『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』:2023、日本

さいたま市役所職員の内田智治は妻の直子、娘の依希を車に乗せて、埼玉熱闘綱引き大会が開催される熊谷あおぞら競技場へ向かっていた。熊谷は県知事の地元であり、智治は今回のイベントを成功させて課長に昇進することを狙っていた。依希は若月健太と結婚して妊娠しており、子供の名前を考えていた。カーラジオからDJの声が聞こえ、埼玉県にまつわる都市伝説の第2章を語り始めた。
埼玉解放戦線が通行手形の撤廃に成功し、関東に平和が訪れた3ヶ月後。麻実麗と壇ノ浦百美は池袋に埼玉支部長たちを集め、横の繋がりが薄いので武蔵野線を開通させる計画を発表した。しかし支部長は全く賛同せず、言い争うばかりだった。そこへ下川信男やおかよたちが来て、大宮駅前で暴動が起きていることを知らせた。各鉄道会社がストライキを起こし、東京に入れなくなった埼玉県人が路頭に迷って暴徒と化したのだ。
麗は百美に、鉄道会社から「武蔵野線を作るぐらいなら東京ネズミーランドへの直通列車を作る」と言われたことを教えた。百美が焦りを見せると、麗は越谷に海を作る計画を明かした。支部長たちは一斉に賛同し、協力を約束した。麗が和歌山の白浜から船を使って砂を運ぶ考えを説明すると、百美はハネムーンになると感じて喜ぶ。しかし麗は危険だから残るよう促し、ストライキを辞めさせる仕事を頼んだ。麗は下川たちを引き連れて千葉の金谷港へ行き、千葉解放戦線から借りた帆船を見せた。浜野サザエと浜野アワビが操縦役として現れ、麗が阿久津の不在について質問すると黙り込んだ。
船が出航すると、無線機に「和歌山解放戦線。早く助けて。アポロン」という女性の声が届いた。船は嵐に見舞われて沈没し、麗は白浜に打ち上げられた。滋賀解放戦線の桔梗魁と遭遇した彼は、白浜が大阪人に占拠されていることを聞かされる。白浜は大阪人のリゾート地になり、よそ者で利用できるのは通行手形を持つ京都・神戸・芦屋の住人だけだった。違反した者は強制労働所に送られ、その内の1つがアポロンタワーだった。タワーでは大阪人を楽しませるために県人ジョーが行われ、違反者が見世物にされていた。
麗から無線機の声について聞いた魁は、姫君だと確信してアポロンタワーへ向かった。大阪府知事の嘉祥寺晃は部下から、和歌山の沖合いで座礁した不審船が見つかったという報告を受けた。現場に浮いていたネギを受け取った嘉祥寺は、埼玉県人の密入国を見抜いた。魁は麗と共に物陰からタワーの様子を観察し、捕まっている姫君を見つけた。彼女は麗に、姫君が滋賀解放戦線のリーダーであること、白浜の砂は姫君が月に1回の祈りを捧げて白くなっていること、今は姿を変えられていることを説明した。
嘉祥寺がタワーから出て来て、密入国した埼玉県人を捕まえるよう部下に指示した。魁は麗を連れて逃亡し、滋賀へ向かった。嘉祥寺は下川たちを捕まえ、神戸市長を務める妻が暮らす芦屋・六麗荘へ連行した。神戸市長は京都市長と不倫しており、苛立った嘉祥寺はさざえとあわびを自分の女にした。野洲に着いた麗は、仲間と共に白浜の砂を持ち帰る目的を魁に語った。「そのために関西圏の通行手形制度を撤廃する」と彼が言うと、魁は3日後に甲子園で全国高校野球大会が開かれることを教えた。大会に嘉祥寺が来ると聞いた麗は、甲子園へ行くことにした。
百美は麗から連絡が来ないため、浮気を疑って心を乱した。百美は大会に参加する白鵬堂学院の斉藤キャプテンを呼び、和歌山県代表に麗を見なかったか尋ねるよう頼んだ。麗は甲子園へ乗り込むが、魁の裏切りで嘉祥寺の部下たちに捕まった。麗は第三粉物研究所に連行され、嘉祥寺の傀儡と化したさざえとあわびによって口にたこ焼きを放り込まれた。大阪弁を喋るようになった麗は、地下施設に連行された。そこには下川たちも捕まっており、全員が大阪弁を喋るようになっていた。
麗は下川たちから、地下施設では白い粉を作る労働を強いられていること、その粉を体内に取り込むと大阪人のようになってしまうことを説明された。百美は斉藤から、麗たちを乗せた船が座礁したことを知らされた。斉藤は大阪弁を喋っており、甲子園から持ち帰った砂が白いことに百美は不審を抱いた。魁は嘉祥寺に、捕まった同志と姫君を解放する約束を果たすよう要求した。しかし嘉祥寺は「さざえとあわびが勝手に取引を持ち掛ける手紙を送った」と罪を着せて約束を守らず、さざえとあわびを甲子園に連行させた。
麗は下川たちの協力で地下施設から脱出し、自身の手配書が大量に出回っている京都に着いた。滋賀解放戦線員の近江美湖は麗を見つけ、魁の元へ案内した。麗は事情を説明して詫びる魁を許し、一緒に滋賀へ戻った。彼は琵琶湖周航の歌をきっかけに、滋賀のジャンヌダルクと呼ばれた滋賀解放戦線員の初代リーダーが母であること、魁が妹であることを知った。彼は百美からの手紙を受け取り、白い粉が全国大阪植民地化計画のために作られたことを知った。
嘉祥寺の準備は最終段階に入り、3日以内に完成するという報告が届いた。魁は晴樹の兄である美湖から、淀川の水辺で白い粉を生み出す実が栽培されているという報告を受けた。しかし周囲は関西最強の連中が警護しており、撃ち滅ぼすことは難しかった。麗は魁に頼んで、滋賀と奈良と和歌山の解放戦線を集めてもらった。彼は琵琶湖の水を止めて嘉祥寺と軍勢をおびき寄せ、その間に甲子園の同志たちを解放する作戦を提案した。「滋賀が水没する」と皆が反対すると、麗は自分にも滋賀県人の血が流れていることを明かす。それでも解放戦線の意見は変わらず、魁は怒りを覚えた。魁が熱い気持ちをぶつけると、心を打たれた解放戦線の面々は作戦に同意した…。

監督は武内英樹、原作は魔夜峰央『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』(宝島社)、脚本は徳永友一、製作は大多亮&吉村文雄&川原泰博、プロデューサーは若松央樹&古郡真也、アソシエイトプロデューサーは加藤達也、ラインプロデューサーは齋藤健志、撮影は谷川創平、照明は李家俊理、録音は金杉貴史、編集は河村信二、美術はd木陽次、美術プロデューサーは三竹寛典、音楽はFace 2 fAKE、主題歌『ニュー咲きほこれ埼玉』は はなわ。
出演はGACKT、二階堂ふみ、杏、片岡愛之助、藤原紀香、川ア麻世、天童よしみ、山村紅葉、モモコ(ハイヒール)、加藤諒、益若つばさ、堀田真由、くっきー!(野性爆弾)、小沢真珠、中原翔子、和久井映見、アキラ100%、朝日奈央、瀬戸康史、高橋メアリージュン、戸塚純貴、竹原芳子、トミコ・クレア、矢柴俊博、北村一輝、デビット伊東、ゴルゴ松本(TIM)、杉山裕之(我が家)、谷田部俊(我が家)、はなわ、山中崇史、ゆりやんレトリィバァ、akane、井本涼太、太田芳伸、Oh!Be、Achilles Damigos、坂下千里子、本多力、津田篤宏(ダイアン)、今奈良孝行、小川智弘、福田航也、影山徹、諏訪雅ら。


魔夜峰央の漫画を基にした2019年の映画『翔んで埼玉』の続編。
前作に引き続いて監督を武内英樹、脚本を徳永友一が務めている。
麗役のGACKT、百美役の二階堂ふみ、下川役の加藤諒、おかよ役の益若つばさ、さざえ役の小沢真珠、あわび役の中原翔子は、前作からの続投。
魁を杏、嘉祥寺を片岡愛之助、神戸市長を藤原紀香、京都市長を川ア麻世、美湖を堀田真由、晴樹をくっきー!(野性爆弾)が演じている。
現代パートでは直子を和久井映見、智治をアキラ100%、依希を朝日奈央、健太を瀬戸康史が演じている。

今回は百美の出番が前作に比べて大幅に減らされているが、これは大きな失敗だ。
二階堂ふみの大仰な芝居や顔芸が喜劇の中軸であり、作品をスウィングさせる大きな要素になっているのだ。
今回は百美を埼玉に残し、麗と魁のコンビをメインで動かしている。しかしGACKTと杏のコンビだと、良くも悪くもスマート過ぎるのだ。クドいぐらい振り切った笑いのパワーが、充分に生まれないのだ。
二階堂ふみのスケジュールが厳しかったとは思えないし、なんで出番を減らしたのかねえ。

前作は大ヒットしたが、関西での観客動員は関東に比べると大きく劣ったらしい。
まあ当然と言えば当然の結果だろうが、それを受けて今回は関西地方を舞台にすることが決まったらしい。
関西の客を取り込もうとするのは、商売として分からんではない。しかし、あまりにも手を広げ過ぎている。
大阪なら大阪に限定し、そこで埼玉との「VS」の図式を作るべきだったのだ。
他の都道府県にも手を広げ過ぎたせいで、肝心な埼玉をディスる要素はものすごく薄まっているし。

埼玉と大阪は特に因縁があるわけでもないので、ここで対決の構図を作るのは難しい。もちろん言わずもがなだろうが、埼玉と滋賀の関係も乏しい。
だからってことではないのだろうが、今回は大阪と滋賀の戦いに埼玉の麗が関わる形となっている。
ようするに、今回の埼玉は基本的に部外者なのだ。
それを考えると、やはり続編としては、関西を舞台にしたのは失敗だったんじゃないか。スピンオフとして、関西メインの話をやるならともかく。

現代パートは最初と最後だけでなく、途中で何度も挿入される。これは映画の進行を考えると、ただ邪魔なだけの存在だ。
ところが困ったことに、現代パートは舞台が埼玉に限定されているため、「埼玉をネタにした喜劇」に集中できるんだよね。
なので『翔んで埼玉』の根幹を考えると、ここが最もふさわしい中身になっている。
でも残念ながら、面白くはない。
結局、「こんな俳優、こんなタレントが、こんな場面に、こんな役で出演しています」という、有名人の顔見世合戦が一番のセールスポイントになっちゃってるんだよね。

嘉祥寺の軍勢が滋賀県に来ると、前作でも描かれた出身地対決が行われる。ただ、その直前にはギャグを交えつつも実際に格闘する展開があるだけに、ちょっと盛り下がるような印象を受ける。
あと、「また前回と同じパターンなのか」というのも、ちょっと萎える。
さらに言うと、大坂と滋賀の有名人対決じゃなくて、それぞれ「兵庫と京都」「奈良と和歌山」も含めているのも、それはどうなのかと言いたくなるし。
あと、奈良の有名人にせんとくんを加えるのはギャグ的にギリセーフとするにしても、京都が桓武天皇の一点突破ってのはギャグにすらなっておらず、「それは違うんじゃねえの」と感じるだけだよ。

ネタとしては大阪だけで充分なのだが、滋賀をディスるネタも多い。それ以外にも、京都や奈良のネタも持ち込まれている。
それは明らかに、手を広げ過ぎだよ。「色んな県民に見てもらいたい」と欲張り過ぎたせいで、「どの県のネタも全て薄い」という結果を生んでいる。
むしろ、それよりは1つの県に絞り込んだ方が、その県の出身じゃない観客でも楽しめる内容になったんじゃないかと。
実際、前作だって、決して埼玉県民だけの観客動員でヒットしたわけじゃないんだし。

どんどん埼玉と関係の無い話になっていくので、どこが『翔んで埼玉』なのかと。関西の要素を入れるにしても、「軸は埼玉」ってのは絶対に崩しちゃいけないでしょ。
まさか、前作で完全に埼玉をディスるネタが枯れちゃったわけでもないだろうに。行田タワー関連とか、まだ使えるネタは色々と残っているんだから。
現代パートで描いている埼玉県内での権力争いや内輪揉めといったネタも、全て過去パートでやればいいのよ。
ぶっちゃけ、現代パートなんてゼロでもいいぐらいなんだし。

(観賞日:2025年2月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会