコーディネーターは遊木康剛、スタントコーディネーターは田渕景也、衣装デザイン監修は黒澤和子、音楽は半野喜弘。
出演は綾瀬はるか、長谷川博己、羽村仁成、豊川悦司、野村萬斎、阿部サダヲ、橋爪功、石橋蓮司、鈴木亮平、佐藤二朗、シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也、ジェシー、吹越満、内田朝陽、板尾創路、葵揚、緑魔子、米村亮太朗、佳久創、二ノ宮隆太郎、阿見201、相島一之、伊藤歌歩、葉丸あすか、山村崇子、村岡希美、三浦誠己、田中俊介、松角洋平、沖原一生、井並テン、出合正幸、西泰平、養田和裕、吉田東吾、小西啓太、寺井竜哉、浦田光翼、塚原夕貴弥、吉田空輝、椎名香織、烏森まど、アフロ(MOROHA)、金子山憲、若林元太ら。
第19回大藪春彦賞を受賞した長浦京の同名小説を基にした作品。
監督は『劇場』『窮鼠はチーズの夢を見る』の行定勲。
脚本は行定監督と『Pure Japanese』の小林達夫による共同。
百合を綾瀬はるか、岩見を長谷川博己、慎太を羽村仁成、欣也を豊川悦司、滝田を野村萬斎、山本を阿部サダヲ、升永を橋爪功、国松を石橋蓮司、平岡を佐藤二朗、奈加をシシド・カフカ、琴子を古川琴音、南始を清水尋也、津山をジェシー、植村を吹越満、三島を内田朝陽、小沢を板尾創路が演じている。老婆が列車で謎の行動を取り、女性を元気にするシーンがある。これに何の意味があるのかサッパリ分からない。
その老婆がストーリーに大きく関わって来るんだろう、百合と関わって来るんだろうと思ったら、そんなことは無いし。
慎太がソファーで夢を見るシーンで老婆が再登場するが、これもワケが分からないだけだ。なぜ慎太の夢に老婆が登場するのか。
その後、慎太は百合の熱が下がっていることを知り、まるで「老婆のおかげで熱が下がった」という形にしてあるけど、これも含めて「なんでそうなるの?」と言いたくなる。簡単に言うと、『グロリア』みたいな映画をやりたかったんだろう。
綾瀬はるかはアクションに対する意欲が旺盛なのか、映画『ICHI』、TVドラマ『精霊の守り人』と『奥様は、取り扱い注意』でアクションをやっている。アンジェリーナ・ジョリーみたいな役者を目指しているのかねえ。
アクション界隈からは評価するコメントも少なくないし、この映画を見る限り、全くセンスが無いわけではなさそうだ。
ただし、アクションで魅せる能力が高いのかというと、それはどうかなあ。
それと「クールな殺し屋」というキャラも、あまり綾瀬はるかに合っているようには思えないんだよなあ。ぶっちゃけ、格闘アクションに突入すると、「そういうのは要らないなあ」と言いたくなるんだよね。
せめてガンアクションに絞り込めば、もう少し印象は変わったんじゃないかと。
さらに言うと、「銃声が響いてシーンが切り替わると敵が全て倒れている」というシーンがあるのだが、そんな風に見せ方で色々と細工した方が良かったんじゃないかと。
かつてのスー・シオミみたいに剥き出しのアクションを真正面から見せるのは、なるべく避けた方が賢明だったんじゃないかと。綾瀬はるかだけに問題があるわけなくて、他の部分の方が問題は大きい。
まず、慎太に「守ってあげたい少年」としての「愛され力」が弱い。
最初は百合の素性を知らないから、警戒心を抱くのは分からんでもない。
ただ、自分の命を救ってくれた相手なのに、電話を掛けている間に姿を消した時点で、「なんか嫌な感じ」と言いたくなる。
冒頭シーンでか可哀想だと思ったけど、百合と一緒に行動するようになってからは「なんか邪魔だな」という印象が強くなる。百合と戦う敵が、揃って役者不足ってのも厳しい。
ジェシーは「チームの先鋒」「特攻隊長」ぐらいのポジションならともかく、百合を捕まえようとする部隊のリーダーってのは「まだ顔じゃないだろ」と言いたくなる。
それは清水尋也も同様で、ずっと百合を付け狙う敵としては物足りない。いっそのこと、ボートから上陸しで戦うシーンで百合に倒されてもいいぐらいなのよ。
ジェシーにしろ清水尋也にしろ、「百合を窮地に追い込む強大な力の持ち主」としての説得力に欠けている。無駄なシーンが多くて、テンポが悪くなっているのも厄介な問題だ。
まず津山の登場シーンは、「森に現れた津山が細見家の女中を捕まえ、屋敷に乗り込み、全員を捕縛する」という手順が無くてもいい。
「細見家の人間を捕縛して尋問している」という状態から始めてもいい。
列車から飛び降りた百合が2人の兵士を倒した後、歩いているシーンで「橋を渡る」「畑に囲まれた道を歩く」「また別の場所を歩く」と3つも切り替える必要は無い。百合はボートで手を挙げるよう要求され、そのタイミングで瓶を川に投げ込む。その後、書類を渡すよう要求された彼女は、「命を保証してくれるなら渡す」と告げる。
慎太は反発して百合に銃を向けるが、どうせ撃てないのは分かり切っているし、この手順も要らない。
その後は百合が目を閉じて「8、7、6」と爆発までの数を数え始めるが、ここも間延びしている。
カウントダウンは5からでも事足りるし、何なら3から始めてもいい。百合は南を捕まえると同行を要求するが、そんな必要は全く無い。
そこでは「もう百合は人を殺さない」ってのをアピールしているけど、それは別にいいのよ。ただ、殴って昏倒させれば、それで済む話でしょ。南に何か手伝ってもらうとか、役に立つと考えて同行させるなら分かるけど、そうじゃないからね。
あと、連れて行くのなら、「工員ってのは嘘だと気付いている」という設定の方が良くないか。
まるで警戒しておらず、だから一時的にピンチに陥るってのは、隙があり過ぎるんじゃないかと。慎太が誘拐された時点では、犯人が何者なのかは明かされない。そして店に戻った琴子が百合に誘拐を伝えた直後、電話が鳴り響く。
この時、百合が受話器を取るまでに、電話のベルは7回鳴る。ここは冗長だなあ。
いっそのこと、「琴子が知らせて、電話が鳴って」という手順を丸ごとカットしてもいいぐらいだ。
途中で南が文書を見ているシーンを挿入するのも、何の意味も感じない。「慎太が誘拐されて、カットが切り替わると百合が平岡組の事務所にいて」という大胆な省略でもいいぐらいだ。平岡は慎太を拉致して百合を呼び出した時、「アンタの出方によっちゃあ、この子を返してあげてもいい」と言う。
そして百合の耳元で何か囁くが、その声は観客に聞こえない。それだけでなく、後から「実はこんな内容でした」と明かされることも無い。
だったら、ここは丸ごとカットでもいいわ。どうせ誘拐事件によって、百合と慎太の関係性に変化が生じるわけでもないし。
すぐに平岡の仕業だと明らかにするので、「誘拐した犯人は陸軍か、あるいは南か」みたいな形で緊張感を煽るのも一瞬だし。「ランブル」の店の前で激しい銃撃戦が展開される中、近所の赤ん坊が歩いて来るのは、すんげえ萎えるわ。
緊迫感を高めたいのは分かるけど、あれだけ激しい銃撃戦が続いているのに、なんで近所の母親は外に出て赤ん坊を放置しているんだよ。状況に無理があるだろ。
あと、赤ん坊が出て来ても、それで百合の形勢が悪化することなんて無いのよ。岩見が飛び出して赤ん坊を抱え、そのまま物陰に隠れているが、そのまま戦いが終わるまで待てば済むことなのよ。
それなのに、百合が外へ出て2人を店に連れ帰ろうとするし、おまけに不用意に背中を向けるんだよね。それで南に撃たれるのは、ただバカなだけだよ。南は軍服姿で陸軍に紛れ、百合を撃っている。でも、彼の目的は文書を入手することじゃなかったのか。そこで百合を狙うのは、目的が不鮮明になっている。
あと、ここで百合が何発撃っても南に当たらないのは、苦笑を誘うぞ。
南が必死で避けるわけじゃなく、ゆっくりと余裕で歩き去るのは、凄い奴だとアピールしたいんだろうけど、バカバカしいだけだ。
それと、この戦いには奈加もショットガンで参加しているんだけど、そうなるとシシド・カフカの方が「戦うヒロイン」に合っているように感じちゃうのよね。百合は山本を訪ねようとする岩見と別れた後、慎太と出掛けた縁日で、ひょっとこのお面を付けた南と遭遇する。まず「なんで寺じゃなく縁日に出掛けたのか」ってが引っ掛かるが、そこはひとまず置いておくとしよう。
そんで瞬間移動を繰り返す南に挑発された百合は発砲するが、気付くと周囲が大騒ぎになっている。南の姿は無いので百合は立ち去るが、後にはお面が落ちている。
この「現実か幻覚か」という描写は、ただ邪魔なだけ。物語やキャラに厚みや奥行きを与えようとしたのかもしれないが、完全に裏目だ。
っていうか、演出として空回りしている。充分すぎるぐらいのキャリアを重ねている監督が、新参者みたいなミスをやらかしていると感じる。植村は岩見を捕まえた時に「水野の秘密を教える」と言うが、何を喋ったのかは観客に明かされない。とは言え、その前の口ぶりからは、「水野の病死は嘘で実は生きていた」ってことが分かる。その後、寺を訪ねたシーンで、水野が慎太の父であることが明らかになる。
秘密として長く引っ張る気が皆無なので、だったら「水野の秘密を教える」というトコで変に隠す意味が無いでしょ。
で、そこから慎太が国松の家へ逃げたり、水野が来て文書を託したりした時の回想シーンが挿入されるが、もはや「今さら」でしかない。大体の内容は、ほぼ予想通りだし。
たぶん水野が津山たちに言い残す台詞を言わせたかったんだろうけど、そこにいたのは津山の部隊だけなので、植村は詳しい内容を知らないはず。なので、「それは誰の回想なのか」と言いたくなるし。岩見は山本に掛け合い、銀行の金を全て海軍が手に入れる代わりに慎太を保護するという約束を取り付ける。
ただ、これによって慎太の命は助かるかもしれないけど、口座の金が軍のために使われることには変わりが無い。
百合から金の使い道を問われた時に山本は「10年間、開戦を遅らせる。その間に戦争を回避し、この国が生き残る道を見つける」と言うけど、そんなのは何の保証も無い口約束に過ぎない。
そして、その約束が果たされず、開戦に至ったことを我々は知っているし。終盤、百合は津山とタイマンで戦って追い詰め、拳銃を構えるが、すぐには撃たない。そして慎太が拳銃を構えると、津山は不敵に笑って「やれよ小僧。お前の父親は腰抜けだ。全てお前に押し付けて逃げた」と言い放つ。
慎太が「違う」と言うと、彼は「だったら、ただのコソ泥か。軍の力無くして国を守ることなど出来ん。お前の父親は何から何まで間違っていた」と語る。
ここまで言われても、慎太は撃つことが出来ない。
そして百合も、ただ傍観者を決め込んでいるだけだ。津山は両手を広げて慎太に近付き、「撃てるもんから撃ってみろ」と挑発する。それでも、やっぱり慎太は手が震えるばかりで引き金を引くことが出来ない。
ここでようやく、百合が津山を射殺する。
そこまで傍観していたのは「慎太に津山を殺させて父親の仇討ちをさせるため」ってことなのかと思ったら、撃てなかった慎太に向かって「いいのよ、それで」と告げる。
いいのかよ。
だったら、津山がベラベラ喋って慎太の心を傷付ける前に、さっさと始末した方が良かっただろうに。終盤に入って奈加と琴子が百合の助っ人として駆け付けるが、申し訳程度にしか戦わない。
それと、小沢の率いる部隊が一斉に攻撃して来るのに、みんなが物陰に隠れずに堂々と立って発砲するので、「当てて下さい」と言わんばかりの状態なんだよね。それでも、ほとんど弾が当たらずに済んでいる。
そりゃあリアルを徹底した作風じゃないことは分かるけど、あまりにも時代錯誤なアクションシーンの描き方になってないか。
まさか、そういう変なトコて懐古主義を狙っていたんじゃあるまいし。(観賞日:2025年1月22日)