『#マンホール』:2023、日本

川村俊介は中川さゆりとの結婚を前日に控え、「相談がある」と言われて道玄坂のダイニングバー「ハル」に呼び出された。さゆりは内緒でパーティーを手配しており、店では会社の同僚たちが待っていた。驚いた様子を見せる俊介だが、友人の加瀬悦郎だけには「何となく分かっていた」と打ち明けた。悦郎は俊介に、禁煙前に買ったというライターをプレゼントした。パーティーが終わって帰る途中、俊介は飲み過ぎたせいか意識が朦朧としてしまった。
いつの間にか意識を失っていた俊介が目を覚ますと、深い穴に落ちていた。落ちる時に壊れた梯子で怪我をしたらしく、ズボンが破れて右太腿から出血していた。俊介は梯子を登って脱出しようとするが、壊れていたので落下した。彼はライターの火を付けて周囲を見回すが、どこにも出口は無かった。俊介はさゆりに連絡するが留守電になっていたため、穴に落ちて身動きが取れないというメッセージを残した。彼は同僚たちに片っ端から連絡するが、全員が留守電になっていた。
俊介が苛立ちながら電話を続けていると、元カノの工藤舞に繋がった。彼は「工事現場の穴に落ちた。足を怪我して出られそうにない」と説明し、現場に来てほしいと頼む。どこに行けばいいのか問われた俊介は携帯のGPSで調べ、渋谷区神泉町5丁目付近だと伝えた。すると舞は「仕事から帰ったばかりだし、遠いから」という理由で、他の人間に頼むよう告げる。俊介は誰にも繋がらないのだと言い、明日は大事な用があるのだと告げる。警察を呼ぶよう舞が促すと、彼は「面倒事は起こしたくない」と述べた。
舞から大事な用は結婚式だろうと指摘された俊介は、返答に詰まった。舞は車を出すと言い、電話を切った。俊介が腕時計を確認すると、深夜1時半を過ぎていた。しばらくすると舞から電話が入り、神泉に来たが穴も工事現場も見つからないと俊介に告げる。近くの警察署に電話を掛けるよう促された俊介は、中渋谷警察署に連絡した。俊介は担当の警察官に状況を説明し、どんな穴かと質問された。俊介が穴の特徴を説明すると、警察官は工事現場じゃなくて使われていないマンホールだろうと語った。
警察官は電話を地域課の刑事に引き継ぎ、俊介は先程と全く同じ質問を受けて苛立った。刑事は10分以内に警官を向かわせると言い、電話を切った。しかし10分以上が経過しても、警官が到着した様子は無かった。雨が降り出す中、俊介は舞に電話を掛け、警官が来ないので再び探してほしいと頼む。舞が「そんなこと言われても」と困惑すると、彼は「本当に探したのか」と疑念を向けた。舞が5年前の腹いせだと思っているのかと怒ると、俊介は「とにかく助けてくれ。雨も強くなって寒さもキツい」と言う。すると舞は渋谷で雨は降っていないと言い、別の場所にいるのではないかと指摘した。彼女は「もう帰るから。連絡して来ないで」と告げ。電話を切った。
俊介はスマホを高く投げて外の様子を動画撮影し、近くに廃墟があることを知った。そこへ警官から電話が入り、本人確認の質問を受けた俊介は苛立った。警官は神泉に蓋の空いたマンホールが見つからなかったと言い、かなり酒を飲んでいるだろうと指摘する。俊介は激怒し、「酔ったからって、こんなことするわけないだろ」と電話を切った。俊介は「マンホール女」という名前でpeckerにアカウントを作成し、女性の写真を合成した。彼は若い女性を装い、「渋谷で酒を飲んでて気付いたらマンホールの中に落ちていた」「ガス管が外れて危険な状況」「GPSが故障して場所が分からない」と書き込んで助けを求めた。
俊介は白濁した液体が排水溝から流入するのに気付き、ネットで調べて有機物を含むスカムだと知った。彼は舞からの電話を受け、怪我の写真を送るよう促された。看護師の舞は写真を確認し、「炎症を起こしていて、急いで処置する必要がある。このままだと壊死する」と説明した。彼女は指示を出したり説明図を送ったりしてサポートし、俊介はホッチキスで傷口を縫合した。自分の居場所が分かったのかと問われた俊介は「peckerを使う」と答え、マンホール女というアカウントを教えた。俊介がアカウントを確かめると、もう1000人を超えるフォロワーが付いていた。
フォロワーの中には中傷のコメントも少なくなかったが、「深淵のプリンス」などの応援の声もあった。「テッシー」から「星や月の位置で方角から場所を絞れる」と指摘された俊介は、1時半頃には北北西に月があったことを書き込む。テッシーは条件に該当するのが北関東だと言い、廃墟に看板らしき物が見えると指摘する。俊介は看板に「市役所」の文字を確認するが、肝心な地名は汚れで判別できなかった。多くのフォロワーが、誰かに恨みを買って拉致されたのではないかと書き込んだ。
俊介は「恨まれているのは兄かもしれません」と嘘をつき、明日は兄の結婚式なので女性関係のトラブルで逆恨みされた可能性があると書き込んだ。フォロワーから情報提供を求められた彼は、自身の名前とCRレジデンスに勤務していることを教えた。彼は有力な情報提供者に対し、10万円を出すと約束した。俊介は舞に電話を掛け、「ハル」の防犯カメラの映像を確認してほしいと頼む。彼は犯人が酒に睡眠薬を混入して自分を拉致したのだと説明し、特定してマンホールの場所を吐かせるのだと告げた。
スカムは全く止まらず、マンホールは少しずつ浸水が進んでいた。フォロワーたちは「俊介は50人以上の女性と交際してきた」「5年前に社長令嬢のさゆりと交際を始めた」「同じ部署の女性と浮気している」など、様々な情報を書き込んだ。元カノの誰かが犯人ではないかと俊介が疑っていると、CRレジデンスの関係者だと称する「家を売る男」が「加瀬悦郎が犯人だと思います」と書き込んだ。俊介が理由を尋ねると、彼は「川村が羨ましくて仕方ないと零していた」と返答した。
加瀬が17歳の時に知人を暴行して逮捕されたと書き込む者も現れ、俊介は舞に電話を掛けて「犯人は加瀬だ」と断言した。舞は「ハル」が閉まっていたこと、チャイムを鳴らしても応答が無かったことを、彼に伝える。俊介は少し考えてから、「また掛け直す」と電話を切った。彼はパーティーで撮影した動画を確認し、フードを被った見知らぬ誰かがいたことに気付いた。俊介は加瀬からの電話で、マンホール女のせいで悪戯電話が鳴りっ放しだと聞かされた。俊介は自分がマンホール女だと明かし、怒りをぶつけた。
俊介から睡眠薬を飲ませて拉致したと非難された加瀬は、潔白を主張する。しかし俊介は聞く耳を貸さず、マンホールの場所を教えろと要求した。俺を妬んでいただろうと彼が責めると、加瀬は「そういう部分はあったが、それだけで人を殺そうとは思わない」と語る。俊介は「充分だろ。人は簡単に一線を超えられる」と一蹴し、さゆりを好きだっただろうと指摘した。すると電話は切れてしまい、俊介が掛け直しても加瀬は出なかった。
スカムと雨による浸水が酷くなる中、俊介は電車の音に気付いた。彼がフォロワーに何か分からないかと呼び掛けた直後、加瀬の部屋に乗り込んで暴行した動画を「深淵のプリンス」がアップした。俊介が犯人探しではなく居場所を特定してほしいと訴えると、「仮面の男」が「マンホールの蓋のデザインが解れば場所を絞り込めるかも」と書き込む。俊介が蓋の写真をアップすると、すぐに青山町の廃工場だと場所が特定された。すると「LLL」がライブ配信しながら現場に向かい、マンホールを発見した…。

監督は熊切和嘉、原案・脚本は岡田道尚、製作は依田巽&藤島ジュリーK.、エグゼクティブ・プロデューサーは小竹里美、企画・プロデュースは松下剛、プロデューサーは星野秀樹、アソシエイト・プロデューサーは熊谷悠、撮影は月永雄太、照明は秋山恵二郎、録音は吉田憲義、美術は安宅紀史、編集は今井大介、VFXスーパーバイザーはオダイッセイ、音楽は渡邊琢磨。
出演は中島裕翔、奈緒、永山絢斗、黒木華、長友光弘(響)、松藤史恩、井上肇、佐藤玲、若林時英、板倉武志、磯部泰宏、遠藤隆太、堀桃子、御子柴彩里、藤野棟考、祐村要、白畑真逸、森本のぶ、Kamal Zharif、齋藤里菜、中野剛、佐藤聡哉、斉藤賢、石井しおり、増田朋弥、後藤美穂、杉本大和、芦川美穂、山川大貴、熊切銀一、グレ、愛田菜楽。


『ディアスポリス -DIRTY YELLOW BOYS-』『武曲 MUKOKU』の熊切和嘉が監督を務めたワン・シチュエーション・スリラー映画。
原案・脚本は『マスカレード・ホテル』『マスカレード・ナイト』の岡田道尚が担当している。
俊介を演じた「Hey! Say! JUMP」の中島裕翔は、これが6年ぶりの映画主演となる。
舞を奈緒、加瀬を永山絢斗、LLLを長友光弘(響)、深淵のプリンスを松藤史恩、俊介の元上司を井上肇、さゆりを佐藤玲が演じている。

まず、俊介が落ちた場所が「周囲をコンクリートの壁に囲まれ、どこにも繋がっていないマンホール」という時点で「んっ?」と言いたくなる。
そういう場所が無いとは言わないけど、あまりリアリティーは感じさせない。
そういうハンデを背負ってでも余裕で打ち消すぐらい、グイグイと引き込む力があれば問題は無い。だけど、そこから綻びがどんどん広がって行く感じなのよね。
ファンタジーに振り切って、その上でスリラーとして面白く演出する方向性を打ち出しているわけでもないし。

俊介が穴から脱出できないと分かった時点で、警察に電話を掛けないのは違和感しか無い。
後から分かる「実は」という真相があるので、、それは「警察に色々と探られるのを避けたかった」という言い訳に出来るだろう。だけど、どうやら俊介は、それが理由で警察への電話を避けたかったわけじゃなさそうなのよね。舞から地元の警察署に電話するよう言われると、何の迷いも無く従っているし。
それに面倒は避けたいと思ったとしても、まず脱出できないと分かった時点で「警察に掛けようか迷う」という逡巡は見せるべきだろう。舞から地元の警察署に掛けるよう言われた時も、少しは躊躇すべきだろう。警察官から名前を問われた時も、少しは考えるべきだろう。
そういう「何か隠したいことがある」と匂わせる布石が、何も無いんだよね。

俊介は警官から「神泉に蓋の空いたマンホールが見つからなかった」と聞かされた時、舞の言葉で「自分がいるのは渋谷じゃない可能性が濃厚」ってことは分かっているはずだ。ところが、なぜか彼は警官に対し、「もっと良く探して下さい」「渋谷付近にいるはずなんです」と訴える。それは変だろ。
あと、その警官が役立たずだと感じたにしても、だったら110番に通報してみたらどうなのか。そっちなら何か希望が見えるかもしれないだろ。
少なくとも、いきなり「アカウントを作ってフォロワーに呼び掛ける」という作戦に出るよりは、遥かに納得しやすい行動だ。
それと、色々と事情はあるんだろうけど、ここで俊介が「pecker」という謎のSNSを使うのは、かなりカッコ悪いことになってるなあ。

俊介が「犯人は加瀬」と決め付けるのは、あまりにも根拠が弱すぎて呆れ果てる。
たぶん「俊介は簡単に友人を犯人扱いするような奴」ということではあるんだろう。ただ、俊介はパーティーの動画を確認し、フードの人物がいたことに気付いているわけで。
なのに、「そいつが犯人」と確信するのではなく、「加瀬がそいつを雇った」と確信するのは、さすがに思考回路がデタラメすぎやしないか。なぜ「元カノの誰かがフードを被ってパーティーに潜り込んだのかも」という疑念を、1%も抱かないのかと。
俊介を殺したいほど恨むのであれば、どう考えたって加瀬より元カノの方が可能性は高いだろうに。
仮に「ネット民の恐ろしさ」みたいなモノを表現したかったのだとしても、展開がチープすぎるので、その目的は果たせていないよ。

終盤、俊介はマンホールの中に腐乱した遺体を発見し、そこが埼玉県の岩崎小学校跡地だと気付く。そして彼が舞に助けを求める電話を掛けた後、回想パートに入る。
ここからは完全ネタバレだが、俊介は偽者で実際は吉田という男だ。彼はCRレジデンスへの就職が決まった本物の俊介を殺害し、遺体をマンホールに捨てた。そして整形手術を受けて、俊介に成り済ましたのだ。
だが、なぜ彼が旧知の仲だった俊介を狙ったのか、どこで彼の就職情報を知ったのかは全く分からない。
何より、周囲に全くバレないほど瓜二つに整形手術で化けるとか、あまりにもファンタジーすぎるからね。
この映画の場合、そこにリアリティー皆無なのは致命的な欠陥と言わざるを得ない。

俊介は舞からの電話で現場に着いたと知らされ、ロープが降ろされたので無事に脱出する。しかし俊介が安堵していると、そこにいたのは舞ではなく折原菜津美という別の女性。
彼女が「ハル」に潜り込んでいたフードの人物であり、俊介を誘拐した犯人だ。
菜津美は俊介の携帯に細工して、舞に掛けたら自分に繋がるようにしていたのだ。
でも、俊介を眠らせている間に携帯に細工するのは可能だろうけど、声色や喋り方を全て舞に似せるのは難しくないか。

あと、菜津美の目的は「川村の顔を取り戻す」ということにあり、だからマンホールから脱出した俊介から顔の皮膚を剥ぎ取ろうとするんだよね。でも、それが目的なら、俊介を眠らせている間に皮を剥いでしまえばいいでしょ。
マンホールに拉致した後、俊介が目を覚まして
からの行動を舞やフォロワーに成り済ましながら見守り、脱出させてから皮を剥ごうとするのは、どう考えても意味不明。そのせいで当然のことながら、俊介に抵抗されちゃってるし。最終目的と計画の内容が、まるで釣り合ってないのよね。
あとさ、なんで菜津美は、そのマンホールに川村の遺体があることを知っていたんだよ。

(観賞日:2025年3月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会